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錬装機兵アルク・ミラー  作者: 四次元
そして陽はまた昇る
112/112

序幕その2

 時は2xxx年ッ!

 世界は核の炎に包まれたッ!

 どこからともなく発射された核ミサイルが地上を焼き付くし、辛うじて生き残った者達も突如として表れた謎のロボット兵器に次々と喰らわれていったッ!

 しかし、人類たちは死に絶えてはいなかった!

 そう、ここからが!

 ここから人類の反撃が始まるのだ!




   ◇ ◇ ◇ ◇




「……うん、うん。書き出しはこんな感じでいいかな」


 あらゆる家具が散乱した薄暗い室内の中に、力強くタイプライターを叩く音が響き渡る。

 どこかで聞いたことのあるような文章が打ち付けられた紙が取り出されると、黄ばんだファイリングケースへ入れられて、その近くにあった、これまた年代物の革製のバッグへと投げ込まれる。

 

(あね)さん、何やってんですかい?」


 部屋の外から、酷く掠れた野郎の声が入ってくる。


「人間の文明ならではの遊びって奴さ」


 女は頭を屈めて部屋の入口を抜けると、鼻歌交じりの上機嫌な様子で、その建物を後にした。

 外の世界は薄く濁った空の下に、一面に瓦礫の山、いや、瓦礫の大平原が広がっている。

 建物という建物が等しく崩れ落ち、かろうじて土台が保たれているものも、風化が進みに進んで、数十分おきにどこかで倒壊の音が聞こえてくる。ここはそんな世界だ。


「そっちはどうだ?」

「状態のいい桃の缶詰を見つけたぜ!賞味期限もまだ二十年しか過ぎてない!」

「こっちには家庭菜園の跡があったぞ。草ボーボーだったけど、食えそうな野菜の種が取れた!」

「他に武器とかねーのかよ?」

「錆びた包丁くらいだぜ。こんなもんどうしようもねーだろ」

「バカ、何のために兄貴がいると思ってるんだ」


 廃墟のあちこちから男達の戦果が沸き上がるなか、その間を一人の女が練り歩いていた。

 男達を見下ろすような長身に日本人離れしたすらりと長い脚。廃墟の街を更に暗く染めるような空っ風ですら、彼女の栗色のセミロングの髪を棚引かせるセットにしかならない。


「野郎ども、残り時間に気をつけろよ!帰るまでが探索だからなっ!」


 女の力強い声に対し、何倍もの圧で返事が響き渡る。

 この残響は気合を入れるためだけではなく、撤退のタイミングを計るためのものでもあった。

 夕焼けの時間は非常に短く、おまけに今や月や星の光は無いに等しいため、日が沈んだらまともに出歩くことが出来ないからだ。ライトや松明など、資源を使うのはもってのほか。

