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Darkness Empire  作者: 豹牙
メイラン王国編
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メイラン王国と奴隷

19章 メイラン王国と奴隷


異界  首都マリアンド 魔法学校 武術館


 試合終了まで残り1分を切った頃、エミリアの攻撃は段々強くなってきていた。

鎖鎌が使いやすかったのか、彼女の実力なのかまだ分からない。

だが、この強さではヘルバルムさえ一人で倒せるかも微妙なところだ。

もし瞬矢と戦ったらエミリアは負けるだろうとシャルルは思った。


「なかなか強いのね……」

 エミリアは息を切らしている。

だが、攻撃が止まる予知もなさそうだ。

すぐに鎖鎌による不規則な攻撃が襲ってくる。

それを難なくかわすとシャルルは鎖鎌に向けて鞭を振るった。

「きゃっ!」

 鎌が鞭が巻きついた勢いで手から離れる。

エミリアは派手に転ぶ。

「フィニーッシュ!」

 教師の声と共にうるさいタイマーが鳴った。

「結果は、怪我の少ないほうで決めるか」

「えっちょっと引き分けは両者敗北じゃないの!?」

 エミリアは勢いよく立ち上がる。

「いや、新入りの方は怪我をあまりしていないが、エミリア、お前はかすり傷が多すぎる。よって新入りに卒業ポイントを与えよう」

「えーひどくない? ひいき?」

「傷で実力が分からないか? それに今お前は別室説教でポイントが無い。また机を投げたらどうなるか」

「あーもう! 分かったわよ!」

 エミリアはしぶしぶ負けを認め、敗北者席に戻った。


魔法学校 屋上


 長かった授業も終わり、放課後になった。

皆部活に向かったようだが、特にやることもないのでシャルルは屋上に向かった。

ところが、部活に所属していないエミリアと瞬矢を偶然見かけたため、盗み聞きになってしまった。

「なんだよ。こんなところに呼び出してさ。まさか屋上のベンチ投げるとかねえだろうな?」

「ゴメンね。でもわたしね、シュンくんのこと好きなの」

「は、はあ!? おい、冗談もほどほどにしねえと」

「わたしは本気よ?」

「あ、あのなあエミリア。俺のこと会ったときから異界の人間だと思っていたのか?」

「異界の人間? それに何の関係があるの?」

「……」

「わたしは異界人か魔界人しか好きにならないわよ? だって原界人は100歳まで生きたらすぐ死んじゃうし。自分より先にあの世行きは嫌よ」

「……」

 瞬矢は無言を貫いていたが、やっと口を開いた。

「おかしいと思わなかったのか? シュンってだけの名前がさ」

「確かにそうだけど、名前なんてわたしにはどうってことないわよ」

「実は……俺、原界人なんだ」

 エミリアは表情を変えずに話していたが、今の言葉で驚いたようだ。

「えっ!? でも魔術を使えない原界の人間がどうやって異界に?」

「それは、言えねえんだ」

「分かったわ。最初は騙してたんだと思ってたけど、何か事情があったのよね? わたしは気にしないわ。返事は明後日のミッドナイトダンスパーティで。いい?」

 そう言い残してエミリアは去っていった。

エミリアが反対の入り口から出て行ったので、気づかれなかった。

シャルルは今来たふりをして屋上に出た。

「おまえ聞いてたのか?」

「あんな大きい声で話してるからな。私以外の誰かが聞いている可能性も、あるかもしれないな」

「あー……まっ、おまえならいいか。くっそー。エミリアにも困ったもんだぜ」

「いっそのこと付き合ったらどうだ。あいつなら自分の身も守れるだろう」

「そっそれだけは勘弁してくれよ。あいつと結婚したら……想像したくねえ」

 シャルルはエミリアにこき使われる瞬矢を想像しそうになった。

「瞬、ミッドナイトダンスパーティってなんだ?」

「えーと、異界が人口不足で20歳で義務結婚になったの知ってるよな? もし結婚しなかったら、お見合いで強制結婚ってやつ」

 瞬矢は顔色を悪くして言う。

「この学校はそれを阻止するために、一年に一度、三年生を男と女で躍らせる、いわゆる舞踏会ってやつを開いてんだよ。それでクライマックスにキスをするんだ。しかも絶対参加」

