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【サザンの楽曲「勝手に小説化」シリーズ(12)】『HOTEL PACIFIC』(原案:桑田佳祐)  作者: 「頑張れ!法政野球部」管理人


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【サザンの楽曲「勝手に小説化」シリーズ(12)】『HOTEL PACIFIC』(原案:桑田佳祐)

私は、アメブロの、

「頑張れ!法政野球部」

で、私が大好きな、サザンオールスターズや桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、私が「短編小説」を書くという、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」

を、断続的に連載している。


私は、上記のブログで書いた「サザン小説」の中からチョイスした物を、「小説家になろう」にも転載しているが、

今回は、2000(平成12)年にリリースされ、大ヒットを記録したサザンの楽曲、

『HOTEL PACIFIC』

の歌詞を元に、私が書いた小説を掲載させて頂く。


1960年代、桑田佳祐の故郷・茅ヶ崎には、茅ヶ崎が生んだ大スター・加山雄三が経営していた、

「パシフィック・ホテル」

という、豪華なホテルが有った。


「パシフィック・ホテル」

は、上原謙・加山雄三親子が運営していたホテルだったが、

「パシフィック・ホテル」

が開業したのは、桑田佳祐少年が当時9歳だった頃…1965(昭和40)年だったが、桑田はその当時、母親に連れられて、

「パシフィック・ホテル」

の豪華絢爛なオープン記念イベントを見に行ったという。


幼少期だった桑田にとって、

「パシフィック・ホテル」

のオープン記念イベントの華やかさは、強烈な印象が有ったが、後に桑田は、

「パシフィック・ホテル」

に対する郷愁の想いを、

『HOTEL PACIFIC』

というサザンの楽曲に結実させた。


私は、幼い頃の桑田が見たという、

「パシフィック・ホテル」

華やかなりし頃に思いを馳せ、サザンの、

『HOTEL PACIFIC』

の歌詞を元に、小説を書いた。


それでは、「前置き」はそれぐらいにして、「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の、

『HOTEL PACIFIC』(原案:桑田佳祐)

