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スキル借金回収人

掲載日:2026/04/03

借金で苦しむ人を助けながら、主人公も自分の借金を返していく……いわゆる「Win-Wン」な話です。

パン一斤、銅貨一枚。

銅貨百枚、銀貨一枚。

銀貨百枚、金貨一枚。

金貨百枚、スキルポイント1。


つまりスキルポイント1で、パン一万斤。


3,247,800SP。


パン324億斤。この街のパン屋が3000年かけて焼く量。


俺の首には、事実上「人類の歴史より長く働け」と書いてある。


「レント・カーネギー。火魔法Lv4、延滞14ヶ月」


受付の女が無機質に読み上げる。


「元本470SP、複利月10%――総額1,750SP。お預かりします」


指を鳴らされる。


右手から、音もなく炎が消えた。煙も、熱も、焦げ跡も。Lv4まで育てた火魔法が跡形もなく消える。


隣の席では治癒魔法を取られた女僧侶が床に泣き崩れている。

向かいでは剣術Lv3を奪われた戦士が「ふざけんな」と叫んでいる。

誰も止めない。


これが女神銀行のルール。借りたものは返せ。返せなければ奪う。奪われた者はただの負債者になる。


俺は右手を見下ろした。


火傷の痕すら消えている。3年間、毎日鍛えてきた感触がゼロになった。


膝が震えた。自分でも意外だった。こんなに簡単に価値が消えるんだ。


は、と笑った。泣くよりマシだ。


---


組合の宿。壁のない四畳半。月租50SP。今月分はもう払ってない。


ベッドに倒れ込む。天井の染みがじっとりと広がっている。


視界の端で何かが動いた。


壁に貼ってあった火魔法の認定証。紙くずになったそれの余白に、文字が浮かんでいる。


『あなたは3年前、ここに血の署名をした』


記憶が戻る。


そうだ。火魔法を借りるとき、証書の端に親指を切って押した。絶対に返してみせる、と念じながら。


その血が今、光っている。


『債務整理機能、起動』


次の瞬間、世界が白く塗り替わる。


無限に続く廊下。壁には無数の数字――スキルの元本と利息の履歴。天井には巨大な残高。


3,247,800SP。


『起動条件――債務者が“本当のゼロ”になったとき。あなたは今、何も持っていない。だからこそすべてを変えられる』


声は幼い。少女のように澄んでいる。


「誰だ」


『リコ。元・女神銀行システム管理者。現・債務者の味方』


「元」


『追い出されたの。貸しすぎて、回収できなくなって』


それで俺に何をさせたい。


空中にパネルが現れる。


債務整理モード

・対象の債務を引き受ける(買値:債務額30%)

・スキル分解→再構成(手数料20%)

