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昔、そうとても昔のこと。
幼い私は、いつも本を読んでいた。
本、と言っても今読んでいるような魔法に関する種類のハードカバーではなく、年相応の絵本。
その中身は御伽話、だったと思う。
正確な内容はもう思い出すことはできないけれど、確か、お姫様が不思議な世界に迷い込んでいく、というよくあるタイプの絵本――御伽の本、だった。
いつも城に閉じ込められていたお姫様は、一夜だけ、と限りをつけてお城を抜け出すのだ。
そこには悪戯ウサギや火の鳥、マリオネットと不思議で個性豊かなキャラクターたちが登場してくる。
もちろん、最後は大団円のハッピーエンドで終わるのだ、そう王子様の手によって。
いつの時代でも、子供向け絵本というのは基本的にハッピーエンドを迎える。
それは、誰のための「ハッピーエンド」なのだろう?
その先は、どうなってしまったのだろう?
子供ながらに私は、そんなことを思っていた。
その時、あの人は。
私の存在を、許してくれたあの人は。
優しく、言ったのだ。
『王子様は魔法使いだからね、この先の困難も魔法で蹴散らしてしまうよ』
魔法、使い。
私が。
私が魔法使いに触れた、始まりの物語。




