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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
白き破壊魔 シグ・フェイス
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15.アルク・ミラー

 『アルク・ミラー』。

 ウォーダから突然発せられた単語は、浩輔の頭をますます混乱させた。

 明理がアルク・ミラー。意味が分からない。 

 歩く(アルク)……ミラー。浩輔が思いつくのはその程度だ

 しかし、ふと思い出す、

 明理の変身時の掛け声は『アルク・ライズ』だ。

 どこか通じるものがある。


「くそ……何だったんだ? 今の攻撃は……」


 明理が破損した右手を見ながら、茫然とした感じで呟く。出血はないものの、精神的なショックが大きいようだ。

 そんな様子を見ていたウォーダも、真面目な顔つきを崩さないまま銃を構えながら声を上げる。


「単なるパワードスーツだったらこのまま倒して終了といきたいところだが……てめぇがアルク・ミラーだったら話は別だ」

「何だお前はさっきから……アルク・ミラーだと? 一体何だそれは?」

「とぼけんな。……いや、仮にお前がその事を知らないとしよう。では、お前は一体誰に調製された?」

「ちょう、せい……?」


 ウォーダは尚も問いかける。


「アルク・ミラーの調製はウチの主人マスターにしか出来ないはず。そこいらの科学者がちょっとやそっとで真似出来るもんじゃねぇ」

「……けっ。知るか、そんなもん」


 明理が悪態をつくと、突如彼女の右手と首元が光り出す。そして、発光が終わると、彼女の装甲の外傷は完全に修復された。その間、わずか数秒の出来事。

 こんな状況でなければ、『なんてチートな人なんだ』で済んだであろう展開。しかしウォーダはその光景を見ても、さも当然と言った感じで微動だにしない。


「その修復能力を見てますます確信した。貴様がどうしても答えないと言うのなら、力尽くで聞き出すとしよう」


 そう言うと、一切の隙の無い動作でウォーダは電磁加速砲を発射する。

 ……だが、着弾音は聞こえない。

 明理はただ首を軽く横に逸らすだけの最小限の動作で、それをかわしていた。


「『弾筋は見切った…』…って言ったろうが!」


 明理は怒り交じりの咆哮と共に、爆音を鳴らしながら、ウォーダの方に詰め寄る。誰の目が見ても完全に本気モードだ。だが、彼女が攻撃動作に入る前に、ウォーダはすぐに姿を消す。

 今度は左後方、銃口は既に彼女を捕えている。


「ッ!!」

「チィッ!!」


 だが、明理はスケート選手の如き横回転ジャンプをしながら、そのままウォーダ目がけて、鋭い回転蹴りを繰り出す。弾の回避と同時に、奴に攻撃を仕掛けようとしたのだが、それもすんでのところでウォーダにかわされてしまう。


「くそっ!そんな図体でちょこまかと!」

「ははっ!まさかここまで手の内を見せて、卑怯だとは言わないよなぁっ!」

 

 素直に賛同したくないが、ここはウォーダの言う通りであった。

 彼の戦いはあくまでも、相手から距離を取って、銃を撃つだけ。ただそれだけのことだ。

 だが、そんな単純シンプルな戦法に、あの明理さんが翻弄されている。

 彼女の欠点は、銃のような決定的な飛び道具を持っていない事。そもそも、今まで銃に当たってもどうということはないの状況がおかしかったわけで、これが本来の対等な条件での戦いというわけなのだ。その前に「化け物」対「人外」という要素がついてしまうが。

 そして、尚も二人の命がけの鬼ごっこが続く。

 物陰に隠れながら見ている浩輔も命がけであった。ウォーダの流れ弾が何時こっちに飛んで来るか分からない。だが、下手に動いて物音を立てるとこちらが狙われる可能性がある。