「本当なのか? 笑えない冗談だな」

「あーあ。エミリアとダンスとか勘弁してくれよ。あいつマリアンド王の娘のくせに踊れねえらしいし」

 瞬矢から大きなため息がでるのも無理はない。

こんなことは絶対に地球でしないからだろう。

もちろん、魔界にも義務結婚はない。

「おまけに参加しないと卒業できないっていうおまけつきさ」

「強制参加のダンスパーティか」

「そういえば、おまえダンスとかできんのか?」

 瞬矢は試すような感じで尋ねた。

「ダンスなら3歳ぐらいの時にやらされたな。皇族の義務だとか。エリアが生まれてからはなくなったが」

「俺とあんまり変わらねえな。俺の親父が将来の紳士の義務だとかうるさくってよ、嫌だったからサボりまくった。それで諦めたらしくって辞めさせてくれたんだぜ」

「お前が将来の紳士? ふふっ」

「何がおかしいんだよ……はあ」

 瞬矢の二度目のため息が出た直後、白い鳥が2人の前に飛んできた。

鳥は飛ぶのに慣れていない様子で、地面に何度も落下しそうになっている。

「なんだこの鳥?」

「瞬、この鳥はマリンチキンと言って、焼いて食べると絶品なんだとか」

 シャルルはマリンチキンと言うところをわざとらしく言った。

「本当か? なら食ってやろうぜ」

 その言葉を聞いたのか、鳥は焦る。

「ん? 食べられるのが嫌なのか?」

「ピピーッ!!」

 高い泣き声が鳥から出た。

「じゃあ燃やすか。シャルル、こいつを捕まえてくんねえか?」

「了解」

 シャルルは左手で鳥を掴んで地面に押さえつけた。

「ピーッ!ピピーッ!!」

 さらに大きい泣き声を上げる。

「何だよ喜べよ。せっかくおいしく食ってやろうと思ったのによ」

 瞬矢は右手で魔法陣を描いて、火の魔術を放った。

鳥は激しく白い煙を出す。

燃えているのかと思ったら、出てきたのは白い鳥ではなくエリアだった。

「あれ? どっかで見たような?」

 瞬矢は完全に覚えていないようだ。

「もう! ひどいじゃない! か弱い鳥を変な名前をつけて焼くなんて!」

「お前のどこがか弱いんだ」

「ひどい! 姉さんのS! ドエスゥ!」

 そう言って二人から目を反らす。

「何でお前がここに来たんだ」

「あたし、幼馴染のエミリアに会いたかったの。でもどこにもいなくて」

 涙目でエリアはこちらを振り返る。

「エミリアならさっき去ってったけど」

 扉を指差しながら瞬矢は言う。

「え」

 ヘルバルムを倒したときのようにエリアは固まった。

「もー。こうなったら明後日また来てやるんだから。ごめんね。ダンスパーティの話だけ聞いちゃった」

 少しだけ沈黙が続く。

「あっ! これ、異界に行くなら姉さんに渡せって大臣さんに言われたから渡しておくね。何か分かんないけど、きっと大事なものなんだよね?」

 エリアは、白い紙をポケットから取り出してシャルルに手渡した。

「妹。名前、なんていうんだ?」

「あたし? エリア・マリンだよ」

「へえ。だからマリンチキンか」

 瞬矢は小声で言った。

「あなたは?」

「え、俺? 俺は瞬矢だけど」

「あれー。瞬じゃなかったんだ」

 それを聞いて、エリアは少し残念そうだった。

「じゃああたし行くね! ばいばーい」

 エリアは手を振って変身すると、羽を一生懸命羽ばたかせて去っていった。

「あれ本当におまえの妹か?」

「……」

「で、その紙なんだ?」

「さあな。見てみれば分かる」

 少ししわしわになった紙を広げると、筆記体で文字が書いてあった。

『メイラン王国王女メイリン様へ

 毎年、舞踏会の次の日に成績一番の賢い奴隷を捧げましょう。

 その生徒は働きやすいよう3日の講習を受けています。

 その代わりといってはなんですが、一人につき500万Mを支払っていただきたい。

 デニッシュ学院 院長キリアル・デニッシュ』

『承知致しました。 メイリン・ナンシー』

 そこから先は空白が続いている。

「もしかして次の奴隷って……俺!?」

「講習となると、お前しかいないな。メイリンってリフィール村のあいつか? 全く、どいつもこいつも奴隷国家ばかり。潰すしかないか。でもなんで駆け落ちしたあいつが異界に」

「でも、こんな噂聞いたぜ。この学校が異常な借金を背負ってるてな」

「もしそうだとしたら辻褄が合う。どうする? 瞬」

 瞬矢は黙り込んでいる。

「提案がある。舞踏会の日、院長の酒に睡眠薬を入れる。そして次の日に私がメイランに行って嘘をつき、騒ぎに紛れ影で手紙の件を無くす。そのためにはお前が囮と言うか奴隷になって騒ぎを作らないといけない」

「一応賛成はするけどさ、すごい作戦だな……。おまえがクレイエルの女帝だとしても、王女相手に話つけられるのか?」

「それはお前の行動に懸かっている」

「……分かった。大暴れしてやるよ」

「一つ、兵士をぶっ殺すのは構わないが奴隷だけは絶対に殺すな」

「……ああ」

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