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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
陽はいずれ彼方へと消える
84/112

82.強さ

 浩輔がその男、相川一郎を最初に見たのは十六歳、高校に入ってしばらくしての頃。

 ある日、学校から家に帰ると、何やら見知らぬ眼鏡の小太りの男が家の玄関のインターホンの前で格闘しているのを見て、即座に嫌な予感を覚え、家の裏の塀を乗り越えて裏口から家に入った。

 中には案の上、息を殺して身を潜めている妹、あかりの姿。何度もしつこくインターホンを鳴らし、ドアを叩き続ける男を借金取りか宗教の勧誘か何かと思って警察も呼べずにただ震えていたらしい。

 父の会社の経営が行き詰ってきているのは、子供ながらにある程度聞かされていた。

 浩輔の父は会社の社長と言っても、中小企業のどちらかというと小にあたる規模。それもそのまた上の祖父から受け継いだ、というくらいの代物である。

 このご時勢だ。九州の片田舎の町工場などいつ潰れようが、地元の新聞でも数行で処理される。

 かと言って、当時の父の会社は不渡りを出しているわけではなく、単に時代の流れで取引先が減って行き、維持していくのに苦心しているというくらいの状態。長男の浩輔に継がせる気もなかったし、本人も継ぐ気はなかった。『あかりを大学に入れるまではもたせないとな』などと冗談交じりに言っていたのは鮮明に覚えている。

 何はともあれ、浩輔はすぐさま父のいる町工場に連絡し、助けを求めた。父は全く心当たりがないと、すぐに社員を数人引き連れて家に駆けつけてくれた。

 外から悶着やっている声がしばらく続いたかと思うと、とうとうパトカーのサイレンまで近づいてきて、その場は何とか収まった。窓から外の様子を見てみると、その男と視線が合ってしまった。ただただ純粋に気味の悪い目つきをした男だった。

 後で父に話を聞いてみると、あの男、相川とは古い知り合いで、といっても同じ小中学校で同じクラスになったのも数回程度でろくに話もしなかったようだが、奴が勤め先をクビになってしまい、生活に困窮し、借金まであるので、金をせびりに来たとのことであった。昔の卒業アルバムは住所まで載っており、父だけでなく、知っているだけの同級生全員にあたっているらしい。

 父は『生活に困っているだけなら、役所に駆け込んで何とかなる話だが、借金となるとまた話は別だ』と、切り捨てていた。生活保護すら受けられないのは奴がそういう人間であること、まだまだ子供であった浩輔には少々白状にも思えたが、だらしない人間なら仕方ないとすぐに反面教師と認定した。

 が、問題はそこで終わらなかった。

 この時父が部下の社員を連れてきたのがまずかったのだ。一つの会社を経営できるほど金を持っていると思われ、相川に狙いを付けられてしまった。

 何度も何度も家に電話をかけ続け、父へ頼むのが駄目だと分かってからは、その妻や子に執拗に話しかけるようになった。

 浩輔も家に帰ってきた途端、大袈裟に涙ぐんだ目で土下座をされたこともある。

 ――人助けだと思って。

 ――このままじゃ首を吊るほかない。

 そのように、同情を誘うような声で頭を下げられた。

 終いには、あかりが一人で家にいる時を狙って無理やり家に上がりこみ、彼女に縋り付くような真似をしていたため、とうとう浩輔自身も我慢できなくなってしまい、声を荒らげて男を取り押さえた。

