105.堕生
皇居一帯に米軍の特殊部隊が降下し、東京都心に渦巻いていた最後の野心が鎮圧されようとしていた。
紛争地帯用の装備を抱えて来た軍人らは、日本人のあまりの抵抗の無さに拍子抜けしつつも、『ヘルプミー』『ギブミーチョコレート』と唱えながら擦り寄ってくる者達を順調に確保していく。
「だぁからぁー!私は桐島元総理の妻の姪で……とにかく心配なんです!おじ様が本当に無事なのか!救助されたって情報はないんですかぁ!?」
放心状態になっている男達の横で、真織が必死の形相で米軍に詰め寄っていた。
明理の適当設定の見よう見まねであったが、『ニホンゴハスコシ』の部隊の前では単にうるさい女でしかなく、軽くあしらわれている。
「八瀬さん、篠田さん達は?」
「あぁ~花田くんも言ってやってよぉ。……あっ、この子は桐島元総理の秘書の柏原さんの甥にあたる子で……」
「いや、篠田さん達の姿が見えないんですよ」
「きっとまだ二人で探しているんだよ。アメリカの人達が来たからもう平気だろうし……」
とはいえ、米軍としてはとにかく動き回っている者を確保したいというのが心情であろうから、勇治と深知は米軍から逃げ回るように捜索にあたっていた。
そうなると浩輔たちも表立ては動けなくなるはずである。かつ、危険だ。
花田は怪我をした腕を押さえながら、不安そうに宮殿の方角を眺める。
「建物の方は大体調べているはずなんです。これだけの人が協力してくれているってのに」
「もう逃げられ……じゃなかった、どこかに避難したり、救助されたのかな……?」
「やっぱり、まだ地下の方にいるのかも……!」
「危ないよ花田くん!私達じゃこれ以上は無理だよ!」
己の不甲斐無さを痛感しつつも、花田は米兵に地下シェルターの様子を尋ねた。
しかし、返って来るのはどうにも要領を得ない返事。日本語の片言さがそれを加速させる。
「花田くん……大丈夫だよ。あの二人はなんだかんだで不死身なんだから」
地面が軽く揺れる。
遠くで爆発が起きたようだ。
喧騒と共に周囲の米兵がそちらへと向かっていく。
空からは更にヘリコプターの増援がやって来る。
真織は、言葉の最後に『多分』と付け足し、米兵に六人分の水を頼んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
米軍ヘリのローター音と地上での喧騒を背にしながら物影を歩く、二つの影。
大通りには様々な障害物の残骸と、死んでいるのか気絶しているのか分からない人の体が転がっており、おそらく生き残った兵も大半は逃げ出したか、人気のあるところへ向かって行ったかで、この場で体を持て余しているものはいない。
「いいのかコースケ。どんどん離れていっているぞ」
「小耳に挟んだ情報ですけど、可能性としては高いんです。ホムンクルス達が示したミューアまでの道のりの妙な違和感とも合致するし」
「かと言って、入り口まで戻るのかよ……」
浩輔と明理が向かっているのは、特別警備車で突入した入り口。この大通りの惨状も、おおよそは自分達のせいだ。おかげで来た道を戻るのは容易い。
「明理さん、皇居はどこまで皇居っていうのか、知ってますか?」
「知らん」
「そう。だから、大地図で場所を示された俺達は宮殿へと向かった。地下シェルターの司令室はあの辺りにあるらしいから、完全な外れでもないんですけど」
「思い込みだったってことか?」
「ですね……堀で囲まれている所一帯を一つの区域と考えるならここだってそうです」
浩輔は息をつきながら脚を止めると、付近の物陰に身を屈め、双眼鏡を取り出す。
その目的地は、北の丸公園科学技術館。
「……まんまだな」
「ウォーダがくれた地図によると、地下シェルターにも繋がってます」
