56.休息
遠く離れた地で何人もの人間が死のうとも、世間は未だに平和。
陽気な昼さがりの下の、築六十年、六畳一間、壁厚100ミリ、風呂なし、共同トイレのボロ部屋。
先日の暴力団の襲撃でドアは破られ、窓ガラスは割れ、壁は穴だらけという散々な状態であったが、主にガムテープを使った応急処置も一段落。少し遅めの昼食が取られようとしていた。
部屋の真ん中に鎮座する年代もののちゃぶ台の上には、真新しいカセットコンロと鉄鍋。そして、その鍋の中では、周囲の光景にそぐわない、宮崎産最高級黒毛和牛(A5)の霜降り肉が薄っすらと白く煮えていた。
「こんなの食ったことないですよ……いいんですか?」
「俺も昔マンガで読んだだけで、味付けはあまり自信がないんだがな……付けダレの再現は中途半端だからそこは容赦してくれ」
「……うわっ、うっめぇっ!信じられないくらいに美味ぇっ!」
「溶ける……肉が甘い……!」
すき焼きとしゃぶしゃぶの良いとこ取りの料理に舌鼓を打つ、頭に青いバンダナを巻いた青年と、すっきりした短髪の少年。浩輔と勇治。
例によって互いの事情を話し、情報交換を行った一行は再び休息の時を迎えていた。その間に勇治は多少なりとも暴力を受けたりしたが、ともかくは誤解が解け、改めて協力の形を取ったのである。
ちなみに現在、明理、真織、深知の女性陣は近くの銭湯へお出かけ中。特に真織の疲弊っぷりは凄まじく、休息を入れないと化けて出てこられそうな勢いであった。その間、男二人に部屋の補修を命じられたのだが、どうせ本職を呼んだほうが早いだろうとの浩輔の判断により、一夜城ばりの応急工事で済ませたのである。
もう一つの理由として、二人の周りには部屋に入りきれないくらいの荷物があり、まともな作業スペースがない、というのもある。衣料品が1割。生活用品が2割。食料が残り7割。研究所からの帰りに郊外の大型スーパーに寄り、積載量の書かれた車検証を握りつぶし、車に積み込めるだけ買い込んだのだ。
東京近郊の暴力団事務所において散々たる略奪行為を働いたため、資源面に関してだけは後十年は戦える勢いである。主な成果品としては、大量の新札、貴金属、血文字で暗証番号が書かれた(書かせた)通帳、重火器類は使えるものだけ最小限、麻薬類は自然に還した。偽札印刷機は3分ほど迷ったが、スペースを取るので泣く泣く木っ端微塵に破壊した。
「でも、明理さんたちより先に食っちゃってていいんですか?」
「いや、あの人が帰ってきたら食う暇ないから。今のうちにたらふく食っとけ。肉はまだある」
最高級の霜降り肉が放つ耽美で芳醇な香りはいつしか、銃撃抜きにしても隙間だらけのボロアパート全体に充満し、ついには隣近所の貧乏老人達が集まってくる始末。特に断る理由もないので、美味しいものを食べる喜びをアパートの住民皆で分かち合うことになり、終いにはとうとうアパートの大家も辛抱たまらなくなって、ワンカップ片手に部屋に乱入し、ちゃぶ台の前にどかりと座って有無を言わさず紙の深皿と割り箸を手に取った。
「篠田くんよぉ、最近は随分と悪どいことに手を染めてるんじゃないのかい?」
「こればっかりはなんとも……。違法だとは思いますけど、今の世の中、合法が正義とも限りませんからねぇ……」
「そりゃぁ、違ぇねぇけどさ」
大家の老人はそう言いつつも、和牛のオリンピックで優勝したこともある最高級の黒毛和牛の味に可愛らしく顔を歪めてみせる。浩輔はその様子を伺いつつ、近くにあった黒いトランクから、札束(もちろん新札)を一掴みして大家に差し出した。
「はい、今月の家賃。迷惑料込みで」
「悪事の片棒は担ぎたくはないんだけどなぁ」
「もう肉食ってるじゃないですか」
「いや、美味いけどさ」