を、ご覧頂こう。



<序章・『セピア色の幻影かげ』>


此処に、1枚の古ぼけたセピア色の写真が有る。


それは、かつて茅ヶ崎に在った、

「パシフィック・ホテル」

の写真である。

僕はその写真を手に持ち、久し振りに、故郷の茅ヶ崎を訪れていた。


所謂「湘南」の海沿いを走る、

「国道134号線」

に、面した所に、かつて、

「パシフィック・ホテル」

という名の、豪華で煌びやかなホテルが有った。


それは、鄙びた田舎町に過ぎなかった茅ヶ崎には、どう見ても不釣り合いの、

「夢の城」

のような建物だった。


「もしかしたら、あれは本当に夢だったのかもしれないな…」

僕は、すっかり古びてしまった、今は亡き、

「パシフィック・ホテル」

の写真を手に持ちながら、そんな事を思ったりしていた。


僕は、その「国道134号線」沿いの…かつて、

「パシフィック・ホテル」

が在った場所に立っていたが、今はそこには何も無かった。


まるで、夢か幻のように、

「パシフィック・ホテル」

は消えてしまい、跡形も無くなっていた。


そして、僕の脳裏には、

「パシフィック・ホテル」

と共に、あるひとの事が思い浮かんでいた。


忘れられようにも忘れられない、あの夏の想い出の事が…。




<第1章・『ブラック・サンド・ビーチ』>


あの年の夏の事を思い出すと、僕は必ず、ギラギラと照り付ける太陽の事が思い浮かぶ。


あの年…1965(昭和40)年の夏は、本当に暑く、連日、物凄い猛暑が続いていた。

夏は暑いのが当たり前だが、それでも、あの年の夏の暑さは、尋常ではなかった。

お陰で、僕の地元…茅ヶ崎の海岸も、海水浴にやって来た人達で、ごった返していた。


その頃、僕は地元・茅ヶ崎の高校生だったが、夏休みの間、

「海の家」

で、アルバイトをしていた。


僕が働いていた、

「海の家」

には、連日、海水浴客達がひっきりなしに訪れ、僕も大忙しだった。

そのお店の自慢の、

「かき氷」

は、飛ぶように売れていた。


お陰で、僕も目の回るような忙しさだったが、連日、

「海の家」

で働いていた僕も、すっかり日に焼けてしまっていた。


「お前も、すっかり海の男になったなあ…」

そのお店の店長に、そんな事を言われたりもしたが、僕は満更でもなかった。


と言うのも、僕は地元・茅ヶ崎が生んだ大スター、加山雄三に憧れていたからである。

その頃の加山雄三と言えば、

「若大将シリーズ」

というシリーズ映画で有名なスーパースターだったが、加山雄三は、まさしく、

「若大将」

を地で行く人だった。


何しろ、加山雄三は顔もカッコ良く、スポーツ万能で、音楽の才能も有り…とにかく、

「こんな人が、本当にこの世に居るんだなあ…」

と思わされてしまうような人だった。


僕は、

「海の家」

で働いている内に、真っ黒に日焼けしてしまったが、僕はちょっとだけ、

「これで、加山雄三に少しは近付いたかも!?」

などと思っていた。


加山雄三のトレードマークは、その日焼け肌だったが、今、思い返すと笑ってしまうが、僕は、日焼けした事により、憧れの大スター・加山雄三と、ちょっとは近くなれた…ような気がしていた。


