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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
交差する白と黒
28/112

インターミッション.作戦会議

 とき:土曜日午前十時。

 ところ:篠田宅

 もくてき:ここいらで今まで出来事を整理し、互いの情報共有と意思疎通を図ること



「よーし、始めるぞー」


 相変わらず無駄に広い篠田家の部屋の中は、ドラマとかでありがちな警察の特別捜査部のような模様に改造されていた(家具の移動とかはもちろん全部浩輔一人による作業)。

 部屋の中心にはテーブルと両脇にくつろぎソファー。ソファーの無い側にはパソコンデスク、その向かい側にはホワイトボードと、いかにもな刑事ドラマの特別対策室の様相をかもし出している。……テーブルの上に山のように積まれた茶菓子を除けば。

 その一片をつまみながら、モデルのような容姿かつ目つきの悪い女性が、ボードに文字を書き込んでいく。部屋には他に、年端もいかない少年と、終始疲れたような顔をしている青年が一人ずつ。


「まずは人物だ」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


○正義のヒーローチーム

裕眞明理ゆうまあかり

⇒シグ・フェイス

 ……絶対無敵の正義のヒーロー。炎、電撃、冷凍など、各種属性を乗せた攻撃が可能。

 記憶喪失なのが玉にキズ。


岳杉勇治たけすぎゆうじ

⇒オルト・ザウエル

 ……新米ヒーロー。二丁拳銃と、二本のヒートマチェットナイフが武器。ただし射撃の腕はお察し。


篠田浩輔しのだこうすけ

 ……フリーターのパンピー。雑用係。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 淡々と茶を用意する浩輔に対して、勇治が必死に何かを目で訴えかける素振りを見せるが、本人はもう慣れっこと言わんばかりのスルーを決め込んでいた。

 先日、明理が勇治を家に連れて帰ってきた時は、浩輔もそれなりの覚悟を決めざるをえなかったが、実際に話してみるとなかなかどうして、この少年は思いの他大人しい人間だったのである。故に、打ち解けるのにもそう時間はかからなった。今となっては互いに目の前の女性に振り回される形となり、共通の敵が出来たというのもあるのかもしれない。


「そして、こいつらが私達の当面の敵となりうる奴らだ!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


○悪の秘密結社『黎明』(表向きは政党である)

東郷烈心とうごうれっしん

 ……黎明の幹事長という立場だが、十中八九こいつが黒幕。ワンマンくさい。


桐島雄一郎きりしまゆういちろう

 ……元総理。見た目は弱そう。むしろ、東郷の操り人形くさい。


芝浦敬文しばうらけいふみ

 ……元内閣官房長官。黎明の党首だが、こいつも操り人形っぽい。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「なんだか、こうして書くと大した組織じゃない気もしますね……」

「いや、間違いなく書き方のせいだから」


 実際、大量の武器と人を用意でき、レールガンや錬装能力を開発できるくらいの技術力と施設があり、日本の政治界に表立って介入出来るような組織である(16話より引用)。少なくとも、物量と財力では天と地の差があるのだ。あくまでも浩輔は、勇治に常人の感覚を忘れないようにたしなめる。


「でも、既に世間から目の敵にされてますよね?この前の衆議院選も惨敗だったみたいし……」

「コースケが警戒していたわりには、5人しか当選しなかったんだっけか?東郷の奴も落ちたし」

「今の日本人が保守的だったのが幸いだったというか……少し複雑ですけどね。それと、東郷はかろうじて比例代表で復活当選しましたよ」

「マジで?」

「選挙の中継を見た限りは、ここまで予定調和って気がします。黎明は単に物好きな人だけでなく、総理とかの元閣僚も何人かいるから、その繋がりで票を入れる人が少なからずいる、というのは十分に計算できる範疇ですし」

「それは考え過ぎじゃあねぇかな~」


 ここ数週間、浩輔はコンビニの店長には悪いと思いつつもバイトを休み、黎明についての情報収集を行っていた。調べれば調べるほど胡散臭い組織であることには間違いないのだが、表立った悪事を見つけるところまでは行けない。そういったゴシップ的な情報に関しては、思った以上にガードの固い組織だったのだ。