 今まで言動を見る限り、ウォーダは浩輔の存在に気づいていないか、気にも留めていないといったところ。だとしたら、今その存在を誇示する行動は逆に自殺行為。

 結局、浩輔はただ傍観することしか出来ない。

 自分が何も出来ない悔しさなんてものはない。

 あんな非現実的なバトルにつき合ってられない。逃げる方法があれば、喜んでこの場から立ち去っている。


「くっ……そがぁっ!」

「ふっ……とぉっ!」


 こんな長期戦は初めてであった。そして、一秒たりとも気の抜けない戦いが続く。

 あれから互いに一発も攻撃を受けていない。拳対銃でそれだけ渡り合うという時点で、明理も相当過ぎると言いたいところだが。

 ……二人の動きが止まる。互いの距離は約十五メートル。あれだけ動き続けておいて、互いに息切れ一つ起こしていない。


「へへ、どうした。もっと撃って来いよ。さっきは油断したんであんな目にあったが、始めから避けりゃどうってことはねぇ」


 先に煽りを入れたのは明理の方だった。

 対するウォーダの方はというと、軽く鼻息をつくだけ。

 明理は相手の弾切れを狙っていた。いくら強力な銃であろうとも弾数には限りがある。先程の『干渉弾』というのも、「念のために持たされた」という言葉から、数に限りがあることは容易に想像できてしまう。

 逆に言うと通常弾なら倒されないのだ。残弾数にもよるが、そろそろ焦って来てもいいはず。


「たしかに、お前のスピードは素晴らしいよ。まがい物とは思えないくらいだな。下手すりゃオリジナルのアルク・ミラーを超えるかもしれん」

「そりゃどうも。……それと、動きながら考えていたんだが、ようやく一連の事件の流れが掴めてきた気がするぜ。ここ最近のところの誘拐事件から、あの猫娘の件、そしてお前らがアルク・ミラーとか呼ぶもの……」


 あの戦闘の中でそんな事考えている余裕あったのかと浩輔が呆れるが、言わんとすることはすぐに理解できた。

 こいつらが明理の変身機構について知っている事、そして『調製』という言葉。

 今までの材料を集めれば、背後の組織が何をしているのか、何をしようとしているのか、その輪郭が少しずつ浮かんで来る。


「あの目つきの悪いガキも同様。身体能力を重視している点でなおさらだ。お前らは誘拐した子供たちで実験し、私と同じような能力を次々に付与させるつもりだな?」


 その目的の先にあるもので、真っ先に思いつくのは軍事利用。

 むしろこうまでして、それ以外の利用を考えている方がおかしい。

 一個人としての戦闘力は、既存の特殊部隊とかで相手出来るレベルではないし、最も効力を発揮するのは隠密戦闘……いつも明理がやっているようなことだ。

 彼女のような力を持った兵士が何人もいると思うと考えるだけで恐ろしい。


「戦闘中だというのに、随分と余裕だったんだな」

「へっ、飼い犬に手こずっているようじゃ後が思いやられるからな」


 明理が煽る以前に、ウォーダは明らかに不機嫌そうだ。その顔からは笑みが消えている。

 余裕がないのではなく、相手に舐められたのが勘に障ったか。


「そうかい。だが、そんな台詞は……!」

「今からお前を倒せば問題ない!」


 相手の台詞を遮り、明理が再度駆け出す。ウォーダも銃を構えるが、僅かに遅い。

 弾を発射せずにすぐさま、近くのビルの窓際(しかも三階)まで飛び乗り、狙いを定め直……させない。

 銃が展開する前に既に、明理は眼前まで接近していた。


「くっ! こいつっ!?」


 またその場を凄まじい跳躍力で離れて地面に着地するが、その着地音は辺りに重なるように響き渡る。さらに、今度は相手に銃の狙いをつけさせる動作すらも与えない。


「攻撃動作を捨ててかっ!?」


 ウォーダは右に動こうとするが、既にその先は明理が待ち構えていた。瞬時に後ろに跳躍し、距離を取ろうとするが、彼女はその後ろを行く。


「こちらの動きに合わせる事だけに!」


 先程の互いに攻撃し合って、避け合うといった内容とは違う。明理は相手に攻撃をさせる隙を完全に潰している。その分自分も攻撃できないが。

 それでも、拳と銃。攻撃の出はどっちが早いのか、それは明白。た

 だ動いてるだけのように見えるが、今までとは異なり、明理の方が一方的に相手にプレッシャーをかけ続けている状態だ。


「どうした、撃てるものなら撃ってみろ!」

「ならば、そうさせてもらう」


 先に動いたのはウォーダだった。電磁加速砲の発射音と着弾音が聞こえるが、彼が狙ったのはまったく明後日の方向。当たったのも、浩輔の場所から少し離れた建物のようだ。そして、先程と同じく瓦礫の崩れる音が流れて来ると同時に、ウォーダはその方向へ一直線へ飛び込む。