周囲の老人たちからどっと歓声が上がる。このような状況に慣れていない勇治は苦笑いしながら、若者らしい速度で浩輔に耳打ちする。
「大丈夫なんですかこの人たち!?まさか俺達の事情のこととかも知ってて……」
「いや、何も知らないはずだよ。何も話してないし」
「だとしたら、なんで篠田さんが悪事を働いていると知って笑ってられるんですか!?」
「なーんでかなぁ……」
勇治の不安を他所に、浩輔は軽くお茶を濁すが、どこか遠い目をしていた。間違いなく勇治の問いかけには答えられるはずであった。お前にはまだ早いと遠回しに言われたような気がして、釈然としないまま勇治は態勢を戻す。
周りではいつの間に持ち込んだのか、4リットル容量の焼酎片手に宴会が始まっていた。勇治の目の前にも紙コップが置かれて並々と酒が注がれるが、安酒の宿命か、匂いだけで頭痛と吐き気を催しそうになる。
流石にこのボロ部屋でそれ以上暴れられると床が抜ける、と大家にたしなめられ、老人達の多くは陽気に互いに肩を組みながら食料品(勿論浩輔たちの)片手に元の部屋へと戻っていった。
「何だったんだあの人たち……」
「へへ、みんな久々の美味いもんだったからなぁ。タダでありつけられるなら、なおさらさ」
大家はジャージのポケットから、新たなワンカップ酒を取り出し開封する。
勇治は目の前の酒をどう処理しようかと思索したが、浩輔がもう一つの紙コップをそそくさと突き出す。もちろん中身は並々の安焼酎。カップが二つで匂いも二倍。
「俺、あんま酒飲めないからさ」
「だからって未成年に渡すんですかっ!?」
そんな二人のやり取りを見ながら、大家はかっかっかと、大きく口を開けて笑い出す。
「お前さん、ここに戻ってから、少し変わったな!」
「……色々ありましたからね」
「前の死んだ魚のような目とは大違いだ。あのべっぴん姉ちゃんが来てからちっとは明るくなったが、それでも目つきまでは変わってなかったからな!」
浩輔は複雑そうに和牛を口に放り込み、租借しながら壁にもたれかかる。
「探していた奴がようやく見つかりましたからね……まぁ、隣の彼が半ば終わらせちゃったんですけど」
「生きる意味……いや、死に場所を見つけたって奴か……」
「そこまでは言ってませんけど」
「いいや、目がそう言ってるぜ。それにまだ終わってないってな」
二人の会話には具体的な名詞は存在しない。
そんなものを言わなくても、通じあえるニュアンスらしきものがあるのみ。
「そっちのボウズもよ」
急に呼ばれて、勇治も肉を食いながら思わず生返事を出す。
「俺達ジジイがいい年して何やってんだって言いたげな顔してるけどよぉ……」
「いや、別に、そういうわけじゃ……」
「俺達みたいな腐れジジイは世の中にごまんといるのさ、確かにな。まだ将来ってやつがあるボウズに見せるのは早かったかもしれないけどよぉ。……別に偉そうなことを言うわけじゃねぇさ。ただ、俺達のようにはなるなって、反面教師みたいなことしか言えねえ……」
大家はそれ以降の言葉が出せずにいた。上手く説明することができないのか、単に酔っ払って呂律が回らないのか、はたまたその両方か。ぼんやりと天井から吊り下げられている照明を覗き込んだまま黙りこくってしまった。
「……おっと、すまねぇ。邪魔したな。酒飲んでんのに、なんだか今日は冷えてしかたねぇや」
「そりゃそうでしょ。先日、ヤーさんに銃撃くらったもんで、部屋が穴だらけですもん」
「なにぃっ!?この前帰ってきたら、やけに荒らされてるなと思ってたけどよ!やっぱりお前等のせいだったか!」
「い、今更……!?」
色々と追いついていない勇治を差し置いて、浩輔とホロ酔いの大家が旅行者と現地の人の様な、妙にかみ合っていないやり取りを行う。が、ほどなくして交渉は終わり、大家は面倒臭そうに頭を書きながら自分の部屋に戻っていった。
