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始祖に酷似した惑星――――未開発惑星No.Ω-001485
この星にひとりの宇宙連邦捜査官が密かに降り立っていた。
150cmと、かなり小柄で華奢な体躯にピッタリな迷彩色のボディスーツを身にまとった人物の任務は、この未開の惑星に逃げ込んだと思われるクリミナルNo.009-88631およびラガン猿人捕獲あるいは討伐。
捜査官は今、辺り一帯を望める標高1000mほどの岩山の頂に立ち暗視スコープからある一点に集中されていた。
鬱蒼と茂る森の中に30K㎡ほどの集落があり、それは周りに大小様々な岩を3mほど積み上げ、その上には兵士と思しき男たちが各所、警備のために往来していた。
(人口はざっと1500人弱、見た目がさほど違わんとは・・・な。あれがあそこにに潜伏しているのはまず間違いないが、うかつに手出しできないな)
宇宙連邦捜査局の規定により、保護監察下にある惑星に関し、非干渉原則と言う壁があった。この惑星もまたその監察下に置かれているのだ。
文明の発達過程が古代期にあり、異文明、異文化に接触するには危険度が高いからだ。
おそらく彼らは大地が丸いことを知らない。ましてやこの無限大の宇宙に散らばる星々のひとつに過ぎないことも。
彼らの世界は壁の中とさほど遠くへと足を向けない森の中。それより先の世界は知らないだろう。
夜、闇に紛れて潜入を決行した。幸い雲が夜空の星々を覆い隠してくれている。だが油断は禁物。彼らの夜目がどれほど利くか分からない。下手に見つかれば今後の任務に支障をきたす恐れがある。それに一番の恐れは猿人の襲撃だ。
猿人は夜行性、それも完全な闇を好む・・・。
兵士は壁の上だけでなく中も巡回していた。
(ヤリに剣か・・)
捜査官、ルシアはこの世界が恐ろしく太古なのだと実感した。
(あんな武器では開墾も無理だな)
ルシアはこの惑星に到着して早々、原棲竜と一戦を交えていた。あれの獰猛性、生命力では彼らの手に持つ武器、鋼ではなくおそらく何かの骨で出来たものでは太刀打ちできまい。だからこそ領土を広げることが出来ないのだろう。
(関係ないか・・)
非干渉原則の法に則り迅速かつ速やかに集落の中を移動した。と、闇の空から大粒の雫が地面に落ちた。一粒が二粒と落ち、あっという間に本降りとなってしまった。
ルシアは舌打ちすると、予想より早かったなと内心舌打ちをする。何故なら猿人は水を嫌うからだ。
今宵は何も起きないだろう。しかしここに潜伏している確実な証拠を求めて中央の最も奥に鎮座する高床の建物に向かって足を早めた。
5㎡ほどの広さの高床式の邸の前には三体のミイラが横たわっていた。
閨得体に知れぬ惨事に、この集落の若き長は怒りに震えていた。ミイラ化となった遺体の中には妊婦がおり、乳飲み子までも犠牲になっていたからだ。
「死者を、手厚く葬ってやれ・・・」
唇を噛みしめ、それだけをやっと口にすると邸内へ姿を消した。
邸内は床板の一部屋で構成され、その中心に設けられた炉には火がくべられていた。
若き長はどさりと座ると、トトと呼ばれる白くドロリとした酒をあおるように飲んだ。
何杯目かをあおったとき背後から媚びるような色を匂わせる声が聞こえた。
「そのような無茶をしては、体を壊しますぞえ。さあ、はようこちらにいらして、妾を抱いてくりゃれ」
若き長の妻である女は床に毛皮をひきつめただけの閨で裸体をを惜しげもなくさらし、下肢は彼を誘うように開き、そこを女の指が怪しく蠢いていた。
妻は美顔ではない個性的な面持ちをしていたが肉体は豊満で褐色の艶やかな肌とムッとするような淫乱性を醸し出していた。
女は夫である彼とは親子ほどの年齢差があるが正妻である。
妻の艶かしく掠れた声に長の手にした杯がことりと床に落ちた。そして立ち上がるとまるで催眠術にかけられたようにノロノロとした動きで女の元へいくとまるで何かに憑かれた様に激しく身体を重ねた。
「魔物が蠢くに異うってつけの夜だよな」
「変なこと言うなよぉ」
「ははは・・、お前、ビビッてんのか」
「当たり前でしょう、あんな分けん分からん死人が出ちゃ、誰だって」
などと言い合いながら遺体の埋葬作業を二人の男がしていた。その背後にルシアは音もなく姿を現し、首の後ろを手刀で打ちつけ気を失わせた。そして土をかけられるだけになっていた遺体のひとつに近づくと、閉じられた瞼を開いた。
(やはりな・・・)
遺体の白眼は全て赤く染まっていた。これはラガン猿人が血を吸う時、相手の体の自由を奪うために牙から特有の毒性物質が体内に入った証だ。その毒性は大型動物を5分で動きを封じてしまうほどのもので、原生竜ほどの大きさなら30分と言ったところか。
盛り土の新しさからここに埋葬されている遺体はすべて犠牲者と推定された。
逃走用に奪った小型運搬船が不時着大破した機体の中で、ラガン猿人による変わり果てた姿のNo.009-88631の遺体を発見した。彼が第一の犠牲者だ。せっかく牢獄惑星から脱出したというのに、奪った船が密猟船でラガン猿人が乗せられていたとは、運が悪いとしか言いようがない。が、それにしても放し飼いにしていたわけでもあるまいに、いったい何がおきたのだ。まぁ、それは機体を本部に運んで調べればわかることだ。
「今夜はこれ以上犠牲者が出ることはない」
ルシアは小さく呟くと雨と鳴り出した雷の中、姿を消した。
お恥ずかしいことですが、この話は私が中学生頃に書いた作品で、四半 世紀以上前のものです。
そんな古いのをなんでと言いますと、偶然出てきたんですよ、実家じゃなく嫁ぎ先の押入れの奥からです。見つけたときの驚きと言ったら半端じゃありません。何でこんなものがと首をひねりましたね~。
10代の頃の自分の作品を読んで恥ずかしいやら感心するやら、自分てこんなもの書いてたんだ・・・って感慨に深けましたね。で、せっかくなのでこれをここで投降することにしました。
誤字脱字、文章の手直しなどをしましたが、ほとんど当時のままです。