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一年目 十月

 1日


 最近、仕事に集中し切れていないのを感じる。ふとした瞬間にミス・メーメエのことを考えてしまうためだ。ルーイはこの感情が何であるか私に自覚させようと躍起になっているようだが、余計なお世話だ。自覚くらいある。今は怖がられずに会話できるだけで充分だと、思っているだけだ。

 ただ、仕事に影響が出るのは避けなければならない。どうにか集中力を取り戻さなければ。



 4日


 昨日の夕刻、城を散歩していた羊様に囲いへお戻りいただいていたところ、ミス・メーメエが中庭の奥深くまで迷い込んでいた一頭を連れてきてくれた。最近、ミス・メーメエは夕刻に手が空いたときには羊様の追い出しを手伝ってくれる。仕事をしながらの短い時間だが、彼女の話を聞くのは楽しい。他愛ない話も多いが、社交的な彼女らしく城の皆の要望を集めてきては的確に伝えてくれるので仕事の上でもありがたい。ただ、私の顔の造形が怖いのは……そう簡単に直れば苦労はないのだが。



 9日


 今日は仕事の後、なぜミス・メーメエが羊様の背中に乗りたがるのか、ということについて聞く機会があった。訓練も受けていない羊様の乗り心地は決して良いものではないと思うのだが、彼女にとってはそうではなかったようだ。やけに幸せそうな表情をされてしまったので、反応に困った。あれだけ楽しげに訴えられては、いつまでも乗羊を禁じているのも気が引けてくる。いずれきちんと訓練を受けた羊様で乗羊の練習をしてもらった方が、こちらの気持ちとしても楽になるのかもしれない。



 12日


 今日は牧場で一日乗羊訓練だった。ついでなので、私の相棒羊であるメリーさんに羊様に乗りたがっている女性がいると相談してみた。羊様は我々の言葉を理解しているのではないかと思える節があるが、私にはメリーさんの言葉はわからない。しかし、どうやら興味を持ってはくれたらしい。

 乗羊を体験するのならば人慣れした落ち着いた性格の羊様が良いだろう。メリーさんが引き受けてくれるのならばそれが一番安心だ。ミス・メーメエが了承してくれるなら、一度引き合わせてみたいと思う。



 15日


 乗羊牧場への案内をミス・メーメエに申し出る。先約があったようなのだが、イーヴァ殿が気を回してキャンセルさせてしまった。ミス・メーメエにとっては女中仲間との茶会の方が良かったのではないだろうか。

 どうも私はタイミングが良くないようだ。悪いことをしてしまった。どうしたらこういったことを避けられるのか。ルーイに相談……は、論外だな。


[今後の予定]

・次の休日、ミス・メーメエを乗羊牧場へ案内する。



 22日


 明日、ミス・メーメエを乗羊牧場へ案内するとルーイに報告した。ルーイは「初デートだな」などとやたら嬉しそうに笑っていたが、決してそのような艶っぽい話ではない。私とミス・メーメエではそんな雰囲気になるはずもないと、なぜわからないのか……いや、むしろわかっているからああやってからかおうとするのか……。あまり人をおもちゃにしないで欲しいものだ。



 23日


 ミス・メーメエを乗羊牧場へ案内した。メリーさんも彼女を気に入ったようなので乗ってみないかと誘ったのだが、断られてしまった。さすがに乗用の羊ともなれば背も高い。メリーさんは気性の穏やかな乗りこなしやすい羊様なのだが、やはり訓練を経ていない人間には馬具のようなものもほとんどなくあの高さの羊様に乗るのは恐ろしいのだろう。

 今後姫君が希望されたときのことも考えて、女性にも乗りこなせるような小柄な乗用羊様の育成を考えねばなるまい。



 28日


 今日は訓練後の反省会が長引いたため、日暮れまでに羊様を囲いへ戻すのが難しくなってしまった。ミス・メーメエが機転を利かせて先に作業を進めておいてくれたので助かったが、今後はこのようなことがないように務めたいものだ。

 仕事に疲れた後でも、楽しげな笑顔を見せられ、今日あった出来事を面白おかしく話して貰えば気分も上向きになる。ミス・メーメエにいつも助けられていると実感するのはこんな日だ。いずれ、礼ができればと思う。

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