 資源回収を終えた男達は町はずれの山へと戻って行き、鬱蒼とした森の中に敷かれたテントへと体を押し込んで行く。

 無論、テントは入口に過ぎない。本命の秘密基地はその地下へと続いている。


「今日も一日、お疲れっしたーっ!」

「したーっ!」


 蒸留水の入った杯を交わし、堅いパンを齧りながら、男達はその日の仕事を互いに労う。

 その一方で女たちは、せっせと食事の支度や戦利品の整理にいそしんでいる。

 人類の文明レベルが落ちてしまった結果、定番と化した光景だ。

 とはいえ、とある男女の登場により、その役割分担の垣根は徐々に揺らぐようになっていた。


「お姉さま!お疲れ様です!」

「お姉さま!はい、お水です!」

「お姉さま!おかわりはいりますか!?」

「お姉さま!肩をお揉みしますね!」


 本来は女子しか存在しえない空間でのみ展開されるはずの百合の園。

 ここにいる女性の半数が、彼女の接待に力を尽くしている。男共はいくら嘆こうとも、力では絶対に叶わないので、心の中で布切れを噛み締めるしかないので。

 ある意味でのサークルクラッシャー。


「――ところで、あいつはどうしてる?」


 脚を伸ばして座り、全身マッサージを受けながら女は言った。


「ずっと、奥に籠って武器を作ってますよ」

「折角いい男なのにもったいないですよねー」

「むしろ、なんか男達の方に人気ありますよねー」

「えー、アッチ系?」


 周りの取り巻きが勝手な妄想を繰り広げているなか、女はコップの水を飲み干すと、面倒臭そうに立ち上がり、部屋の角にある簾の方へと向かっていく。

 簾の前には大量の重火器類が鎮座しており、二人の男が整頓と細かい手入れを行っていた。その男達も女を見るやいなや、作業の手を止めて頭を下げる。


「姉さん、お疲れ様です!」

「私の疲れは取れた。こっちは?」

「絶賛作業中です!長射程の兵器がもっと欲しいとか何とかで!」

「流石にアルク・ミラーには積めないんらしいんですよねぇ……」


 アルク・ミラーと呼ばれる存在は、彼女の他に既に十人ほど創り出している。彼女に憧れを抱いた男達たっての希望であった。だが、対人相手なら無類の強さを誇っても、錬装機動兵(アルク・アムズ)相手にはまだ分が悪い。

 歩兵も必要ではあるが、この人類側が圧倒的に追い詰めれた状況をひっくり返すには、やはり先手が取れ、かつ味方の損害を出さないようにするための、大型兵器が必要になってくる。

 その第一弾が、旧時代の兵器である自走砲や機関銃に干渉弾頭を装備し、人間達が保有している武器を相手に通用するレベルまで引き上げること。そして、威力が不足している分は、残っている資料で強化すること。

 今の時代に兵器工場なんて立派な設備はない。だから、その作業自体は酷くアナログな方法で行われていた。


「……よし、ここで二十三番のパーツを二十ニ番に接続」

「んっ……っしょ!」

「おい倒れる倒れる!」

「部位固定のパーツをもう一つ追加するか。えーと……」


 地下基地の中で最も明るい部屋の中で、十人ほどの男たちが巨大な銃身を前に悪戦苦闘を繰り広げている。

 その中で一際目を引くのが、男達への指示を行う、金髪で浅黒い肌の青年の姿だ。

 兵器の設計図が書かれたファイルを、紅い宝石をこしらえた腕輪をつけた右手でなぞり、大量に積まれた瓦礫の山から次々と新しい金属の部品を作り出している。


「この土台を前面に付けて。持ち運びは少し悪くなるけど」

「よっ……こらっと!」

「おー立った立った!」

「まだ仮のものだからもう少し改良しないと……」


 男達の歓声をよそに、金髪の青年は肩を落として、その場に腰を下ろす。

 その額には汗の水滴がびっしりと張り付いていた。


「よう、ミューア。ようやく休憩か?」

「あぁ、ルクシィ、こっちはもう少しで出来上がるよ」

「明理だっつてんだろ」


 ごつん、と鈍い音と共にミューアと呼ばれた青年の頭が三十センチほど下がる。


「痛った……!な、殴ることないじゃないかっ!?」

「いつまでたっても人の名前覚えねーからだ」

「いや、あの、僕主人(マスター)……」

「あぁん!?」

「何でもないです……」


 何も言い返せずにうなだれる顔を、周囲の男たちの同情の手と慰めの眼差しが救い上げる。


「頑張れよ……兄貴。陰ながら応援しているぜ」

「いつかあの姉さんをもモノにしてみせろよ!」

「いや、モノとかそういうのじゃなくて彼女はそもそも……」


 青年はどうにも慣れないといった様子で男たちの手をほどいた。


「一体どうしてこんなことに……」


 かれこれ三ヶ月前。

 今は亡き友人であり家族である少女に似せて作った人造人間(ホムンクルス)を、残された賢者の石の力を使って過去に送り出そうと何度も試行錯誤を繰り返していた時、突如『彼女』は目覚めた。

