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Darkness Empire  作者: 豹牙
過去編 狂ったモノ
35/36

記憶の欠片 Setsuna

「ここは、どこ?」

 気が付いた時、刹那がいたのは研究施設のような所だった。

そして、横にいるのは変なサングラスをしている男。

見た目からかなり歳をとっている様だ。

「気が付いたか?」

 男は不気味な笑みを浮かべて言った。

「だ、誰?」

「わしの名はキリアル・デニッシュ。三世界を征服する男だ」

「三世界?」

 聞きなれない言葉に刹那は首を傾げる。

「今日から貴様はここで働くのだ」

「えっ?」

 身に覚えの無いことを言われ、自分はさっきまで家にいたのにどうしてここにいるのだろうと考える。

刹那は今まで何が起こったのか思い出した。



 それは、家で兄瞬矢と朝食をとっていた時だった。

「ごめぇーんくださぁーい」

 どこかやる気のない声がした。

「お客さんか? こんな朝から」

「おれが行って来るよ」

「ああ」

 刹那が玄関に行くと、そこには眼帯をして、屈強な肉体を持つ男が立っていた。

迷彩柄のズボンと、黒い長靴。

刹那は男を軍人と判断した。

だが、軍人がこの家に何の用だろうか。

「もしかして弟の方か?」

 男はしゃがれた声で聞いてきた。

「だれ?」

「お前の兄は死んだか?」

「兄ちゃんなら、この部屋にいるけど」

 刹那の返事を聞いた途端、

「なんだと!?」

 男は目を見開き、土足のまま家に入ってきた。

よく見ると、手には拳銃が握られている。

それを見た刹那はとっさに男の前に立ち、

「ちょっと待ってよ! 何の用?」

 と聞いた。

「全てキリアル様の命令だ。兄を殺し、弟を誘拐する。お前の母、舞を俺に殺させたのもな」

「おまえ、お母さんの仇……!」

 刹那は、母の仇を取りたい一心で花瓶で男の頭を殴った。

だが、男に当たった花瓶は虚しく割れ、男は無傷のままだった。

「そう焦るな」

 男は笑って手にした拳銃の引き金を引いた。

弾丸は刹那の左脇腹を貫通した。

意識が薄れていく。

「刹那!」

 兄の声が聞こえた。

ぼやけていく視界の中で、分かったのは兄が家の家宝である日本刀を持っていたことだけだった。



 弾丸は麻酔弾だったのだと、刹那は気づいた。

こうして今自分が生きているのがその証だ。

だが、兄の姿はどこにもない。

「兄ちゃんは!? どこ!?」

「お前の兄は、殺し屋に任せておいた。まあ命はないだろう」

「そんな! 嘘だ! 兄ちゃんが死ぬわけない!」

 刹那が起き上がっても、身体は思い通りに動かない。

麻酔がまだ効いている。

「まあ安静にしていろ。わしはもう一人の異界大魔法使い、ユーリ・ティアリスと昔蘇生魔術を研究した男だ。わしは人を生き返らせることができる。わしの言うことを聞けば、兄とまた一緒に暮らすことができるぞ」