「けどよー、他にも美術館に機動隊の事務所、武道館もあるぞ」
「今の時点では、ここが一番価値のない建物です。捜索は後に回される」
建物の入口は開きっぱなしになっており、中の照明も点いていないが、入口の監視カメラは作動の光を放っていた。
立て籠る人間がいる、という前提がなければ、その違和感は気にも止めないだろう。
「なるほど。そう思って見れば、露骨過ぎるくらいだな」
「だけど、俺達を潰す選択をしたのなら、奴等の最終目的はこの皇居から、ひいてはこの国からの脱出のはずです。ここに隠れる意味はない」
「それがどうした?」
「不可解なんですよ。相手の狙いが分からない。普通に考えたら、テンパってるとしか考えられない行動なんです」
アメリカが助けに来る。
元総理大臣がいるので顔も利く。
天皇以下皇族の保護という大義名分もある。
浩輔達を倒すなら、これから時間をかけてゆっくりやればよい。
なのに、彼等はリスクを犯した。
敵の手持ちのカードは今やミューアだけ、その選択に違和感を覚えていた。
様々な憶測がこんがらがった浩輔の頭の上に、力強さの抜けた手の平がのしかかる。
「……コースケ、これ以上は考えても仕方ないぜ?私らはやるべき事をやるしかない」
「そうですね……俺達は、いや俺達も、目的さえ果たせばそれでいい」
浩輔は双眼鏡を仕舞うと、腰に携えていたスタンロッドに持ち変える。
更にもう一方の手ですぐに拳銃を取り出せるように動作を確認しようとするが、明理の手に阻まれた。
「どうしたんですか?」
「錬装化は出来なくても、錬装機兵の相手は出来るさ。お前が念じる……つまり、引き金を引く必要があるけどよ」
「ミューアがいなくても出来るんですか!?っていうか、何で黙ってたんですか?」
「絵面がな」
そこにあったのは、二人を繋ぐシェイクハンド。
明理は露骨に目を逸らしており、秒が刻まれる前にその意味が理解された。
「……ま、実際のところの効果範囲は分からないってものもある。ユージやチビッ子のまで吹っ飛ばしたら洒落にならないからな」
「今の状況なら、ってことですか」
「ただ、普通の武器相手にはどうしようもないのがネックだ」
「充分ですよ」
浩輔は明理の手を握り返す。
いつも自分を殴り付けてきた最も身近な凶器であったというのに、随分と華奢に思えた。
「行くぞ」
二人は監視カメラの四角をかいくぐり、正面の入口から忍び込む。悠長に裏口を探している時間はないし、監視カメラのリスクも変わらない。
建物の中は外から吹き込む風の音が不気味に響いており、床の上には何かの破片のようなものが一面に散らばっている。夜目が利いているとはいえ、足音を隠すのは至難の業だ。
加えて判断を困らせたのが、中央のエスカレーター付近で中途半端に点いている非常灯の光。
(一気に行くにしても、上か下か……)
浩輔が迷っていると、その手が強く握られる。
「ここが建物の中心だな」
「えっ?」
「試してみよう」
明理が繋いだ手を高々と上げ、そのまま堂々とエスカレーターの前まで歩みを進める。
浩輔の方は気恥ずかしさが先行するが、静かに息を吐いて、目を瞑って、念じた。
どうやればいいのか分からないが、とにかく祈るように念じる。
耳が空気を切り裂く音を探知したかと思うと、顔にさらさらとした砂のような物が当たり、続けて人がうろたえる声が聞こえてくる。
「……成功のようだな。しかも効果範囲も結構ある」
「とんだ幻想殺しですよ、ほんと」
釈然としないながらも、浩輔の足は地下行きのエスカレーターへと向かう。逃げたり隠れたりする人間は上には行かないという、純粋な勘だ。
周囲からの発砲音は更に増え続けるが、その尽くが二人に触れる前に砂となって消えていく。
