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二年目 四月

 2日


 ミス・メーメエのお父上に私の家柄にふさわしい女性を紹介しようなどと言われたが、政治的な理由もないのにシェリープ王国まで嫁いでくる身分の高い女性がそうそういるわけがない。ここまで徹底して牽制されるということは、逆に考えればむしろ見込みがあるということなのだろうか。どうにかしてない希望をひねりだそうとしている自分が滑稽に思えてならない。


 ミス・メーメエもそういう……こういう空気を感じているためか、あちこちに連れ出してくれている。私のような反応の薄い人間と出かけても楽しくないのではないかと思うのだが、そう聞けば「楽しすぎて困る」というような返答しか戻ってこない。

 嘘ではない、と思うし、彼女の言葉を疑うつもりもないのだが、自分を納得させることができない。本当に楽しいのか? 女性を楽しませる術について全く学んでこなかったことが悔やまれる。



 11日


 リーニ嬢のお父上から一騎打ちの申し出を受けた。我が国の騎士団の練度を示すためにも、個人的な理由のためにも、断る理由はない。

 リーニ嬢には止められたが、何だか熱烈な愛の言葉を聞いたような気分だった。


 伯爵は手強い相手だったが、どうにか勝負に勝つことはできた。伯爵からの祝いの言葉は「リーニが認めるなら一族総出で応援してやる」だった。

 浮かれすぎた自覚はある。



 14日


 数日前からそろそろかと思っていたが、今朝方ついにシェリープ王国へ通じる道の通行止めが解除された。知らせを受けて帰る準備は整えていたので、問題なく出発できる。


 過ぎてみればあっという間だった。オーヴィス王国へ来たのは初めてだったが、もっと早く訪れていても良かったかもしれない。紹介してくれたリーニ嬢の人柄もあるのだろうが、皆親切にしてくれた。

 ムートンも同意見のようだ。羊様もよくここの風土になじんでいたと言っていた。


 別れ際、父上(そう呼べいや呼ぶなと昨日三回くらい言われた)は大泣きして結婚式に呼ぶよう言っていたが、まだ求婚もしていないしもちろん返事ももらっていない。少し先走りすぎなのではないだろうか。想像したくもないが、断られる可能性だってある。



 20日


 帰還の道は問題なく進んでいる。久々の帰郷の後ではホームシックにかかるのではないかと心配していたが、リーニ嬢はむしろ羊様が恋しいのだそうだ。

 それは私としても嬉しいのだが、メリーさんを撫で回すのは……いや、まあ、メリーさんも嫌ではなさそうなので良いのだが。


 やや疲れが溜まってきているのは感じるが、最後まで集中して無事リーニ嬢を姫君の元へ送りとどけなければ。



 25日


 王城へ帰還。ここ数年こんなに長期間城を空けたことはなかったので妙に懐かしい気分になっている。ルーイがここ二ヶ月の苦労(主に羊祭りの開催に関するごたごた等)について愚痴を言いたそうな気配を漂わせていたが、つきあってやる義理も体力もない。

 羊車と今日中に片付けなければならない報告だけ片付け、部屋に戻ったところでリーニ嬢がハチミツしょうが入りの紅茶を持ってきてくれた。この前のことを覚えていてくれたのかと思うと嬉しい。

 いろいろと気にかかることもあるが、今日はよく眠れそうだ。



 26日


 リーニ嬢に求婚した。返事はまだもらえていない。



 29日


 久しぶりに熱を出して数日寝込んでしまった。予定より復帰が遅れたため、目が回る程忙しい。

 忙しいのは分かっているはずなのに、ルーイが羊祭りの運営がいかに大変だったか、リーニ嬢と私が過ごす時間を確保するためにいかに苦労したか、おかげで今自分もぶっ倒れそうだとしつこく訴えてくるので思わず「ざまを見ろ」と言ってしまった。やたら嬉しそうだったが、奴はサディストからマゾヒストに宗旨替えしたのだろうか。


 今日はふと気がつけば深夜になっていたので、リーニ嬢にはまだ会えていない。



 30日


 熱を出している間のことはあまり思い出したくないのだが、風邪が治ったら返事をもらえることになっていた。と思うのだが、聞く勇気を持てずにいる。忙しすぎて身動きが取れないというのもあるのだが……いや、やはり言い訳だな。

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