荒れた魔界(クレイエル)
記憶という名の真実を探す目的の旅。
はっきり言って終わりが無いに近い。
5年前から始めたこの旅は命にかかわることが非常に多かった。
運が良い時は、何もなく町や村を歩きまわって一日が終わる。
運が非常に悪い時なんかは、並大抵の人間がやりそうにないことを、クレイエルの悪魔皇帝は行ってきた。
何故『悪魔皇帝』という異名が付けられたのか、分かる人間はこの異名で呼ぶ人間の中でも極わずかだろう。
分からない派の多数は噂による知ったかぶりに決まっている。
その中でも悪魔皇帝を別の人間だと思っている人間もいるかもしれない。
無敵、最凶、殺人鬼、冷酷。その全てを合わせ持つ女帝。それが悪魔皇帝。
リフィール村を出てから、かなりの時間が経った。
エリアは占い秘書デュアルに貰った『ムーンライトロッド』をとても丁寧に持ち運んでいた。
山のふもとが見えてきた時、ふとエリアはこんな質問をした。
「姉さん、ずっと気になっていたんだけど。あたしと姉さん、同じマリエ様から産まれたのに、どうして苗字と髪の色が違うの?」
いくらシャルルが仮名を使っているとしても、エリアの苗字との違いがあった。
髪の色を染めるということをエリアは知らなかったため、分からないことを全て姉に押しつけていた。
「父親が違うからな。マリエは二回離婚してるんだよ」
「マリエ様って以外に意地悪なんだね……ん?」
突然、エリアの持っている杖が眩しい光を放った。
「姉さん、これどうなってるの!?」
シャルルが返答する前に光がおさまっていく。
「な、何?今の……」
エリアはとっさに姉の顔を見る。
少し笑っているようにも見えるが、やっぱりシャルルは冷静だった。
「こんなところに隠れていたんだな……下衆野郎が」
シャルルはエリアの杖を奪い、上部に付いている宝玉に手をかざした。
すると、また杖が眩しい光を放ち今度はエリアも光を放っていた。
「ね、姉さん! 何したの!」
エリアが驚く間も無く、光が消え去った跡にはエリアより小さな女の子が横たわっていた。
髪は長くて鮮やかなピンク色をしている。
そんな色白の女の子の背中に、綺麗で大きな水色の羽が付いているのにエリアは気がついた。
「きっきみっ大丈夫!」
エリアに揺さぶられて女の子はようやく目が覚め、立ちあがった。
「エリア様ぁ……ご無事ですか?」
「あたしは全然大丈夫だけど、きみは」
「この……は大きく成長なされたエリア様に会えて光栄です」
名前が上手く聞き取れなかったが、シャルルはこの少女を知っている様だった。
「この私の前で随分と逃げ回ってくれたじゃないか。こんな屑のような妖精は、生まれて初めて見た。そうだろう? テラード」
「ひっ……」
テラードという名の妖精は、忠誠を誓っているように見えるエリアとは逆。姉であるシャルルを前にかなり脅えていた。
「テラード? 確かにそう聞こえたかも。でも逃げ回るって?」
「エリア様……どうしてこんな悪魔皇帝と一緒にいるのですかっ!?」
「悪魔皇帝? 誰のこと?」
シャルルは、その時ベリーズがエリアに悪魔皇帝の話をしなかったことに気がついた。
あれだけ言っていたのだからてっきり話しているのかと考えてしまうほどだったというのに。
「気づいていなかったご様子で。悪魔皇帝とは……そこにいるシャルルのことです。」
「えっ姉さんが? 嘘言わないでよ。寝ぼけてるの?」
あきれるエリアに対してテラードは言った。
「エリア様、これから言うことをよく聞いてください。その女は悪魔の名の通り、何千、何万の人間をこっ……」
「黙れカス。貴様にそれを言う権利があると思っているのか?」
「あります!」
この返答にシャルルはほんの少しだけ驚いた。
「わたくしが、エリア様の……使用人だからです!」
迫力のありそうでない迷い無き返事が返ってくる。
「……これから聞く質問に答えてもらおうか」
シャルルはいつのまにか棍の刃先をテラードの額に突きつけた。
「どうして今更になって姿を現した?」
「エリア様に……今のクレイエル帝国を知らせるためです。なのでエリア様が持っていた杖を光らせて気づいてもらおうと思いまして……それはともかく、最近のクレイエルがおかしいのです」
「おかしい?」
エリアにはクレイエル帝国や悪魔皇帝が何のことか分からなかったが、とりあえず黙って聞いていた。
「エリア様や悪魔、いえシャルル様がここにいるのに、クレイエルにお二人を名乗る人物が現れたんです。大して似ていないのですが、兵士達が魔術をかけられたようで……なんでもその2人の言うことを聞いてしまっているのです。なのでクレイエルが奴隷国家となってしまい……」
「何?」
「毎日……たくさんの人間が殺されているのです。おまけに、今日なにか演説を行うようなのです。お願いです。一度クレイエルに帰って頂いて……」
「旅が終わるまで国に帰るつもりはなかったが……仕方ない」
シャルルは、テラードに突きつけた棍ではなくもう片方の棍を回し、小声で何かをつぶやいた。
すると大きな黒い渦がエリアの目の前に現れた。
「これに飛び込めばクレイエルに行ける。お前は先に行ってろ」
「えっ何? きゃぁああっ!」
エリアは何が何だか分からないまま渦につき飛ばされた。
悲鳴が聞こえなくなったころ、残ったテラードはシャルルに言った。
「わたくしも……」
「ふざけるな。貴様はあの時何をした? あいつが産まれたのに祝福の宴を妨害し、赤ん坊のあいつを連れて逃亡した。そのせいでクレイエルに変な化け物が現れ、私も血だらけになって……」
「確かにあれはわたくしのせいです。ですが、過去のことを今考えても前には進めません!」
「屑は黙れって言っているんだ。まっ、どうせここで姿を現してくれただけでいい。貴様は、この武器の餌になればいい」
シャルルは、両手にある棍を物凄い早さで回す。
「エリア様ぁ……わたくしは、餌にされるのです……ご無事を願いま……す」
バスっととても鈍い音がした。
妖精であるテラードは血を流さず倒れ、そのまま光に包まれ消えていった。
「やっぱり、二つあった方が私の性に合っているな。」
シャルルは、デュアルが作ったレプリカに映っている自分の顔を見た。
血の色をした赤い目は、怒りを表したように細くなっている。
「ニセ者か・・・今日は面倒なことが多くなりそうだな。」
棍を指輪にしまうと、シャルルは渦の中に飛び込んだ。
クレイエル帝国に帰るのはちょうど5年ぶりだった。




