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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
白き破壊魔 シグ・フェイス
17/112

16.ある意味でお約束

「――敵は霞ヶ関にありっ!」


 開口一番、明理がテーブルを力強く叩く。

 こんなことをやられる度にテーブルが破壊されると経済的に不味いので、事前に低反発枕を敷いておくのは基本中の基本だ。

 しかし、低反発故に枕は凹んだまま、一向に元の形に戻る気配がない。

 二千五百円が無駄になってしまった。


「あの女の話が本当なら、要はその『黎明』って政党を潰しゃーいいわけだ。しばしの休息が終わったら、すぐにでも国会議事堂に乗り込むぞ!」

「衆議院なら、ついこの前解散しましたよ」

「参議院は?」

「黎明に所属している人がいません。なにしろ最近出来た政党ですから」


 桐島現総理の支持率の低下に加え、与党議員の大量離脱もあり、当初の見立てよりもあっさりと衆議院は解散&総選挙の流れとなってしまった。

 こんな政治のニュースを見てるなんて、明理に期待するだけ無駄ではあるが。


「で、総選挙が明日から始ります。当然、黎明の所属で立候補する人やその後援者は各地に散らばっているわけで……」

「それはメンドクサイ」


 浩輔の完璧なまでの論理的な説明により、明理はあっさり引き下がる。

 ――いつもこんな感じで済むと非常に助かるのだが。

 先日の戦いで、敵の名前と大体の目的が分かったのは大きかった。それ以上にこれからの不安が五倍増しとなってしまったのは痛かったが。

 ちなみに花田はあの後すぐに病院に連れて行き、しばらく療養させる事にした。怪我の方は銃を持った相手に全治二週間程度で済んだだけマシと思うべきか。

 彼が眠らされた後の出来事は、あの後シグ・フェイスがやって来てドンパチやったと言う事で説明をつけた。どうせこっちが何も言わなくても、警察とマスコミが擦りつけて来るだろうし。明理は最後まで不満そうだったが。


「それにしても、シグ・フェイスの評判も地に落ちてますよね」

「冷たすぎるだろ社会の風!」


 そして、案の定そうなってしまった。

 かつての正義のヒーローの知名度はどこへやら。今では神出鬼没の白い破壊魔として、全国の家庭やオフィスで恐れられている。巷では「シグ・フェイス避けの御守」なるものまで作られ始めているとか。


「ええいくそ、攻めるには面倒だし、守るにしても外堀を埋められていく一方じゃないか」

「少なくとも内堀は自分で埋めている気がしますけどね。……まぁ、ひとまずは、この黎明という組織の情報を集めていきましょう」


 明理は相変わらずソファーの上でぶすくれているが、今のところは動くにしてももう少し情報が欲しい。ちょうど選挙期間中だし、手始めにテレビの方から様子を窺うとしようということで、稼ぎに見合わない立派なテレビの電源を入れる。


『今こそ!この閉塞した日本に革命の風を起こす時なのです!』

『このままでは、この国は中国にアメリカやその他諸々の近隣諸国の食い物にされてしまいます。今すぐ憲法を改正し、断固たる意思の元に外交を進めなければなりません!』

『この国を駄目にした要因は、物理的価値を産まないサービス産業にあまりにも偏向し過ぎてしまったこと!農林漁業、製造業などものづくりの力を徹底的に強化しなくてはなりません。同様に低俗な放送を流し続けている現在のマスメディアにも介入を……』


 事前情報は得ていたものの、改めて見ても選挙に勝とうとする気が感じられない。

 裏でやってる事も過激だが、表で言う事も負けていない気がする。

 堂々としている分だけ、ここは素直に賞賛するべきなのであろうか。


『右翼団体のさらに悪い所を集めたみたいな連中』

『日本にまた戦争をさせるつもりか』

『報道の自由は決して侵害されてはならない』 


 対するマスコミの方も容赦ない。

 彼らに対する敵意を全く隠そうとせず、ニュース番組なのにも関わらず、滅多打ちと言わんばかりに批判の言葉を浴びせている。


「……これって、私が手を下すまでもないんじゃないか?」

「俺も同感、といきたいところですけど、奴らが明理さんと同じような能力を手にしようと目論んでいると思うと……」


 浩輔の脳裏に、ウォーダが言った言葉の端々が甦る。


「明理さん、『アルク・ミラー』って言葉、本当に心当たりないんですか?」


 明理の瞼がぴくりと動き、珍しく困ったように頭をぼりぼりと掻きだしていた。


「ん~……ねぇ……な。多分」

「多分って……微妙な反応ですね。それと、変身する時にいつも『アルク・ライズ!』って叫んでるじゃないですか。言葉的に何か繋がりがありそうですけど……」

「ん~~」


 妙だ。

 この反応はどこかおかしい。いつもの彼女とは何かが異なる。

 いつもなら、自分の返答に困る時は、適当に相手を殴って話を中断させるはずなのに。


「今まであまり触れないようにしてきましたけど、そもそも明理さんの変身っていつから出来るようになったんですか?ウォーダは何か『調製』される必要があるとか言ってましたけど。まさか明理さんも……」

