棍双魔術師VS謎の占い秘書
「ねえさぁーん! はやいよー! 待ってー!」
「姉さんみたいな魔法使いになりたいなぁ……」
村を出て5分。エリアは歩くのが遅くて何度も似たような言葉を繰り返していた。
そんな妹をうるさいと思いつつ、シャルルは黙って山を下山していた。
しかし、しばらくは戦わなくてよさそうだと思っていたシャルルの予感はすぐに崩れることとなった。
「そこの2人、ちょっと待ちなさい。」
聞き覚えのない声が2人を呼びとめた。
目の前に黒いフードと黒いマントを着けた女が立っている。
「誰?姉さんの知り合い?」
エリアの問いにも答えず、女はこっちをまじまじ見つめてくる。何かを観察しているかのように。
「私はこんな女知らない」
「私はとある学院の秘書をしております、デュアル・ソディと言います。占い修行にここに来ております。失礼ですが、私の占いが合っているかどうか確かめさせてもらえます?」
語尾に必ずますを入れてしゃべる女デュアルは、2人に許可をとって聞いてきた。
「そこの青髪さんは、かなりの凄腕の棍双魔術師のようであります。しかし……双なのに一つしか棍をお持ちでないようであります。合ってます?」
変なしゃべり方をするのでシャルルは少しいらついていたが、エリアの方は興味津々だった。
「一つしか持っていないところをよく分かってるのは褒めてやるが、その変なしゃべり方と青髪さんという呼び方をやめてほしいところだな」
「姉さん魔術師だったの! いいな、いいな! あたしもなりたい! でも……こんそうまじゅつしってなに?」
デュアルは少し考えるとすぐに口を開いた。
「棍双魔術師……それは人類が存在したときから存在していたと言われる、二本の棍と強力な攻撃魔術を操る人々のことであります。今はあまり伝わっていないであります。が、それにしてもかなりの腕となると私のプライドが許しませんであります。ここで、戦いを申し込んでよろしいでありますか? シャルルさん、この勝負、あなたが勝ったらあなたの棍のレプリカを作ることと、そこのエリアさんを魔術師にすることを約束します」
「負けたら?」
「私の借金1億円を取り立てして頂きます。あなたの職業なら楽勝でありましょう?」
何でも分かるところを少し自慢しつつ、デュアルは全長130cm程の杖をどこからか取りだした。
その杖は金色の宝玉の下に、銀色の龍を模った金属が巻きついていて見ているだけで輝いているようだった。
「こんなところで私の正体を知っている奴と戦うことになるなんて予測できなかった」
シャルルは右手から暗黒の光を放ち、デュアルの杖の2倍ほどある棍を出した。
占い通り一本だったが、エリアは初めて自分の姉が戦うところを見て、何も言えずきょとんとしていた。
「それでは商談成立のようでありますね。一つ条件、相手を殺してはいけないであります。いいですね?それでは……いきます!」
デュアルは今朝の銃だけのベリーズとは違って、杖で殴ったり雷属性の魔術など多数の技を持っていた。
相手を殺したらいけないのにどうやって勝ち負け決めるのか。シャルルには分からなかったが、とりあえず攻撃はせずに防御して相手が疲れるまで待つことにした。
「逃げてばかりでは……勝負にならないであります」
「だから、その勝負の勝敗のつけかたが分からなかったら意味がない」
「はぁはぁ……相手があきらめるまで……であります。」
「それだと永遠にこれが続くだけだ」
デュアルの方はかなり息を切らしていたが、シャルルは普通に話していた。
「絶対に……借金の取立てを……してもらうであります」
「だから、その変なしゃべり方やめろ貧乏野郎。もう限界なら負けを認めるんだな」
「悪魔皇帝……あのレプリカと魔術師代の合計はいくらすると思って……」
「知らん。元はと言えば貴様が勝手に言ってきたことだろう」
即答を聞いてデュアルはもっと苦しそうになった。
即答を苦しそうな相手に返すのはエリアだと絶対にしないだろう。
「高いのは確かであります……っ」
「さっさと負けを認めな」
「姉さん! もういいよ! あたしが払えるだけ払うから!」
そう言ってエリアは自分の財布を取り出した。
「ちょっと待て。それは旅の無事を願って村長夫妻がくれた金じゃないのか?」
「そうだよ。でもいいの」
「いいわけないだろ。この先どうやって生活するつもりだったんだ?」
「あ」
辺りがしらけた。
「やっぱり……かわいそうだし……でもなぁ。よし、じゃあ1万円!」
エリアは、財布の札束から一枚だけデュアルに手渡した。
「なんて優しい方であります。仕方ありませんね。レプリカを今すぐ作るであります」
デュアルは攻撃をやめて杖で魔方陣を画いた。
刹那、シャルルの手にあるものと全く同じものが目の前に現れた。
「今思ったんですが、この二つの仕事にはお金がかかりませんであります。エリアさん、回復専門の僧侶と攻撃専門の魔術師どちらがいいでありますか?」
エリアは迷わず言った。
「回復だよ!みんなを助けたいもん」
「心優しい方でありますね。そう言うと思ってもう術を施したであります。どこかの悪魔とは大違いであります」
「どこかの悪魔って誰のことだ?」
「いえ、なんでもないであります。回復のやり方はそこのお姉様に聞いてくださいであります」
エリアも何故か自分の姉が少し恐くなった。
デュアルとシャルルでかなりの身長差があったので、確かに恐く見える。
「エリアさんに敬意を表してこの私の『ムーンライトロッド』を差し上げるであります。この杖は持っているだけでその人の性格によってさまざまな能力が分かるのであります。私の場合は目の前の人間の情報が分かるという優れた能力でして……あっ」
「占いはインチキだったんだな」
「はいはい、私はインチキ貧乏魔術師でありますよぉ……」
デュアルは寂しそうな声で、エリアに金と銀で構成された杖『ムーンライトロッド』を手渡した。
「それではさようならでございます」
「バイバーイ!」
一言言い残すと、デュアルはまた黒いマントを羽織って去っていった。
「姉さん! 口調悪すぎ!」
「そんな口聞くと、回復のやり方教えないぞ?」
「うっ……すみませーん。早速だけど教えてねえさーん!」
エリアはシャルルにしがみついた。
「単に回復したいと思う人物を懸命に思えばいいだけなんだが、攻撃と原理は同じだ。だが、一つ条件がある」
「なになに? なんでも言ってよ!」
「何があっても私だけは回復するな」
「えーっ! なんでー! 姉さん怪我したらどうするの!?」
返事がない。シャルルもその質問に少し焦っていた。
「分かった。さっきの人みたいにプライドってやつだね」
エリアは勝手に理解して杖を両手に取った。
「それにしても、かっこいいなぁ……」
「お前はまだ理由を知らなくていいんだよ」
シャルルは最後に小声で言うと、また下山を始めた。




