act.3
9
月まで届きそうなその一撃。
吹き飛ばされた黒巫女。
今まで傷一つ負わなかった姿はぼろぼろで。
つい先ほどまで揺らぐことのなかった圧倒的優位からは想像もできないほど無様に為す術もなく、地に堕ちていく。
その様は羽を失った蝶が落下する様子に、酷く似ていた。
それを待ち受ける、一人の少女。
神聖な衣服に身を包み。
赤と白で彩られた、脇を剥き出しなその衣装を着こなして。
右手には黒い業物。
刀身が先から柄まで漆黒色の大剣を担ぎ上げる。
楽園の素敵な巫女。
博麗神社の守り手。
最強の一角を担いし巫女。
博麗大結界の管理人。
その名は――――博麗霊夢。
黒巫女は理解した。
自身の行く先を。
どうしようもない、抗いようのない、結末を。
「後は任せたわよ、霊夢」
七色の魔法使いはもう動けないほどに満身創痍で。
普通の魔法使いもその傍で寄り添うしかできない。
そんな二人に頷き返し。
本物の巫女は。
博麗霊夢は、上空へ飛翔した。
そのまま黒巫女の真上から。
重力に逆らわず、その力のベクトルに身を委ねて、飛来する。
手元にはこの為だけにこしらわれた、業物の一刀。
黒光りする、魔を孕んだ業物。
その一振りは。
躊躇いなく。
迷いなく。
心残りを消し去るような優しさで。
黒巫女を貫いた。
音もなく消える、その姿は。
どこか、満足した表情に、見えた。




