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宝の守護者

 話していて気付かなかったけど、いつの間にか俺達は大きな扉の前にやってきていた。見るからに豪華な装飾がほどこされていて、重要な場所であることをこれでもかとアピールしている。


「やっと終わりかー、地上部分はあんなに小さかったのに地下は凄い広さだったね」


「危ないっていうわりに大したことなかったわね!」


 そんなこと言ってふんぞり返ってるけど、君、さんざん罠にやられてたじゃないの。全てを力押しで突破していくのだろうか。それはそれでやっていけそうで怖い。


 扉は簡単に開いて、向こう側には大きな広間とその奥に祭壇のようなものがあり、上に装飾品のようなものが置かれている。あれが宝か。ここからでは形状がよく分からないな。


 ルナが軽やかに広間の中心辺りまで駆けていくと、左手を腰に当て右手をなんとなく上に突き出し虚空に向かって声を上げる。


「さあ、出てきなさい!」


 守護者を呼んでいるんだろうけど、目当ての宝があるんだからそっちに行ったらいいんじゃないかな。たぶん守護者が襲ってくるよ。


「ギリギリギリギリ」


 だが心配はいらなかったようで、ルナの声に応えたのか木と木を擦り合せるような音を立てて守護者が天井から降りてきた。その姿は上半身が人型で下半身が大量の足を持つ細長い身体で……なんていうか、ケンタウロスの馬部分がムカデになった感じ?


「うわ、キモッ!」


 こら、そんなストレートに気持ちをぶつけるんじゃありません。いやマジキモいけどさ。人型部分は人工物っぽいカクカクした造形だ。石でできたロボットみたいな。石人形(ゴーレム)の一種なのだろうか?


 何はともあれ、意識を集中してシールドを張る。消耗が激しいなんて言ってる場合ではない。こんな人間の大人の五倍ぐらいあるサイズのキモゴーレムに攻撃されたら、一撃で命を持っていかれるだろう。そりゃあ案内所のおばさんもやめとけって言うよ。


「ギリイッ」


 守護者が怒ったのかどうかは分からないけど、猛然とルナに突進してきた。大量の足がわしゃわしゃと動いて返す返すもキモすぎる。


「なんのっ!」


 ルナは軽やかに床を蹴って飛び上がり、守護者の突進をひらりとかわす。そのままムカデ部分の背中に乗ると、人型部分の背中に向けて魔法の光弾を連続発射した。


「ギギギッ」


 ルナの魔法を食らい、ダメージを受けたのか身体を震わせる守護者。これは楽勝か? と思った次の瞬間、守護者の身体が波打つように動き背中に乗っていたルナを跳ね飛ばした。


「ふぎゃっ!」


「ルナっ!」


 勢いよく壁にぶつかり、床に落ちるルナに駆け寄る。シールドのおかげで怪我はしていないけど、ノーダメージとはいかないようだ。


「大丈夫?」


「へーき!」


 勢いよく立ち上がったルナは守護者めがけて光弾を乱射していく。


「ギリギリギリ」


 それを守護者は巨体に似合わない高スピードで広間を動き回って全て回避した。なんつー反応速度だよ。これ、もしかしなくてもヤバいよな?


「あいつの動きを止めよう」


 俺はルナのサポートをするべく、床に手をついた。石のブロックが敷き詰められた床の下は土の地面だ。だから地面から土の槍が飛び出して敵を突き刺すイメージを頭に浮かべる。魔法の師から教わった『アーススパイク』という魔法だ。


 呪文を唱えなくてもイメージするだけでいいと言っても、そのイメージはやはり知っている魔法の効果を思い浮かべるのが一番楽なようだ。


 地面から突き出した何本もの槍が守護者の身体を取り囲む。さすがに石でできた守護者の身体を突き刺すことはできなかったけど、動きを止めるには十分だ。


「今だ!」


「でかしたっ!」


 ルナが守護者に向けて両手を突き出す。そこからはこれまで見てきた小さな光弾ではなく、大きな光の球が生み出され更に大きくなっていく。


「破っ!」


 ルナが気合を込めると、大きな光の球は極太のレーザービームとなって守護者の身体を突き抜ける。


「よしっ!」


 仕留めた。


 そう思った。俺もルナも勝利を確信し喜びの表情を浮かべて一瞬気を抜いてしまったんだ。


「ギギギィッ!」


 守護者の鳴き声が聞こえた、と思ったときには俺の身体は広間の壁にへばりついていた。遅れて全身を突き抜けるような衝撃がくる。


 守護者の攻撃を食らったんだと理解したときには、床と熱烈なキスをする寸前で、反射的に前受け身を取っていた。


 おそらく、シールドを解いていたら即死だっただろう。身体に傷はないけど、衝撃で全身が痺れている。油断した隙に攻撃されたっていうのも大きいんだろう。一応動けるので身体を起こして状況を把握する。


「大丈夫か、ルナ!」


「……きゅぅ」


 少し離れた場所にルナがうつ伏せで倒れている。俺よりもダメージが大きい? 守護者はルナを狙ったのか……いや、そうじゃない。ルナはあの草原で転んだ時にはシールドを張っていて、たぶんそれからずっと張り続けている。俺なら数分でガス欠になるほど魔力の消耗が激しい魔法を。


 そしてあの罠だらけの遺跡を力押しで突破してきた挙句、あの巨大な岩を蹴り上げたのも多くの魔力を使った魔法だろう。


 その上さらに守護者との戦いではおそらく彼女が使える最強の魔法を使った。敵にとどめを刺すため全力で攻撃したはずだ。


 これだけ魔力を使ったら、さすがのルナも魔力切れになるだろう。魔力は魂から湧きだす心のエネルギーだ。エネルギーが切れれば心が持たない。身体を動かす気力も無くなってしまうんだ。


「ギギッ!」


 守護者が動き出した。声に反応してそちらを見ると、人型の両手に剣のように伸ばした光を握っている。さっきの攻撃はあれか。やはりルナにやられた傷は深いようで、ムカデ部分の半分以上が抉られてなくなっている。


 その残り部分が変形を始めて、上半身がゴツく、下半身が人間のような二本足に変わっていく。要は完全な人型のゴーレムになろうとしていた。


「第二形態なんて、ラスボスだけにしろよ!」


 悪態をつきながら立ち上がるが、こいつをどうにかする手立ては持ち合わせていない。どうすればいい? ルナを連れて逃げられるか?


 どうすればいいのか分からず立ち尽くしていると、守護者が倒れているルナに狙いを定めたらしく、光の剣を構えながら向かっていく。まずい、このままじゃルナが殺される!


 ドクン。


 目の前で幼い女の子が命を落とす、という事態を強く意識したとき、自分の心臓がひときわ強く拍動したように感じた。


――お兄ちゃん。


 誰かの声が記憶の狭間から引き出された。これは、テティスの声? いや……違う。


 ドクン。


 また心臓が跳ね上がる。目の前では巨大な石の巨人が光の剣を振り上げて幼い少女に接近している。今にも剣を振り下ろしそうだ。


「■■■!」


 誰かの名前が俺の口から出た、と思う。意識が遠のいていく。目の前が暗くなって、闇の中に沈んでいくようだ。


 だけど、腹の底から何か熱いものが湧き上がってくる感覚だけは確かに残っていた。

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