図書室と幼馴染
24章 図書室と幼馴染
メイラン王国の奴隷国家が幕を閉じ、その翌日。
院長の奴隷の件は朝一に来た教師に気付かれて、その日のうちにマリアンド中に広まった。
院長は眠ったまま騎士団に連れて行かれた。そして、院長代行はあの中年教師が務めることとなった。
今日は授業が中止されて、学校内で自習になった。
皆、別の行動をとっている。
エミリアはエリアと会うために屋上に行っている。
瞬矢は弟、刹那の行方を探るために情報を集めている。
記憶を取り戻し、父を亡くしたシャルルは旅の目的を失った。
しかし帝国に戻る前に、まだやることがある。
それは、父が遺した蘇生魔術の本を探すことだ。
ユーリが何のために蘇生魔術を遺言に残したのかは誰も分からない。
自分を生き返らせろ、と言っているのではないと思った。
あの広い図書室に何があるのだろう。
とは言え、どうやって探せばいいのだろうか。
これも違う、と思いシャルルは本を元に戻した。
魔術関係の本棚は一通り調べたがそれらしきものはない。
デス・クルーエル関係は何度か見かけた。
生まれた赤ん坊が青い目をしていたらすぐにブレイズ鉱山で十字架とチェーンを作れなど、原界でクルーエルの子孫は1兆分の1の確立で産まれる、など。
「あれーどうしたの? 調べ物? 何か探してるんだったらボクが手伝うよ?」
隣に立っていたのはアビスだった。
手に大量の本を抱えていて、重そうにしている。
「いいのか? 面倒だと思うが」
「エミリアが何処か行っちゃってボク暇なんだよ。で、何探してるの?」
「……ん?」
アビスの腕の中に、『ユーリ』という文字が見えた気がした。
「それを見せてくれ」
「これ? 学園長が処分しろって言うから今捨てるところだよ」
アビスは腕の中の大量の本から一冊のファイルを取り出した。
題名は『人間蘇生の方法』。
著者はやはり『ユーリ・ティアリス』と書いてある。
ファイルには図書室の本である証の番号シールが貼っていない。
シャルルは手渡されたファイルをそっと開いた。
『人間は、その体が残る限り生き続けることができる。
もし体が生きることを諦めたならば、強力な治癒術を扱える僧侶がこう唱えればいい。
「ブレイブ・レイズ」
もしくは、生まれつき青い目を持つデス・クルーエルの子孫であり、強力な魔術師。
その魔術師が愛しくて蘇生させたい人間に』
どうしてユーリはいつも変なところで終わらせて空白を大量に作るのかと、言いたくなった。
「タイトルだけでもすごい本だね。人間って蘇生できるのかなぁ? この本の言うとおりにしたらできるのか、気にならない?」
アビスは期待するような目をして言った。
「そのためには、強力な治癒術を使える僧侶が必要だ。この学校にそんな人間、いるのか?」
一瞬シャルルの頭の中にエリアの顔が浮かんだ。
「んー、そんな僧侶は知らないけど、デス・クルーエルの子孫の話はボクも知ってるよ。血は繋がっていてもなれるのは僅かで、異界人には20人くらいいるみたいだけど原界人はいないと言ってもいい程らしいよ。ブレイズの十字架が無いと産まれて一分程で死んじゃうとか。でもブレイズの十字架はお守りになってるからどこの家も持ってるよ」
アビスは腕の中の大量の本を本棚に戻しながら言う。
「そういえば瞬もクルーエルの子孫みたいに青い目してて、十字架着けてたよね? でも原界人だってエミリアに聞いたし、多分カラーコンタクトなんだよ。その十字架も、原界ではオシャレに使われてるらしいよ。紛らわしいんだよ瞬は。原界の人間だからクルーエルの存在も知らないと思うけど」
「いや、あいつは……」
「おい。さっきから何俺のこと話してんだよ」
聞き覚えのある声と共に、アビスの背中が叩かれた。
「しゅ、瞬! どうして!?」
アビスは声で誰か分かっていた様だ。
「用があるから来たんだろうが。オカマの分際で間抜けな原界人扱いしやがって」