・整理完了で忠誠度獲得


『あなたと同じ借金地獄の人を助けて。スキルを回収して再構成する。あなたの債務は減り、相手は自由になる』


「で、お前の得は」


リコの声が初めて揺れた。


『私にも負債があるの。あなたの成功が私の返済条件』


なるほどな。


俺は数字を見上げる。


「最初のターゲットは」


『提示する』


フィリア・ノースブルグ

元A級冒険者・現奴隷

債務12,800SP/所有スキル:治癒Lv5、聖女の祝福

市場価格50,000SP/現在価格8,000SP

備考:あと3日で教会に売却


「聖女の祝福」


『女神から直接付与された希少スキル。この世界に12人。教会は彼女たちを“聖遺物”として飼う。祈りを強制し、スキルを搾取する』


飼う、ね。


パネルを睨む。


「買う」


『資金は』


「お前が貸せ」


長い沈黙。


『月5%複利なし。これが限界』


「交渉成立」


---


奴隷商グレイマーケット。


鉄錆と汗と諦めの匂い。


檻の中の奴隷たちは全員、首に細い鉄環――スキル封じの針金のようなそれをはめられている。あれがあるとスキルは使えない。外すと暴走する。


「おう、レント」


店主ガッツ。歯が三本抜けている。


「火魔法取られたってな。借金の相談か。それとも売られる準備か」


「フィリア・ノースブルグを買う」


ガッツの笑顔が消える。


「8,000SP出せるのか」


カウンターに融資証書を叩きつける。女神銀行の刻印。偽造不可能。


ガッツの顔色が変わる。


「な、なんで銀行が――」


「売るのか売らないのか」


奥の檻から銀髪の女が連れ出される。


フィリア・ノースブルグ。


紫色の瞳はどこも見ていない。諦めきった目。でも――。


左手の薬指。他の指は伸び放題なのに、そこだけ爪が短い。


何かを掴もうとした痕跡か。それとも。


「フィリア」


名前を呼ぶ。眉が一ミリ動いた。


生きてる。


「鉄環を外せ」


「は?正気か。こいつは元A級――」


「債務整理をする。スキルが必要だ」


ガッツが唖然とする。俺は許可証を掲げる。銀色の光。


「な、なんで一般人が回収人の資格を――」


「昨日から肩書が変わった」


フィリアの前にしゃがむ。


「お前の債務12,800SP、俺が買い取る。スキルは担保。その代わり――」


鉄環に手をかける。


「3ヶ月、俺のために働け。完済すれば自由だ」


カラン、と乾いた音。


鉄環が外れる。フィリアの身体から金色の光が溢れる。治癒魔法のオーラ。首元に新しい刻印――三日月と天秤。債権者はレント・カーネギー。


彼女は俺を襲わない。できない。債務整理契約の効力だ。


「うそ……」


フィリアが自分の手を見つめる。震えている。


『債務整理完了』


獲得12,800SP/手数料▲2,560/純利益10,240SP

忠誠度65/あなたの債務残高3,239,560SP


「立て」


手を差し出す。


フィリアは自分の手を見てから、ゆっくりとそれに触れた。


指が冷たい。でも握り返す力は意外に強かった。


「なぜ私を」


「不良債権を買っただけだ」


「それ以外の理由は」


目をそらさない。


「教会がお前を飼うのが気に入らなかった。それでいいか」


フィリアの口元が初めて動いた。


笑ったように見えた。


---


そのときだった。


馬の蹄の音。複数。


ガッツが窓を覗いて顔を青ざめさせる。


「な、なぜここが……」


銀色の鎧。マントの三日月と天秤。教会騎士団――女神の番犬たち。


「フィリア・ノースブルグは教会の資産だ」


先頭の騎士が馬から降りる。仮面の下の目が冷たい。


「債務整理士とやら。その権限、誰が許可した」


俺はフィリアを背にかばう。


「女神銀行だ。文句は銀行に」


「銀行は女神の機関。お前のような蟲が――」


騎士が剣を抜く。刃にはスキル封じの刻印。


『レント。戦闘力ゼロ。逃げて』


「逃げる場所があんな」


『ある。地下――違法スキル市場への通路』


フィリアの手を強く握る。


「走るぞ」


「え――」


「いいから」


ガッツのカウンターを蹴り飛ばす。裏手の扉。地下への階段。


背後で怒号。


「捕らえろ。生かして帰るな」


フィリアがつまずく。俺は腕を引っ張る。暗闇の中、手探り。


『左』


壁に手を当てる。隠し扉――開く。


飛び込む。


その瞬間、床が崩れた。騎士の剣が光る。


「ちっ」


扉が閉まる。完全な暗闇。


フィリアの荒い息。俺の心臓の音。


「はあ……はあ……あなた、まさか――」


「ああ。これで俺もお前も教会のお尋ね者だ」


暗闇の中で彼女の手が震えている。


でも離さなかった。


『目的地まであと200メートル』


リコが静かに言う。


『その先は――あなたたちの借金次第』


フィリアが暗闇の中でささやいた。


「教会を潰すのを手伝って」


「何」


「それが私の利息。あなたが私の借金を買ったなら、私はあなたのために祈る。でも――」


彼女の手が強く握り返す。


「いつか私の借金をチャラにしたら、そのときは私の願いを聞いて」


俺は笑った。


「交渉成立。ただし――」


暗闇の中で前に進む。


「金利は高いぞ」

読了ありがとうございました。


あなたの「時間」というスキルを、この物語に投資していただき、感謝します。


もし少しでも「面白かった」と思えたなら——ぜひ☆やブクマで、その“利息”をお支払いください。


では、またお会いしましょう。

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