遺跡の罠
「お宝は別にいらないってのに……ったく」
仕方がないので追いかけていく。ルナのように後先考えずに突っ走れば罠にかかるかもしれないので、とりあえず慎重に進むことにした。急がば回れ、うさぎとカメになることを祈ろう。
しばらく進んだ。だいぶ地下深くまで降りてきたように思う。道中いくつもの罠を回避してきたけど、ルナはどうなったのだろうか。
「グガアアア!」
つのまるではない、犬っぽいモンスターが襲い掛かってきた。こんなところで何を食べて生きているんだろうと思いつつ、飛び掛かってくる犬の牙をかわして右手を向ける。こういう動物みたいな姿をしているモンスターは倒しにくいなあ。
「悪いな、この世は弱肉強食なんだ」
自分でも意味の分からないことを言いながら火球を発射。だが犬は思った以上に素早く、俺の放った火球を軽々避けると壁を蹴って空中を飛んできた。何そのアクロバティックな動き!
「うおおお!」
地面に転がって犬ロケットを避けると、今度は逆の壁を蹴ってこちらに向かってくる。しつこい!
「あっちいけ!」
俺は自分の身体を包むように炎を出した。これなら避けられまい!
「ギャウッ」
当然ながら空中で軌道を変えることができなかった犬はそのまま炎につっこみ、悲鳴を上げて燃え上がった。ふう、危ないところだった。
犬を撃退した後もしばらく進み、また襲いかかってきたつのまるを蹴散らしたり罠を避けたりすること約三時間。さすがに疲労感を自覚するほどになった頃、俺は緩くカーブしながら下っていく坂道に入った。
「そろそろ最深部に着くのかな?」
これまでとは雰囲気の違う通路を歩いて下りながら、いい加減に目的地に着いてほしいという願望を口にした、そのとき。ゴゴゴゴ……と大きな音が坂の上から聞こえ、地面が振動するのを感じた。
「なんだ? また何か罠が発動したのか?」
とてつもなく嫌な予感がして坂の上を見ると、上の方から巨大な丸い岩が転がってきている。なんかゲームとかでよく見たことある罠だ!
なんて余裕をかましてもいられない。ゲームなら避けるための横穴とかが用意されているけど、これは現実。どこを見回しても隠れられるような場所は見当たらない。
この通路に入ってきた横道は、既に岩の向こう側だ。そうなるように発動するタイミングが設定されているんだろう。そりゃそうだ、俺が罠を設置する人間だったら間違いなくそうする。
「うわあああ!」
球が転がってきているのだから、通路の端に寝転んで隙間をやり過ごせないかとも考えたけど、それも当然対策済みで、岩がぴったりはまるように床が湾曲している。
なんて殺意の高い罠だよ! どうすりゃいいんだ?
もうすぐ最深部なら、岩に潰される前に目的地に到達できるかもしれない、という淡い期待と共に全力で走る俺だったが、子供の足ではそれも無理だったようだ。あっという間にすぐ近くまで岩が迫ってきた。
どうする? どうしたらいい?
こんなところで俺の旅は終わりなのか。やっぱり大人しく隣の簡単な遺跡に向かえばよかった。後悔しても、もうどうにもならない。ごめん、テティス。ごめん、父さん。
焦りから床の小さな段差につまずいて転んだ俺は、目を閉じることもできず目の前に迫る岩を見つづけ、自分が潰される瞬間を待つ。どういうわけか、目に映る全ての動きがスローモーションに見えた。
ゆっくりと近づいてくる岩の前に、白いヒラヒラとした服を着た女の子がフワリと上から降りてくるように現れた。そして、地面に両足がついた直後に右足を岩に向けて振り上げる。
「どすこい!」
ドゴォォォオン!!
ルナが蹴り上げた岩は物凄い音を立てて浮かび上がり、俺達の頭上を飛び越えて坂の下に落ちていった。ルナの軸足が踏んだ床にはひびが入っている。助かったけど、どんなパワーしてんの!?
「ふう、こしゃくな罠ねー」
「あ、ありがとう……いてっ」
礼を言って立ち上がろうと床に手をついて体重を乗せたら、さっき転んだ時に床についた手が痛んだ。見ると青あざができて少し血がにじんでいる。
「なに、怪我したの?」
「あはは、転んで手をついちゃって」
顔面から地面に落ちても傷一つつかない謎の生物には分からないかもしれないけど、普通はこうやって怪我をするんだよ。と思いつつも命を助けてくれたルナには感謝しかないのでどんな顔をしていいか分からずに愛想笑いをしてしまった。こんなところで前世のクセが出てしまうのか。
「ああそっか、シールド張ってないのね」
そう言いながらルナは俺の手を取って立ち上がらせる。そのついでに俺の怪我も魔法で治してくれた。本当にすごく自然に魔法を使ってるなー……ところでシールドってなに?
「常に魔力で身体を覆ってあらゆるダメージを防ぐのよ」
俺が不思議そうな顔をしているのを見て、自分から説明してくれた。なるほど、ルナがやたらと頑丈なのはシールドを張っていたからなのか。なんかそういうの、漫画とかでよく見ていた気がする。
「確かに、呪文を唱えて魔法を使う連中だといちいち何個も防御魔法を重ねがけしないとできないからね。ケレスが知らなくても無理ないわ」
「そんな高度な魔法、使ってる人見たことないよ」
あらゆるダメージを防ぐってことは、対物理と対魔法、それも各種属性の防御魔法を常に使い続けているってことだよな。冷静に考えると、とんでもない芸当だ。
「でしょ? でも私が教えたやり方ならそんな難しいこと考える必要なし。試しにやってごらんなさいよ」
具体的なやり方も言わずに俺を促すルナだけど、もう俺にもどうすればいいのか分かってしまった。自分の魔力にマギを反応させ、身体全体を魔力が覆っているイメージを伝える。
「そうそう、できたでしょ。あとはそれをずっと維持し続けるだけ」
「でもこれ、すごく魔力を消費しない?」
使ってみると、これまで火を出していた魔法の使い方とは比較にならないほど魔力が消耗していくのを感じる。こんなの数分も続けたら魔力切れで倒れてしまうぞ。
「そうね、だからどんどん魔力が鍛えられていくってわけ。おっとくー!」
何故かクルクル回りながらお得アピールをするルナ。そんなこと言われても、こんなのいきなり実戦投入は無理だぞ。魔法の修行にはいいだろうけど……あっ、そうか!
ルナは何年も前からずっとこんなとんでもない魔法の使い方を続けてきたんだ。そりゃとんでもなく魔法が上手くなるわけだよ、ずっと修行をし続けているようなものなんだから。
「すごいなぁ。さっきのあれも身体強化の魔法とか使ったの?」
大岩を蹴り上げるなんて子供には、いや大人にだって普通はできない。だけど、とんでもない魔力を使っていると考えれば説明はつく。本当にとんでもない話だけど。もうとんでもないって四回、いや今ので五回言ってしまった。
「ふふん、ルナ様の凄さがわかったなら大人しく後ろで見てなさい。守護者なんか私がボコボコにしてやるんだから!」




