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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
陽はいずれ彼方へと消える
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88.贖罪

 その問いかけの答えを返すまで、どれだけの時間が、どれだけの沈黙が流れたのか。

 それでも結局は、全ては本来の姿に戻るべき、という説諭が最後にやって来るのだ。

 少女は項垂れたまま、小さく、答える。


「いつから……私が偽者だと分かったんですか……?」


 深知は、いや、深知であるはずの少女は、父親であったはずの男の質問を静かに肯定する。

 それを聞いた父親だった男は、やっぱりかと、更に脱力したように笑みを浮かべた。

 

「はは……いやぁ、前の錬金術研究所で死にそうになった時、持っていた賢者の石を使って自分の傷を直したんだけどね」

「自分の記憶を肉体を治す力に変える……」

「あの時は、ほとんど走馬灯だったんだけど。その時にさ、娘が小さい頃に、ストーブで右腕を火傷したことを思い出して。それも、結構跡が残るくらいにね」


 少女は、はっとなって、自分の右腕の袖を捲る。

 そこにあるものは、かつての『地獄』でつけられた、あまりにも忌々しき刻印。

 それを隠すための肌色のファンデーションテープ。


「そう、一度だけ、それも一瞬だったんだよね。君の右腕を見たのは。でも、その瞬間の記憶には、たしかに、焼ゴテで刻印された数字『しか』なかった」

「私はただ、数字の跡を隠そうとしていただけだったのに……」

「そうさ、その焼ゴテの数字を一度でも見せられれば、僕だってもう君の腕を確かめる気なんて失せてしまったよ。……ははっ、酷い偶然だな」


 皮肉めいた、そして、あまりにも乾いた笑いが部屋に響き渡る。


「本物の深知……僕の本当の娘は……もう死んだんだろう?」

「…………」

「別に責めはしないさ。だったら、君が代わりに殺されていたんだろうし。あんな所にいちゃあさ。……どちらの命がなんて、そんなの勝手だから。こうなるまで、気づかなかった僕が悪いんだ」

「……違います」


 微かに震える声で、少女は博士の赦しを否定する。

 両膝を地につき、絞り出すかのように……言葉を吐き出した。


「私が、殺したんです。天北深知に成り代わったのは、私自身の意志だったから……」


 少女は右腕のテープを剥がし、痛々しく焼印された数字を、紅い光に照らして見せた。

 デジタル数字で、ナンバー『358』。

 あの地下に堕とされた子供たちが、まず最初に、強制的に押される刻印だ。

ぱっと見ただけでは分からないが、少し視線を近づけて『よく』見てみるとその焼ゴテの数字には、不自然なところがあった。

 それは8の数字の右上の棒。

 焼ゴテで出来た模様とは違う、赤く腫れ上がった傷。

それを見て、博士は彼女の使ったトリックに気づく。


「なるほど……自分で数字を変えたのか……君の本来のナンバーは『356』。あぁ、たしかに『最初に』会った時も君はずっとその腕を押さえていた……」

「あそこでは、私達はこの数字で呼ばれていました、から。あの日、引き取りの日に呼ばれたときもそう。……奴等を騙すには、一瞬だけでよかった」


 この世の中のどこかで行われていた少女強姦殺人ショー。

 しかし、殺人は単なる結果であり、実際はその前の強姦の部分がメインだということは、浩輔達にも話していなかった。別に人に言うようなことでもないが。

 一年前のあの日、連れて来られた地下牢のような場所はまさにこの世の地獄。……いや、人によっては天国のような場所のため、この世の闇というのが正しい表現であろうか。

 かつて少女はここで、殺される以外の大概のことはさせられた。

 強姦を始めとした、性的虐待が日常の生活。

 朝から夕方まで強制的に年齢的に違法物のアダルトビデオを見せられ、お前達もいずれはこうなると脅される。そして夜からは、『好き物』の客人の相手をさせられるのだ。

 それを嫌がり、拒んだ途端、見世物にされて殺されてしまう。

 乱暴に慣れていない普通の環境で育った子は、すぐに脱落して行った。

 両親からの暴力が日常茶飯事だった少女は、そこである程度は耐えることが出来た。理由もなく生き続けるのには慣れていたのだ。

 顔を隠した相手に全力で媚を売り、わざと洗っていないのか、臭いを嗅いだ瞬間に吐きそうになる一物をくわえながら、とにかく相手を自分のペースに持ち込む。事を乗り切った後は、胃の中の内容物ごと全てを吐き出していた。ほとんど胃酸で口をゆすいでいたようなものだった。