 そして、この東郷なる人物。過去の経歴があまりにも謎に包まれすぎているのである。日本最高峰の東大理Ⅲ類に現役合格しながらも、入学後は学生運動に没頭し、大学を中退。それから現在までの三十余年の経過が全く分からない。報道陣の前では、その後は地方の小さな企業で細々と生活しながらも、海外に進出してようやく地位と呼べるものを手に入れたとは語っているが、その企業とやらに関しても情報が定かではない。

 このあたりまで浩輔が一通り解説すると、前方からのせんべいの租借音が一段と大きくなる。新入りの方の少年は、一言一言に対して真面目にメモを取っているにも関わらず。


「……はい、明理さん、続きをどうぞ」

「うぃー、次は直接戦闘となった奴らな。まだ生きてる奴」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


・ウォーダ

 ……筋肉モリモリマッチョマン。かなり強かった。次こそぶっ殺す。


・フロイデ・ヘックラー

 ……赤いアルク・ミラー。勇治よりは間違いなく強いらしい。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「説明に関しては置いといて、問題は明理さんや勇治くんの他にもアルク・ミラーがいることですね」

「しかも、聞いた感じじゃ、とても正義の味方とは思えないんだろ?」

「はい……少なくとも、俺は味方にはしたくないです」

「ということは、黎明側にもアルク・ミラーがいるということか……」

「黎明に属しているかどうかは定かではないですけど、考え方は近いものがあるかと」


 勇治も、正直言って明理のやり方はどうかと思っていたが、一応攻撃対象となるのは悪人だし、敵にまわすにしても強すぎて勝てる気がしないという考えはあった。それを考えると、生身でこの化け物と上手く付き合っている浩輔を尊敬せずにはいられない。

 加えて浩輔も、ウォーダとフロイデ・ヘックラーを黎明方に括ろうとする明理の手を制止する。


「……敵を一つに括るのはまだ早い気がするんです」

「敵であることには間違いないんだから別にいーじゃん」

「そういう問題じゃなくてですね……」


 浩輔は黒ペンを取り、人物図の隣にこれまでの戦いについて書き込む。これまでの出来事の中で彼の感じていた違和感……そして、勇治の話を聞いての確信を得たことが纏められる。


「俺が思うに、この一連の事件の裏では複数の組織の思惑が複雑に絡み合っているんだと思います。もちろん、その中でも今名前の分かっている黎明が一番の敵であることは間違いないんですけど」

「それ、俺も引っかかっていたいたんですよ。この前の学校のテロにしたって……」

「あー、なるだけ分かりやすくな?」


 結局主導権を握られた明理は不満そうにソファーに体を預けるが、決して手出しはしない。彼女自身も薄々疑問に思っていたことなのだと浩輔は理解し、説明を続ける。


「まず疑問なのは、黎明側が錬装能力を本当に実用化出来ているのかどうか」

「出来てるんじゃないの?ユージの奴だって現にこうして変身できるようになったわけだし。赤いのもいるんだろ?」

「……でもそれだと、俺を拉致監禁した組織は黎明の人たちじゃないってことになりますよね?」

「そう考えるのが妥当だな」


 浩輔はA4サイズのリングファイルを取り出し、一枚のページを開いてみせる。中には新聞の切抜きがいくつも貼り付けてあった。そして浩輔が指差した先には、片田舎の町の総合病院で謎の大量殺人事件が発生したとの記事。

 その病院名は勇治にもよく見覚えがある。芒ヶ丘病院……そして事件が起こったのは感染患者用病棟。建物自体が大きな爆発に見舞われたようで、その当時中で何が起こったのかは定かではない。だが、焼け跡から見つかった遺体のほとんどから、鋭利な刃物らしきもので切断された跡が見つかり、警察は殺人事件として断定し捜査を続けている……と、記事には書かれている。

