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痛みの音色  作者: 蛇口
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act.2

  5


 弾幕、というものがどんなものであるのか。

 いや、どんなものであるべきなのか、と問われたときに正確な――正常な回答を持つ存在は、この幻想郷においてどれくらいいるのだろうか。

 外の世界とは理が異なるこの忘れ去られた者たちの楽園たる幻想郷で、その解答を持つものはきっと多くはないのだろう。

 香霖堂の店主、古い妖怪たちは知識として持ち合わせているかもしれないが、それでもやはり、絶対的な人数はここの住民数からして圧倒的に少ないと、私は思う。


 本来、意味されている弾幕とは、大多数の重火器を用いて一斉掃射を行う、言わば軍や同様の意志、役目、使命を背負った戦闘集団が実行する多数同士の戦術策である。

 その意図が何を意味するかは作戦目的や指揮する者によって変わってくるのだろうけど、まあ、そこは気にしても仕方がない。その在り方、というのが個人対個人ではなく、軍隊対軍隊、国家対国家など規模が大きい戦場にてしようされている、ということだ。


 そう、決して個人では為すことのできない。

 それが、弾幕、本来の在り方。

 しかし、ここ幻想郷では少し――いや、全然違ったニュアンス定義されている。

 


 【弾幕ごっこ】――そう、呼ばれている。

 


 ここで肝心なのが、『ごっこ』という部分。

 単なる『弾幕』ではなく、『弾幕ごっこ』。

 そこに隠されているのは、真剣ではない決闘。

 真剣ではないのだ。

 本気ではあるだろうけど。


 相手の命を奪うことを目的とせず、スペルカードという共通の媒体を使用して行うゲーム。

 ゲームではあるがきちんとした決闘方法。

 考えてみてほしい。

 妖怪と呼ばれる存在と人間が真剣に、相手との生命を賭けた戦闘を行った結果を。

 

 そう。

 そこに存在するのは、埋めることのできない力量差。

 種族が違うが故に抗うことのできない、基本性能の差。

 どう足掻いても人間側の敗北図が出来上がってしまう。

 そこに所以してなのかはわからないが――スペルカード、という娯楽用具が誕生した。

 誕生した、と、知った風に表現してしまったけど、それがいつからあるのか、どのような経緯で爆誕したのかを、私は全くもって。これっぽちも知りはしていないのだけど。

 それでも。

 スペルカードというものが生まれたため、『弾幕ごっこ』という決闘手段もまた、生まれたのだ。

 もしくは造られた、かもしれない。


 そして現在におけるまでこのスペルカードを主要武器とした戦い――弾幕ごっこが、相違対立の際、及び相手を屈服させうる用法として引き継がれてきた。

 戦闘に美しさを持たせる、技術として。

 また、無用な命のやり取りを、しないため。





 

 それがここ幻想郷における、弾幕の在り方である。 

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