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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
白き破壊魔 シグ・フェイス
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7.ミミなりの少女

 浩輔は戦慄していた。

 こんな感覚を覚えたのは、明理の変身を初めて見た時以来だ。それ以上にもっと凄まじいのを過去に経験しているが。

 結論からいうと、真織は無事だった。服が泥で汚れたのと、頬の軽い引っかき傷で済み、現在は傷の消毒も済ませ、絆創膏を貼りつけている。

 そして今、浩輔は真織の自宅にお邪魔している。彼女は親と同居しているが、今日に限ってたまたま旅行に出かけているらしい。

 ヤラシイ話?そんな都合のいい漫画みたいな展開はない。

 だが、今、浩輔と真織の目の前に鎮座する物体は、言葉をそのまま現実世界に描いたかのような非現実。


「うにゃぁぁぁーー!」


 ……そう鳴くとは予想できてはいたものの、やはり非現実。。


「えっと……改めて聞くけど……何これ?」

「私が聞きたいです……」


 今確かにネコの鳴き声を発したが、目の前にいる生物は人間だ。

 黒いおかっぱ頭(ボブと呼ぶべきか)に、ふっくらした白い肌の人間の女の子。

 頭の上に猫系の耳と、ふさふさの尻尾がついていることを除けば、立派な人間だ。

 浩輔の頭はどうにかなりそうになっていた。

 

「にゃぁぁあ!にゃあ!」

「な、何!?どうしたの?」


 猫のように振舞う少女は、急に喚きながら真織の胸元に体を摺り寄せる。

 こういうのが好きな人にとっては鼻血ものの光景だ。

 ちなみに、今でこそ無理矢理に服を着せている(というか被せている)が、公園で彼女を発見した時は全裸だった。目のやり場に困るったらありゃしない。


「せ、先輩!助けてください!」

「お、おう……」


 浩輔が近づこうとすると、少女は今度は真織の胸の先っぽ辺りを探り当て、ちゅうちゅうと音を立ててながら吸い始める。

 真織は「ひっ!」と、普段より三オクターブほど高い声で悲鳴を上げるが、当の本人はそんなことはお構いなし。だが当然のことながら服の上からなので、お目当てのモノなど出るはずもない。

 すると今度は、何やら煩わしそうに、真織の服の裾に手を突っ込み、邪魔な布を引っぺがそうとする。


「いやぁぁーーっ!?先輩!助けてっ!きゃあ!見ないで!」

「どーすりゃいいんだよ……」


 このまま放置しても眼福な展開になることは間違いないであろうが、流石にここは自分の体裁を重視するべきだろうと、浩輔は素早く猫っぽい少女の後ろの回り込み、彼女の両脇に腕を突っ込んで抱え上げる。

 案の定、かなりの抵抗を受けたが、身体能力はやはり見た目通りの少女並み。大の大人の腕力には逆らえず、脚以外の抵抗が出来ない状態にされる。


「にゃぁぁぁーっ!」


 少女は必死に抵抗しようと、浩輔の脛に踵をぶつけまくってくる。

 しかし残念ながら、いつも明理に強制的に鍛えられているだけあって、この程度の攻撃では痛くはあろうとも怯むほどではない。


「うぅ……あ、先輩、痛くないんですか?」

「痛い。正直言ってかなり痛いけど。なんとかして」

「え、え~と……お、大人しくしなさ~い!」


 真織がやや気の抜けた声で、少女のおでこの辺りをぺちっと叩くと、少女は親猫に叱られたかの如く、しょんぼりと耳を垂れながらながら抵抗を止める。


「本当に大人しくなったよ……もしかして八瀬さんになついてる?」

「私、猫アレルギーなんですけど……」

「この子だったら飼えるんじゃない?」

「冗談はやめてください!……でも、本当にどうしよう」


 萎れたまま、というのも可哀想なので、真織が試しに少女の顎を摩ってやると、少女は気持ち良さそうに目を細める。そのまま、彼女に体を擦りつけようとするが、今度は気持ち控えめになっている。


「見れば見るほど猫だな。猫人間だ」

「夢じゃないんですよね、これ。この子が猫になりきってるってわけでも」

「だって、ほら、この尻尾。皮膚から直接生えてるよ。コスプレとか特殊メイクとか言うレベルじゃないぞ」


 頭から生えた耳も同じく。本来の人間の耳があるべき所はつんつるてんだし、これはもう完全に新種の生物としか言う他ない。

 漫画アニメとかではよく出て来そうなものだが、実際に見ると中々刺激的だ。変な気を起こす男どもが大量発生すること間違いなし。


「で、これからどうしようか。どっかの研究機関とかに引き渡せば、結構な金になると思うけど」

「さらっと恐ろしい事言わないでください!」

「俺も冗談だと言いたいところだけど、半分本気だよ。このまま、彼女をここに置いといてどうする気だ?」

「う……」


 真織も怒ってはみたものの、その後の対処については考えあぐねていたらしい。

 犬や猫を拾ったのとは訳が違う。

 『飼う』という選択肢を取ったとしても、世間の目がそれを許さないだろう。

 ならば、人目につかない所にずっと置くか?それも非現実的だ。これも世間一般では少女を拉致監禁したのと変わりない。たとえ、心は猫であろうとも。


「どのみち、俺達が世話するところを人に見られた瞬間、お終いだよ。長時間匿っておくという選択肢は初めから抜いておこう」

「じゃあどうするんです? この子、警察を見た瞬間物凄い勢いで逃げたんですよ? 私とか、先輩も始めのうちは、普通に近づかせてくれるのに」

「警察を怖がっている……か。そりゃ公然猥褻ものだからな。人間の感覚だったら」


 浩輔は少女の瞳を猜疑心丸出しの眼でじっと見つめてみるが、少女はやや怯えたように弱々しく鳴くだけである。


「まぁでも、人間の耳が無い時点で、猫のフリってだけには留まらないだろうな」

「新種の生物……にしては、滅茶苦茶ですよ……」

「どこかの研究所で改造とかされてたりして」

「そんな漫画みたいな話……」


 改造、という単語を聞いた途端、真織は顔を青冷めさせる。

 浩輔は明理の件があるから何となく言ってみただけだが、よくよく考えると、可能性としてはかなり高い事に言った後で気づく。これは進化や突然変異で済ませられる話ではない。


