第十話 裏山
写真の件があってから僕の学校行きはとりあえず保留となった。
それでっていうのも変だが、毎日ヒマでよく窓から外を眺めていた。
すると決まって夕方ごろになると、いつも同じの光景が目に飛び込んでくるのに気がついた。
それは僕がここにきて初めに目のあった少年、石川の奇妙な行動パターンだ。
まず、彼はいつも泣きながら帰ってくる。
そして門のかげてで涙がとまるのをまってから入るのだ。
今日もそろそろ彼の帰ってくる時間だ。
彼はまだ僕に見られていることに気がついてないが、もうこれで四日連続そうした毎日を繰り返している。
別にそれを期待して待っているわけじゃないが、妙に気になっていつも見ていた。
しかし、その日はいつも通り外を眺めていても、なかなか帰ってくる気配がなかった。
僕は妙に気になって、先に帰ってきた「まさる」と「きよし」に聞いてみることにした。
「あいつ、いっつも学校のかえりに方向一緒の連中にいじめられてるんだよ。」
と僕の問いかけにはじめに話しはじめたのはまさるだった。
すると、「助けてやりたいけど、とっつあんってあだなの空手やってる六年がいてムリなんだ。」
ときよしも言いたかったみたいに入ってきた。
「あいつ僕らみたいに、施設に入ってる子をバカにしてるんだ。」
「それに、いっちゃん(石川)は弱いくせに一言多いからまとになっちゃうんだよ。」
次々ととっつあんという奴のことを話す二人の目には何か悲しい感情がにじみでていた。
僕は少し考えて
「今日はまだ帰ってないみたいだけど、見なかった?」と聞くと
「ひょっとしたら学校の裏山かも…まさるどう思う?」
「うーん、最近あいつら裏山に秘密基地つくったとか言ってたし、そうかもしれない。」
「その裏山に案内してくれない?」
僕がそう言うと、ふたりは少し興奮したように喜んで
「うん!いこう!」と快諾してくれた。
そういうある程度満たされた人間からの意味をもたない連帯感と優越感をくすぐるためだけのためにある嫌がらせや差別は、僕にも経験がある。
石川に何の恩義もないが、僕には助けずにはいられないという何の得にもならない感情が湧き上がっていた。
石川のことを昔の自分と重ね合わせて見ていたのかもしれない。
僕らは一路、学校の裏山というところに走った。
この前の土管のつんである空き地の横を通り過ぎてしばらくいくと、またしてもどこかで見たような学校とその後ろにさほど大きくもない青々とした山が見えてきた。
さらに行くと山の脇には小さな参道があり、そこから神社にはいってさらに奥へ、裏山の中ほどに子供の騒いでいる声を聞いた。
いそいで声のする方向へ走っていくと、そこにはしめ縄のはってある大きなご神木のような木があり、その下に5人の子供となぜか必死にその大きな木に登ろうとする石川の姿があった。
見ると木の上のほうに石川のランドセルがひっかかっている。
僕はその光景に今までになく不愉快な気持ちになった。
気が引けたのか物陰にかくれてついてこないまさるときよしをそのままに、僕はその集団に近寄り、一番手前にいた三年くらいの子供髪の毛をつかんでうしろに放り投げた。
僕は、その時いかりに我を忘れていた。