「ユーリさんと?」

 刹那は自分が生まれて間もない頃、家でいろいろな話をしてくれたユーリを思い出した。

父、稜との旅話はもちろん、魔界や異界のことも話してくれた。



「刹那、瞬矢、お前はまだ幼いから意味が分からないと思うが、私の独り言を聞いてくれ」

 稜が家にいなかったある日、刹那は兄とユーリと一緒にいた。

「私の妻は、極悪非道な女帝マリエだ。私が大魔法使いであることだけを理由に求婚してきた。それに耐え切れなくなった私は、嘘をつき、この女と離れようと思った」

「皇帝に嘘ついたのか?」

「ああ。そうしたらマリエが怒って、離婚させられたのだ。ちょうど子供が産まれた日にな」

 刹那にはマリエが誰だか分からなかったが、兄には分かっているようで、一方的に瞬矢が喋っている。

「私の願いを聞いて欲しい」

 ユーリは二人を見て言う。

「帝国にいる、娘に会いたいのだ。私が思うに、娘は幼いうちに皇帝という重荷を抱えることになるだろう。心配なのだ」

「どうして皇帝になるって分かるんだ?」

「予感だ。まもなく、マリエは死ぬだろう」


 その二年後に、旅に出たユーリの手紙によりマリエは殺されたと知った。

それも幼い娘の手によって。

ユーリは娘が赤い目をした殺人機械になっていたことを、分かりやすく伝えてくれた。

娘は、クルーエルの血を引いていなかったはずなのに、十字架をしていたという。

 この手紙を見て、兄はユーリの願いから娘を探すことにし、刹那は殺人機械とクルーエルの血について調べることにした。

だが、異界に行けないのでは何も進まなかった。



「わしの研究を手伝うだけだ。研究が上手くいけば、原界に送ってやる」

「じゃあ、手伝うから……家に返して」

 まだ八歳だった刹那は、キリアルの言うことをあっさり聞いてしまった。

キリアルは忠実な犬を見る目で刹那を見て、

「まず、お前はこの研究組織『ヴァレンティブラッド』のボスとなるのだ」

 と言った。

「おれが、ボス?」

「そうだ。頭のいいお前ならできるだろう?」

 今はキリアルの言うことを聞いた方がよさそうだ。

仇は強くなってから絶対にとってやる。

そう思った。

そんな刹那を見るキリアルは嬉しそうにしている。

 すると、

「キリアル様!」

 部屋に白衣の男が入ってきた。

「何事だ?」

 男はキリアルに耳打ちする。

話を聞いているうちに、キリアルの表情が険しくなっていく。

「なんだと!?」

「はい、……が殺されました」

 誰が殺されたのかはよく聞き取れなかったが、多分自分には関係ない。

刹那が施設にある薬品に目を通していると、白衣の男が去っていくのが足音で分かった。

「刹那」

「何?」

「殺し屋が、お前の兄に殺された」

「えっ」

「やはり、わしは奴を甘く見ていたようだ。奴はクルーエルの血を引いた両親によって生まれている。お前の何百倍も……というより人間の血よりもクルーエルの血を濃く引いているのだ。今は目立つ程の強さではないが、それでも並の異界人と戦えるぐらいだろう。大人になると、三世界そのものを変えるぐらいの強さを持つ可能性がある」