 生理が既に始まっている少女達は、とにかく妊娠だけは避けなければいけなかった。肉体年齢的にも無理があるため、出産までの体力はもたない。出される食事も、冗談のようだがタンパク源は精液くらいしかないし、そもそもまともな出産用の設備もない。動けなくなった途端、腹を捌かれての見世物になるのがオチだ。そういうビデオも見せられていた。

 無論、初経前の少女も入って来たりしていたが、一週間もすれば発狂していた。

 自身も無理やり何度か中に出されもしたが、妊娠しなかったのは幸いだった。膣内を洗うことがそこまで効果がないのは後で知ったことだが、相手側の精子が欠陥品だったのだろう。

 結局、滞在時間は実質数ヶ月ほどであったが、その間は何年にも、永遠にも感じた。


「私達は、普段は牢屋のようなところに入れられていました。6人くらいに纏められて……」

「そこで、僕の娘に、深知に会ったんだね?」

「はい……」


 本物の天北深知が入ってきたのは、少女が来てから一週間後のこと。

 顔は全然似ていなかった。

 容姿だって、栄養失調のボーダーを潜り抜けてきたこの少女と違って、標準的な体つき。最初の方の発狂ぶりは凄まじかったが、数日もすれば周囲の励ましで幾分か落ち着いたので、元々強かな娘だったのであろう。

 

「母親の方が研究ばかりに夢中になっている父に愛想を尽かして家を出ていった……その後、継父の方に虐待を受けていたと……その辺りは本人から話を聞いていました」

「なるほど、それで話を合わせていたわけか……」


 互いの事情の話をしていたのは、そうでもしないと心がもたなかったから。

 あの牢の中で一人孤独な状態であれば、寿命は更に縮んでいたであろう。


「娘は、僕のこと何て言ってた?」

「とてもいい人だった、また会いたい、と……」

「そう……か……」


 嘘は言っていない。

 この台詞は確かに本物の深知が発した言葉だ。

 実際は、その前の言葉を抜いているだけなのだが。

 『引き取りが決まった瞬間』と、いう前置きを。

 それ以前に聞いていた評価は、散々たるものであった。


「彼女が引き取られる話は事前に知っていました。どうせロクなところじゃないと思っていたので、周りからは同情されていましたが……それからの様子が変だったんです。喋り方も少し明るくなっていたし、今度は彼女がみんなを励まし出すし……」

「……一人だけ助かるなんて話、言えるわけないよな」

「本人から直接聞いたわけではないので、父親が引き取りに来るというのは私の勘でしたが……」


 三日後に身元引き取りが決まったとき、本物の深知の顔は見る見るうちに希望が表れ始めていた。他の少女達も、口には出さないだけで、薄々勘付いていたのかもしれない。

 羨んだところで、妬んだところで、怒りに身を任せ、相手の足をいくら引っ張ったところで、自分達の境遇は変わらないのだから。

 しかし、この少女だけは違った。

 妬み嫉みが別次元へと昇華されて行き、彼女の観察力、得られた知識、自分の環境が思いもよらぬ作用を起こし、一つの悪意を生み出してしまったのだ。


「引き取りの当日、いつもの『仕事』を終えてシャワーを浴びていた時、深知さんのナンバーが呼び出される声が聞こえました。そして、彼女が早々にシャワー室を出て、脱衣室に入った時……誰も見ていないその瞬間を狙いました」


 博士はこの時、とてつもなく深い闇を孕んだ少女の瞳を初めて見た。

 そして、確信した。

 自分や、僅かな時間だけでも伴侶として過ごした妻には、とてもこんな表情はできないと。


「私は……深知さんを……後ろから襲い……気絶させました……」

「……そんな心得が君にあったのかい?」

「脱衣室に掃除用のモップがあったので、それで、殴りました」

「…………」

「彼女の頭を殴ったときに、モップの先の金具が壊れたので、それで、この腕のナンバーを加工しました……そして、私がナンバーを呼んだ男のところまで出て行ったんです」


 もちろん、この犯行のタイミングもただの偶然だったわけではない。ある程度は計算されていた。

 仕事の後のシャワーは、少女達にとって重要な時間。

 体に付着したどこの誰かも知らない男の体液を、膣内を含めて徹底的に洗い流さなくてはならないのだ。

 少し冷たいと思えるくらいのぬるいシャワーであっても、規定時間一杯まで使用されていた。早めに切り上げることはまずない。故に、身元引き取りはこの時間を狙って来ることが多かった。

