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痛みの音色  作者: 蛇口
4/21

act.2

4


「影、が出るそうだ」

「影?」


 一体何のことだろうか。

 影、いかにも怪しげな言葉を放っているけれど。

「そう、影だ。日差しの裏側、太陽の光を受け、真反対側に形を形成する、影」

 ちらり、と自身の影を見つめる。

 眩いくらいの月――鮮血色に、熱さと冷たさを同時に含めたように真っ赤に染まった紅い朱月が、足元に影を落とす。

 普段は気にも留めないその存在が、やけに、不気味さを、忌憚を示していた。

「どうやら、影が人を襲うらしい」

「影が人を――?」

「ああ、といっても足元からじゃない、丸い球体のような影らしい」

「んん? どういうこと?」

「人の飲み込む影、いや、影っていうより闇、みたいなものがある。そいつはどうも、人を襲う、とのことなんだが……」

「えらく曖昧な、信憑性を感じられない噂ね」

「まあな」

 闇に人を襲う?

 確かそんな妖怪が――あ。

「ねえ、それって宵闇の」

「ルーミアだろ? 真っ先に容疑をかけられて霊夢の監視下にあった」

「なんだ、なら解決したも同然じゃない」

「そう、そう思っていたんだが」

 魔理沙は続きを言うのを躊躇うかのように、言葉を止める。

 その先に浮かび上がるのは明白な事実。

「まさか、また――?」

「そのまさか、ってことだ。つい昨日の話、みたいだぜ」

 ぞっとした。

 何かが確実に起こっている。


「本題はここからなんだ」


 魔理沙の語り口は重い。

 普段から活発で、常に快晴のような少女が。



「霊夢が、帰ってきていない」

「霊夢が?」

「ああ、昨晩の事件を聞きつけすぐに向かったが――それ以降、霊夢の姿を見かけた奴がいないらしい」

 衝撃が走った。

 楽園の素敵な巫女。

 博麗神社の守り手。

 最強の一角を担いし巫女。

 そんな、彼女が。

「今朝から探し回っていたんだけど、見つからなくってさ。紅魔館も香霖堂も妖怪の山も地霊殿も人里も。どこにもどこにも!!いないんだっ!!」

「魔理沙、落ち着いて。目撃情報はないの?」

「射命丸に頼んでいろいろ情報を集めてもらった。けど何も得られなかった」

 魔理沙の瞳から、溢れる涙。

 こんな彼女を見たのは、初めてじゃないのだろうか。

 まっすぐなこの少女は、泣くことを知らないとさえ思っていた。

 思わされていた。

 でも、違った。

 年相応の少女のように、友人を思い、案じ、不安になるのだ。


「アリス、どうすればいい? 私は、一体……どうすれば!?」





 魔理沙の問いかけに答えはしなかった。

 ただ空へと飛び上がり、はるか上空まで上り詰めた。


「魔理沙、弾幕を展開しなさい」

「……え?」

「来ないの?ならこちらから行くわ――上海」

「ワカッテルッツーノ」

 小柄な体躯に不釣り合いなほど大きい西洋剣――クレイモアを両手で支え、突進する上海。

 初速度は決して速くない、だが、空から落ちる行いだ。速さは一秒ごとに増していく。加速していく。

 白黒の魔法使いを目がけて。

 私の、数少ない、大切な友人を標的として。


「アリス……、本気なのか?」

「あら、あなたも元々そのつもりだったでしょ?いいから構えなさい。今宵の私は――あなたを殺すわよ?」

「……っ!!」


 自身に迫りくる上海をくるりと回避し、私と同等の高度まで上昇してくる魔理沙。

 その瞳に先ほどまでの涙はなく、ただただ私に向けられてた。

 畏れと怖れ、そして憎しみを孕んだ怒りの眼差しが。




「さあ、始めましょう? 素敵な素敵な殺し合い≪パーティ≫を。

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