 警察を呼び、パトカーに押し込めるところまでいったのである。

 その時の男の目は泣いていただけではない。

 明らかに憎悪の意思が表れていた。

 その一週間後、あかりが誘拐された。

 そして、ポストに指紋に気を使った様子もなく、乱暴に突っ込まれた脅迫文。

 犯人は一人しかいなかった。

 全ては、そこから始まった。

 一つの家族は崩壊した。

 一人の少女が人の尊厳を奪われ、命を絶たれ。

 一人の男はせめてもの抵抗と最後の手段とばかりに自らの命を絶ち。

 一人の女は為す術も無く、絶望に身を任せるまま、理性を失い。

 そして、一人の少年を――



 ◇ ◇ ◇ ◇



「君はぁ、僕が殺す。恨みも晴らせるし、手柄にもなる。一石二鳥ってやつだ」

「俺を、前にして、恨み、だと……?」

「僕には権利があるっ!一人の人間としての生きる権利がっ!それを踏みにじった奴は絶対に許さん!」

「お前の権利……いや、プライドのために、俺は、俺の家族は……滅茶苦茶にされたのか……?」

「当然だぁ!法律では裁けないけど、立派な罪だよぉ!僕は……苦しんだんだからなぁ!?」


 浩輔は、唾を撒き散らす相川に銃口を向ける。引き金を引くことにも何の迷いもない。この瞬間、この体勢、この角度では、狙ったところには当たらないかもしれない。肩や腕を痛めるかもしれない。そんな憂いを吹き飛ばすくらいの『殺れ』という内なる指令が脊髄から出ていた。

 だが、視覚情報を受け取った理性が、ギリギリのところでその命令を停止させる。


錬装着甲アルク・ライズッ!!させるかぁっ!」

「……くっ!」


 目に飛び込んで来た光の象形文字を見て、浩輔は後ろへと距離を置く。

 今、通常弾を撃っても無駄だ。

 あと数秒早く撃っていれば、という後悔が働く前に、近くにあった洗濯物干しを投げつける。


「ハッ、無駄だぁっ!」


 既に錬装化を終え、全身を夜間迷彩色の装甲に包まれた相川には、プラスチックの塊が飛んでこようとも蚊に刺されるほど痒みも感じない。

 それでも、続けざまに飛んできたバスタオルには、流石に手が動いた。


「……って、いない!?」


 相川がタオルを払いのけると同時に、その横を浩輔が低姿勢で駆け抜けて部屋を飛び出していた。

 始めからただの目くらましだったと気づいた時には、既に手の届く範囲から離れており、浩輔は一旦後ろを振り返ると、一目散に薄暗い通路を駆けていく。


「小癪なマネを……っていかんいかん。絶対的優位にいる僕が焦ってどうする」


 相川はフェイスガードの前で眼鏡を直す動作をしながら、その後を追いかける。


「待てやぁ!篠田のガキぃ~っ!僕から逃げようなんて思わないことだぁ!お前はハエ叩きに追われるハエに過ぎないんだよぉっ!……ハエ?……こりゃいい!我ながら素晴らしい比喩だ!貴様の存在はハエ同然なんだぁ!つまりザコっ!はぁははははぁっ!」

 

 一人で喋り、一人で抱腹する相川であったが、その距離は思っていたよりも縮まらない。

 錬装機兵のパワーフレームをもってしても、中の人間の純粋な脚力が低ければ人並み程度に走れるものでしかない。これでは埒が明かないと補助推進装置を使っても、その最高速に達する前に、浩輔は方向を変えて相川を振り切る。

 浩輔の方に至ってはこの数分足らずの逃走で確信した。相川はまだ錬装機兵の扱いに慣れていない。だとしたら、問題はこいつよりも――


(今、仲間を呼ばれたり、見つかったりしたら終わりだ……!)


 黎明の兵の大半は勇治達が引きつけてくれている。自分についての放送が流れないなら、そういうことなのだろう。他の兵は、先程の若者の様な我関せずという者も多いはず。ならば、ここ自分が取るべき行動は、助けを呼ばれる前にいち早く相川を倒すこと。

 思考が反撃の算段へと移ろうとした瞬間、浩輔の視界の横から赤く細長い光線が流れてくる。

 間一髪でたどり着いた曲がり角に飛び込むように隠れると、その横を無数の黄色い軌跡が走った。


「ぐっ……!?」


 左脇腹に刺さる、鈍い衝撃。

 その場から少しでも離れようと、体を転がしながら、その痛みの元に触れて確認する。防弾ジャケットは破れていないが、明らかに熱を持った部分がある。跳弾を喰らったのだろう。

 弾が実際に刺さってないだけ良かったと体を起こすが、脇腹の悲鳴で全身がぐらりと崩れる。


(くっそ……跳弾でもこんなダメージが……!)