実弾が来ないことを胸中で祈りながら、地下の部屋まで降り進むと、とうとう辛抱堪らなくなった錬装機兵が姿を現して白兵戦を仕掛けてくる。
……だが、その意気も虚しく、相手まで僅か数メートルというところで、武器は崩れ、堅牢な鎧も全て砂へと還る。
茫然自失となった顔を晒け出した若い男は、間髪入れずに繰り出されたスタンロッドの一刀のもとに切り伏せられた。
「まったく、訳の分からない力に頼るから、こんなことになるんだよ……」
「これに懲りたら、とっとと桐島と柏原の居場所を教えな!外にはアメリカ軍様方が控えてるから、頭下げれば保護して貰えるからよ!」
明理の啖呵によって、立て籠っていた兵士達の最後の戦意も削がれたのか、一人、また一人と物陰から手を上げて姿を表し、投降の意思を示す。
加えて浩輔と明理に近づくと、錬装が一瞬で剥がされるため、後ろに残った兵も抵抗を諦めざるをえなかった。
「おいおい、降参するのはいいけど、居場所を知ってる奴はいないのか?」
明理が呆れたかのように首を傾げると、誰も彼もが言うに言えないとばかりの困ったような表情をする。
その中で手を上げて近づいてきたのは、スポーツ刈りのやたらと体格の良い男。
こいつは生身でもちょっと分からないぞ、と浩輔は内心身構えるが、それは杞憂だとばかりに男は頭を項垂れて答えた。
「柏原……さんは、一階の奥の部屋にいます。そこに医療室を作ってて、何か怪我した男の子の看病をしてるとか……」
「本当だな?前に行って案内しろ」
「桐島総理、いや元総理の方は?」
「俺は見てないけど、多分一緒だと……」
内容に多少の齟齬があるが、情報は情報。
明理は気休めであった拳銃を取りだし、男の頭に突き付けながら、首だけで『進め』と、促した。
しかし、男の視線はどうにも落ち着かない。
「なんだ?何か企んでんのか?」
「い、いや……そいつが……」
体格の良い男の視線は、浩輔がスタンロッドで薙ぎ倒した男へと向けられていた。
「弟なんです……」
「あぁ、悪いことしたな……って違うか。とにかく、これくらいじゃ死にはしないよ」
浩輔が周りの兵に呼び掛け、倒れている男を担ぎ上げさせると、自分達の側を歩くようにと促す。
その状態で階段を上がって行くと、次々と積まれていく銃声の数々。
だが、今ので錬金術の無効化の射程を掴んだ明理に対してはそれも全く意味をなさない。相手を気遣う余裕すらあるのだ。
「弟さんはこの辺で出してやれ」
「ありがとうございます」
「お前はまだだぞ」
「はい」
男は弟が建物の外へと運ばれていくのを見ると、進んで前に立ち、歩き始めた。
それで済めばよかったのだが、更に後ろから三人、忍び足ではあるが、姿を隠さずに後ろから跡をついてくる。
「なんだぁ?やる気か?」
「ま、待ってくれ!確めたいんだ……」
「何だよ」
「お、俺達は、間違ってたのか?」
明理は鼻で笑う。
「自分で間違ってるって半分自覚してまで、こんなところに立て籠ってるんじゃあ世話ねーな」
「俺達を……殺さないのか?」
「そんなのこっちの勝手だ」
男達の言葉が詰まる。
最初の質問からして、敵だった相手に尋ねる台詞ではない。銃器だけでなく、錬装能力まで得てこんなところにいるのだから、それなりの覚悟はあったはずなのだ。
一人が口を開く。
「今の世の中が間違ってるって……そう思っていたんだ。ここに来れば、力もくれるって……」
「お前等は何が欲しかったんだ?」
「……駄目な人間なのは分かってる。でも、そんな奴等でも堂々と暮らせるような、そんな――」
「ここにいて『それ』はあったのか?」
「その、通りだ……」
男達の足が更に前へと進み、浩輔達を追い越し、案内役の男さえも追い越していく。
それぞれに銃器を取り出すが、狙いは足が進む先へと向けられていた。
「柏原……!」