 使命以外に気が取られることがないよう、まともな人格など入れていないはずなのに、急に人が変わったような口調でしゃべりだし、今のこの世界の状況を色々と尋ねた挙句、締めに力強くこう言った。


「――しけたツラしてんじゃねぇ。こっから反撃開始といくぞ」


 そして、当時の年老いた男の体にキツいボディブローを見舞ったのだ。


「何だよその腑抜けた体は。お前も人造人間(ホムンクルス)なら、自分の体くらいもっとマシにしとけよ。ユミルの奴に出来たんなら、お前にも出来んだろ」


 と、いう事で、本来作り出したはずの存在『ルクシィ』ではなく、自らを『明理』と称する彼女の、絶対的な確信に満ちた眼差しの監視のもと、出来ない、自信がない、失敗の可能性がある、という逃げ道を完全に断たれた上で、男は自らの体を新たに作り出し、そこに魂を移した。

 肉体は体力の全盛期である年齢に、そして見た目も舐められないようにしろと言われたが、あまり元の体から形を変えてしまうと魂が乗らないという意見を述べると、なら肌の色だけでも変えろと提案され、今のような浅黒い肌に。

 こういうわけで見た目は随分と男らしくなったが、性格はすぐに変えられるわけではない。この3ヶ月、文字通り完全に彼女の尻に敷かれていた。


「おい、何ぼーっとしてんだよ。お前に用があって来たんだぞ」

「あっ!?ああ……すまない、アカリ」

「二人で話がしたい。お前たちは休憩だ。ちょっと外してくれ」

「はい姉さん!」

「ごゆっくり!」 


 男達はそそくさと流れるように部屋の外へと飛び出していく。

 その一人一人がミューアに向かって『ファイト』の眼差しを送りながら。


「……どーも、殺るか殺られるかって時だってのに今一つな奴らだな。これならユージやチビッ子の方がまだ殺気に満ちてたぞ」

「ユージ……チビッ子……あぁ、イズハのことかい?」

「そんな名前だったか?まぁいいや。その記憶はあるのか。つくづく妙なところで並行(パラレル)してるんだな」


 明理はたった今作られた大型の対物ライフル銃に近づき、その仕上がりを眺める。


「ん~、威力はともかく、動かして使うのには手間だな。チビッ子が使ってた電磁加速砲(レールガン)みたいなのがあればいいんだが……流石に設計図は残っていなかったか」

「設計図があったとしても、あれは先生の知識と発想あってのものだし……」

「いーや、お前が知ってるユミルの凄さなら、お前は再現できるはずだ」

「それはいくらなんでも買いかぶりすぎだよ」

「お前が錬金術のオリジナルを受け継いでいるんだ。これからユミルの意志を捻じ曲げて好き放題やってる奴らと戦うんだからよ。もっと胸張って行け」


 その言葉に、ミューアの顔が強張る。


「君が『見て聞いた』という先生の意志……か……」

「ああ、少なくとも、アイツはこんな世界なんぞ望んじゃいねーさ。たとえ、それが過失によるものだったとしても、自分の子供がそれを正してくれるんなら本望だろう」

「…………」


 自らの主人を『アイツ』呼ばわりし、あまつさえ、ただの創り物に過ぎない自分を彼女の子供呼ばわりする。これまでのミューアだったら、いくらなんでも憤るところだ。

 ――だが。

 目の前の『明理』は、『創り物の創り物』に過ぎないはずの存在は、間違いなく自分よりもユミルの事を信じている。

 