 それでも相手の様子を探れるくらいの距離を取るために、歯を食い縛りながら下半身を動かす。

 乱雑に撃ち付けられる銃弾の雨は止まることが無く、その後から相川の異様な笑い声が追いかける。


「この錬装機兵『武蔵』はよぉ~、黎明製の錬装機兵一号さぁ~。だけどスペックはみんな使ってる『大和』より遥かに高いんだぁ。その意味が分かるかぁ~?」


 浩輔はひたすらに扉を、わずかでも身を隠せるところを探していた。

 反撃さえ出来ればいい。

 こちらが奴の方を向いて狙いを定める……その数秒の時を稼げればいい。

 だがこれは、ゲームとは違う。相手の銃弾を一発でも受ければ、ほぼ詰んだも同然。時間が経って傷が治るわけでもない。死ななきゃ安いなどと、致命傷でも通常通り動けるわけがない。

 おまけに向こうからの銃撃は止まることがない。

 残弾数、再装填という概念もなく、銃身が焼きつくこともない。

 邁進を続ける相川は、意気揚々とフェイスガードの中に唾を撒き散らした。


「この『武蔵」は、調製成功率が一割切ってるんだぜぇ~!?こいつを着けたらどいつもこいつも廃人になっちまう!……かかか、だけど僕は違う!これを身に付けても何ともない!つまり、選ばれた人間なんだよぉ。僕はぁっ!」


 ――何ともないわけがない。

 心の中で浩輔はそう吐き捨てた。

 相川は自身が狂っていることにも気づいていないのだろうか。

 それとも、元から欠陥のある人間だから、今までと変わりないのだろうか。

 浩輔は消火器を見つけ、乱暴にその場に転がす。栓を抜いて……なんて暇はない。単なる小細工だ。それでも相川は上手く引っかかって躓いたのか、後ろから激昂する声と消火器のものらしき噴射音が聞こえてくる。


「あがいてるつもりかよぉ~!?この雑魚めがぁっ!お前は何も出来ずに死ぬんだぁ~っ!」


 裏返った声と共に相川の手に発現した突撃銃アサルトライフルはなおも無数の光の軌跡を走らせる。

 ベースとなった銃はアメリカで試作された、ある意味で『最新式』のものであった。高い威力と引き換えに、銃そのものの耐久性に問題があったため軍の正式採用は見送られたが、錬装機兵の自動修復機構によりその欠点を完全に解消していた。要は、深知のリーヴ・ゾーンの電磁加速砲レールガンの発想を真似ただけであるが。

 いくら撃っても弾が尽きぬ武器に、生半可な攻撃は一切通じぬ全身を覆う装甲。

 何も知らぬ者が対峙すれば、もはや悪夢でしかないだろう。一方的に蹂躙されるだけだ。

 それを知っているからこそ、相川の脳内は絶対的な自信で満たされていた。


「んっ!?」


 相川が再び通路の角を曲がった瞬間、弾丸の軌跡が変化する。

 通路上にある部屋の扉が開いており、それに命中して自分の足下にも散乱したのだ。

 合金製の堅牢な扉であったが、銃撃を受けて無数の爪痕を残しており、蝶番の鈍い音を鳴らしながら、漂うように揺れていた。


(部屋の中に隠れた……いや、それとも先の通路に逃げたのかぁ……?……しまった。銃のせいで足音が聞こえなかった)


 相川は銃の引き金から指を離すと、ゆっくりとその場を歩き出す。

 途端に周囲が静まり返り、自らの足音と基地内の篭ったような機械音が相川の鼓膜に伝わった。

 顔の汗を拭う素振りと共に、フェイスガードの中で唇が緩められる。


(足音が聞こえない……ということは、どこかで息を潜めているなぁ……?あの部屋の中か、それとも次の曲がり角の向こうか……僕に選択をさせて、隙を突いてやりすごそうってわけか……くくっ……)


