act.3
5
敵対してから先に行動に出たのは、黒巫女こと霊夢そっくりな存在からだった。
元よりこうなることを予測していたのか、その初動は早い。
アリスと魔理沙の視線を受けるその間際には既に行動出ていた。
過剰に早いわけでもないその動作は、ひとえに予見していたが故の先行行動であり、決して先制攻撃の意志があったわけではい、というのが目に見えてとれた。
それはゆったりとしているようにも見える動き。
だが、それ以上に、優位であるための優雅な動きにさえ見えてしまう。
彼女は袖口から数枚のお札を取り出し、矛先にいる二人を目掛け、投げつける。
優雅な動きからの一転、粗雑に投げ出された紙たちはすぐさま瞬き、閃光となって相対者を駆逐せんと走り抜ける。
速きこと風の如く。
迷いのないその軌道は一直線に空を降下し――人形遣いの魔法陣を切り裂いた。
一瞬の出来事。
目にも止まらぬその瞬動に、二人は動かない。
いや、反応が追いつかない。
四つに展開してあった魔法陣を貫いた、四つの閃光。
その行動で解る。
嫌でも把握させられてしまう事実。
今のは威嚇よ、次は当てるわ。
黒巫女は何も語らない。
だからこそ、伝わるその意図、その思惑。
最初から感じさせられていた事実を、再び突きつける。
誰が、優位であるのかを。
誰が、上位にいるのかを。
アリスの魔法陣は硝子のように粉々に砕け、地に落ちていく。
紅いその破片は宙を舞い、人形遣いを包み込む。
その景色は、悲しいほどに美しかった。
まるで桜の花びらが舞い散る、いつかの幻影を思い返させる。
何でもない、いつもの春の風景。
桜の木の下で花見をして、どんちゃん騒ぎして、一夜を明かした。
そんな、いつもの記憶。
今は程遠い、いつもの記憶。
一瞬だけ伏せたアリスの視線は、再び黒霊夢へと向かい――
遮られた。
白黒の衣服に身を包み。
なんの変哲もない箒に跨り。
空を疾る、魔法使いに。
普通の魔法使い――――霧雨魔理沙に。
彼女もまた、同じ戦線を張っていた。
先ほどまでの殺意を見事に切り替え、攻撃の射線上に自身がいないことを判断し、行動にでた。
きっとその切り替えの良さが功を奏したのだろう。
即座にアリスの前を陣取り、ミニ八卦炉を構えた。
その機転の良さに目を奪われるように、敵対者は目を見開く。
しかし、それも一時だけの諸事。
回避行動に移る。
霧雨魔理沙の奥義、マスタースパーク。
星をイメージした、魔力射撃。
その速度は速く、さらに大きい威力さえも誇っている。
だがしかし、唯一の欠点たるものが存在しているのも、また事実であった。
それは溜めの時間。
装填速度が、わずかな隙を作り出す。
一瞬のその隙は、回避を促してしまうことにほかならない。
しかし、それも、本当に一瞬のこと。
射出してしまえば、即座に相手を呑み込む大技。
そしてもう一つ。
彼女は今日は一度も使用していない。
それは、つまり。
すでに充電完了しているという事実に――、避けきれないという結果に繋がっている。
故に先ほどの、アリスとの対峙時、一撃で決まるという結果が見えていた。
そう。
この一撃は。
最速にして最大の。
マスタースパーク。
右腕で構え、それを支えるもう片方の腕。
支える――ように見えるそれは、どことなくかばっているようにも見える。
それほどの威力なのか。
それとも。
多重に重なり合う、白の魔法陣。
基盤となる陣には、規則性に乗っ取って刻まれた数十、それ以上の呪文。
循環と力を最大に蓄える円の理に習い、無駄なく構成されている。
そしてその先に連動する陣。
出力を最大限まで上げるその補佐と、狙いを定める補佐の陣。
最高の反撃を。
至高の一撃を。
「マスターぁぁあああああああ」
その声は、敵を吹き飛ばさんとし。
その眼は、敵を捕らえて話さず。
その心は、自身を迷わせないように。
「スパークっっっっ!!!!!!」
今、放たれた。