「そうだ、奴のせいだ……!」
「柏原?桐島じゃなくてか?」
「桐島さんは見る度にやつれていってたよ。ここを実質仕切ってるのは柏原の方だ」
「あんたらのおかげで目が覚めた。東郷さんならともかく、何であんな奴の命令に従わないといけないんだ……!」
徐々に荒立ってくる男達の声。
それは、自らの行為を棚に上げた短絡的思考の延長によるものか。それとも、リーダー無き同調圧力の存在に気がついたが故か。
確かなのは、もはや浩輔達すら眼中にないとばかりに背を向けて、一直線に先へ向かったこと。終いにはドアを蹴破ろうとする始末。
「おいおい……」
「ユミルが調製したのと違って、一様な錬装能力を持ったが故だな。判断能力に障害が出てるんだ。洗脳しやすくはあるんだろうが」
「思いっきり裏目に出てますね」
扉の鍵が破壊され、罵るような声と共に男達が部屋の中へ突入して行く。
まずは彼等を斥候にと、浩輔と明理はその場で動向を見守っていたが、そこからは光も音もなく、壊れたドアが開いたままの状態で静寂だけが残った。
二人の前に残った体格のよい男も状況を察したのか、僅かに背筋を震わせる。
「さて、私らに対して本当に謝罪の気持ちがあるなら、先に行って貰えると思うんだが?」
「…………」
「まぁ、無理ですよね。あんたは外に出て行ってください。邪魔になるんで」
浩輔自身も甘過ぎると思った提案であったが、体格のよい男は、何の返事もなくその場で立ち尽くしていた。
一瞬利用できないかとも考えたが、迷いがあるのなら、結局は一緒だと思い、男の肩に手をかける。
「がっ……こっ……!?」
浩輔の首に手が延びる。締めようとするのではなく、爪が立っている。
男の目を見て、その異常は確信に変わった。あまりにも分かり易いほどに紅く光るその瞳に、まともな意識を期待できるはずがない。
だが、その確信の確認の為に、浩輔の回避が一瞬遅れた。屈強な体の男の爪が浩輔の喉元に食い込み、そして、バランスを崩す。
「……大丈夫か?」
明理の声で我に帰ると、彼女の手には硝煙を吐き出している拳銃が握られており、倒れこんだ男の頭に黒い穴が開いていた。
彼女の一切の躊躇のない判断に助けられたが、礼を言う間もなく次なる刺客が送り込まれてくる。
「ガァッ……!」
「こいつらっ?」
「……なるほどな」
それは先程突入していった三名の兵士達。
皆、等しくその瞳を紅く光らせ、ゾンビのように手を広げて襲いかかってくる。
しかし、結局はゾンビ。錬装機兵の装備がなければ驚異でも何でもなく、浩輔と明理、二人の手によって近づく前に射殺されていく。
「こっちの弾を消耗させる気か?」
「だったら……」
拳銃を撃った後の手の痺れを払いながら、明理は目ざとく足元にいる死体の腰をまさぐり、自衛隊あたりからパクって来たかと思われる手榴弾を拾い上げる。
「こんくらいは使える、ぜっ!」
慣れた手つきでピンを外された手榴弾が前の部屋に投げ込まれ、割れるような爆発音が響き渡る。
中から呻き声が微かに聞こえたが、明理は念入りにとばかりに時間差で二つの手榴弾を投げ入れた。
そして、扉の両側にそれぞれ取り付くと、タイミングを図って一気に突入する。
「柏原っ……」
「ひっ……!」
そこにいたのは、あまりにも弱々しく怯える、見知った男の姿。
視線だけで薄暗い部屋全体をぐるりと見渡すが、全身に破片が刺さった人間が数人。浩輔は拳銃の弾数を確認すると、倒れている人間の頭部に念押しの銃弾を撃ち込んでいく。
「やっ、やめてくれっ!何てことするんだぁっ!?」
「うるさい、まずは両手を上げろ」
「わ……悪かったよ……もういいだろ?俺なんか殺しても何にもなんねぇよ……なぁ……」
柏原の腰は完全に砕けており、抵抗の意思があるようには思えない体勢であった。