五分半の協議の結果、明日のうちにでも大家の知り合いの左官屋に来て貰って、見積もり無しで修理して貰うらしい。無論、修理費用は全て浩輔持ち。ついでに、修理後は改めて焼肉パーチーをやるようにと念を押された。
「むしろ立て替えた方が早いんじゃないんですか?せめてリフォームとか……金はあるんだし」
「いやいや、その間の住居はどうするかって問題だ。それに、ここの人たちは今のボロアパートの方が性に合ってるんだよ。まぁ、共同トイレは作り直させるがな」
この家に来たときに見た、白い紙の上に何度も薄黄色の絵の具を塗りたくったような色と、アンモニアと硫黄を超越した臭いを放つ便器の存在を思い出し、勇治は深々と賛成した。
「あ、それとよ」
一度部屋に戻ったはずの大家が、突然思い出したかのように再び玄関を開けて来る。
「ほれ、今日の新聞だ。指名手配犯になったときは、何やらかしたんだとか思ってたけどよ」
「……知ってたんですか」
「だが、色々と事情があるのは分かったよ。頑張りな。戦えるのは若いうちだけだぜ」
意味深な言葉を残しながら新聞を放り投げ、大家は今度こそ自分の部屋に戻って行く。
「今日の新聞って、一体何が……」
ポケットに入るように三つ折りにされた新聞を広ると、突如、浩輔は素っ頓狂な声を上げながら目を見開いた。
「『端島会長宅の押し入り強盗逮捕!』って……」
「え、はぁぁ!?」
初っ端から衝撃的な見出し。おまけに、手錠をかけられ警察に連行されている二人の男女の写真。名前も篠田浩輔及び裕眞明理とちゃんと表記されてある。
写真ではテンプレの如く、頭からジャンパーを着せられており、顔はよく見えない。たしかに似てはいるが、知っている人から(特に本人から)見たら別人だと言うのは明らかであった。
「『逮捕された男女は容疑を認め、現在詳しい動機について取調べを行っている』……」
「いや、逮捕されてないじゃないですか。誤認逮捕?普通に不味いんじゃないんですか!?」
記事は三面に続くようで、さらに次のページをめくっていく。
「あー、やっぱり俺と明理さんの写真変えてあるなぁ。完全に別人だ」
「『先日の記事に掲載された写真は数年前のものであり』って、杜撰にもほどがありますね……」
二人はひとしきり記事を見終わると、二人して大きな溜息をつく。
何故の偽の報道。頭の中で情報をごねごねと咀嚼させ、浩輔が一つの結論を導く。
「ってことは……警察とマスコミは俺達から手を引いたのか?」
「いや、単に誤認逮捕という可能性は?」
「それはないよ。つい昨日までその警察に追われてた身だぜ?間違える訳がない。しかも『容疑を認めて』とまで書かれてある。これで単なる間違いだったら、不祥事どころの騒ぎじゃないぞ」
犯人逮捕するまでならともかく、それが記事にされるとなると話が変わってくる。記者に対して正式に公表されるとなると、既に確認が取れた上でのものという意味になるのだ。ただでさえ、誘導尋問が問題視されている昨今だというのに、断定がそもそも早すぎる。
「つまり、表向きはこの事件は『終わった』。そういうことにされたんだ」
「うーん……?」
まだ納得のいかない様子の勇治であったが、確認のために、近くのコンビニで何社かの別の新聞を買って来る。……が、書かれている内容はどこも同じ。顔写真の修正も示し合わせたかのように行われている。
「『この前の報道は間違いでした、ごめんなさい』なんて言うわけにもいかないから、こういう形にしたんだろうな。世間からバッシングを受けるわけでもなし、俺達から名乗り出ない限り事件は沈静化する」
「それにしても、なんでこんなことに……」