「…………」


 明理は腕を組み、目を瞑ったまま黙りこくる

 まるで、聞いてはいけないことであるかのように。。


「『調製』……か。『改造』じゃなくて」

「いや、そこは問題にするところじゃないでしょう。明理さんが言いたくないのなら、俺だって無理には詮索しませんけど」

「黙っててくれ。なんか、頭の隅っこで引っかかってるんだから」


 浩輔はとりあえずその場を離れて台所へと向かう。少なくとも彼女のトラウマというわけではなさそうだし、彼女が突然の空腹を訴え出す時に備え、夜食でも作ってやろうというわけだ。

 今日は米が沢山あるし、炭水化物の調味料まみれの物をと、油を大量にフライパンに入れ、大量の冷ごはんをシチュールウと混ぜたものに、小麦粉、卵、パン粉をまぶして揚げ始めた。


『もうすぐ、黎明の代表、芝浦しばうら氏の記者会見が始まります。事務所の前には多くの報道機関が詰めかけており……』


 芝浦……一時期は内閣官房長官も務めた人だ。政界の大物、ではある。

 浩輔も何度かテレビで見た事はあるが、話し方は至って大人しい。政治家、というよりは典型的な役人、といったイメージの人だ。頭頂部の危うさが気にならないくらいの年齢だし、今になってこんなはっちゃけた団体を作るなんて些か不自然と言える。


『あっ、車が到着しました。芝浦氏です!それと……傍には桐島元総理もいます!』


 急に記者の声の調子が強くなったので、明理も考えるのを止めたのか、目を開いてテレビの画面に視線が向かう。


「こいつらが黎明とやらのトップぅ?……冴えないジジイ共にしか見えねぇけどな」

「そういうもん、じゃないですか?」

「にしては、ちょっと顔がすり減り過ぎだ。悪役ってのはこう目の辺りの彫りが深くてな……」

「そんな典型的な顔……が、」


 ――いた。

 桐島元総理の後をついて行く男。顔の皺を見るかぎり年はそれなりに食っていそうだが、目つきは威圧的なまでに鋭く、背筋の伸び、動作は、機敏が自然と言わんばかり。

 会見席に男達が座る。

 右から桐島元総理、真ん中に芝浦代表、そして左には……その男。


「コイツだ!絶対コイツだ!」


 明理がその男を指差しながら、目が覚めたかのように喚き散らす。

 何がコイツなのかはもう聞くまでもない。


『報道関係の皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます』


 芝浦氏の枯れたような挨拶声を口火に、一斉にカメラのフラッシュがたかれる。


『さて、まずは、皆さまも気になっていると思いますので、先にご紹介したいと思います。この度、桐島元総理が正式に我が党、黎明に入党されることになりました』


 次々にたかれるフラッシュのなか、桐島氏が立ち上がり軽いお辞儀をする。

 ……だが、表情は至って固い。衆議院の解散を表明した時よりも。


『どうして選挙直前になって急に政党のクラ替えを行ったのですか!?』


 記者団の中から若い男の声が上がる。

 クラ替えなんて言葉をこの場で発するのは正直褒められたものではない。おそらく彼の個人的な心情も混じっているので、少し注意されてもおかしくはないのだろうが、桐島総理は淡々と返事を返す。


『……今まで私の所属していた党では、この国抱える様々な問題を打破するだけの力がない、と判断したからであります』


 月並みな台詞ながら、かつての住処になんて言い草を、とこの場の誰もが思ったであろう。

 野党になったのならともかく、今はまだ選挙も始っていないというのに。


『今の党にはそれがあると?』

『はい』


 桐島氏は即答する。

 が、その表情は固い。どことなく緊張しているようにも見える。一年も総理やってるくらいだから、カメラの前に出るなんて慣れているはずなのに。

 その他にも記者陣からの質問が次々に飛んで来るが、芝浦氏がほとんど聞き取れないような声でそれを遮る。


『つ、次に、この度、黎明の幹事長を務めることになった東郷氏を御紹介します』

『トウゴウ?』


 先程までのマスコミの勢いのエネルギーが全て疑問形へと変わる。

 左の男がゆっくりとマイクを自分の元に寄せ、部屋全体によく通る声で話し始めた。


『この度、新党・黎明の幹事長を務めさせていただく事になりました東郷烈心と申します。政治の世界に出るのは初めてではございますが、芝浦氏と桐島氏の強い推薦により、今回の選挙に出馬させていただくことになりました』


 低く、それでいてよく通る声。

 彼の挨拶から一拍遅れて、カメラのフラッシュがたかれる。

 さらに記者たちから、質問が飛んで来るが、その受け答えは全てこの東郷と名乗る男が行っていた。


「分かり易いくらいに裏で操ってそうな奴だな。早速ぶちのめしに行こうぜ」

「だーかーら、まだ下手に動かない方がいいですって!大体、大量の武器と人を用意できて、かつ先日のレールガンや明理さんのような変身能力を開発できるくらいの技術力と施設があり、さらに総理大臣や政界の人ともコネクションを持つような組織ですよ。たとえ、この東郷とかいう人の凄まじいくらいのカリスマによって何とか統率がなされているようなワンマン構造だったとしても、一晩二晩で壊滅させられるような規模じゃないことは確かなんです!こういった輩は一ヶ所を潰したとしても」

