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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
白き破壊魔 シグ・フェイス
13/112

12.狙われし者

「ぐぅぉあ~! 眠てぇ~!」


 現在の時刻、午後四時半。

 コンビニのスタッフルームに背伸びをしながら一人叫ぶ。

 二十時間労働の後の恒例の儀式だ。

 どんな非日常に遭遇しようとも、日常をこなさなければ生きてはゆけぬ。そして、仕事が終わった後も気は抜けない。常日頃からドタキャンに備えなければならない。


「うす」

「おーっす」


 だが、この日は杞憂で終わってくれたようだ。花田は無事に来てくれた。

 相変わらず、顔に新しい傷を作ってきてはいるが。


「篠田さん、今日は何時間だったんですか?」

「二十時間だ。フルタイム」

「……相変わらずひどいっすね。よく生きてられるなって気がしますよ」

「人って意外と死なないもんだぜ」

「社会って怖いっすね」

「俺の様にはなるなよ。若いうちは真っ当に生きた方がいい」


 このように、会話自体は結構まともなのである。

 花田はどうも見た目の第一印象で損をしている感じが強い。低い声に、短髪に、細く鋭い目つきに、薄い眉に、そして顔の傷。分かり易いくらいの不良だ。

 高校通いながらコンビニのバイトしている時点で、割と真面目な方だと思うが。


「あ、それと篠田さん」

「どうした」

「八瀬さんは大丈夫ですか? 俺、この前のバイトで初めて聞いたもんだから……」

「……あぁ、特に乱暴とか何かされたってわけじゃないらしい。その前に正義のヒーローが助けに来てくれたみたいだからな。ただ、今は警察とマスコミが連日張り込んでるから、寝不足気味だってさ」


 らしい、というか浩輔は思いっきり当事者だ。

 あの時の謎の男の声に従い、先日の騒ぎには一切無関係の振りを貫き通している。

 あの日から既に十日。明理が軽く見張っててくれているとはいえ、浩輔や真織が襲われるような気配は全くと言っていいほどない。

 逆に、真織一人に取り調べの目を押しつけてしまったようで、申し訳なくすら感じるほどだ。

 実際、彼女もまるっきり無事かと言うとそうでもない。あの出来事は一般人にとっては刺激が強すぎた。当時のショックと今後の不安のせいで、かなり精神的に参っているようだった。

 勿論バイトなんて来れるはずもない。未だに病院のベッドの上で療養中だ。


「八瀬さんを攫った誘拐犯……結局何者だったんですかね?八瀬さんの話では、みんなシグ・フェイスに殺されてしまったようだし」

「え?あ、ああ、そうだな。つーか、八瀬さんがそんな証言をしたのは初耳だけど……」

「俺も話を聞いた翌日、学校の図書館で前の新聞を漁ったんですよ」


 どうやら、また話に尾ひれがついてしまったようだ。

 今回の一件で、明理の方も怒り心頭だ。

 浩輔達を襲撃したあの謎の男のこともそうだが、メディアや警察が後から後から捏造の情報を繰り出してくるのである。

 真織の証言だってそうだ。少なくとも彼女は明理が助けに来なかったら殺されていただろうし、彼女自身もそれを理解して、浩輔、ひいては明理に協力的である。


「たしかに。何だか最近はニュースでも、シグ・フェイスが悪者っぽく言われてるね」

「俺も犯人を殺すのはやり過ぎだと思うんですけど……でも、それ以前に警察が全く機能していなかったって話じゃないっすか。真昼間の住宅街の真ん中なのに、何時間経っても現れなかったって」


 花田もそれなりに調べてはいるようだった。

 彼の言う通り、警察の動きの鈍さについてはメディアは総スルーときている。

 当時、現場に集まっていた人達が証言してくれてはいるようだが、それも全て警察に否定的な人間の戯言として処理されている。現場にいなかった人には分からない話だ。


「何か変ですよね、今の世の中」

「今に始まった事じゃないけどな」

「……嫌じゃないんですか?」

「嫌じゃないと言えば嘘になるな。正直諦めているってのもある。そう思わなきゃ、やってられないさ」

「そうっすか……」


 花田はそれ以上何も言わずに、コンビニの制服に着替え、持ち場に向かった。


(高校生にはちょっと毒だったかな。反面教師にでもしてくれれば幸いだけど)


 浩輔は眠いのもあって、上手い返しが思いつかずにいた。

 故に、本日もまっすぐ帰宅。


「おう」

「……」


 店を出て三分で明理と遭遇。

 それも走りながら。

 相変わらず、自転車のスピードに涼しい顔をして並んで来る。


「……何か収穫でもあったんですか?」

「探してた奴、見つかったぜ」

「で、そうだったんですか?」

「殺されてたよ。自殺っぽく見せてたけど」


 謎の男の襲撃の翌日から、明理は本気モードに入っていた。

 とりあえず、真織の家に一番近い交番の警察官を締めあげて、当時の事情を吐かせていた。

 結果は『その時、別の事件でそちらの現場に向かっていた』とのこと。強盗誘拐事件の知らせは全く入っていなかったらしい。

 その後、指をつめるとか、田舎に残した家族や友人がどうなってもいいのか的な脅しを相手が失禁するまでかけまくったらしいが、それ以上は悲痛な叫びと胃液しか出なかったとのこと。

