act.2
6
霧雨魔理沙の弾幕――いや、彼女の放った魔力の弾丸が私の正面に迫る。
その色合いは緑色で、大きさは私程度の少女を一撃で消し飛ばせるくらいのもの。
その威力は。
空中を旋回、魔理沙とちょうど対極を描くように距離を保ちつつ、移動する。
先ほど彼女が放った魔力弾の傷跡が見える位置へとたどり着く。
「あら、魔理沙も本気になったみたいね」
「本気だって?そりゃいつもから本気で誰に対しても挑んでるさ。でも」
「でも?」
「今は――真剣だ」
「……そう、いい覚悟ね」
一面、荒野のように広がる敷地。
先ほどまでは、木々が生命を謳歌し、草花が彩る憩いの森林帯だった場所。
一切の手加減も、一度の容赦もしない、と。
その焼跡が物語っている。
本気で挑む弾幕ごっこが――真剣に戦う戦闘へ。
これはそういう行いなのだ、と改めて思い知らされてしまう。
後で修復の魔法をかけなくちゃ、なんてことに思考を囚われていたら、先ほどの緑色に瞬く魔力弾が押し寄せてきていた。
上海にその対処を行わせる。
一つ、また一つとなんなく排除に成功したようだ。
「どういう仕組みをした人形なんだか――、魔力を消し去るなんて聞いてないぜ」
「あら、気になるの?」
「少しだけ」
「教えないわ、魔法だもの」
「だろうな。まあ、いいや、消し去るというのなら――、押し潰すだけだぜ!」
今までにない、高出力を込めた魔力弾。
大きさも今までとは比較にならないほど、規格外。
その矛先はもちろん、私自身。
あれで私や上海を本当に潰す気なのかしら、なら見当違いも甚だしいわ。
そのような大きすぎるものを素直に当たるとでも思っているのかな。
「シューートっ!!」
魔理沙の掛け声と共にこちらに迫りくる巨大な魔力弾。
しかし、というかやはり、その速度は鈍い。
余裕をもって回避できる程度の、速度。
「ふざけているのかしら。このくらいも避けられないと、思われているなんて」
「ふざけてなんかいないぜ。このくらいなら、避けられるだろ?」
よほど私の実力を見誤っているのか。
こんなものを、放ってくれるなんて。
慢心、だったのかもしれない。
油断、と言われても言い返せない。
高出力で射出された魔力弾が二メートル、という近さまで来た、その瞬間。
「エクスプローション!!」
大きすぎたその弾が。
鳳仙花の種に触れたかのごとく、弾けとんだ。
先ほどまでの私くらいの大きさの魔力弾よりもさらに小さく、細かく、そして俊敏に。
この身目がけて降り注ぐ。
その様は流星群が落ちてくるかのようで――、一瞬、見とれてしまった。
「バッカジャネーノ」
その台詞を聞いたのは何度目だろう。
その反応に呆れたのはいつものことだろう。
そんな、そんなことを、思い出してしまった。
視界を埋め尽くすほどの魔力の弾丸。
私とその間に立ちふさがるのは――上海。
大きすぎる剣で。
振り回されてしまっているその小さな身体で。
本物の弾幕へと、突き抜けていく。
「上海――!」
咄嗟に防御陣の展開を行う。
右手にした魔導書――馴染み深いグリモワールの表紙をなぞり、発動させる。
轟音は鳴りやまない。
永久を生き長らえるかのように、悠久を詠い続ける。
五秒間にも満たないその弾幕の暴雨が過ぎ去った。
煙が宙を漂い、視界が晴れない。