「……そうだね。先生は、錬金術を使って一方的に支配する世界なんか望んじゃいない。誰かが、その意思を歪めたんだ」

「そーだっつってんだろ。だったら、徹底的にぶちのめしてやんねーとな。……だから、もう少しあの気の抜けたニンゲン共のケツを叩いてやれよ」


 この世界の人間達については同情する部分もある。

 なにしろ、もう何十年と謎の支配者と、錬装機動兵(アルク・アムズ)による虐殺から逃げ延びてきたのだ。その虐殺も、『駆逐』ではなく『間引き』のように敢えて手を抜かれているのだから、精神的な服従を迫られているようなものだ。

 そして二ヶ月前、明理とミューアが研究を重ねたうえで、初めて人間達の前で錬装機動兵(アルク・アムズ)を撃破して見せた時――。

 人類は、その希望にすがる者と恐れる者の真っ二つに分かれた。

 その希望にすがる方を従えて、二人は人間側のレジスタンスの実質的なリーダーとなったわけだ。

 人造人間が人間を導くというのも変な話ではある。一応正体は伏せてはいるが。


「……そろそろ、次の攻撃が来るぞ。準備はしっかりとな」

「どうしてそう言えるんだい?」

「勘だ」


 明理が話は以上だと部屋に出ると、再びレジスタンスの女達に囲まれるが、それを軽く払いのけて一人で基地の外へと向かって行く。夜の屋外は非常に危険ではあるが、彼女なら大丈夫だろうと、止めるものはいなかった。


「……ほんっと、馬鹿みてーに暗い世界だな……」


 基地の外の鬱蒼とした森を抜けると、瓦礫の平野を一望できる開けた崖に出る。

 明理はその場にしゃがみ込むと、服のポケットからピンポン玉程度の小さな石を取り出した。

 ――賢者の石。

 しかし、日中なら紅い光を放つ石も、この暗がりでは等しくただの黒い塊だ。


「よう。どーせ私がいくら語りかけたところで、返事はねーだろーけどな。なら黙って聞いとけ」


 明理は親指と人差し指で石をつまみ、目の前の光景に掲げるようにして語りかけた。


「なぁ、これがお前が望んだ世界か?お前の言うところの『駒』はしっかり作られているか?……こんな機械が一方的に人を蹂躙する世界でよ。お前が言うところの発想が小さいやつの支配じゃないのか?」


 明理は不敵に笑いながら続ける。


「ま、お前も基本的には人の世に従うしかないわけだから、大した干渉なんて出来るはずもないんだろうけどな」


 賢者の石は何も答えない。


「……もうしばらくの間は、お前を利用する。この世界の支配者がどんな奴かは知らねーが、こんな下らない事に力を使ってるのなら、ユミルの意志を継ぐという名目でぶっ潰してやるさ」


 賢者の石は何も答えない。


「その後は、お前を消す方法をミューアと一緒に創り出すからな。……なーに、一度やれたんだから、もう一度出来ないはずはない。私はやると言ったらやるぞ」


 賢者の石は何も答えない。

 答えようはずもない。


「もし邪魔をするのなら、相手になってやる」


 明理はそう言うと共に、賢者の石を右手で強く握りしめ、暗い世界に向かって手を突き出す。

 冷え切った空気の中で、じわり、と微かな熱がこもっていくのが感じられた。





   ◇ ◇ ◇ ◇




 翌朝は早朝六時から厳戒態勢となった。

 基地の中は男たちの怒号が飛び交い、寝ぼけた明理は男二人と女六人によって叩き起こされた。その最中で怪我人が出たことは言うまでもない。


「……あーもう、久々に熟睡してたってのに、せっかちな奴らだな」

「君がもうすぐ敵が来るって言ったんじゃないかっ!」

「おっ、そーいや、当たったな」


 目にクマを作りながらずっこけるミューアを見て、明理は寝ぐせを整えながら、からからと笑う。

 

