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一年目 六月 姫様がご結婚されちゃった月

 8日 忙しくなってきました


 姫様のご結婚の準備も佳境に入ってきております。もう今日は眠くて眠くて。わたくしもうダメでございます。

 なので一つだけ。


 姫様が、いつまでも怖がってないでエレウス様のお顔をちゃんと見てお話しできるようになりなさいとおっしゃるので、わたくしがんばりました。

 今日は横顔をじっくり拝見することに成功。会議の間中、なぜかずーっと固まってらしたので、気がすむまでじろじろと拝見することができました。

 いつも厳しい表情で目のお力が大変強いので、睨まれてるみたいで怖く思えてしまうのですが、横顔を一方的に見てるだけならば良い顔立ちの若者だと思えました。

 正面から見てもきっと精悍な良いお顔立ちなんでしょうけど、まだ前から真っ直ぐ見るなんてことはできません。

 だってやっぱり睨まれると怖いんです、いたたまれないんです、思わず逃げ出しちゃうんです!

 だけど明日もがんばります。姫様直々のお願いですもの、がんばらないわけにはまいりません! 私がんばる!



 10日 午後の紅茶


 今日はとっても感動的なことがあったんです!

 忙しい私をいたわって、このお城にお勤めしている年の近い女の子たちが、午後のお茶会を開いてくれたんです。

 私は姫様専属の侍女だから、皆さんと一緒にお仕事する機会はちょっぴり少なめなんですけど、そんなの全然気にしないって、あなたも私たちの仲間だって、言ってもらえたんです!

 私、嬉しくて嬉しくて、思わずちょっぴり涙してしまいました。

 思えば初めての異国の地です。知っているのは姫様一人。

 だけどだけど、私はあくまでも姫様をお支えする立場にいるわけで、姫様に支えてもらおうなんて言語道断なんですね。そんなの立場が逆です、逆! 真逆! 真っ逆さま!


 ……今まで気付かなかったんですけど、やっぱりちょっと寂しくなっちゃってたみたいです。みんなと仲良くお話しできて、私とってもほっとしました。

 うん、私、これからも末永くこの国でやっていけそうです。だから姫様のことも、いつまでも末永くお支えできますわ! 見ててください姫様! 私がんばります!



 20日 結婚式終了!


 だいぶ間が空いてしまいました。もう本当に、忙しくって忙しくって、日記を書く暇も読み返す暇も開く暇すらもない日々が続いておりました。

 でもでもおかげさまでもちろん私のおかげさまで、結婚式はつつがなく終了いたしました。万歳!


 姫様はそれはもう、末代まで語り草にせずにはおれないような美しさで、隣に立っていた王子様が霞んで見えなくなるくらいでした。

 ええ、でも王子様が悪いんじゃありません。相手が悪かったんです。姫様の隣に立って霞まない殿方など、いえむしろ霞まない人間など、この世に存在するはずがございません。でも……まあ、不釣り合いというほどでもなかったので、王子様は合格です。


 ……本当は姫様が誰かのお嫁さんになるなんて許しがたいんです。

 でも、王子様はご立派な方だし、何より私ですら敗北を認めざるを得ないくらい姫様を愛してらっしゃいますから。悔しいですけど、王子様の姫様への愛は本物です。私の愛だって本物ですけど、やっぱり王子様には敵いません。

 どうしてそう確信するに至ったかは……う~ん、やっぱり悔しいのでやめておこっと。


 お仕事の忙しさから言いますと、今日はちょっと小休止って感じです。でも明日からは近隣諸国の有力貴族や王族に連なる方が続々とおいでになります。やっぱり、もうしばらく忙しい日々が続きそうです。



 23日 羊の毛だらけ


 お客様が大勢いらしてるというのに、羊さまがたにはお休みという概念が存在しないのです。

 羊さまはもふもふと城に入り込み、ふわふわとそこいら中を飛びまわっていらっしゃいました。今日一日で何人のお客様が子羊さまにけっつまづく姿を目にしたことか……。

 エレウス様を始めとして、騎士様たちは一日中、羊さまをとっつかまえようと走りまわってらっしゃいましたが、なかなか苦戦してらした模様。このお城の騎士様たちの最大の敵は、羊さまに違いありません。

 そんなこんなで、せっかく午前中に磨き上げた大広間もすっかり毛だらけ猫灰だらけ。お掃除のやりなおしで、私たち女中身分の者はお昼ごはんも満足に食べることができませんでした。

 今日はもう、ぐったりです。



 30日 ルッテラちゃん


 今日はちょっと変わった女の子とお友だちになりました。

 このお城はとっても過ごしやすくて良いところですけど、たった一つ不満があるとすれば、羊さまが出入り自由で城中毛だらけってところです。

 だけど、それを喜んでいる方もいらっしゃったのですね。

 それが今日お友だちになりました、ルッテラちゃんです。


 ルッテラちゃんは六歳ですから、私よりも十歳年下ってことになります。

 有力貴族のご息女でいらっしゃるんですけど、この国の貴族の例に漏れず、ちっとも偉ぶったところのない素敵な女の子です。

 卵色のふわふわの髪の毛に琥珀色の目をした、色白のそれはそれは可愛らしい女の子なのです。

 家名は……嫌だ、聞くのを忘れていました。私って間抜けです……。


 彼女は羊さまのことを、心の底から愛してらっしゃるのです。この国の貴族様方のお手本にしたい溺愛っぷりですね。なんせこの国は、羊さまのおかげで小さいながらも豊かに栄えているのですから。


 この国の羊さまは、伝説の天翔る羊さまの末裔だと言われております。

 その伝説を裏付けるように、羊さまたちの毛を丁寧に選び抜いて高度な技術で紡いでいくと、なんと空に浮かび上がるほど軽い軽い糸になるのだそうです。残念ながら、私もまだ実際目にしたことはないのですけど……。

 そんな最上級の糸じゃなくっても、この国の羊さまの毛から紡ぎ出される糸はとっても手触りが良くて軽くて、諸国で高値で取引されているのです。

 もっとも、生産量が大したことありませんから、この国がこれ以上大きくなることもお城がこれ以上豪華になることもないとは思いますけれど。


 とにかく! お城中を飛び回っている羊さまは、飛べると言っても天翔るにはほど遠く、私の膝くらいまで浮かび上がるのがせいぜいなのですが、ルッテラちゃんにとってはその低空飛行がとっても都合がよろしいみたいなのです。

 ルッテラちゃんが羊さまの背中に乗って城中を散歩する時の嬉しそうな顔。眺めているだけで私まで幸せな気持ちになってしまいました。


 私もやってみたい……!

 羊さまの背に乗って、もふもふとふわふわと城中を飛びまわってみたら……やっぱり姫様に呆れられてしまいますかね?

 だって私、もう大人の女性なんです、立派なレディなんですもの。そんな子どもじみたこと……や、やってみたいですけど。

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