そして、僕が「海の家」で働いていた、1965(昭和40)年夏…。


我が地元・茅ヶ崎で、驚天動地の出来事が有った…。




<第2章・『パシフィック・ホテル』>


「おい、それは本当か!?」

僕は思わず、そう聞いてしまっていた。


「ああ、本当だ。加山雄三が、茅ヶ崎にホテルを建てるらしい…」

僕の地元の友人が、何処かで聞き付け、そんな飛びっきりの情報を、僕に教えてくれた。

「しかも、物凄く豪華な、高級ホテルらしいぞ」

友人によると、どうやらその情報は本当に本当らしかった。


正確に言えば、加山雄三のお父さん…名優・上原謙と、そして加山雄三が共同経営という形で、此処、茅ヶ崎に、新たにホテルが建てられる…との事だった。


「そのホテルは、『134号線』沿いの、小高い丘の上に建てられるんだってよ…」


「そうか、あの場所か…」


僕達は、そんな会話を交わした。


「国道134号線」

とは、茅ヶ崎の海岸沿いを走る国道であり、大磯から平塚、茅ヶ崎…そして、江ノ島や鎌倉などを経て、横須賀まで続く国道だった。


僕は勝手に、

「国道134号線」

の事を、

「海辺の国道ルート

などと呼んでいたが、地元民の僕から見ても、この国道は風光明媚な場所を走る国道だと思っていた。


そんな、

「海辺の国道ルート

沿いに、加山雄三のホテルが建つという…。


「それで、そのホテルは、何ていう名前なんだ?」

僕がそう聞くと、友人は、

「『パシフィック・ホテル』だよ…」

と言った。


「そうか、『パシフィック・ホテル』か…」

僕は、とても感心した。

いかにも加山雄三らしい、モダンでお洒落で…そして、とてもカッコイイ名前だと、僕は思っていた。


そして、僕が「海の家」で働いていた、1965(昭和40)年夏…。

遂に、茅ヶ崎の海沿いに、

「パシフィック・ホテル」

が、華々しくオープンする事となった。

それは、僕が想像していた以上に、とても素敵な建物だった。


「流石は、加山雄三のホテルだ…」

僕は、遂に姿を現した、

「パシフィック・ホテル」

の威容を見上げ、いつまでも飽きる事なく眺めていた…。




<第3章・『美しいヴィーナス』>


「パシフィック・ホテル」

が、いよいよオープンも間近に控えた頃…。


僕が働いている、

「海の家」

に、ある女の子が、よく姿を見せるようになっていた。


その女の子は、歳の頃は、多分18歳ぐらいか…僕よりも、少し年上だと思われたが、とても健康的で、可愛い女の子だった。


彼女は、いつも何人かの女の子達と連れ立って来ていたが、輪の中心に居るわけでもないのに、とても目を引く女の子だ…と、僕は思っていた。


さっきも書いたが、とにかく、その子はとても可愛かったのである。

何処となく控え目な感じもしたが、パッチリした目には、意志の強さが宿っているようにも思われた。


イメージとしては、

「若大将シリーズ」

で、加山雄三の相手役で、いつもヒロインを演じていた、星由里子に、ちょっと似ているような感じだった。


僕は、その子の事を、心の中で密かに、

「ユリコ」

と呼んでいた。


そんなある日の事…。


その日は、例の彼女、

「ユリコ」

が、珍しく一人で、

「海の家」

にやって来た。


「かき氷を下さい…」

彼女はそう言ったが、改めて声を聴くと、とても美しい声だと僕は思った。


「今日は、お一人なんですか?」

僕は、思い切って声をかけて見ると、彼女…「ユリコ」は、ちょっとビックリした顔をしていたが、

「ええ。お友達はもう東京に帰ったから…」

と言った。


「そうなんだ。じゃあ、貴方も東京から…?」

と、僕が聞くと、彼女は頷いた。


僕は、もう少し彼女の話を聞いてみたいと思い、

「失礼ですが…。貴方は学生さんですか?」

と聞いてみると、今度は彼女は首を横に振った。

「いいえ。学生じゃないわ…。ちょっと仕事で来ているの…」

彼女はそう言っていた。


「あの…。もう行かないと…」

彼女がそう言ったので、僕は、

「すみません!!お引き止めしてしまって…」

と、謝った。

「いいのよ…」

彼女はそう言って、ニッコリと笑った。

それは、本当にとびきり素敵な笑顔だった。


「ねえ、また会える!?」

彼女…「ユリコ」が立ち去る間際、そう聞くと、彼女は、

「ええ、多分ね!!」

と、言っていた。


そして、「ユリコ」は、海水浴の客達でごった返す海辺の方へ向かって行った。

僕は、いつまでも、その後ろ姿を見ていた…。




<第4章・『エレキの若大将』>


「父さん、それは本当!?」

僕は、勢い込んで、父に聞いていた。


ちょうどその時、僕は加山雄三が主演の映画…。

『エレキの若大将』

を見て以来、


「僕も、エレキギターを弾きたい!!」

と思い、一生懸命に、エレキギターの練習をしていた。


1965(昭和40)年夏は、洋楽ではベンチャーズやビートルズ、そして、邦楽では、我等が加山雄三が火付け役となり、日本中で、史上空前の、

「エレキ・ブーム」