「十キロ先から、錬装機動兵が急接近!数は十三、十四……十五っ!」

「おーおー、相手さんも本腰入れて来やがったな」


 錬装機動兵は三機で一チームを作っており、これまでそれ以上の数を同時に相手にしたことはない。

 戦闘班の男達の表情はもれなく真っ青になっている。


「昨日の対物ライフルはどうなった?」

「仕上げは問題ないけど、ここから撃ったら、基地の場所も見つかってしまう」

「んじゃ、私に寄越せ。何かにぶつけなかったら、ぶん回しても大丈夫だよな!」


 そんな滅茶苦茶な、と周りが驚くが、ミューアは一人要領を得たように頷く。


「分かった。銃は五丁、弾も十分にあるけど、補給はどうする?」

「アルク・ミラーの奴がその都度替えを持って来い。えっと、お前とお前だっけ?」


 若い男二人が、うえ、と顔を引きつらせる。

 彼らはミューアに調製を施してもらったものの、ほとんど実戦経験はない。ましてや、錬装機動兵相手は当然のこと。


「私は先に外に出るっ!お前らはとっとと銃と弾を運んで来いっ!」


 明理は返事も聞かずに基地、ひいてはテントの外に飛び出し、そのまま昨晩と同じく開けた場所に走った。

 そして、眼下の光景を見た明理は瞬時に身を屈める。

 報告通り、三機一チームの錬装機動兵が五組。五メートルもの巨体が砂埃を上げながら、波打つような動きで周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら接近してきていた。


「動きが明らかにアグレッシブすぎる……。奴らこの辺りをローラーにかける気だな……」


 すると、後ろから男達の息使いが聞こえてくる。


「姉さん!持ってきましたぁ!」

「お、重い……!」


 男たちが四人がかりで抱えてきた対物ライフルは、昨日見たものよりも明らかに大型化していた。

 取り回しよりも、威力と頑丈さを突き詰めた感じだ。


「うし、全部寄越せ。私の戦い方をしっかり見とけよ」

「気をつけて、姉さん!」

「あと他の奴らに伝えとけ。敵は今のところ全部で三十機だ」

「は、い?」

「ここからよく見てみろ、後ろにもう一組黙って控えてるぞ」

「……ひっ!」


 認めたくない現実に完全に血の気が引いて、中には腰を抜かす男達。

 明理はすかさず男たちに顔面チョップと腹パンを喰らわせた。それこそ一人漏らさずに。


「びびってんじゃねぇ!奴らはどのみち一機残らずぶちのめさねぇといけねぇんだ!手間が省けていいじゃねぇか!」

「は……い……」

「補給ミスんじゃねぇぞ」


 男達は半ばヤケになりながら撤退していく。

 あの状態でまともに戦えるかどうかは分からない。

 だが、そんなことを今考えている暇はない。


「さぁて、行くかぁ……錬装着甲(アルク・ライズ)ッ!」


 明理の全身が一瞬にして白色の装甲に覆われる。

 対物ライフルを片手で抱え上げ、弾薬を肩にかけると、その場を跳躍し、一気に敵機の元へと山を駆け降りる。


「ッ!」


 まずは、初撃。

 錬装機動兵も完全に虚を突かれる形で、生物捕獲用のワイヤーユニットに風穴が開けられる。

 すぐに他の機体が周囲の索敵に入ろうとするが、今度は別方向から脚部ユニットを撃ち抜かれて一機がバランスを崩す。

 当然、今度はその方向へと注意が向くが、続けざまに倒れた機体を貫通する形で弾が飛んでくる。反射的に他の機体が機銃掃射を行うものの、倒れた機体がそれらを全てまともに受けてしまう。

 そうして五メートルほどの鋼鉄の巨体は、ものの数十秒でハチの巣にされたガラクタと化してしまった。

 

