Fall
この作品は胎海の精神的続編です
狂ってしまったらどうなるのかただそれだけです
ベッドから起き上がったとき、知らないはずなのに知っている部屋にいて、外では様々なモノがひしめき合っていた。
例えば、アーチ状の門がぐにゃりぐにゃりと街を練り歩いていた。象がその自慢の鼻でピーんと立つ木枠にぶら下がった金を鳴らしている。楽器たちがぷるんぷるんと踊り、音楽を奏でている。まさにパレードであった。
じゃんばらじゃんばらと街の景色が次々に入れ替わる。しかし、不思議なもので見慣れているはずの景色はまた、初めて見たように感じてしまうのだ。
扉をカパカパと開け閉めする冷蔵庫について行き、外に出てみると祭りのような楽しげな音楽が聞こえてくる。
これだ、これ。いつも聞く音だ。
ドンジャラドンジャラガラガラガラガラ
ここまで運んでくれた家に「ありがとう。助かったよ。」とひと言だけ言うと魑魅魍魎の一列に加わった。
隣では脳みそがウジュルウジュルと蠢いている。
「やぁ脳みそくん。君はどこから来たんだい?」
そう聞くけども彼は答えない。ただウジュルウジュルと返ってくるだけだ。
すると後ろからバタバタと追いかけてくる人がいる。
(あぁそうか、あの人のものだったのか。)
次に脳みそくんに話しかけようと横を向くと大きな広間に来ていた。
(あれ?もう着いたのか。)
どこかの建物の大広間で僕一人がぽつんと取り残されていた。
二足歩行のカエルが扉から出てきて「こちらへ」と言った。
(裸だ!エッチなカッコで恥ずかしくないのかな?)
裸のカエルを視界の隅にそらしつつ、顔を赤らめる。
カエルは背を向けて、出てきた扉を引き返して行き、僕はその後ろをついて行く。
僕はついて行くときその魅力的なお尻に視界が釘付けだったとだけ言っておく。
ジャンジャラジャンジャラドヒャドヒャディヤ
パレードの中でふらふらと歩いていた。
すると、知らないおじいさんに話しかけられる。
「お前さんは、これでいいのかねぇ」
不思議な人、この世界に似つかわしくない人が僕にそう言った。
時計は近くにないはずなのに、なぜか時計の音が聞こえた。
チッチッチッカチン
秒針がいくつか鳴った後、時針と分針が同時になった。
ブワッと風を感じる。
空に落ちていく。
ピチピチピチチ
魚がたくさん僕の周りで跳ねている。
「君たちはどこから来たの?」
魚の一匹が答える。
「何も不思議なことはない。ただそこにいるだけだ。どこかから来たというわけじゃあない。ただ当たり前に鳥は鳴き、魚は跳ねる。なぁんにも不思議なことはない。ただそうあるべきとしているだけだ。」
なるほどこれは間違いない。僕も落ちているのに理由はなく、そうあるべきとしているのだから、この魚たちも必然的にそうなるのも当然のことだ。
あれ?必然と当然ってどうなんだ?