が巻き起こり、日本全国の中高生達が、エレキ・ギターに夢中になっていた。


そして、雨後の筍のように、日本中の中高生達が、バンドを組んだりしていたが、

「エレキ・ブーム」

の立役者の一人だったのが、間違いなく、加山雄三だった。

元々、加山雄三の大ファンだった僕も、ご多分に漏れず、エレキに狂っていた。


そんな僕に対し、僕の父親が、

「お前、そんなに加山雄三が好きなら、『パシフィック・ホテル』のオープン記念パーティーに連れて行ってやるぞ。どうだ、行きたいか?」

と言ったのである。


その頃、僕の父親は、某レコード会社に勤めていたので、音楽関係者・芸能関係者に「コネ」が有った。

その伝手を頼り、父は、

「パシフィック・ホテル」

のオープン記念パーティーに行ける事になったという…。


僕は喜び勇んで、

「勿論、行くよ!!」

と、二つ返事で答えていた。


「遂に、あの加山雄三を目の当たりに出来る…」

僕は、その事を想像するだけで、早くもドキドキしていた…。




<第5章・『日本一の若大将』>


「皆さん、今日は、ようこそお越し下さいました…」

僕の目の前で、あの加山雄三が、にこやかに挨拶をしていた。


1965(昭和40)年夏の、ある日…。

「パシフィック・ホテル」

は、遂にオープンの日を迎え、盛大に、

「オープン記念パーティー」

が開かれていた。


そして、

「パシフィック・ホテル」

のオープンを祝い、

「パシフィック・ホテル」

には、沢山の芸能関係者や音楽関係者が集まっていた。


父は、そういった関係者達に、忙しく挨拶回りをしていたが、僕の方は、会場に来ている芸能人達を目の前に見て、すっかり舞い上がっていた。

「凄い…。ピーナッツやクレイジー・キャッツも居る…」

そう、会場には、その頃の芸能界のスーパースター達…ザ・ピーナッツや、ハナ肇とクレイジー・キャッツなどの面々も来ていた。

僕は、そんなスーパースター達を目の当たりにして、目も眩むような思いだった…。


「何か、夢みたいだな…」

僕は、自分が今、夢を見ているような気がしていた。

だが、それは夢でも何でもなく、今、僕の目の前で現実に起こっている事だった。


そして、我が憧れの大スター・加山雄三は、映画で見た時と同じく、カッコ良くエレキ・ギターをかき鳴らし、

『君といつまでも』『夜空の星』『夕陽は赤く』

…といったヒット曲の数々を歌っていた。


「加山さん、やっぱりカッコいいなあ…」

僕が思わずそう言うと、父は、ニコニコしていた。

「どうだ、来て良かっただろう…」

父はそう言っていたが、勿論、それは言うまでもなかった。


加山雄三は、興が乗って来ると、

「パシフィック・ホテル」

のプールに飛び込んだりしていたが、そんな加山雄三の姿を見て、集まった人達からは、ヤンヤの大喝采が起こった。


そして、加山雄三の他に、ザ・ピーナッツをはじめ、何人かの歌手の人達も歌っていたが、パーティーも終盤になった頃…。

「えー、皆さん。ここで、新人歌手を紹介したいと思います…」

と、改まった調子で加山雄三が言うと、一人の女の子が、ステージ上に姿を現した。


「さあ、皆さんにご挨拶して…」

加山雄三に促され、「新人歌手」と紹介された女の子は、少し緊張気味の様子で、集まった人達にペコリと頭を下げていた。


「皆さん、宜しくお願いします…」

僕は、会場に集まった人達に対して挨拶をしていた、その女の子の姿を見て、ハッとした。


「ユリコ!?」

僕は思わず、そう言いそうになった。

そう、その女の子は…紛れもなく、僕が、

「海の家」

で会った、あの女の子…ユリコだったのである…。




<第6章・『恋は紅いバラ』>


「皆さん、初めまして。『エリー』と申します…」

彼女…僕が勝手に心の中で、

「ユリコ」

と呼んでいた彼女は、

「エリー」

と名乗り、自己紹介をしていた。


その時、彼女も僕の方に気が付くと、一瞬、ハッとした顔をして、思わず、目を見開いていた。

「どうして、貴方が此処に…?」

彼女は、声にこそ出さなかったものの、その表情を見ると、その顔は、そのように言いたがっているように見えた。

だが、彼女はすぐに笑顔を取り戻した。


「それじゃあ、1曲、歌ってもらおうかな…」

加山雄三に促され、彼女は歌い始めた。


その曲は、歌手としての加山雄三のデビュー曲…。

『恋は紅いバラ』

という曲だった。


あの時…「海の家」で聞いた、彼女の声も素敵だったが、こうして歌っているのを聴くと、彼女の声はもっと美しかった。

会場の誰もが、彼女の伸びやかで澄んだ歌声に聴き入っていた。


そして、僕はステージ上で歌う、キラキラと輝く彼女の姿に釘付けになっていた…。




<第7章・『夜空の星』>


彼女…。

「エリー」

と名乗った、彼女が歌い終わると、会場からは万雷の拍手が巻き起こった。

彼女は、会場に向かってお辞儀をしたが、その顔は上気していた。


「いやいや、本当に上手かったよ…。皆さん、彼女にもう一度、大きな拍手を!!」

加山雄三がそう言うと、会場からは更に大きな拍手が起こった。


