act.2
7
立ち込める硝煙の中、二人の魔法使いは動かない。
私も。
魔理沙も。
徐々に晴れ行く煙の中に、小さな影がゆらりとゆらめく。
結果から言うと、私に害と呼べるほどの被弾はなかった。
後手的になってしまったものの、防御陣の魔法が上手く作動してくれたようで、こちらに飛んできた残弾は防ぐことができたのであるが――それもそもはず。そもそも防御陣を用いる必要性がまるでなかった、と言わされてしまうほどに、驚くほど魔力弾は通過してこなかった。
上海、という壁を乗り越えられずに。
実際に、私と魔理沙――魔理沙が放った魔力弾、距離にして眼前二メートルという短い空間に、障壁ともいえる代物があったとするがごとく。
私の致命傷を狙うようなものに至っては、絶滅していた。
その行為の主――上海。
「バッカジャネーノ」
既に本日何度目かさえもう忘れてしまったような、いつもの口癖を耳にして安堵する。
なんだ、軽口が叩けるくらいには負傷していないんだ――そんな幻想を抱いてしまった。
もしかすると、私の願望が、希望的観測が生み出してしまった幻聴だったのかもしれない。
上海の両腕は焦げ落ち。
片足は膝から下がなく。
金紗に瞬いていた髪はズタボロにちじれ。
顔の半分は。
そこになかった。
「上海!?」
「……ケッ、……コンナノ、ヘデモ、ネエ……ゼ」
「ごめんね、上海!! 私が見誤ったせいで!!」
「…………」
「ごめん、ごめんなさ――」
「バッカジャネーノ」
「……上海?」
「マモルコトハ……アタリマエ、ダゼ……」
「……!! そうね、そう、よね……!あなたは私の人形だものね、当たり前、なんだからね……!」
「蓬莱、こちらへ」
言葉を交わさず、蓬莱人形は大怪我を負っ上海を連れ、撤退する。
生憎と私の人形たちは多機能ではない。
人形が人形を修復する、なんて機能性はもともと構成していない。
家事や戦闘でさえ、指示を与え、役割を与えて行わせているだけなのだ。
だから。
だからこそ。
「ごめんなさい、魔理沙」
「……なんのことだ?」
「これから先、加減はできないわ。だから」
「だから?」
「うっかり殺しても、許してね」
早急に、勝つために最速で最高で最適な判断を。
早々に、終わらせる優美に優雅に悠久の勝利を。
左手に抱えていた魔導書を消す。
消すといっても、一時的に本棚に片づけるのと同義の行為だ。
そして、両腕とも動かせる状態を確保。
始めよう。
戦いを。
「上海型人形――、Vier」
「……!!おいおい、数で攻める気か」
「今度は四体同時よ、どこまであなたに堪えられるかしら?」
「上等っ、こちとら負けられないぜ!」
指元に填めた指輪――傀儡の糸をまとめている指輪。
何度も操作し、魔理沙に行動パターンを読ませないようにしつつ、攻撃を繰り返していく。
時には一体のみで。
最大四体同時に。
「ほらっ!!後ろががら空きじゃない!!」
「くっ!?」
「いけいけいけいけぇぇぇぇえええええええええええええ!!」
「……!ちょっと、こ、こいつは、ヤバいぜ!?」
いくつかの法則を交えながら、高速に空中を自在に動き回る人形たち。
態勢を整わせないため、連続したラッシュで魔理沙を襲い続ける。
それは一つの舞踊のようで。
そして一種の武闘だった。
「……くぁあ、くっそ、仕方ない!使いますか!」
魔理沙は構える、彼女の最大火力を担っている、あの主砲を。