雨が降った。
僕は水溜りで飛び跳ねている。
パッシャバッシャパチャパチャ
僕は泣いていた。
エーンエーン
なんだかこの世界に一人きりだと思ったら悲しくって悲しくってどうしようもなかったのだ。
「いいかね?天体観測上の大地を泳ぐ鳥たちは海を飛ぶ魚と変わらんのだよ。」
ミミズがリンゴから頭を出してそう言った。
こんなに沢山のモノたちがいるのに僕はこの世界でひとりぼっちだ。
僕は道路の上に佇んでいる。
さっきまで通り雨が降っていたようで、服がビャチャビチャに濡れている。
「ここには蛙がたくさん住んでいるんだよ。」
宙に浮かぶ顔がそう言った。
「へぇ、そうかい。会えるといいなぁ。」
僕は歩き始める。
「これからどこに行くんだい?」
また、顔が言った。
「これから海に登ってリンゴを取りに行くんだよ。」
僕はそう答えた。これは毎日の日課のようなものだ。
歩いて向かう道中にも顔…いや、僕の親友は質問を続けている。
それに答え続けていた僕も少し疲れてきた。
気がついたら白の外観で赤い十字架を持った海に着いていた。
中に入ったらすぐにいつもリンゴをくれる人に出会った。
「リンゴをください。」
彼はメガネをかけたフクロウさんだった。
「リンゴではなく薬だよ。」
(なんで薬なんか飲まなくちゃいけないんだ。僕は何も悪くなんかないのに。)
そんなことを思うけど、結局僕にリンゴをくれるこの人はいい人だ。
カエルさんに出会った。ピンクの服に帽子さんを着ていたので看護婦さんの様だった。
「カエルさん、なんでそんなカッコしているの?」
カエルさんは何にも言わずにそそくさと離れていった。
「どうしたのかね?そんなところで立ち止まって。」
フクロウさんは足を止めてそう聞いてきた。
「カエルさんに話しかけたのになんにも答えてくれなかったんだ!」
僕は憤りを顕にした。
「彼女たちにもやらなくちゃいけないことがある。忙しいのだよ。許してやってくれ。」
仕事なら仕方がないと僕も矛を収めることにした。
部屋に入ったあと椅子に座らされて、フクロウさんが僕の対面に座った。
「さて、君の話を聞かせてくれないか?」
フクロウさんが穏やかな口調でそう言った。
「いろんなモノが話しかけてきて、時々僕を責めるんです。」
僕は不思議と言葉が出る。
「そうか…辛かったね。よく頑張ったね。」
「それに目がいっぱいあってこっちを見ていて不安で…。」
さっきと違って頭は真っ白なのに言葉だけが次々と出てくる。
「たくさん見られて怖い思いをしているんだね。同じ薬を出しとくからもう少し頑張れるかい?」
「うん。ありがと…。」
その後は受付でリンゴを貰って、家へと帰る。
「あ!蛙がいるぞ!」
さっきまで黙ってばかりだった親友が話しかけてきた。
それに気を取られて蛙を踏み潰してしまった。
「あー!やっちゃったやっちゃた!」
親友が叫ぶ。
近くにいた他の蛙たちが僕を睨んで次々に言う。
「どうして他人に興味を持たないの!」
「気持ちの悪い!そんなものを見るのはやめなさい!」
「こんなことで泣かないの!どうして分からないの!?」
「アンタなんて産まなきゃよかった!」
僕を責めるな。
「うぅ…ウォェ。」
液を吐く。
つぷりと腹に痛みを感じて、見てみると僕の内臓がずるずると落ちていく。
「あぁまってまって!こぼれちゃう!ぼくがこぼれちゃう!」
痛みに喘ぎながら、必死になって零れた内臓を腹に戻そうと掻き集め、詰め込む。それでもぽっかりと空いた穴から次から次に出てくるものを止める術はない。
内臓を腹に収め、体を丸めて出てこないようにしても足の隙間からずるりずるりと零れ落ちていく。
近くを通りかかった車が止まって、中から男の人が出てきた。
「君、大丈夫かい?」
「僕の内臓が!僕が零れていく!やだぁ!やだぁ!」
男の人は露骨におかしな人を見る目をした。
僕は立ち上がって歩き始めた。
お腹から内臓が零れないように手で押さえるとその手は温かかった。
「あぁぅ…いやだ…いやぁ…」
「ちょっと!君!」
僕は男の人の言葉を無視して家へと歩いていった。
カルラカルラパラパラリ
家に帰っても痛みが引くことはなく、僕は蹲っていた。
「死んじゃえば痛みなんてないよ。」
親友はそう言った。
「死んだら何も出来ないじゃないか。」
僕はそう言った。普通の考えだ。
「空には自由が広がっているんだよ。」
あぁ…そうか。そうだったのか。
地球は僕を縛り付けていたのか。どおりで生きにくいわけだ。
キッチンに包丁を取りに行くと自らの首に突き刺す。
「ガボッガボッグブッ」
溺れている。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしい………………。
少しずつ痛みを感じなくなっていく。
音が少しずつ消えていく。
瞼が閉じていく。
パレードの音が聞こえる。
なんだ、自由はあるんじゃないか。