 少女達の普段の『管理者』は数名のローテーション。一週間もすれば声は覚える。数が少ないのは、仕事の内容が内容なので、外部に漏れるリスクを減らすためであろう。

 そして、引き取りの際の確認が杜撰なのも分かっていた。

 引き取り人は外部の人間だが、遠くから聞こえてくる会話では、明らかにここの人間を小馬鹿にしているような雰囲気であった。加えて、この地下牢の劣悪な環境に長居したくないのか、ナンバーを呼ばれて向かっていった少女をそのまま連れて行くだけ。

 少女達の人数も結構なものなので、目立つ行為さえしなければ、ナンバーと顔を一致されることも少なかった。どのみち殺されるか、犯しつくされるであろう少女達に、余計な私情を挟むつもりもなかったのであろう。

 地下牢の中は、太陽の光が届くことのない薄暗い環境。血染めの数字であろうとも、一瞬だけならば相手を欺くことが出来る。

 一度騙して外に出てしまえば、こっちのものなのだ。

 管理者達の身分待遇は前述の通り低い。しかも、取引相手は金持ちや権力者集団。

 たとえ、少女が本物の天北深知ではなかったと、後で地下牢の異変に気づいたとしても、それを言うことは出来ないのだ。

 地下牢の管理、つまり自分達の仕事が杜撰だとバレてしまえば、自分達の身が危うい。引き渡しの間違いについては、知らぬ存ぜぬで通すはずだ。

 ――ここまでは、計算の範疇であった。


「欺くための条件は、揃っていました。後は、実行するだけだった」

「そこまで……そこまでやったのか……そこまでして…………」

「……はい」


 全ての説明を終えると、少女の表情は先程とは別人のように感じられていた。

 そう、これが浩輔たちの前で見せていた顔だ。

 世の中の人に希望を求めることを放棄した、やさぐれた少女の姿だ。

 ただし、一人の人間だけには。

 目の前の男だけには、ただ謝る姿を見せた。


「そこまでしないと、生きていけなかったのか……?あんまりじゃないか……こんな小さな子に、そこまでさせないといけなかったのか……?」


 体液で擦れた声で、うわ言のように天北博士は言った。

 少女は微かに鼻を啜る音と共に、激しく首を横に振る。


「違います……単なる私の勝手です……ごめんなさい……」


 頭を下げ続ける少女を見て、かつての研究所での光景が脳裏に浮かび上がる。


「そうか……そうだったな。前の研究所の時も、錬装機兵に襲われながら君は謝っていた……」


 あの時、既に彼女はアルク・ミラーの力を持っていた。

 しかし、使わなかった。父の前では使おうとしなかった。

 あの時、死んでいれば、か弱き可憐な少女のままであったのだ。

 父親の生の記憶の中では、永遠に。


「僕がこの錬金術に手を出したのはね……」


 天北博士は俯いた少女の前に、まだ人の血液が通っている手をかざす。


「全てを、やり直したかったからなんだよ」


 唐突な告白。

 その気持ちは理解出来る。

 だが、その繋がりが、少女には分からない。


「妻と知り合ったのは大学の時さ。あの時は僕のビッグマウスもあって、勢いで結婚して子供まで作ってしまった。絶対いい結果だして、偉い研究者になってやるってね。それから僕は就職もせず、金にもならないポスドクにはまってしまった」


 いつもの自嘲気味な調子で博士は語るが、その瞳には潤みがあった。

 