 勇治は胸のそこから何かがこみ上げて来るような感覚を遮ろうと、ページをめくる。


「その事件がユージがらみで、本当に子供達をアルク・ミラーの実験台にしようとしてたとはな……そーいや、例の猫娘の方も身元が分かったんだっけ?」

「はい、名前は塚元夏樹つかもとなつき、16歳。七美濃女子高校の一年生。二ヶ月ほど前から捜索届が出てたみたいですけど」

「……あの、猫娘って……その子はどうなったんですか?」

「ウォーダって奴に首から上を吹っ飛ばされた」

「ッ!!」


 明理は不機嫌そうながらもあっさりと答えるが、勇治は思わず口を押さえてしまう。

 しかも、タイミングよく浩輔が彼女の顔写真を載せているページを開いてしまっていた。


「……明理さん」

「い、いや、大丈夫です。篠田さん。それで、猫娘というのは?」

「この子は体を、いや、精神もかな、とにかく猫のように改造されていた。アルク・ミラーとどんな関係があるかは分かんないけど」

「……」

「こいつを改造したのは別の組織なのかもなー。他の奴は捕獲しようとしていたのに対して、ウォーダの奴は容赦なくぶっ殺してたし。そういや、黎明を名乗ってたあの飴女達もこいつに殺されたんだよな」

「そうなると、そのウォーダって人は黎明の一員じゃないってことになるんですかね?アルク・ミラーってわけじゃないんでしょ?」

「でも、明理さん普通に苦戦してましたよね」

「倒すのに時間かかっただけだ!」

「逃げられたじゃないですか」


 次の瞬間、浩輔の顔面に向かって湯沸しポットが襲い掛かってくるが、即座にソファー備え付けのクッションによって行く手を阻まれる。が、明理は防がれることなど既に計算済みであった。彼女の手にはポットの電源ケーブルが握られており、ポットの落ちるタイミングを見計らってすばやく引かれる。ポットはテーブルの端に衝突し、それによって禁忌の蓋が開かれ、周囲に厄災を撒き散らす。


「あっちぃっ!」

「あつぅっ!とばっちりじゃないですか!」

「ふん、私の攻撃から逃れようなどと、千年早い」


 作戦会議は(結果的に)一旦ここで小休止となり、浩輔は洗面所に向かい、部屋には最小限の被害ですんだ勇治と、加害者の明理が残される。勇治も片づけを手伝おうとしたが、明理の鶴の一声で静止させられる。その時の彼女の顔は先程までのおちゃらけた態度とは違い、感情的なものが消えていた。


「ユージ、お前には他に聞きたいことがあるんだ」

「な、何ですか?急に真面目になって」

「私は、アルク・ミラーなのか?」

「え?」


 唐突、というか、勇治には質問の意味が理解できない。


「私の力とお前の力は同じものなのかと聞いているんだ」

「……半年以上前の記憶がないんでしたよね。でも、すみません。正直俺にも分かんないです」

「お前は、この力を手に入れた時、何か後遺症のようなものはなかったのか?記憶が飛んだりとか」

「今のところはないです。変身前の身体能力が上がったって訳でもないし。障害みたいなものも何も……ほんと、変身しなかったらただの人ですよ」


 明理はふむ、と息をついて体勢を崩し、手元のドーナツをかじる。お茶が切れたので注ぎ足そうとしたのだが、お湯は全て絨毯に還ってしまったことを思い出し、軽く舌打ちする。


「お前を改造した奴……何ていうんだ?」

「名前は分かりません。ヘックラーって奴の話によると、お婆さんです。俺も拉致される前にそれらしき人と話しました。全身に白いコートを着て、顔もなんだか日本人っぽくなかったし、でも……なんだか凄く優しい声でした」

「ばあ、さん?」

「錬装能力はそのお婆さんによって付与されるものみたいです。それをみんな真似しようとするんだけれど、誰一人として成功させることができずに、犠牲者を増やしている……ヘックラーはマッチポンプとか言ってましたね」


 ちょうどその時になって、浩輔が大量のタオルを持って洗面所から戻ってくる。話は全部聞こえていたようで、特に勇治に何か尋ねるでもない。明理は体勢を戻しつつも、勇治に話の続きを催促した。


「問題は、そのお婆さんが黎明の一員かどうか、ですよね」

「俺はクロだと思うけどな。黎明が組織として動くきっかけ……その理由と考えれば」

「たしかに、この錬装能力を手に入れたとなると……何かを為そうと動きたくなる人も出てくるかもしれません」

「そう考えると、逆に今のやり方は遠回しというか正攻法過ぎる。話が戻るけど、もしその婆さんが黎明にいて、錬装能力を実用化させているとなると……もっと使っていてもおかしくないんだ」