「まずは、一機……だな」


 不敵に響く女のくぐもった低い声。

 勿論、錬装機動兵はそれを受信し、その声の主へと体を向ける。

 廃墟の建物群の中で最もその高さを維持していたビルの上で、曇った太陽を背にし、馬鹿でかいライフル銃を肩にかけた一つの人影があった。


「このクソッタレな世界に異を唱える正義のヒーロー、シグ・フェイス見参……ってか!」


 続きの口上を言う暇もなく機銃掃射がかけられ、明理は瞬時に建物の後ろに飛びのく。

 錬装機動兵の群れは一斉にビルを取り囲むように展開し、彼女を包囲しようとする。

 その時、今度は後方から同時に複数の銃弾が錬装機動兵達の脚部を一斉に撃ち抜いた。

 後ろを振り向けば、今度は中から明理が飛び出してきて、右手の溶断破砕で機銃周りを破壊されて引っこ抜かれる。


「馬鹿がっ!自分たちが囲まれた時が想定できてなかったなっ!」


 中からは明理が縦横無尽の立ち回り、外からは四人のアルク・ミラーが移動しながらの砲撃。

 対応策を算出するころには、既に錬装機動兵の五チームは既に壊滅していた。


「しゃあっ!お前ら!そのタマは飾りじゃなかったな!」

「うっす!」

「俺達でも行けます!」


 対物ライフルの残りの四丁を掲げ、勝鬨を上げる四人の新たなるアルク・ミラー。主に廃墟での戦いを想定して、皆一様にグレー迷彩で整えられている。

 すかさず、その後ろから他のアルク・ミラーが予備の弾薬を運んでくる。


「よし、今の調子だ。あと十五機、速攻で行くぞ。相手に考えさせる間を与えるなよ」

「姉さん、ちょっと言いにくい話なんですが……」

「何だ?」

「もう一回確認したら、敵さん、全部で四十五機みたいで……あと三十機」

「あー……」


 すぐに見張りに回っていたアルク・ミラーの一人が大声を出す。


「残りの奴らがこっちに向かって来るっ!」

「三十?」

「三十ッ!」


 対物ライフルを抱えた四人の新たな勇敢な戦士たちも軽く戦慄する。補給要因は激励の言葉を置き土産にとっとと撤退していった。

 

「姉さん……どうします?」

「んー……」

「ここで待ち伏せしてさっきの戦術で?」

「行けますかね?」

「うーん」

「姉さん、どうしたんすか?流石にキツいんですか?」

「どうしたものか……」

「姉さん?」

「姉さん!」


 珍しく腕を組んで深く悩み込む明理の姿に、男達の先程までの勢いが急に失速し始めていた。

 そうこうしているうちに、錬装機動兵の駆動音は徐々に近まってきている。


「ぶつぶつ……」

「あ、姉さぁん!」

「こ、この五人じゃ、やっぱ厳しいんですかぁ!?」


 男達の情けない声に、明理はふるふると首を横に振った。


「……いや、折角五人なんだし、『錬装戦隊ナントカレンジャー!』みたいなの考えていたんだけど、私レッドじゃないしどうしたものかと……」

 

 男達が一斉に崩れるのと同時に、錬装機動兵の先陣が三機、障害物などお構いなしに、真正面から突っ込んでくる。

 そんな中、明理は至極冷静に対物ライフルの銃身を正面に定めた。


「ま、終わってから考えるとしますか!」

「考えないでくださいっ!」


 周りの男達四人も涙声で銃を構え直そうとするが、まずは挨拶ばかりと言わんばかりの機銃掃射。

 一様に散開する男達を背に、明理だけが正面へと突っ込む。


「話すことも出来ねぇ奴に正義はないよなぁっ!?つまり、貴様らは絶対悪ッ!私は絶対正義だぁッ!」


 銃撃を掻い潜り、正面の錬装機動兵を踏み台にして、明理は一気に駆け上がる。

 後方からの援護射撃と共に、一気に敵本隊へと突っ込んでいく。


(さぁて……『らしく』なって来ただろう?コースケ……)


 戦いは続いていく。

 この世界に似合わぬ、『正義』という言葉と共に。



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