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痛みの音色  作者: 蛇口
20/21

act.4


 後日談。

 というか、今回のオチ。

 博麗神社に集められた、私を含む三人の少女。


 まずはここの住民、博麗霊夢。

 つぎに白黒の少女、霧雨魔理沙。

 最後に私、アリス・マーガトロイド。



「ふわぁ、こんな朝っぱらからなんなのよ」

「ふわぁ、私だってしらねーぜ」

「ふわぁ、射命丸に呼ばれたのだけど」


 三者同様、欠伸をかみ殺せないまま、集う。

 時刻はすっかり昼過ぎ。

 もうとっくに日も昇りきっているというのに、眠気は取れない。

 それもどうか、勘弁してほしい。

 昨夜の一件、あの黒巫女との一戦を終えた私たちは、射命丸に呼びつけられてここにいる。

 三人して博麗神社まで帰り、霊夢によって回復術を行ってもらいそのまま就寝したのだ。

 寝るころには朝の日差しが差し込み始めた、そんな時間だった。

 

「おはようございます! 伝統の幻想ブン屋・射命丸文です!」

「ふわぁ、おっそいわね、あんた」

「あやや、皆さん眠そうですね」

「仕方ないぜ、今目覚めたばかりなんだ」

「おお! ずいぶんと遅い目覚めで」

「小言はやめてちょうだい。流石に殺意が芽生えるわ」

「あややや、では本題をお伝えしましょうか」



 射命丸は昨夜の出来事を、途中から観測していたらしく、それが終わると同時に事の調査を行ってくれたらしい。

 確かに魔理沙が依頼していたので、一枚噛んでくるだろうと覚悟していたが、存外いい意味での到来だった。



「結果から言いますと、あれは影そのものらしいですね」

「町で人が襲われていたあれでしょう?」

「それとは違います」

「え?」

「どうやら町の住民を襲っていた――いえ、脅かしていたのは三妖精と妖怪の仕業でした」

「ほほう?どの妖怪か言ってみなさい、始末するから」

「まあまあ、霊夢」

「傘の妖怪と鵺ですね、あの二人が。いえ、元々は正邪が二人を誑かして、二人は三妖精を協力させて、という流れだったみたいですね」

「あいつら……!!」

「で、霊夢さんに化けたあの『彼女』なんですが」

「そうね、そちらの方が気になるわ」



 一息、息を入れて射命丸は続ける。



「正体は、そのまま『影』。とある条件下で出現する、現象みたいですね」

「現象?」

「はい、原因は、霊夢さん。あなたです!」

「ええ?! 私?!」

「どういうことだぜ?」

「その条件とやらが関係してくるのね?」

「その通りです」



 何やら紙束を取り出し、確認する射命丸。

 それは結構な分厚さだった。



「本来妖怪に現れる現象らしいのですが、ここ幻想郷ではこういうこともあるのでしょうね。人間と妖怪の境目が曖昧過ぎるがゆえの一件でしょうか」

「あの影と呼ばれる現象は、本来の在り方を為さないものに化けて、本人を呑み込むといった現象のようです」

「ええと?」

「例えるなら、吸血鬼。レミリア・スカーレットで例えましょう。彼女の種族は吸血鬼です、吸血鬼は何をする種族ですか?」

「そりゃもちろん、血を吸う鬼。だから吸血鬼だろ?」

「正解です、では吸血鬼が血を吸わなければ? その存在はなんですか?」

「ええ、それは、うーん、鬼?」

「いいえ、それは本来の在り方を否定した単なる『まがいもの』になってしまいます」

「つまり、どういうことだぜ?」

「ちまり、その妖怪の在り方、レミリア・スカーレットなら血を吸わなくなるというその行為をし過ぎてしまうと、その影が現れてレミリア本人を呑み込む?」

「その通りですよ、アリスさん」



 緊張感を放つ射命丸。

 その様は犯人を見つけたかのよう。



「つまり今回は巫女としての仕事を放棄した霊夢さん、あなたに反応して影は現れ、貴方に化けた。そういうことです」

「ええ? きちんと巫女としてしてるわよ!」

「神社の掃除は?」

「最近、早苗がやってばっかりだったな」

「う」

「神様への供物は?」

「食べ物なんて全部霊夢が食っちまうぜ」

「う」

「つまり、そういうことです。きちんと巫女として仕事すればもう起こりませんよ」

「はいはい、わかったわよ! ちゃんとする、これでいいでしょ!」




 しかし、まあ。

 あの偽巫女が霊夢をベースに化けたのだとしたら。

 本来の霊夢はどれほどの強さを誇るのだろう。

 それこそ、幻想郷で、最強なのかもしれない。

 霊夢が純粋な女の子だからこそ、今のままであるのかもしれない。

 もし、あの黒巫女が負の感情を原動力とした霊夢なら――。


 私たちは。

 きっと。



「でも、大丈夫よね」

 


 しぶしぶといった表情で掃除を始める霊夢。

 それを茶化す魔理沙。

 射命丸はどこかへと立ち去り、いつもの博麗神社の風景だ。

 これが日常なのだろう。

 これが正常であるはずだ。


 

 痛みの音色は、まだ瞼の裏から消えないけど。

 あの日の私は、消えないけれど。

 それでいい。

 あの泣き虫の私がいて、今の私がいるのだ。

 だから。

 そのままでいよう。

 この愛すべき痛みを抱いて。

 痛みの音色を、胸に秘めたまま。



 今日も。

 幻想郷は。

 時を刻む。






  完


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