「多分、その端島会長を殺した、からだと思うけど?」
――あの用心深い端島会長すらを殺害してしまう輩を敵に回したくない。
――下手したら、自分たちも殺される。
考えられるうちで一番シンプルな理由がこれだ。
世間的に見ても、今の明理たちは法も権力もお構いなしの純粋暴力。特に政治的思想はないけれど、所謂超過激派のテロリスト。街中でも田舎でもお構いなしの、傍迷惑な壊し屋。
しかしそれでも勇治は、端島の死体を確認できていないということがずっと引っかかっていた。まだ確信を持てないでいたのだ。大きな山を乗り越えはしたが、全く気を緩めていなかった。
「まぁ、だからといって、ここで引き下がったまま終わり……とは思えないがな」
「今度はもっと大掛かりな方法で潰しに来るかもしれないと?」
「少なくとも政府や警察側は、俺達の様な存在を野放しにしておくわけにはいかないだろう。曲がりなりにも法治国家だからな。次の対策を考えて……いや、そうなると、今度は黎明側もどう動いてくるか気になる……」
浩輔はぶつぶつと独り言をいいながら、何かを描くように箸を宙に舞わせる。
ダシが濁った鉄鍋の中では、鍋一杯に敷き詰められた豆腐と長ネギがぐらぐらと煮立っていた。
「篠田さん……よく色々考えが回りますよね。なんか、慣れてるっていうか……。やっぱり、あの明理さんと暮らすとなると、相当鍛えられてしまうんですか?」
勇治の率直な感想に、箸の舞がはた、と止まり、先端がそのまま鉄鍋の中へとダイブする。
「明理さんに会う前も、色々動いてはいたんだよ。一人で色々と。警察や官公庁へのハッキングもその時に独学で勉強した。本職からすればおままごとレベルだろうけどな」
「妹さんの仇を探して、ですか……?」
「妹だけじゃないさ。一家全部無茶苦茶。途方もない借金を抱えさせられ親父は自殺。お袋は気がふれて施設送り。俺も親戚中から厄介者扱いされて高校を中途退学」
浩輔は淡々と壮絶な過去を語る。まるでそれが笑い話でもあるかのように。勇治も初めに会った時は、明理の世話をしている苦労人にしか思っていなかったが、予想を遥かに超えてきた。というか、何故こんな目にあって平然としていられるのか不思議であった。
「あの、この前言ってた、相川一郎って奴が?」
「奴は、俺等に保証金詐欺で借金を被せただけに過ぎないさ。それが全ての元凶だけどな」
「…………」
「今度見つけたら俺に引き渡してくれ。意識が残ってるならどんな状態でも構わない」
その目に宿るのは明確な殺意。
自分如きが下手に諭すことは出来ないだろうと、勇治は小さく返事をした。
「ま、そいつだけが問題じゃないんだけどな。妹を殺したのは別だし」
「例の『ショー』という奴ですか……あの、深知って子もそれで殺される寸前だったとか……」
「……『ショー』の前にも、だ。その間にもう一つ、過程があるんだよ」
「……?」
勇治の目の前に、突然札束が突きつけられる。
「女の子をその『ショー』へ売りつける『ブローカー』。金を作ると言って妹を売ったそいつまでは見つけ出したんだ。バールで顔が倍の大きさになるくらいまで殴りつけてやった」
「…………」
「俺はそいつを拘束し、素性を吐かせた。家族がいたら皆殺しにしてやる勢いでな」
浩輔の眼が狂気を含んだものになる。語り口もどこか笑み……何かを嘲笑うような震えがあった。
「そしたらさ。そいつの素性……表向きの顔は何だったと思う?」
「…………」
「あしながおじさんさ。身寄りのない子供たちを救う」
「え……え……?」
「まったく、笑えたよ。女の子を売った金……そいつ自身は自分のためには使ってなかった。変わりに他の身寄りのない子供のための施設、生活貧、学費まで面倒を見てやっている、まさしく聖人のような男だったのさ」