「それから先は、おそらく娘から聞いたとおりだ。僕は結果を出せないまま、一時期精神も病んでしまい、自分の面倒も見れない状態さ。人の親になんてなれやしなかった」


 少女も目の前の男と最初に出会った時は、事前情報もあって、そんなイメージしかなかった。

 無精な姿は、とてつもない天才か、はたまた単なる異常者かのどちらかでしかない。


「それでも、長いこと研究者を続けていたけど……気づくのが遅すぎた。僕には才能がなかったんだ。今となっては研究そのものが好きだったのかも分からない。ともかく、純粋な学者にはなれなかった」

「……それで錬金術を?」

「半ば自暴自棄で手をつけたね。あの時は、人を騙すことしか考えていなかった」


 天北博士を蝕む賢者の石が発光し、菌体の胞子のようにコードを噴出させる。


「そして、なんの偶然だったんだろうね……この賢者の石の使い方と、その真の力に気づいた。その時、僕はこれで全てをやり直せると思った……!」 

「やり、直す……?」

「……でも、違ったんだよ。この力が僕の思う通りのものであったとしても、そんなものは最初から必要なかったんだ。やり直すよりも、前に進んだことで得られたものがあったから……」


 飛散した光の象形文字が少女の頬を撫でるように流れて行き、微かな温もりと共に少女の肌に染み渡って行く。

 多少の恐怖はあった。しかし、すぐにそう思ったことを後悔した。

 この光は、嘘偽りのない真心であったから。


「君といた時間は、本当に楽しかった。いや、幸せだったんだよ。たとえ、それが互いの『ごっこ』での付き合いだったとしても」

「…………」

「僕の娘という存在を、全力で演じてくれて、ありがとう」

「そんな……」


 鼻水を拭くことも忘れるまでに呆けた少女の顔を一頻り見つめ、博士は破顔する。


「僕の方は、どうだった?君にとって、良い父親だったか?演技であっても、そうなれたかな?」

「…………」

「答えるのは難しいかな?じゃあ君の本当の父……」

「……貴方です」


その先は言わせたくない、と今度は少女の声が遮った。


「私は、自分の両親の顔なんて、思い出したくもない……!」

 

 少女は両方の拳を震わせながら、搾り出すように声を出す。

 博士はその言葉で彼女のことを理解した。

 そして、運命的なものも感じた。


「君が、思いとどまらせてくれたんだ。この石の真の力を使うのを……僕はそれでよかったと思ってる。間違いなく、後悔しただろうからね。本当に、自慢の、良く出来た娘だよ」

「……私の名前は――――――です」


 娘と聞いた途端、少女は掠れた声で口早に言う。

 そういえば質問していたんだったとかいう惚けた台詞は、少女の眼差しで押さえ込まれた。


「私は、貴方と血は繋がっていません。貴方の本当の子供を殺しました。貴方を死ぬまで騙そうとしていました」

「……ああ」

「親子とか、家族とか、大切な人とか……そういうものなんですか……?」


 自分は知らない、全く分からない、教えられていない、と言わんばかりの表情。

 博士は彼女の両親を恨もうとして、止めた。

 自分も、大した差はないと思ったからだ。

 だとしたら、今の自分が言ってやれることを、と大きく息を吸い込む。


「誰を大切な人と思うかは、そんなの自由さ。互いに想い合えたら、それだけで幸せなことなんだよ」

「それが……」

「――そう、これが『賢者の石』の力の発動の……始まりなんだ」


 瞬間、部屋中に眩い光が溢れる。

 視界の全てが白く染まり、あらゆる物の輪郭が消滅する。

 それでも、少女の眼は開かれていた。不思議と光の痛さは感じなかったのだ。

 優しい温もりが全身を包み込み、全ての現実から少女を解放する。


『あーー……でもなぁ……』


 博士の声が頭の奥から響く。


『やっぱり深知の方が可愛い名前だと思うよ?なんてったって、僕が三日三晩考えて導き出した名前なんだから』

「……もらってもいいんですか?」

『僕の愛娘のために考えた名前なんだ。当然だろう?』


 少女の心から何かが抜けていく。

 捨てたくても捨てられなかったもの。

 人である限りは、捨てられなかった忌々しきもの。

 自らの力では決して届かぬ領域を、父となった人の心が洗い流していく。


『ありがとう……深知。幸せになれよ……』


 それが最後の言葉と悟った時には、少女の……深知の心と体は現実へと戻っていた。

 しばらくぶりかのような重力。体の重みを改めて感じる。

 目を開くと、そこには灯り一つない暗闇の世界。巨大な賢者の石は跡形もなく消滅していた。

 部屋の入り口に向けての一歩は、とてつもなく、軽い。


(真っ暗でも……こんなに歩けるんだ……)


