act.3
8
黄金色――それはすべての頂点に君臨する、栄光の証。
勝利者の手にする色。
王者の色。
何よりも最上位の、色。
その色が与えられた時から頂点は約束され、結果が因果により紡がれる。
どのような困難が立ち塞がろうとも打破されてしまう運命に決められて。
栄光という呪い。
君臨する呪縛。
頂点に。
頂きに位置するものの定め。
黒巫女は空を仰いだ。
普通の魔法使いとの射撃戦の最中であるのにも関わらず。
その脅威を認識せずにはいられなかった。
それは理性を捨てた殺意の衝動であったからこその行動。
本能的に。
生命の目的、つまり「生きる」という本能が命じた指令。
脅威を認識せよ。
そして生きる選択をせよ、という命令。
しかし、彼女は従えない。
一度目にしたその凶暴な脅威に、抗えない。
蛇に睨まれた蛙のように。
認識した絶対的恐怖からはどれだけ逃走を図ろうとも、その恐怖からはきっと。
かろうじて今、この場を逃げ切れても。
この凶悪すぎる恐怖心はやがて精神を呑み込み、破綻する。
自身と言う存在が、破滅する。
理性を捨てたが故の、失策。
その隙を二人は見逃さない。
霧雨魔理沙は即座にその場を撤収、最後の力を振り絞って圏外脱出を行った。
もちろん、魔理沙は今から何が起こるかは知らされていない。
でも、彼女もまた、百戦錬磨の存在。
吸血鬼や幽霊、月人に封じられた妖怪との決闘を超えてきた存在である。
命の危機には、過敏過ぎるくらいに敏感なのだ。
数秒で数百メートルの距離へと非難した。
まだ足りないかもしれなかったが、それよりも純粋に。
一人の魔法使いとして。
アリスの行う、足元に展開する魔法陣から繰り出される魔法に惹かれないわけがなかった。
そして。
七色の魔法使いは。
魔理沙の撤退をきちんと確認し、行動に出た。
行動は単純明快。
魔法陣を使用する、ただそれだけ。
「一夜限りの幻想」
それは一体、何の名称なのか。
今から使われる荘厳な魔法の名称なのか。
それとも単なるトリガーネームなのか。
その判断はつけられない。
だが、その言葉と共に黄金色の魔法陣は動き出す。
アリスの足元に開かれた陣は神々しく輝きはじめ――周囲を満たした。
複雑に刻まれた呪文たちが一斉に作動する。
巨大な、結界らしきものが、黒巫女を捕獲した。
捕獲、と言っていいものかさえ、私にはわからない。
人ひとりを確保するにはあまりも大きすぎる、その光景は美しすぎる幻想。
上下に展開される魔法陣。
それを繋ぐかのように狭間には回転する魔法陣。
その中心に、巫女は捕らえられた。
周囲を見渡すが、逃げうことを許すほどの隙間はなく。
全ての魔法陣が彼女を的として仕掛けられていた。
そして。
終焉は紡がれる。
全魔法陣が強大な魔法を発動。
一撃一撃がマスタースパークを簡単に凌駕した魔力射撃を繰り出す。
それは殲滅兵器に他ならない。
それほどの高威力を用いての攻撃であった。
一撃で消滅するほどの術を、円を描き、数十といった物々しい数で黒巫女を襲う。
多方面から迫りくるその射出を防ぐことは、きっと。
どのような大妖怪でも、行えない、そんな一撃だった。
しかし、七色の魔法使いの行動は終わらない。
それまで散々に傷を負わなかった存在だ、可能性は潰しておくしかない。
すぐさま降下し、丁度赤い月と黒巫女が囚われた陣を挟んで対極の位置に移動する。
そして、即座に魔法陣を展開。
その手元には。
ミニ八卦炉。
いつの間に受け取ったのかさえわからぬその魔道具を手にし、彼女は構える。
これが、本当に。
最後の魔法だろう。
展開された陣はその威力を最大限に高めるだけの、単純な作用を担う。
そこに速度補正や、命中補正などはいらない。
純粋にその威力だけを高め。
質量で押し潰すだけの。
それだけの、一撃で構わない。
「「マスタ――――――――、」」
二人の声は共鳴する。
この一撃に、全てをかけて。
この一瞬に、全てを重ねて。
「「スパ――――――――クッッッ!!!!」」
紅い月夜に。
最上色の魔砲が、天を貫いた。