 すぐさま、その二つの可能性を両方とも潰す算段が頭の中で構成される。相川は舌で厚ぼったい唇をねっとりと舐めながら、再び銃の引き金に指をかけた。

 そして、開かれたドアの横で足を止めたかと思うと、銃口だけを覗き込ませ部屋の中に発砲する。だが今度は、数秒ほどで銃撃を止め、周囲の音を探ることに集中した。


(足音は……聞こえない。となると、この中にいるなぁ……?)


 しかし、相川は先程のように脇を抜けられたらと、部屋には入ろうとしなかった。

 代わりに左手から手榴弾を発現させ、安全ピンを引き抜く。


「くく……篠田のガキぃ……出て来いよぉ……でなきゃ、体が、千切れるぞ、お?」


 一個、二個、三個、と部屋の中に放り投げ、金属の跳ねる音が数度した直後、辺りを揺らすかの如き炸裂音が地下の基地に轟く。

 唯一の出入り口から黒煙が濛々と噴出し、相川は引き笑いをしながら数歩距離を置いた。粉塵が晴れるまでの根競べかと思っていたが、『武蔵』の視界が部屋の中に蠢く影を捉える。

 相川は突撃銃アサルトライフルの銃口をその影へと向け、顔の筋肉が悲鳴を上げるくらいに表情を歪ませた。


「俺の勝ちぃ~っ!死ねぇっ、死ねえっ!この糞ガキぃぃっ!」


 錬装機兵『武蔵』の性能は、たしかに高かった。

 素人丸出しの適当照準で突撃銃アサルトライフルを片手で撃つ、という行為を行っても、相川の腕には何の負担もかからなかったのである。

 弾の七割は明後日の方向へと飛んで行ったが、残り三割を身に受けたその影は部屋の入り口までよろよろと近づき、そして、倒れた。


「ぐふっ、ぐふふ………………ん?」


 手榴弾と弾丸の雨でところどころが欠損したその死体を見て、不意に相川の焦点が定まる。

 その死体の髪は、肩のところまで伸びていたのだ。


「あれ、違う……?」


 自分が思い違いをしていたと気づき、思わず下顎が上がった瞬間、左からの銃声と共に相川のこめかみに振動が走る。


「うがっ!?って、貴様ぁ!やっぱり曲がり角(そっち)にいたかぁ!?だが、こんなものが効くと思ってるのかぁっ?この無敵の錬装機兵『武蔵』の装甲の前には、どんな武器だって――」

「……弱点は、あるんだってよ」


 曲がり角の先から聞こえてくる浩輔の溜息混じりの一言に、相川は、はたと足を止める。

 薄暗い地下だというのに、視界が真っ白になっていたのだ。装甲が修復途中なのかと、手で白い視界を拭おうとすると、『それ』は更に引き伸ばされ、ますます相川の視界を遮る。


「え、な、なん、だ……これ……?装甲は、壊れてない……?」


 銃を撃つことも忘れ、顔を拭おうとする相川に更なる弾が当てられる。

 動きを止めた体は格好の的だとばかりに、白い視界の周りに色とりどりの弾が『付着』し、相川の眼球は輪郭のない『色』だけの光景しか認識出来なくなってしまっていた。


「ま、まさか……ペイント弾っ!?……とっ、取れない!前が……見えないっ!?」


 相川は混乱のあまり銃を落とし、喚き散らしながら顔を壁や地面へと擦りつける。

 しかし、いくら拭おうとも、いくら爪先で掻き毟ろうとも、付着した塗料は剥がれない。

 

(そう……装甲は『破壊されてないから、修復もされない』んだ。それが、錬装機兵……アルク・ミラーの弱点……!)


