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痛みの音色  作者: 蛇口
14/21

act.3

 5


 敵対してから先に行動に出たのは、黒巫女こと霊夢そっくりな存在からだった。

 元よりこうなることを予測していたのか、その初動は早い。

 アリスと魔理沙の視線を受けるその間際には既に行動出ていた。

 過剰に早いわけでもないその動作は、ひとえに予見していたが故の先行行動であり、決して先制攻撃の意志があったわけではい、というのが目に見えてとれた。


 それはゆったりとしているようにも見える動き。

 だが、それ以上に、優位であるための優雅な動きにさえ見えてしまう。

 彼女は袖口から数枚のお札を取り出し、矛先にいる二人を目掛け、投げつける。

 優雅な動きからの一転、粗雑に投げ出された紙たちはすぐさま瞬き、閃光となって相対者を駆逐せんと走り抜ける。

 速きこと風の如く。

 迷いのないその軌道は一直線に空を降下し――人形遣いの魔法陣を切り裂いた。

 一瞬の出来事。

 目にも止まらぬその瞬動に、二人は動かない。

 いや、反応が追いつかない。

 四つに展開してあった魔法陣を貫いた、四つの閃光。

 その行動で解る。

 嫌でも把握させられてしまう事実。

 


 今のは威嚇よ、次は当てるわ。



 黒巫女は何も語らない。

 だからこそ、伝わるその意図、その思惑。

 最初から感じさせられていた事実を、再び突きつける。

 誰が、優位であるのかを。

 誰が、上位にいるのかを。

 

 アリスの魔法陣は硝子のように粉々に砕け、地に落ちていく。

 紅いその破片は宙を舞い、人形遣いを包み込む。

 その景色は、悲しいほどに美しかった。

 まるで桜の花びらが舞い散る、いつかの幻影を思い返させる。

 何でもない、いつもの春の風景。

 桜の木の下で花見をして、どんちゃん騒ぎして、一夜を明かした。

 そんな、いつもの記憶。

 今は程遠い、いつもの記憶。

 一瞬だけ伏せたアリスの視線は、再び黒霊夢へと向かい――




 遮られた。




 白黒の衣服に身を包み。

 なんの変哲もない箒に跨り。

 空を疾る、魔法使いに。

 普通の魔法使い――――霧雨魔理沙に。

 彼女もまた、同じ戦線を張っていた。

 先ほどまでの殺意を見事に切り替え、攻撃の射線上に自身がいないことを判断し、行動にでた。

 きっとその切り替えの良さが功を奏したのだろう。

 即座にアリスの前を陣取り、ミニ八卦炉を構えた。

 その機転の良さに目を奪われるように、敵対者は目を見開く。

 しかし、それも一時だけの諸事。

 回避行動に移る。


 霧雨魔理沙の奥義、マスタースパーク。

 星をイメージした、魔力射撃。

 その速度は速く、さらに大きい威力さえも誇っている。

 だがしかし、唯一の欠点たるものが存在しているのも、また事実であった。

 それは溜めの時間。

 装填速度が、わずかな隙を作り出す。

 一瞬のその隙は、回避を促してしまうことにほかならない。

 しかし、それも、本当に一瞬のこと。

 射出してしまえば、即座に相手を呑み込む大技。

 そしてもう一つ。

 彼女は今日は一度も使用していない。

 それは、つまり。

 すでに充電完了しているという事実に――、避けきれないという結果に繋がっている。

 故に先ほどの、アリスとの対峙時、一撃で決まるという結果が見えていた。

 そう。

 この一撃は。

 


 最速にして最大の。

 マスタースパーク。



 右腕で構え、それを支えるもう片方の腕。

 支える――ように見えるそれは、どことなくかばっているようにも見える。

 それほどの威力なのか。

 それとも。


 多重に重なり合う、白の魔法陣。

 基盤となる陣には、規則性に乗っ取って刻まれた数十、それ以上の呪文。

 循環と力を最大に蓄える円の理に習い、無駄なく構成されている。

 そしてその先に連動する陣。

 出力を最大限まで上げるその補佐と、狙いを定める補佐の陣。

 最高の反撃を。

 至高の一撃を。

 


「マスターぁぁあああああああ」



 その声は、敵を吹き飛ばさんとし。

 その眼は、敵を捕らえて話さず。

 その心は、自身を迷わせないように。



「スパークっっっっ!!!!!!」






 今、放たれた。

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