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第八話 月光

施設にきて、初めての夜がこんなに憂鬱なものになるなんて…


僕はなんだか悲しくなってきた。


電気を消してベッドに入ってからも、なかなか寝付けなかった。


少し開いた窓からは月の光がやわらかく差し込み、カーテンがゆらめくたびに満月とはいえないものの、それに程近い月がみえかくれしていた。


僕はゆっくり起き上がってカーテンを開け、その月をしばらくながめた。



ふと女のルンペンと毎年、月見をしていたことを思い出した。



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「ダイスケ、だめよ。おだんごつまんじゃ」




「ほら!今日はよく晴れてお月様がきれいね。」



「おだんごおいしい?」



「お月様をよく見てごらん、うさぎさんがお餅をついてるみたいにみえるでしょ。お月様にはうさぎさんがいるんだよ。」



「そんなにあわてて食べなくても、おだんごは逃げないからゆっくりたべなさい。」



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ダイスケの脳裏にはルンペンとの思い出のなつかしい言葉が響いていた。


30年間、同じような会話を毎年してきた。


僕がいくら成長しなくても、そんな僕をいつくしむようにいつまでも変わらない時間をくれた。


そんな思い出が急に僕の心をしめつけた。








「あんなところにウサギなんかいるわけないじゃないか…」


そうづぶやいた瞬間、僕の目は熱くなり涙がひとすじこぼれ落ちた。




その時だった。


後ろから人の気配がした。


振り向くとそこには園長が立っていた。


「ダイスケくん?」


風が抜けるように少しドアを開けていたので、僕が起きてるのが見えたみたいだ。


僕の様子がおかしいことに気がついた園長は部屋にはいってきて僕に声をかけた。


「どうしたんね?」


優しい園長のその声は僕の涙をいっそうかきた。


それでも必死に涙をこらえて震えてる僕をやさしく抱き寄せて、園長は


「よし、よし。一人ぼっちじゃないけん、ん?」


と、僕のあたまをなでた。


僕はもうがまんできなくなって、わっと声をだして泣いてしまった。



この日、僕は生まれて初めて心の底から泣いた。






ここにいたい。


そう思った。



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