冗談だと思った。こんな馬鹿な話があると思うしかなかった。
浩輔の目からは、それが真実なのか、単なる虚構なのかを測ることは出来ない。
「初めのうちは、その男も身を粉にして働いて孤児の面倒を見てたらしいんだが、一度人身売買の儲けを知ってしまうと止められなくなるらしくてな。他にも、子供を誘拐して、また別の病気の子供に臓器を売りつける、なんてことをやってたんだぜ?終いには『私のことはどうなってもいい。だが、あの子供たちには手を出さないでくれ』とか、ますますふざけた事を言いやがった」
「……それで、どうしたんですか?」
「悪い。逆に質問させてくれ。お前ならどうする?そいつは100人以上の孤児の面倒を見ていたんだ。そいつがいなきゃ路頭に迷うような子供がな。そいつらを見殺しにしてまで、復讐を果たすべきだったか?今後の何人かの子供がそいつの手によって、また殺されるために取引をされるかもしれない。しかし、そうすることによって救われる命は何百人とある……全くの赤の他人のな」
もし、人の命の価値が皆等しくあるのなら、多くの命を救うことが当然の道理。
そのために、少数の命を見捨てることは?自らが護るべき対象がその少数の中に含まれていたら?
……鍋の中のダシは激しく蒸気を出しながら沸騰し続け、僅かに焦げ臭さが漂い始めていた。
「どうする?」
「……いや、ですね。そんな質問。どちらかを取るなんて考えたくもありません」
「アルク・ミラーになったところで、両方救うことは出来ないぞ」
「そんな風な選択が出ること自体がおかしいんです」
勇治は静かに箸をちゃぶ台に叩きつける。
二人の間に張り詰めた沈黙が流れる中、浩輔は、勇治の目をじっと見据えていた。
勇治も無闇にその視線を逸らそうとしない。
やがて鍋から黒い煙が出てきたのを期に、浩輔が態勢を崩し、ガスコンロの火を止める。
「……だろ?その時の俺の答えがそれだったんだよ」
「じゃあ、その男は殺さなかったんですか?」
「ああ、『ショー』がまだ続いているのなら、また、どこからか捕まえてきた女の子を売り払っているんだろうな。俺の妹は無理やり借金のカタにされたが、ほとんどは家出少女さ」
大勢を救うため、少数が犠牲になるか。
大勢を犠牲にしてでも、少数を救うべきか。
結局、そんな答えは、自分がどちら側の人間なのかの問題でしかない。
「いやぁ、結局俺はどうすればよかったのかなぁ。高校中退、金なし、身寄りなし、技術なし、済むとこなしの身じゃ、今の世の中、食ってくだけで精一杯だっての。明理さんにも最初会った時に、この話をしたんだけど、『他人の復讐なんか知るか』って殴られるしよ」
いつもの調子に戻った浩輔が鉄鍋を流し台に持っていくが、勇治の表情は晴れないままであった。
聞かないほうがいい話だったのか。いずれは知ることになる話だったのか。
何かを為すために力を振るう。相手が情けをかける余地のある人間かなど何で判断する?
道徳的に、倫理的に、正しいことを為す。犠牲が出ないなど、見て見ぬ振りの甘えた話だ。
買ったばかりのアナログ時計の針は二時半を回ろうとしていた。
「そういえば、明理さんたち遅いですね。もしかして、寄り道して何か食ってるとか?」
「……いや、『あの霜降り肉は私の血肉となるべきだ』と意気ごんでたくらいだし、そろそろ戻ってきてもいいはずだが」
もしかして三人の身に何かあったのでは、という不吉な予感が二人の頭をよぎる……が、すぐに頭の中を通り抜け、外の冷たい風と共に流れていった。
「でも、明理さんいますしね。深知って子もアルク・ミラーだし」
「八瀬さんが唯一のネック……なんだろうけど。それでも苦戦するってどんな事態かなぁ?」