「ミューアをどこにやった?」
「しっ、知らねぇ!桐島総理が連れてったから……!」
「……それと、今のは何だ?どうやって、兵士達を洗脳して襲わせた?」
「な、何のことだぁ……?知らねぇよぉ……」
柏原が嘘をついていることは明白だ。
問題はどこまでが嘘なのかということ。
明理は手始めに柏原の右腿を撃つ。相手はスーツ姿なので、これも確認のためだ。
「ひっぎっ……!」
「もう一度尋ねる。ミューアはどこだ。そして、どうやってあいつらを操った」
「お前ら……本当に……俺を殺すつもりなのか……?」
「質問に答えろっ!」
「何が正義の味方だぁっ!どうして俺を殺すんだぁっ!?悪い奴等は、死ぬべき奴等はもっと他にいるんだぁっ!そいつらは……まだ生きてるじゃないか……」
柏原の肩に、もう一発の銃弾が放たれる。
「なん、で……」
これでようやく心が折れたかと思うと、突如として柏原は狂ったように笑い出す。心なしか、彼自身も目が紅く光っているように見えた。
「お前らだ……やはり悪はお前らの方だ……!俺は……悪くないんだからなぁ!俺はこの世の事を考えて……この国の未来の為に動いたんだ……!何も悪くない!俺を殺そうとするなんて、とんでもない悪だ!非国民っ!売国奴っ!」
「天皇を囮に使う奴の言う事かっ!」
「何を言っているぅっ!?俺は天皇を保護した英雄だぞぉっ!?国民栄誉章だっ!正義の味方だぁっ!」
――狂った。
以前自分達に見せた、真面目で落ち着いた雰囲気の秘書の姿は既にない。
流石の浩輔も無言で胸に狙いを定めようとするが、柏原はばたつきながらも後ろにあった物へと身を滑り込ませる。
「ひっ……ひひひひひっ!そういうことか!お前らは困るんだよなぁ!こいつに死なれちゃあっ!」
布生地が擦れるような音と共に薄暗い部屋に、新たな灯りが継ぎ足される。
柏原が身を隠すその物体こそ、探していたもの。
「ミューアっ!?」
「はははぁっ……生命維持装置だ……重症のこのガキはこいつが止まるともう終わりだぁ……」
生命維持装置……SF映画にでも出てきそうな上半分だけガラス作りで中が見えるカプセルのようなものの中にミューアは横たえられ、簡単な止血と酸素マスクを取り付けられた状態だった。かろうじてまだ息があるのか、心音計のような音も聞こえてくる。
容体をもっと詳しく確認しようと近づくと、柏原がそのカプセルの上から拳銃を突き付ける。
「動くなよぉっ!困るんだろおぅっ!?こいつに死なれちゃあっ!」
「…………っ!」
柏原は息も絶え絶えになりながらカプセルの上にしがみ付き、そして、口元から垂れる涎を隠そうともせず、ガラス越しにミューアの頭へ銃口を突きつけた。
「ききききっ!まだっ……まだだぁ……俺は、死なない…………やれっ!」
柏原の声と共に、浩輔と明理の足下から腕が伸び、二人の脚を押さえる。更には後ろからも手が伸び、首、腕、腰と次々に巻きついていく。
その正体は、先程止めを刺したはずの兵士達。やはり、一様に目が紅く光っている。
振りほどこうと銃を何発も放つが、急所に当たろうともその力が弱まる気配はない。
「こいつらは、死んでるんじゃっ……!?」
「知らねぇよぉっ!でも動くんだよなあっ!俺の思い通りにぃっ!」
「ここに来て、本物のゾンビかよっ……!」
浩輔は明理の元へ手を伸ばそうとする。
しかし、ゾンビ達はその考えは読んでいるとばかりに、二人を引き離した。
「はははははぁっ!いいザマだなぁっ!よくも俺をこんな目に合わせやがって!まずは、このガキからだぁっ!悪党共め、残念でしたぁっ!」
柏原は銃口に舌を這わせ、更に笑う。嘲いたてる。
紅く血走った目は浩輔と明理を一瞥し、その瞬間の反応を愉しむかのように、引き金が引かれた。