 それから、ここ一週間は警察関係を片っ端から当たっていたのだ。二日前の時点で、警視総監の自宅に押し入って、その辺で拾ったチンピラを八人ばかり(もちろんボコし済)放置して、脅迫文章も添えて来たらしいが、それで返って来た答えが、「百十番を受ける通信指令室の職員が上に報告していなかった」というもの。

 で、今度はそいつの所に行った矢先の出来事らしい。


「これでまた捜査は振り出しに戻ったってことですか……」

「んなわけあるか、どう見ても警察がグルなのは間違いないんだよ。問題はどいつを潰さなきゃならないかってことだ」

「これまでみたいに、漠然とした考えで当たっていくのはまずいってことですか?」

「下手に動くと、私の評判が落ちる一方なんだよ」


 浩輔の顔が落ちる。

 動きやすさを考えたら、重要な問題ではあるが。


「で、分かった事がもう一つ」

「今度は何ですか?」

「青少年の誘拐事件、まだ続いているぜ」

「懲りないですね、向こうも。誰だか知りませんけど」

「しかも今度は手口が違う。前は人気の少ない道を歩いている、どちらかと言うと悪ガキがメインだったが、今度は対象が違うみたいだ。割と真面目そうな奴とか、二十代の大人も失踪しているみたいだしな」


 明理も、捜査自体は至って真面目にやっているようだ。


「で、だ」


 ぐい、と明理が浩輔に顔を近づけて来る。

 自転車に乗っているので、倒れる危険性があるのに、それを完全に無視して。


「ついさっきお前の働いているコンビニに入って行った、あの目つきの悪いガキ……狙われてたぞ。すんでのところで、私がボコしてやったが」


 思わず急ブレーキ。

 それまで自転車と同じ速度でついて来ていた明理の身体が三メートル先前に行く。


「まさか……花田くんまで!?ていうか、何で!?」

「そんなの知るかよ。しっかし、先日の娘といい、お前も妙に面倒事を引き寄せるな」

「俺のせいじゃない!明理さんが大概だからでしょ!」

「まぁまぁ、それはともかくとしてだな、いい餌が出来たわけだ」


 上手くはぐらかされてしまい、浩輔の不機嫌な表情が露わになる。

 自分から厄介事探している奴だけには言われたくなかったのだ。


「……今度は、花田くんを囮にするつもりですか?」

「ああ、適当にその辺を歩かせといて、連れ去られたところを追跡して、敵の本拠地をボッ!っと。お前とも知り合いみたいだし、見失った時のために、事前説明と連絡手段をつけてくれれば助かる」


 連続誘拐事件に巨大なバックがいると知ってしまった以上、未然に防ぐようなやり方ではだめだと言う事だ。根元を断たなければ。

 しかし、『ボッ!』の内容の方は、浩輔もあまり深く突っ込む気にはなれない。


「よし、早速今夜から決行するぞ。とっととそいつに連絡を取れ」

「仕事中だから無理です。花田くんは真面目にやる方だし」

「そいつのシフトは?」

「夜の十時半までですよ」

「じゃあ、その時に備えて今から腹ごしらえを」

「いや、だから俺は一旦寝させて」


 今の浩輔の脳内は食欲は二の次。脳内では睡眠欲が覇を唱えているのだ。


「三百円やるから、ポテチを三色うすしお・コンソメ・のりしお買って食べてください。常人だったら、二袋目くらいで食欲失せるから」

「足りねぇよ、しあわせバターと出汁醤油が入ってないぞ。後メーカーごとの……」


 結局不毛な議論は終わらず、安さが売りのイタリアンチェーンにて、明理は爆食い、浩輔は爆睡することになった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ――その日の晩。