 深知は自分の胸を手で押さえて、暫しの間、その場に立ち尽くした。

 

「……錬装着甲アルク・ライズ


 そして、錬装化と同時に電磁加速砲レールガンを展開。

 部屋の入り口である自動ドアを開けた瞬間に一発。続けざま、砲身の修復がままならぬ状態で二発、三発。暴発寸前での連射はここまでが限界だ。

 部屋から体を出して、初撃の成果を確認する。追っ手であろう輩は文字通り体が千切れてしまっているので、正確な人数を数えるには少々時間がかかりそうだ。

 よって、首実検はパス。


(いや、これは……)


 それでも足下に転がっていた首の一つが目に入り、深知の神経が更に張り詰められた。

 明らかに、子供の首だ。それも小~中学生くらいの。

 この基地の中に子供がいても別におかしくはないだろうが、この状況でなお、このようなところにいること、それが意味することはなにか。

 不穏な気配を察知した瞬間、電磁化速砲レールガンの修復の隙間を縫うように、前後から銃撃の雨が襲い掛かかる。

 

(結構いるわね……!そして、私の武器のタイミングも読んでるとなると……)


 深知のリーヴ・ゾーンのような特化型の武装は、対策を練られると途端に厳しくなる――

 ミューア達からの事前レクチャーでもそう聞かされていたので、彼女も同様に勇治のような強化プランを提案されていた。

 が、あっさり拒否。

 理由は、自分の心の内をあんな少年ガキに見られたくなかったから。

 ボロアパートの部屋を出て行く自分の後方で「乙女心はあなたが思っているよりも複雑なのよ」とか、色々慰めの声が飛んでいたが、そんなの知ったことではなかった。

 深知は再び父の研究部屋に入ると、修復が完了した電磁加速砲の弾を天井に向かって発射する。


「上ニ逃ゲタゾ!追エッ!」


 どこかカタコト調のくぐもった声と共に、ガシャガシャといった金属的な足音が周囲に響き渡る。

 ……が、天井は破壊されていなかった。一応なりとも要人の部屋なので、隔壁が通常よりも強固に仕上がっているためだ。無論、深知自身もそんなことは承知済み。

 先程の指示からして、追っ手は上の階に逃げたと思っている。来る時にも天井を破壊して降りてきたので尚更だ。よって皆一様に粉塵が舞っている部屋の天井を眺めていた。深知はその視界の下を、体を屈めてた状態で一気に駆け抜けて突破する。

 三回ほど体の接触を感じつつも、目の前に人がいないところまで走り抜けると、さらに反転。

 慌てて踵を返した追っ手に向かって、電磁加速砲レールガンの一撃をお見舞いする。

 首が裂け、肩が吹っ飛び、右脳が四散し、絶命した追っ手の錬装が次々に解かれていく。


「やっぱり、みんな子供ね……!」


 更にその後ろから姿を現した錬装機兵も、皆一様に低身長。中には深知の身長より低い輩もいる。妙なのは、銃口を向けられているにも構わず、身を隠さないことだ。よろよろとこちらに向かって来たかと思うと、今度は突如錬装を解除した。

 素顔が露になった少年少女達は、皆虚ろな目をしたまま、じりじりと距離を詰め寄っていく。

 何の目論みが、と深知は思索する。

 が、下手に近づかれても面倒なのでと、その行列に、弾丸を放り込んだ。

 少年少女達の体は何の抵抗も出来ずに、ばらばらに砕け散った。

 その惨状を見て、深知の頭の中で一つの答えが浮かび上がって来る。


「……まさか、こんなので私が躊躇するとでも思ったの?」


 その一言は図星だったようだ。

 残った少年少女達は、次はどうしようかと明らかにまごついている。

 そんな最中、呆れるような溜息と共に、容赦なき一撃が叩き込まれた。


「人の殺し方くらい、自分で考えなさいよ。……そんなことを教える奴らを、殺せるくらいにね」


 死屍累々と化した通路に、負い目を捨てた少女の呟きが響いた。


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