「一辺に言うな!」


 明理怒りの理不尽ミドルキックが飛んで来るが、浩輔はすかさず低反発枕2号(こちらはより快適な三千五百円)でガード。それでも体は壁まで吹っ飛んでしまう。

 最近は修羅場に巻き込まれているせいか、浩輔も防御技術に関しては自信が出て来ていた。


『東郷氏は、小選挙区では福岡県第1区での出馬予定であり……』

「ふくおかぁ?遠すぎるじゃねぇか!」


 テレビの放送によって追撃を免れることができたが、これまたややこしいことに。

 芝浦氏と桐島氏はそれぞれ地元の、神奈川、愛知で出馬予定……か。その他の黎明の候補者も次々に出て来るが、北海道から沖縄まで嫌味なくらいに全国各地に散らばっている。

 新しく出来た政党だということで、事務所もまだ仮のものであると言うことらしい。


「敵ながら上手いですねー……別にシグ・フェイス対策というわけでもないんでしょうけど、こう出られると、どこを叩きようもありません」

「ぐぬぬ……」

「しかも五十人以上も出馬させるとなると、かなりのお金がいるはずです。つまり相手は」

「もういい!本当なら私一人で全国を回ってもいいが……」

「食料の調達をどうするか、ですね」


 浩輔は台所へと向かい、こんな間に出来上がったライス(しかない)コロッケを箸で投げると、明理は口でキャッチし、そのまま丸飲み。相変わらずの喉の構造だ。


「選挙が終わるまで待つしかない……ってことか?」

「明理さんの思い当たる節ってのにもよりますけどね」

「それかー……」

「俺が一番恐れているのは、明理さんと同じ能力を持つとかいう敵ですよ。その強さたるや、近くにいて嫌と言うほどよく知ってますからね」


 明理は再び困った様な顔になる。


「『アルク・ミラー』という単語……何か頭の隅で引っかかるなら、そこから黎明の裏側について何かヒントが得られるんじゃないですか?」

「……私に思い出せと言うのか?」


 明理さらに神妙な顔つきになり、既に四個揚がっているライスコロッケにも手を出さず、ソファーに座りこむ。


「『アルク・ミラー』という言葉が分からないなら、自分が変身出来るようになったきっかけとかでも……その、本当に改造手術を受けたとかなら、あまり深く突っ込みませんけど」

「……どれがいいんだ?」

「は?」

「一体……どれが……」

「どの中からのどれなんですか」

「どんな理由だったら……格好つくと思う?」


 浩輔は彼女の意図が全く分からず、全てのライスコロッケを油から取り出して、火を止める。


「そのー……敵の組織に改造されてー……だけど正義の心に目覚めて反旗を翻すって、結構絵になるよな?」

「『なるよな?』って言われても、何で設定に拘る必要があるんですか?」

「じゃあ、何で変身できるか分かんないけど、自分の心が命ずるままに悪と戦うっていうのは?」

「……前例は結構あると思いますよ」

「じゃ、過去の記憶がなくて……だけどなぜか変身出来てー……」

「あんた記憶喪失なのかよ!」

「うん」


 既に半年近い付き合いだというのに、ここに来ての大暴露。


「何で俺に教えてくれなかったんですか……って俺も聞かなかったからなぁ……」

「いや!やっぱり今のは聞かなかった事にしてくれ!」

「……俺が小さい頃にテレビでやってた特撮ヒーローに『宿命戦士ファムアイザー』ってのあるんですけど、主人公が記憶喪失なんですよ。さらに、理由も分からないまま何故か敵が主人公を襲って来て、彼が旅先で出会う恩人たちの命を次々に奪って行くんです。全体的にすっげー暗いんですけど、あの時は子供だけでなく親も夢中になって見てて、特に最終回の視聴率は歴代特撮ヒーロー史に残る……」

「正直に話そう。実は私は半年より前の記憶がないんだ。この変身もいつの間にか出来るようになっててな」

「……どうりで一般常識からわざと外れたような非常識ばかり持っているかと、思ったら」


 今更そんな事が分かったところでどうなるわけでもない。むしろ、どうにもならなくなったと言うべきか。

 ちなみに『宿命戦士ファムアイザー』の話は本当のことだ。

 数多くのコアなファンがいる傑作である。


『これを持ちまして、新党・黎明の記者会見を終了させて頂きます』


 テレビの方は視聴率を取り戻そうと、本当にどうでもよさそうな雑学番組へと切り替わる。

 少し聞き逃してしまったが、マスコミの格好のネタだろうし、どうせ明日また再放送されるだろう、と思い浩輔はテレビを消した。


「ま、明理さんが記憶喪失であるんだったら、余計に下手に動かない方がいいってことでしょうね。動くにしてももう少し黎明の人達、特に東郷とかいう人についての情報を――」

「ぐぅ……」


 ――爆睡。

 言いたいことを包み隠さず言ったからか。

 それとも、いつの間にかコロッケを完食したからか。

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