遺跡攻略の報酬
気が付くと、目の前にはバラバラになった守護者の残骸があった。何が起こったのかは、ある程度わかっている。俺の中に眠る前世の記憶が刺激され、荒れ狂った魂が凄まじい力を生み出し守護者を打ち砕いたんだ。実際にどんな力を使ったのかだけは思い出せないのが残念だが、これが転生者である俺に秘められたチートパワーなんだろう。
そんなすごい力を使ったのに、まったく嬉しいとは感じなかった。これは思い通りに扱えない暴れ馬のような力だし、その力の根源は、生まれ変わっても残り続ける魂の傷なんだろう。ポジティブな力ではないことは間違いない。
「そうだ、ルナは?」
守護者の残骸はあるが、倒れていたルナの姿は見当たらない。まさか、巻き込まれて――
「イェーイ、お宝ゲットー!」
焦って周りを見回す俺の耳に、やたらと元気のいい笑い声が届いた。すぐに奥の祭壇に目を向けると、そこには大きな二つの輪を手に持ったルナが勇ましく立っている。なんだろう、ブレスレットかな?
「ルナ! 無事だったんだ」
安心して胸をなでおろすと、祭壇のルナは輪っかをくるくると回しながら鼻歌を歌い出した。
「ふふふーん、私があの程度でやられるわけないでしょ♪」
いや、ガッツリやられてただろ。
「それじゃ、お宝は私がもらっていくわ。早いもの勝ちね!」
「あっ、ちょっと!」
俺の返事も待たずにルナは遺跡の宝を持って走り去っていった。
「ちょっとは話を聞いてよ!」
俺は別に宝なんか求めていないけど、さすがにそれは酷いんじゃないか?
力を合わせてあんな恐ろしい敵を倒したんだから、普通は仲間意識とか友情とか芽生えるところだろ!
「どういうしつけを受けてきたんだ……親の顔が見てみたいよ、まったく」
ブツブツとおっさんみたいな愚痴を言いつつ、守護者の残骸を漁って証拠になりそうなものを探す。ルナのことはもう忘れよう。あれはなんか、違う世界で生きている妖精みたいなアレだ。……はぁー。
「ただの石にしか見えない物を持って帰ってもしょうがないしな……おっ、これなんかいいかも」
残骸を漁ること数分、俺が目をつけたのは守護者の手首についていた腕輪だ。ちょうどよくきれいな形を保ったまま外れていた。これはいい。石でできた腕輪なんて、そうそうお目にかかれないぞ。
「子供の腕には大きすぎるし、自分用に使うのは無理だな。こういう、ボスからドロップした装備を身につけるっていうのにちょっと憧れてたんだけど」
倒した証拠になれば何でもいいとはいえ、ロマンも追求したいお年頃。でも疲れたしもう帰ろう。
◇◆◇
「お帰り、まさか本当に生きて帰ってくるとはね」
案内所のおばさんが俺の顔を見るなりため息をつく。
「ちゃんと守護者を倒してきたよ! ほらこれ」
得意になって持ち帰った腕輪を見せる俺を制止して、おばさんが話を続けた。
「わかってるよ。どこの遺跡が攻略されたのかは全部把握しているからね。そうでないと案内できないだろ?」
なんと! 言われてみればその通りだけど、魔法か何かで監視でもしているのだろうか。せっかく拾ってきた腕輪が無駄になっちゃったな。
「その腕輪は引き取るよ。とっておきの情報と引き換えさ。一人前のトレジャーハンターに敬意を払って」
ニヤリと笑って腕輪を受け取るおばさん。俺が何を求めているかもよく知っている、といったところか。当然だな、ここにくる新米トレジャーハンターの目的は一つだ。
「どんな情報?」
ワクワクしながら身を乗り出して聞く俺の目は、たぶんこれまでにないほど輝いているだろう。
「もちろん、ステラがある未探索遺跡の情報さ。あんたにはその資格がある」
よっしゃー! 苦労したかいがあったぜ。ここからやっと俺の旅が始まるんだ。飛び上がって喜びたいところだが、冷静を装っておばさんに質問する。
「そっそそれは、どっどこ……」
いや、めっちゃどもっとるやんけ! 自分の醜態に思わずエセ関西弁でセルフツッコミしてしまった。心の中でだけど。
「ふふ、ポンティーヴリ帝国って知ってるかい? あそこの海岸沿いにあるカリダの町ってところに未だ誰も探索できていない古代の遺跡があるのさ」
ポンティーヴリ帝国っていうと、海を渡った隣の大陸の、一番大きな国だ。ヘルクロス王国とは離れた場所にあるので現時点では敵対などはしていない。
「カリダか……船に乗らないと」
「路銀はあるかい? トレジャーハンターの間では有名な町だから船賃が高いよ」
「有名なんだ? それなのに誰も探索したことがないの?」
金の心配はいらない。これでも王子だからな。でもみんな知っているなら、なんでまだ探索できていないのだろうか?
「行ってみればわかるさ。あんたももう一人前のトレジャーハンターだ、なんでも教えてもらおうとしなさんな。そうそう、一つだけ忠告しておこうね。遺跡の守護者は守っている宝に価値があればあるほど強い。そしてあんたが苦労して倒したあの守護者が守っていた物はステラでもないただのマギだ。つまりステラの守護者はずーっと強力だってこと。肝に命じときなね」
行けばわかる、か。もちろん、ステラの守護者が強力なのは覚悟の上だ。俺はおばさんに礼を言って、ポンティーヴリ帝国行きの船が出る港まで行く馬車を探すため町へと歩き出した。