「撹乱のつもりか!?」


 相手を狙う動作が無かったため、ウォーダの動きが相手に追いつく事はない。再び電磁加速砲の発射音、狙いは……浩輔と花田のいる建物の真上。

 地面が揺れ、コンビニの陳列棚から商品が何個か脚に落ちて来る。浩輔は歯を食いしばって必死に、その場から動こうとする衝動と口の中から今にも漏れそうな悲鳴を押さえこんだ。

 さらには今度は眼前にばらばらと堕ちて来る天井の瓦礫の数々。落下の衝撃で割れた物含め、視界は一瞬にして粉塵まみれになった。


「甘い!貴様が目隠ししようと、動きは追える!」


 塞がった視界の中から明理の声が聞こえて来る。尚も電磁加速砲の着弾音が近くで響いてるとなると、ウォーダはここら一帯は破壊し尽くすつもりだ。

 一般人とか残ってたらとか、先程のこのコンビニの店員達はどうなるのか、余計な事考えるとキリがない。

 ……粉塵が少しずつ晴れていき、僅かながら視界の隙間が出来る。先に目に飛び込んできたのは……ウォーダ。その軌跡には粉塵が舞っていた。電磁加速砲の銃身は展開しており、空中でそのまま真後ろに狙いを定めている。

 

「……かかったな」

「ッ!!」


 僅かに遅れて明理が飛び上がって来るが、あの状態は粉塵による視界が開けた瞬間だ。ウォーダは……奴はあの状態で発射態勢に入っている。つまりは、超至近距離。


「終わり、だっ!」


 強烈な火花、そして激烈な爆音。視覚と聴覚を潰された上に、あまりにも一瞬の出来事過ぎて何が起こったのか分からない。結果は先程の出来事からしか、考えられない。

 そして、吹っ飛ばされながらも、地面にかろうじて足で着地する人影……ウォーダ。

 浩輔はまさかと思ったが、彼の両手が手ぶらだった事で、その悪い予感はかき消された。


「くぅっ!? なんてヤツだっ!?」


 驚嘆の声を上げる彼の台詞を聞き、すぐさま視界が黒煙の方へと走る。

 その次第に薄れて行く煙の中で、直立した人影があった。


「追いかけっこは誰だろうと飽きる。追う方も、追われる方もな」


 黒煙の中から表れた明理の左手には、ぐにゃりとひしゃげた、分厚い鉄片が握られていた。彼女はそれを片膝をついたウォーダの前に投げ落とす。


「一応簡単に説明しといてやろうか。私の左腕から発せられる電撃で、ちょいとソイツの磁場を狂わせてやった。何万ボルトくらい出てるのかは計った事無いけどよ」


 明理はお返しと言わんばかりにネタばらしをする。

 銃の破壊具合から『ちょいと』のレベルでは無い気もするが、何はともあれ彼女は始めからあの瞬間を待っていたという事だ。弾筋を見切られた以上、遠くからの攻撃は決定打にならない。だから、相手は至近距離での銃撃を狙って来る。

 あの状況から推測すると、展開した銃身に左腕を突っ込んだろう。


「あーあー、折角の試作兵器にひでぇことしやがって」


 ウォーダは参ったような声を出しながらも、その声にはまだ余裕が残っていた。

 そして、両手でズボンについた埃を払いだす始末。


「さて、どうする?御自慢の武器も破壊されて、これからは拳でやり合うか?」

「お前がアルク・ミラーと分かってて、徒手空拳でやり合う気はねぇよ。今日のところはお開きだな」

「貴様にそんな権限が――」


 明理がさらに襲いかかろうとした瞬間、周囲一帯に黒い煙が流れ込む。


「逃がすかぁっ!」

「はっはっは、じゃあまた機会があったらやり合おうや。あ、それと、そこに隠れているにーちゃんはこの煙吸わない方がいいぜ。体によくねーからよ」


 ――バレテタ。

 でもその忠告はありがたいとばかりに、浩輔は花田を担いでコンビニのトイレの中に避難する。


「野郎!どこまでこの煙続いてんだ!……あっ。これって……メットにこびり付いてんのか!?ちくしょー!」


 外から明理の怒号が聞こえて来る。

 話を聞く感じだと、本当に体に悪そうだ。

 浩輔はようやくとばかりに大きな息をつき、しばらくは大人しくすることにした。

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