「もう既に半年も戦っている明理さんでも、他のアルク・ミラーを見るのは俺が初めてですもんね」

「そして、さらに妙なのが、錬装能力自体を知っている人間は思いの他多いということだ。実際どうなのか知らないが、現物を見ずに情報だけが独り歩きしているようにも思える」

「そうか……だから本当に実用化できているのかどうかが気になるんですね?」

「ああ、それに何故勇治くんが俺たちに協力できるのかどうかもな」


 浩輔の抑揚のない言葉に勇治ははっとなる。その瞳には警戒の色が浮かんでいた。


「言っておくけど君を疑っているわけじゃない。だったら、最初からぺらぺらと俺達に情報を流すわけがないからな」

「じゃあ、どうして、俺はあの場所から逃がされたのか……」

「何にせよ、そのお婆さんが今後の鍵になるだろうな」


 そのまま男二人で考え込み、部屋の中にしばしの静寂が流れる。

 さっきから黙りこくっていた明理は既にソファーで熟睡していた。


「ま、今日のところはこれでお開きだ」

「そうですね……ご馳走様でした」


 浩輔と勇治は、出来るだけ物音を立てないように忍び足で玄関へ向かう。


「やばくなったらいつでも連絡してくれ」

「勿論ですよ。今、他に頼れるのは篠田さんたちくらいなんですから」

「大人の冥利に尽きる台詞だなぁ、それ」


 玄関先に男二人の小さな苦笑いが響いた。

 勇治は軽くお辞儀をして、マンションを去っていく。浩輔も、錬装能力があればそう簡単にはやられないだろうと、見送りもほどほどに部屋の中に戻った。

 そして、ソファーで寝ている明理に毛布を適当にかぶせ、パソコンデスクの前に立つ。


「敵が複数いて、同士討ちを狙えるならそれに越したことはないけど……楽観は出来ないな。こっちには明理さんと勇治くん、敵にはウォーダともう一人のアルク・ミラー……いや、実際の戦力はその十倍以上は見込んでいたほうがいいか」


 ぶつぶつと自分に言い聞かせるように呟きながら、浩輔はパソコンを操作する。ここ数日、それなりの機材を揃え、軽いハッキングの技術を磨いたせいもあり、警察の内部情報などはある程度除けるようになっていた。極秘事項にはとてもたどり着けないが、日報として提出している捜査状況だったり、大勢の人間が動くような出来事はいち早く察知できるようになっている。

 しかし、今のところは、先日の都内の学校の同時多発テロの対応に終始追われているようだ。立て篭もり犯の大半は明理と勇治がぶちのめしたのだが、その事で警察の存在意義について市民からのクレームも多いらしい。浩輔は警察だって同じ生身の人間なんだからと、各地の報告内容を同情の目で眺めていた。


「現場は人手が足りなくて他の県にまで支援要請か……警察も大変だな……」


 なんとなく気になり具体的な数と配置を調べようとするが、すぐさまディスプレイに警告の表示が現れる。これは、パソコンに導入したハッキング用のプログラムの初期段階の警告で、これ以上進むと相手にばれるといった類のものだ。腕のいいハッカーならここから三段階は先に進めるのだが、浩輔はそこまで重要な情報じゃないだろうからとすぐさま身を引く。……が、すぐに思い直して再び警告画面を開く。


「そこまで重要な情報じゃないだろうに、この段階で警告はおかしいんじゃないか……?少し危険な賭けになるが、ここを、こうして……」


 もう片方のパソコンでハッキングのマニュアルを見ながらの操作だったが、何とか上手く言ったようで、各県からの派遣人数とその内訳が表示される。名簿の詳細については、もう一段階潜らないといけない。しかし、この段階で既に浩輔のマウスを握る手は汗でべっとりとなっていた。そして、もうこれ以上調べる必要はなくなっていた。


「この機動隊の動きはちょっとおかしいよな……そろそろ動いてくるか……?」


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