act.4
後日談。
というか、今回のオチ。
博麗神社に集められた、私を含む三人の少女。
まずはここの住民、博麗霊夢。
つぎに白黒の少女、霧雨魔理沙。
最後に私、アリス・マーガトロイド。
「ふわぁ、こんな朝っぱらからなんなのよ」
「ふわぁ、私だってしらねーぜ」
「ふわぁ、射命丸に呼ばれたのだけど」
三者同様、欠伸をかみ殺せないまま、集う。
時刻はすっかり昼過ぎ。
もうとっくに日も昇りきっているというのに、眠気は取れない。
それもどうか、勘弁してほしい。
昨夜の一件、あの黒巫女との一戦を終えた私たちは、射命丸に呼びつけられてここにいる。
三人して博麗神社まで帰り、霊夢によって回復術を行ってもらいそのまま就寝したのだ。
寝るころには朝の日差しが差し込み始めた、そんな時間だった。
「おはようございます! 伝統の幻想ブン屋・射命丸文です!」
「ふわぁ、おっそいわね、あんた」
「あやや、皆さん眠そうですね」
「仕方ないぜ、今目覚めたばかりなんだ」
「おお! ずいぶんと遅い目覚めで」
「小言はやめてちょうだい。流石に殺意が芽生えるわ」
「あややや、では本題をお伝えしましょうか」
射命丸は昨夜の出来事を、途中から観測していたらしく、それが終わると同時に事の調査を行ってくれたらしい。
確かに魔理沙が依頼していたので、一枚噛んでくるだろうと覚悟していたが、存外いい意味での到来だった。
「結果から言いますと、あれは影そのものらしいですね」
「町で人が襲われていたあれでしょう?」
「それとは違います」
「え?」
「どうやら町の住民を襲っていた――いえ、脅かしていたのは三妖精と妖怪の仕業でした」
「ほほう?どの妖怪か言ってみなさい、始末するから」
「まあまあ、霊夢」
「傘の妖怪と鵺ですね、あの二人が。いえ、元々は正邪が二人を誑かして、二人は三妖精を協力させて、という流れだったみたいですね」
「あいつら……!!」
「で、霊夢さんに化けたあの『彼女』なんですが」
「そうね、そちらの方が気になるわ」
一息、息を入れて射命丸は続ける。
「正体は、そのまま『影』。とある条件下で出現する、現象みたいですね」
「現象?」
「はい、原因は、霊夢さん。あなたです!」
「ええ?! 私?!」
「どういうことだぜ?」
「その条件とやらが関係してくるのね?」
「その通りです」
何やら紙束を取り出し、確認する射命丸。
それは結構な分厚さだった。
「本来妖怪に現れる現象らしいのですが、ここ幻想郷ではこういうこともあるのでしょうね。人間と妖怪の境目が曖昧過ぎるがゆえの一件でしょうか」
「あの影と呼ばれる現象は、本来の在り方を為さないものに化けて、本人を呑み込むといった現象のようです」
「ええと?」
「例えるなら、吸血鬼。レミリア・スカーレットで例えましょう。彼女の種族は吸血鬼です、吸血鬼は何をする種族ですか?」
「そりゃもちろん、血を吸う鬼。だから吸血鬼だろ?」
「正解です、では吸血鬼が血を吸わなければ? その存在はなんですか?」
「ええ、それは、うーん、鬼?」
「いいえ、それは本来の在り方を否定した単なる『まがいもの』になってしまいます」
「つまり、どういうことだぜ?」
「ちまり、その妖怪の在り方、レミリア・スカーレットなら血を吸わなくなるというその行為をし過ぎてしまうと、その影が現れてレミリア本人を呑み込む?」
「その通りですよ、アリスさん」
緊張感を放つ射命丸。
その様は犯人を見つけたかのよう。
「つまり今回は巫女としての仕事を放棄した霊夢さん、あなたに反応して影は現れ、貴方に化けた。そういうことです」
「ええ? きちんと巫女としてしてるわよ!」
「神社の掃除は?」
「最近、早苗がやってばっかりだったな」
「う」
「神様への供物は?」
「食べ物なんて全部霊夢が食っちまうぜ」
「う」
「つまり、そういうことです。きちんと巫女として仕事すればもう起こりませんよ」
「はいはい、わかったわよ! ちゃんとする、これでいいでしょ!」
しかし、まあ。
あの偽巫女が霊夢をベースに化けたのだとしたら。
本来の霊夢はどれほどの強さを誇るのだろう。
それこそ、幻想郷で、最強なのかもしれない。
霊夢が純粋な女の子だからこそ、今のままであるのかもしれない。
もし、あの黒巫女が負の感情を原動力とした霊夢なら――。
私たちは。
きっと。
「でも、大丈夫よね」
しぶしぶといった表情で掃除を始める霊夢。
それを茶化す魔理沙。
射命丸はどこかへと立ち去り、いつもの博麗神社の風景だ。
これが日常なのだろう。
これが正常であるはずだ。
痛みの音色は、まだ瞼の裏から消えないけど。
あの日の私は、消えないけれど。
それでいい。
あの泣き虫の私がいて、今の私がいるのだ。
だから。
そのままでいよう。
この愛すべき痛みを抱いて。
痛みの音色を、胸に秘めたまま。
今日も。
幻想郷は。
時を刻む。
完