 浩輔は九時半に叩き起こされ、店を出た先のコンビニで、明理はおやつ代わりにと、カップめん・ポテチ・コーラの不健康食三種の神器で精神を整えた。

 しかも、電話に出なかった時のことを考えてとか言われ、職場であるコンビニまで連行される始末。そして十時半きっかりに現地に到着。

 そして、待つ事十分。


「……出て来ないっすね」

「電話だ電話。とっととかけろ」

「……電源が切れてるみたいです」


 そこへタイミングよく、軽い欠伸をしながらコンビニの店長が外へ出て来る。


「あ、篠田くん。今日の夜からシフトだっけ?」

「断じて違います。それよりも花田くんは?もう時間はとっくに過ぎてますけど」

「ああ、花田くんなら十時過ぎには早退したよ。何か急用が出来たとかで。えらく何度も電話が鳴ってたみたいだしね。あの子が怒ってる姿は初めて見た気がするよ」


 最悪であった。

 十時過ぎに出たってことは、今の待ち時間を合わせて既にもう四十分が経過している。


『きゃぁぁぁーーーーっ!!』


 またもや最悪。

 何故こんな時に女性の悲鳴が。

 しかし、ここは明理に任せようと浩輔は都会人張りに明後日の方へと顔を向ける。


「何してんだ、お前も来い」

「足手まといになるだけっすよ!?」

「もしあのガキも関わっているなら、説明役もいるんだよ!」


 明理は自転車のハンドルを掴み、浩輔ごと前方にぶん投げる。

 店長の素っ頓狂な声が後ろから聞こえたような気がするが、浩輔は自転車のバランスを取るのに必死で構ってられない。どうせ寝不足だろうし、後で適当にごまかせる。


「こっちかっ!」


 明理の聴覚を頼りに、浩輔は彼女の二十メートルほど後をつけながら現場に向かう。

 行き付く先は、例の如く駅前の繁華街の路地裏。

 少し進んだところで、急に明理が足を止めて、しゃがみこむ。


「どうしたんですか?」

「見ろよ、血痕だ。しかも、かなり新しいぜ」


 この暗い路地の中で、地面に落ちている血痕なんて、明理でないと絶対に分からないだろう。

 だが、これでまた、状況が悪い方向に向かっている事が明らかに。


「とりあえず、この後に沿って辿ってみるか」

「俺は全く見えないんで頼みますよ」


 明理は相変わらず自重しない速さで血痕を辿って行く。おまけにその血液の主は、途中でかなり細い路地に入り込んだらしく、浩輔も自転車を降りざるを得ない。

 周囲は段々と暗く、狭くなっていく。

 加えて、室外機の音がうるさく鳴り響き、自分達の足音すらも聞こえなくなっていた。


「……ッ!」


 明理が再び足を止める。さらに今度は右手で『待て』のポーズまで送っている。

 浩輔も思わず口を手で押さえつけ、息を殺す。

 周囲は再度広くなり、横幅4メートル程度。両隣には無骨なコンクリート造りのビルの壁。正面に進むとまともな灯りのある通りに出られるようだ。

 だが、そこで明理は挑発のこもった声を上げる。


「おい、そこにいるのは分かっているんだぜ」


 その声の先には……ごみステーション。それも中が見えない大型のタイプ。かなり年期が入っており、離れていても臭いが漂って来るような気がする。

 しかし身を隠すには絶好の代物だ。


「出て来ないなら無理やり開けるぞー」


 明理はかろうじて見える『燃えないごみ』の開閉口に手を掛ける。

 錆びた金属の金切り音が上がった。

 ――その瞬間。

 

「おおぉぉぉおおおぉぉーーーっ!!」


 狭いビルの間に轟声が響き渡る。それも上から。

 浩輔が気づいた時には、その人影は鈍い金属同士の衝突音と共に地面に飛び下りていた。

 明理は……回避済!余裕綽々!


「うほっ、あの高さからそんな金属棒で!?マジで殺す気か?」

「くっ……そっ!」


 どこからかは分からないが、上から飛び下りて来た人物は長さ1メートルくらいの得物を握っていた。まさか回避されるとは予想だにしていなかったのか、はたまた捨て身の攻撃だったのか、足元がおぼつかない。着地のショックがあるようだ。


「まぁ、ともかく事情を詳しく……」

「うるせぇっ! もうその手には引っ掛からねぇぞ!」


 その人物はどうやらかなり激昂しているようだ。

 少し低いが、まだ少年の声。

 ……間違いなく花田だ。

 浩輔もこんなに怒ってる声を聞いたこと無いから、戸惑ってしまった。


「えーと、まぁ落ち着け。おい、コースケ!説明!出番だ!」

「は、はぃ!」

「死ねぇぇぇーーーっ!」


 花田かなり興奮しており、浩輔の存在に気づいておらず、声を掛けようとしたのと同時に、金属棒を振り上げ明理に襲い掛る。


「人の話を、聞けっ……つってんだよ!」


 変身する、しないに関わらず、明理の戦闘スタイルは基本的に接近戦インファイト

 距離を置こうとしても縮地法の如き速さで、懐に飛び込んで行くのだ。

 花田が金属棒を振りあげようとも、振りおろす事を許さない。

 あっという間に、彼の鳩尾付近に掌底を一発。

 体格のいい花田の身体が、子供のように吹っ飛び、後ろの壁に叩きつけられる。


「む?浅い。服に何か仕込んでたのか?」


 珍しいことに明理が、驚いたように呟く。

 花田もダメージはあるようだが、金属棒を杖代わりに何とか膝を落とさずにいる。


「くぅ……くそ……!」

「ちゃんと受け身も取っていやがる。中々やるぜ、こいつ」

「そ、そうっすね。何であの攻撃喰らって生きてられんだ……じゃなかった。落ち着け、花田くん」

「し、篠田さん? 何でこんなところに?」

「こっちの台詞だっつーの」


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