「オカマの分際ってひどいなあ。でも本当のことじゃん。瞬はデス・クルーエルって、何か知らないでしょ?それにその十字架だってオシャレでしょ」
「は?」
瞬矢は呆れた様子で言った。
「デス・クルーエルぐらい俺も知ってる」
「え、なんで? 何で知ってるの?」
アビスの質問を無視して瞬矢は深刻な表情で話す。
「シャルル。悪い知らせがある。アビス、お前はどっか行ってろ」
「え、ひどい! もっといい言い方ないの? ……ふん! 瞬のばーかっ!」
舌を出してアビスは図書室を走り去って行った。
「誰もいないから話せることだな。まず、俺の弟は影で悪の組織を立ち上げて異界の強い人間を誘拐してるらしい」
「異界の強い人間?」
「それは俺もよく分からねえ。それと、クルーエルの子孫が原界人なら覚醒で3時間で死ぬ。魔界人は1日なんだってよ」
「覚醒の時間か。これから気をつけないといけないな」
シャルルは全く焦る様子を見せない。
目の前にいる人間が1兆分の1の確立で生まれる人間であることも驚いたが、自分の別の寿命を知ったことも驚くことだ。
でもシャルルは全く驚かない。
瞬矢はクレイエルの女帝が別の意味で特別な人間に見えた。
屋上
白い鳥が白い煙を出して人間の姿に戻る。
「エリアじゃない!」
エミリアは嬉しさのあまり大声をあげた。
「エミリア……」
「ほら、泣かないの。そういうところは全く昔と変わってない。私が村から逃げても治ってなかったのね」
「ごめん。でもあたし最近やっと家族に会えて、それにエミリアにも会えて」
エリアは泣いてエミリアに抱きついている。
「あなたのことを教えてくれたシャルルに感謝しないといけないわ」
「うん。姉さんのおかげだね」
「姉さん?」
そう言ってエミリアは変な顔をした。
「あたしの姉さんだよ」
自信満々にエリアは言う。
「ちょっと待って。ベリーズが影で言っていたけど、あなたってクレイエルの皇女よね?」
「そうだよ」
「あなたの姉ってクレイエルの悪っ……いえ皇帝よね?」
怪しげな表情でエミリアは聞いてくる。
エリアは戸惑って何も言えなくなった。
「あなたの姉、すごーく長い槍みたいなもの使ってなかった? と言うより人を平気で殺してなかった?」
「えっ……」
エリアはとっさにデュアルに会ったときのことを思い出した。
確かに長い槍のようなものを使っていた。
次に偽者マイとカレンが現れたときのことを思い出した。
あの時自分の姉は2人を殺さなかった。
「ね、姉さんは人を殺してない!」
「本当に? じゃああなたの母親マリエは誰に殺された?」
エリアは息を呑んだ。
あれはヘルバルムに過去の映像を見せられたときだ。
自分が産まれたときマリエは殺された。
殺したのは今と同じ藍色の髪、赤色の目をした自分の姉だ。
「言いなさい。私の母親を殺したのは私の姉、シャルル・ヴィスティア・クレイエルだって!」
「エミリア!」
泣き泣きの顔でエリアはエミリアの頬をはたいた。派手な音が青空に響く。
「そんなことを言う人だと思わなかった! 確かに人を殺すのは悪いことだよ。でもね、あたしもお母さんのやりかたはおかしいと思ってた!」
「あなた自分が言ってること分かってる!? あの女は悪魔よ。これまで何個も国を潰してきた!」
つかさずエミリアは言い返す。
「エミリア気づかないの? 姉さんが潰す国は全て共通することがあるのよ」
「何?」
「その国はね、奴隷国家なの! 奴隷国家ってね、何の罪も無い人を買って、ご褒美もなしに働かせるの! 姉さんはそんな人たちを助けてるの! ……もう、あたしが知っているエミリアは、いないのね」
エリアは涙を拭って鳥に変身し、飛び去っていった。
「へえ、悪魔皇帝のことべらべら話していいの? 名前が同じだったからまさかとは思ってたけど」
エミリアは悪人のような笑みを浮かべて屋上を去った。
青空は、短い時間のうちに曇って雷雨を起こした。




