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二年目 一月

 5日


 年末年始の行事で多忙だったこと、そもそも城内から里帰り等のために人が減っていたことも手伝って、妙な噂は広まることなく収束したようだ。しかしミス・メーメエには避けられているような気がする。確かにせっかく噂が収まったのに、私と共にいる場面を数多く目撃されればまた蒸し返してしまう可能性はある。だからこれは仕方のないことだ。

 また怖がられている、という可能性については、正直あまり考えたくない。



 10日


 年も明け、休みボケをしている面々にそろそろ活を入れなくてはならない。最も活を入れられるべきなのは私だと思うが、立場上そうも言っていられない。

 それにしても実家に帰っていたジオの体型があからさまに変わっているのはいただけない。気持ちを入れ替えて体を鍛え直してもらわなければ。


 脈ありだ、と何の根拠も主語もなくルーイに言われたが、信用ならない。



 15日


 三日後の音楽会に例の楽士殿が来ると聞いた。今更ルーイと姫君の間に妙な噂が立つとは思わないが、注意は払っておく必要がある。

 ミス・メーメエはこのことを知っているのか。当時私はオーヴィス王国にはいなかったので詳しい経緯は知らないが、例の騒動で一番割に合わない評価をされたのはミス・メーメエだったはずだ。幼い初恋があのような結果を招いてしまったことは、本人にとっても深い傷となっているのではないかと思う。

 四日後には辺境警備の視察も控えている。余計なことを考えている余裕はないのだが、考えずにはいられない。己の精神的な未熟さに腹が立つばかりだ。



 18日


 自分の心の狭さにほとほと嫌気が差した。ミス・メーメエが笑顔で楽士殿と話しているのを見ただけで、こんなにも自制が効かなくなるとは思ってもみなかった。楽士殿はとうに結婚されているし、ミス・メーメエにとっても淡い初恋などもう何年も前の話だ。

 無視するつもりなどなかった。だが、どうしても彼女の顔を直視できなかった。視線を逸らした瞬間、ミス・メーメエが傷ついた表情をしたのは見えていたのに、戻ることができなかった。

 わかっている。私は嫉妬したのだ。



 19日


 気持ちの整理がつかないまま、辺境警備隊の視察に来てしまった。何とか視察はつつがなく終えることが出来たが、夜遅くに帰ったにも関わらず複数人からミス・メーメエが私を探していたと報告を受ける羽目になった。

 それはそうだろう。あのようなわけのわからない態度を取られて納得できる人間がいるはずがない。

 気になったのはミス・メーメエが泣きそうだった、という情報なのだが……。叶うことなら、彼女には笑っていてほしい。

 逃げるな、ということなのだろう。明日はちゃんと避けることなく、ミス・メーメエの様子を見に行こう。もしも何か困っているのなら、私は助けになりたい。



 20日


 朝一番にミス・メーメエに会いに行き、私がいない間に何か問題が発生したのか尋ねたが、何もないと言われてしまった。これはとっくに問題は解決していて、今さら私に訪ねてこられても困るということだろうか。

 恐らく私が自意識過剰に陥っているだけなのだと思うが、拒絶されたように感じてしまった。その後自分が何を言ったのか、実はあまり覚えていない。愚かなことを口走っていないと良いのだが……



 25日


 来月の視察の準備で忙しく、日誌に記録している暇もない。……ということにしておきたいくらい、我が身を省みたくない。もしも彼女の視線の先に楽士殿がいたらと考えると、怖くてたまらない。私は今、大切な女性の幸せを願うことが出来ていない。


 仕事は待ってはくれない。頭を切り換えなくては。


 ジオの剣の腕はようやく元に戻りつつある。数日の不摂生でここまで取り戻すのに時間がかかるという事実は、ジオにとっても良い教訓となるだろう。

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