ちなみに、この会場には本物の星由里子も来ていたが、今、歌ったばかりの彼女、

「エリー」

と名乗った彼女も、星由里子に負けないぐらい…いや、僕から見れば、星由里子よりも更に美しく魅力的に思われた。


その後、加山雄三が再びステージに上がり、何曲か披露している間…。

僕は、コッソリと、彼女…「エリー」の元に近寄った。

そして、彼女に対し、今日、自分が此処に来ている事情を、手短に伝えた。


「僕、ビックリしちゃったよ…。君、歌手だったんだね!!君の歌には感動しちゃった…」

僕がそう言うと、彼女は、ちょっと照れ臭そうな顔をしていたが、

「有り難う…」

と言って、僕からの賛辞を素直に受け取っていた。


「私、歌手と言っても、まだデビューもしていない新人だから…」

彼女はそうも言っていたが、僕は、

「君なら、きっと凄い歌手になるよ…」

と、心の底から思っていたので、その思いを彼女に伝えた。

「有り難うね…」

彼女は再びそう言うと、嬉しそうに微笑んでいた。


気が付くと、すっかり夜の帳が落ち、

「パシフィック・ホテル」

の上には、満天の星空が輝いていた。


僕は、その星空を見上げると、彼女に、

「君は、必ずスターになるよ…」

と、言った。


僕は普段は、そんなキザな事(?)を言うような男ではなかったが、その時は、思わずそういう事を言ってしまうような気持ちになっていたのである。

それを聞いて、彼女も思わず、

「フフッ…」

と、笑っていた。


「ねえ…。また、あの『海の家』に来られる?」

僕がそう言うと、彼女は、

「ええ…。この夏の間は、ずっと茅ヶ崎に居るから…」

と、答えた。


「そうなんだ…」

僕はそう言ったが、

「夏の間」

という事は、この夏が終わると、彼女は居なくなってしまうのか…と僕は思った。


しかし、その時は、僕も彼女も、それ以上は何も言わず、二人して、夜空の星をいつまでも眺めていた…。




<第8章・『海 その愛』>


その後、彼女は約束どおり、

「海の家」

に来てくれた。

そして、次の日も、またその次の日も…。


気が付けば、僕と彼女は、毎日、会うようになっていた。


ちなみに、

「エリー」

というのは、彼女の「芸名」だったが、彼女はこっそりと、僕に彼女の「本名」を教えてくれた。


だが、ここでは敢えて、彼女の「本名」は打ち明けない。

そこで、仮に、彼女の名前は、当初、僕が心の中で思っていた、

「ユリコ」

として話を進める事としたい。


彼女…「ユリコ」と僕は、すっかり親しくなり、毎日、

「デート」

のような事もしていた。


僕とユリコは、砂浜で口づけを交わしたりしていたが、そんな時、僕は天にも昇るぐらい、幸せな気持ちになっていた。

その頃、僕は、前から練習していた、ヘタクソなエレキ・ギターを弾いて、ユリコのために歌ったりしていた。

勿論、僕のギターの腕前は、本物の加山雄三には全く敵わず、天と地ほどの差は有ったが、それでも、ユリコはいつも、僕が歌うのを聴いてくれていた。


そして、僕が弾く下手なギターに合わせて、ユリコは歌を聴かせてくれたが、本当に素敵な歌声に、僕はいつも聴き惚れていた。

「海の家」

での仕事が終わると、僕とユリコは手を繋ぎ、茅ヶ崎の海岸を散歩したりしていた。


ふと、海の向こうを見ると、茅ヶ崎の海の象徴…。

「エボシ岩」

が、遠くに微かに浮かんでいるのが見えた。


「エボシ岩って、何か、いつ見ても不思議ね…」

ユリコはそう言っていたが、

「エボシ岩」

が、僕とユリコの事を見守ってくれているように、僕には思えた。


僕達は、時には、江ノ島の方まで足を伸ばし、江ノ島に架かる桟橋の上で、僕達は月を眺めたりしていた。

「このまま、時が止まってしまえば良いのに…」

そんな時、心の中で、僕はいつもそんな事を思っていた。


だが、それと同時に、僕の心の中では、ユリコの言葉…。

「夏の間は、茅ヶ崎に居る…」

という言葉が引っ掛かっていた。


「この夏が終わったら、ユリコは…」

僕は、その事を思うと、寂しくてならなかった。


僕はユリコの横顔を、そっと見てみた。

月に照らされたユリコの横顔は、とても美しかった。

だが、ユリコがその時、何を思っていたのか…その心の中は、僕にはわからなかった…。




<第9章・『君といつまでも』>


8月も後半になると、あれだけ多かった海水浴客も、少しずつ減って行き、

「海の家」

の忙しさも、徐々に落ち着いて来ていた。


それと共に、段々とユリコの口数も減って行っているように思われた。

その頃、ユリコの心の中は、葛藤で揺れていたに違いない。


何故なら…僕がギターを弾き、ユリコが歌う時…ユリコの歌声に、ほんの少し、憂愁の色が混じっているように、僕には聴こえていたからである。

これだけ、いつもユリコの歌声を聴いているのだから、その事が僕にはよくわかった。


僕は、自分が働いている、

「海の家」

を、改めて見た。


そして、「国道134号線」沿いに建つ、煌びやかな、

「パシフィック・ホテル」