 装甲や武器を自動修復できるようにしているからこそ生じた欠陥。もとい、仕様。

 ユミルやミューアら、アルク・ミラーを創った側だからこそ熟知している攻略法で、ペイント弾も透過性と塑性に改良を加えた特注品だ。

 思えば以前、二度も明理がやられた戦法だった。二度目はシグ・フェイスの性能が思いがけないものであったのもあり、攻略されてしまったが。

 つまり、この錬装機兵『武蔵』の仕組みを、調製した側が気づいてなければ――


「くそ、こんなもの……一度、錬装を解除して、そこから……」


 相川の頭が不測の事態から抜け出そうとした瞬間、その目の前に何かが落ちる音が響く。

 音の感じからすると、握りこぶしくらいの代物。


「……ひぃっ!?」 


 相川はこの音で悟った。いや、浩輔が悟らせたのだ。

 ――錬装を解除した瞬間に、攻撃を受ける、と

 錬装解除から再度の錬装着甲までどれくらいの時間が必要なのか、タイムロスはどれくらいか。

 そんなものやったことはない。聞かされてもいない。

 もしかしたら。

 ひょっとすると。

 甘い願望と重い不安がせめぎ合い、決着のつかないまま、頭の中を駆け巡る。

 相川は恐れた。怖れた。畏れた。懼れた。


(……い、いや、このままこの頑強な殻の中にいれば、安全だ。このまま――)


 このままでいれば、いずれは援軍が来て、あの浩輔(ガキ)を始末してくれることであろう。

 しかし、そうなってしまえば、他の者はどう思う?

 何と言われる?


(あ……)


 『錬装機兵の力をもってしても、一般人一人殺すことの出来ない無能』

 そう、呼ぶだろう。

 欠陥品、人間の屑、ヘタレ、カス、ゴミクズ、ポンコツ、産廃、ウンコ製造機……。

 一緒だ。

 今までと一緒だ。

 折角この力を手に入れたというのに。

 今まで自分を馬鹿にしてきた連中を、悠々と蟻を踏みつけるかのごとく蹴散らせる強大な力が、今はあるというのに。

 ようやく、手に出来たというのに。

 相川の脳内で何かが大量に生成される。

 今までなら、彼本来の脳であれば、あまりにも不自然なくらいの分泌物。


「へ、へへ……へぁはははぁ……に、逃げないぞぉ。僕は。今度こそ逃げないぞぉ……!」


 極度のストレスのかかった頭で口元から垂れ落ちる涎を拭うことも出来ないまま、相川は立ち上がり、再び突撃銃アサルトライフルを発現させる。

 そして、乱射した。

 それ以外の表現が当てはまらないというくらいに、滅茶苦茶に撃った。


「前が見えないからって何なんだあ!このまま進めばどの道お前は逃げるしかないんだよぉ!」


 相川は前に進んだ。

 数歩進んでは、銃撃を止め、足音の聞こえてくる方向を確認した。

 でも、聞こえない。

 もっと進めば、いずれは相手も逃げざるを得ないだろうという考えで、少しずつ前に進んだ。

 でも、慌てふためいて逃げるような足音は聞こえない。


(取った……)


 それもそのはず、浩輔は既に相川の後ろに回りこんでいた。

 相川がペイント弾を取ろうと顔に地面を擦り付けていた時、横を通り過ぎたのだ。錬装を解除しようとした瞬間に、無線機を後ろから相川の前に落とすように投げ、そのまま背後を取り続けていた。銃を乱射したときには流石に扉の後ろに体を潜めたが。

 もし、相川が『生身』だったならば、浩輔が横を通り過ぎるのも、無線機が後ろから飛んでくるのも、風の動きで分かったであろう。

 浩輔が息を殺しながら後ろから銃の狙いを定めようとすると、今度は相川の動きが止まる。


「も、もしかしていない……?ひひひ……だったら、錬装解除アルク・リリース!そしてアルクラ――!」


 相川の視界が取り戻されると同時に、彼の言葉は一発の弾丸で奪われた。



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