「兄ちゃんが……」

 あの殺し屋が兄に殺された。

それだけで、刹那は驚きを隠せなかった。

兄は十歳という若さで人を殺したのだ。

そんな刹那も殺し屋を殺そうとしたことには変わりは無い。

「刹那、お前はクルーエルの血を引いていなくても覚醒できる十字架を作るのだ」

「十字架?」

「お前の兄が着けていなかったか? 十字架のネックレスを」

「うん。でもどうすれば」

「とりあえずクルーエルの血を引いた者を探すのだ。血を取れ」

 そう言ってキリアルは去って行った。

それと入れ替わるように、たくさんの白衣の研究者たちが入ってきた。

「刹那様、私たちが全力でお手伝いしますので、クルーエルの血を引いた者を探してきてください」

 いろいろ言われて半分強制的に、刹那は研究所から出された。


 研究所があるこの町は、ブレイズ鉱山町というらしい。

全体的に茶色で、鉱物を運び出す男たちが目立つ町だ。

研究者たちが言っていたが、その鉱物が十字架を作る原材料らしい。

刹那はとりあえず、帰る道を忘れない範囲で歩くことにしたが、やはり分からない。

すぐにでも忘れそうだ。

「おいガキ、邪魔だ」

 立っていると太った男に怒られる。

常に邪魔にならないところにいないと、本当に殺されるのではないかと思えるぐらい睨み付けられる。

「ごめんなさい!」

 刹那は男に謝ると、走って逃げる。

男が怖かった刹那が前を見ずに走っていると、同い年ぐらいの女の子とぶつかった。女の子は力なくよろけて転んだ。

「ご、ごめん! 大丈夫?」

「大丈夫です」

 女の子は、血のような赤い目をしていた。

刹那はこの目を見て、思い出す。

「きみ、その目」

 間違いない。

ユーリが話していた、魔界のクレイエルシャドウによって育てられた殺人機械だ。

「殺人機械……」

 殺されるかと思った刹那は後ろに一歩後退する。

「いえ、私は人を殺しません。昔クレイエルシャドウに攫われたのに、殺人機械になる資格がないので捨てられた身です」

 女の子に殺意がないことを確認した刹那はほっと安心した。

「えっと、名前は?」

「コーネリア・メルケッティです」

 コーネリアという女の子は無表情のままで話す。

面白みがない女の子だと思いつつ刹那は、ふとコーネリアの首についている小さな十字架に気づいた。

「その十字架」

「私は覚醒できません。この通り」

 コーネリアが十字架を外す。

髪は白くならず、目も赤いままだ。

「この十字架は、殺人機械となった者だけを覚醒させるのです。でもそれには例外がいて、それがクレイエルのシャルル皇帝です」

 刹那は殺人機械で、クレイエルの皇帝ならユーリの娘だとすぐに分かった。

名前は初めて聞いた。

すぐにでも兄に伝えたいところだが、兄は今ここにいない。

「あのさ、よかったらもっと聞かせてくれない? 殺人機械のこと」

「はい。クレイエルシャドウを倒すためには、いろいろな人に情報を伝えるべきだと私は思っていますので」

 コーネリアは十字架を付け直すと、話し始めた。

「殺人機械となるためにC・Sに連れて行かれた人間は、三つの感情と記憶を奪われます」

「三つの感情?」

「私もよく覚えていませんが、どれも殺人を妨害するような感情だとC・Sのボス、ヘルバルムに聞きました」

「それで?」

「その後は、暗黒武器を授かり、厳しい修行の繰り返しです。年に一度開かれる審議では、修行者同士を戦わせ、勝ったらまた修行、負けたら捨てられます。

 私はそれで捨てられたのですが、ヘルバルムの隙を突いて記憶と感情を取り戻すことに成功しました」

「ヘルバルムについてはおれもよく分からないけど……すごいね、きみ」

 刹那が褒めても、コーネリアは笑わず、無表情だった。

「じゃあクレイエルの皇帝ってなんで例外なの?」

「シャルル皇帝はあの中では珍しい、望んでC・Sに入った人間です」

「何でそんなこと望むんだよ?」

「あの人はいつも言っていました。マリエを殺して、奴隷国家を終わらせると。ヘルバルムはそれに感心し、彼女だけ感情のみを奪い、記憶を奪いませんでした。マリエを殺したいという気持ちを忘れられたら意味がないからでしょう」

 魔界人はすごいなと刹那は思う。

原界では戦いをしないのが普通になっているからだ。

「いろいろ教えてくれてありがとう。あっ忘れてたけどおれ、暁月刹那っていうんだ」

「原界人!? 何故異界に?」

 コーネリアは驚いている。

「うーん……おれも攫われたんだ。クルーエルの十字架の研究を手伝ったら返してやるって」

「私も協力します」

「えっいいの?」

「はい。あなたが今すぐにでも原界に帰らないといけないという表情をしているので。その代わり、ヘルバルムの情報をいろんな人に流してくれませんか? 子供が攫われて悲しんでいる人もたくさんいるんです」

「分かったよ。じゃあ行こうか」

 刹那はコーネリアの手を取って研究所に走る。

この子のためにも、兄に伝えないといけないことが山ほどある。

キリアルが言うように、おそらく兄は刹那が思う以上に強い。

兄なら、ヘルバルムを倒すことも、ユーリの願いを叶えることもできるかもしれない。

そのためには、研究を成功させて原界に行かないといけないのだ。


 だが十年後、刹那の手を借りることなくヘルバルムは兄に殺害されたのだった。

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