に目を移した。


その二つの建物は、あまりにも対照的だった。


方や、オンボロな「海の家」であり、それに比べると、「パシフィック・ホテル」は、キラキラと輝いていた。

それは、ただのアルバイト学生に過ぎなかった僕と、華やかで煌びやかな芸能界で過ごして行くユリコと…二人の境遇の違いを、まざまざと表しているように思われた。


それでも、僕はもはや、自分の気持ちを抑えられなくなっていた。

「ねえ、このままいつまでも、君と過ごしていたいよ…」

ある月夜の晩…とうとう、僕はユリコに、そう言ってしまった。


その時のユリコの顔を、どう形容したら良いのか…僕にはわからないが、一つ言えるのは、ユリコもまた、とても悩んでいるに違いない…という事だった。


「ちょっと…考えさせて…」

ユリコはそう言った。


それ以上、僕達は何も言えなくなってしまった。

「やっぱり、夏が終わったら、ユリコは…」

僕の心は、そういう寂しい気持ちでいっぱいになっていた…。




<第10章・『夕陽は赤く』>


8月の終わり…。

江ノ島に、赤い夕陽が沈もうとしていた。


その日…僕とユリコは、茅ヶ崎に在る、場末の、

「モーテル」

で過ごしていた。


さっきも書いたが、僕は一介のアルバイト学生で、お金などは無い。

こうして、ユリコと一緒に居る時は、

「モーテル」

で過ごすのが関の山だった。


そして、その「モーテル」の窓からは、あの夢の城…。

「パシフィック・ホテル」

が見えていた。


夕陽に照らされた、

「パシフィック・ホテル」

は、今日も美しく輝いていた…。


「やっぱり、僕とユリコでは、住む世界が違う…」

その時、僕はハッキリとそう悟っていた。


そして、僕はとても辛かったが、ユリコに対し、

「別れよう…」

と、伝えたのである。


「こうして、君と過ごすのは、これが最後にしよう…」

僕がそう言うと、ユリコの頬から、涙が伝っていた。


本当は、僕の方こそ泣きたかったのだが、

「ここで泣いたら、男が廃る…」

と思い、僕は何とか涙を堪えていた。


「こんな時…。加山さんなら、決してカッコ悪い姿は見せない筈だ…」

僕は、敬愛する加山雄三の事を思い、最後に精一杯、カッコ付けようとしていた。


僕と彼女は、最後に口づけを交わした。

彼女と交わした最後の口づけは、彼女の涙の味がした。

僕は、それをいつまでも忘れなかった…。




<終章・『旅人よ』>


あれから、どれぐらい時間が経った事だろうか…。


人生を、

「旅」

に喩えるとするなら、僕とユリコは、あの夏、ハッキリと行く手が分かれ、僕とユリコは、別々の旅路を歩き始めた。


その後、僕にもユリコにも、色々な事が有ったが、それはまた別の話である。


冒頭でも言ったが、僕はかつて、

「パシフィック・ホテル」

が在った場所に、久し振りに行ってみたが、今、そこには何も残っていない。


かつて、ユリコという人が輝きを放っていたステージも、勿論、そこには無かった…。


「人生とは、『旅』か…」

僕は、心の中で呟くと、かつて、

「パシフィック・ホテル」

が建っていた、小高い丘を降りて、

「国道134号線」

沿いを、ゆっくりと歩き始めた。


今日もまた、江ノ島に夕陽が落ちようとしていた。

僕は、その夕陽を見ながら、かつて愛した人…ユリコの事を思い出していた…。




『HOTEL PACIFIC』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ


ギラギラ輝く太陽が

時代ときの片隅へ墜ちてゆく

錆びれた海辺の国道ルートには

現在いまもセピアの幻影かげが揺れてる


八月の濡れた誘惑が

水着の奥まで沁みた時

江の島に架かる桟橋で

恋の花火が浮かんで消えた


風に燃える陽炎みたい

空と海の偶像アイドル

灼けた Sun-Tanned の肌に

胸が Jin-Jin と響く

夏の太陽が 嗚呼 燃え上がる To me


愛…渚に今日も

寄せては返すでしょうか?

砂の上で口づけした

真夏の Pacific Hotel


海よりまばゆい情熱が

くれない夕陽に染まる頃

茅ヶ崎あたりのモーテルにゃ

夏の終わりが涙で暮れた


森に眠る古城のように

夢は遥か蜃気楼


さらば青春の舞台ステージ

胸が Jin-Jin と疼く

だのに太陽はもう帰らない To me

何故…砂漠のように

心が渇くでしょうか?


エボシ岩を見つめながら

夜霧にむせぶ シャトー(château)


ああ君の…

灼けた Sun-Tanned の肌に

胸が Jin-Jin と響く

夏の太陽が 嗚呼 燃え上がる To me

愛…硝子のように

敢えなき運命さだめでしょうか?

砂の上で口づけした

真夏の Pacific Hotel

今でも忘れない Woh, oh, oh…

涙の Pacific Hotel


So I love you…

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