「だとしたら、ますますここには置いておけないよ。もし『飼い主』とやらが出てきたら、すぐに返した方がいい。俺達は何も見なかったことにしてね」

「にゃぁ……」

「……何だか悲しそうですね。嫌だって言ってるみたい……」

「人の言葉は理解出来てんのかな?……じゃあ、君の名前は?」


 猫は浩輔の問いかけには何も答えない。

 言葉が解かるのであれば、『にゃあ』の一つでも出ると思ったのだが。

 どうやらこの様子だと、場の雰囲気を察しているだけのようだ。


「ミミちゃん……」

「え?」

「あ、この子に名前をつけるとしたら、と思って」


 可愛らしいが安直だ。

 一応、この物体に呼び名をつけるのは必要な事ではあるか。


「まぁ、情が移らない程度にね」

「でも先輩、この子を返すって言ってもどこに返すんですか?それに私達が引き渡すとしたら、それこそ意味がないんじゃ……」

「そこは考えているよ。任せてくれ」


 認めたくない事実だが、今の浩輔にはシグ・フェイスという頼もしいヒーローがいる。

 彼女に頼んで、適当な所に引き取ってもらうというのが今考えつくベストな方法だ。


(普段からあんだけ金かけてんだ。こういう時こそ使わないと)


 返す場所に関しては敢えて言及しないでおこう。売れ残ったペット達の末路と同じだ。

 物事をあまり深く考えないようにした方が、気兼ねなく生きられる。

 明理は考えなさすぎだが。


「本当に……大丈夫なんですか?」

「ああ、何とかなるさ。それまでは、この子はここに置いておくよ」

「ええっ!?」

「今から俺の家に連れて行くのは難しいよ。置くって言っても一日以内だ。それに……」


 猫耳の少女はいつの間にか真織の胸の中ですうすうと寝息を立てて眠っている。


「八瀬さんが傍にいる方が、大人しくしててくれるみたいだ」

「そう、みたいですけど、涎で服が……」


 浩輔は心の中で『ドンマイ、真織ちゃん』と慰めながら、携帯で明理を呼び出してみる。

 ……だが、今日はどうやら仕事には困っていないようで、出てはくれない。


「それに先輩、明日の昼にはもう親が帰って来るんですけど」

「親御さんなら、ちゃんと説明すれば解かってくれると思うけどな……」

「……その何とかするって、いつ何とか出来るんです?」

「この携帯が繋がり次第」

「誰か呼ぶんですか?」

「こういう時に頼りになる人がいるんだよ、警察関係の人だ。あ、でも大丈夫。ちゃんと信用できる人だから」

「そ、そうですか……」


 浩輔もヒーロー直通の電話と言うわけにもいかず、口から適当な出まかせを言ってみたが、何とか真織は納得してくれたようだ。

 後は明理とコンタクトを取れるかどうかの状態だ。


「…………」

「…………」

「…………」

「かー……ふゅゅぅ」

「…………」

「…………」

「にゅぅ……ん……」

「…………」

「…………」


 それまでやることがない。

 そしてすごく気まずい。

 女の子の部屋に男女一組と猫娘。

 何とも如何わしい。


「どうしよう、一旦帰っていい?」

「だ、駄目ですよ!何とかするって言ったじゃないですか!」

「電話繋がらないしなぁ……」

「とにかく一人にしないで!」


 普段だったら女の子に言われて喜ぶべき台詞なんだろうが、今はそんな雰囲気ではない。

 研究所とか改造という単語が彼女を下手に怖がらせてしまったらしい。

 女の子の家にお泊まりなんて、高校中退フリーターで、モテ期とは完全に無縁であるはずの浩輔には夢のような展開のはずなんだが、この調子だと一晩中見張りをしないといけない。


「じゃあ、電話が繋がるか、八瀬さんのご両親が帰ってくるまでで」

「はい、とりあえずはそれで……ふぁ……うぅ。私も眠たいです……」


 時刻はいつの間にやら、午前3時前。

 明日がバイト休みなのは好都合だ。確か、シフトはおばちゃんと花田。

 花田が絶対休まないことを祈るしかない。


「じゃあ、八瀬さんは先に寝てていいよ。俺が見張っとくから」

「ふぁい……でも、襲わないで、くだひゃい……」

「そんな爆弾を抱えている以上、迂闊に近づけないって」


 そう言い切る前に真織は夢の世界へと旅立ってしまった。

 二人で寄り添って寝ている姿は、仲の良い姉妹のようにも見えて微笑ましい。

 あと凄く艶めかしい。

 違う意味で欲求に負ける可能性も想定していたが、やはり睡眠欲は強い。人間の三大欲求の中でも最強だ。いくらハラヘリでもリビドーが暴発しそうでも、人は眠気には勝てない。

 浩輔は自らの両頬を強く叩き、気合を入れ直した。


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