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ゼツの遺跡へ

 町の名はゼツ。近くに小さな遺跡がいくつもあり、大半はトレジャーハンターに荒された後だがまだ全てが探索しつくされたわけではない。俺のような駆け出しのトレジャーハンターが腕試しできるように、ベテランのトレジャーハンターはあえて探索せずに残しているという。


「ルナはここに住んでいるのかな?」


 あんな別れ方をしたので、できればもう一度会ってちゃんとしたお礼をしたい。


 正直に言って、可愛い子と仲良くなりたいというスケベ心もないことはない。俺はロリコンではないと自負しているけど、現在の年齢は十歳だし同い年ぐらいの女の子にときめくのは普通のことだよな、うん。


 とはいえ、俺の第一の目的は遺跡の探索だ。まずは町の案内所で遺跡について聞こう。


 町は辺境にあるのに意外と多くの人で賑わっている。たぶん俺と同じようにトレジャーハンターとして活動を始めようとする人間が多く訪れ、町が潤っているのだろう。石材で作られた頑丈な家がずらりと並んでいて、大通りには客引きをするような店がいくつもあった。


 美味しそうな食べ物を売る店の誘惑に耐えながら、俺は町営の案内所へまっすぐ進む。


「駆け出し用の遺跡ならそっちにいくつかあるよ。ただ、東の端から二番目にある遺跡は強い守護者がいるからやめておきな。何人もの無謀な駆け出しハンターがそこに挑んで命を落としているからね」


 前世でプレイしていたゲームにもよくあったな、そういうの。序盤で行ける場所に場違いな強さのボスがいて、倒すといい物が手に入ったりするのが定番だ。


「東の端から二番目ですね、わかりました」


 俺は案内してくれたおばさんにお礼を言ってその場を出た。背後から「やれやれ」という声が聞こえたので、俺の顔に考えが出ていたのかもしれない。


 ああそうだ、俺もその無謀な駆け出しハンターだってこと。これまでだって誰もが自分は他の奴らとは違うと思いながら挑戦して、見事に撃沈していったのだろう。わかっているさ、そんなこと。


 わかっていてもやらなきゃいけないんだ。俺は妹を救うために『ポラリス』を超えるステラを探すんだ。この程度の困難は軽く突破しなくちゃ話にならないんだ。


 じいやが持たせてくれた最高級のマギと、ルナが教えてくれた無詠唱魔法がある。それこそ「俺は他の奴らとは違う」んだから。


◇◆◇


「ここかぁ」


 東の端から二番目の遺跡。そこは半ば崩れかかった塔のような形をしていた。塔だからといって、古代の秘宝が上にあるとは限らない。なんせ崩れているし。地上部分はダミーで地下に大きな迷宮が広がっている、なんてことも考えられるが。


「ふぎゃっ!」


 初めての遺跡を前にあれこれと考えていると、空から女の子が降ってきた。映画のように都合よく受け止めるなんてこともできず、目の前の地面に顔面から落ちた女の子、ルナを呆然と見つめる。


「えっと、大丈夫?」


「ぐぬぬ……おのれぇ!」


 ガバッと立ち上がり、自分が落ちてきた塔の上部分を睨みつけるルナ。その顔には傷ひとつついていない。なんて頑丈な生き物(?)なのだろうか。


「塔のくせに上には何もないじゃない! よくもこのルナ様をたばかってくれたわね!」


 地上部分はダミーで正解のようだ。そしてルナはどうやら俺と同じ駆け出しトレジャーハンターで、しかもこの遺跡を探索しているらしい。


「あら、ケレスもこの遺跡を狙ってるの? 残念だったわね、ここのお宝は私がいただくわ。悪いことは言わないから、あんたは隣の遺跡にしときなさい」


 ルナは俺の存在に気付くと一方的にまくしたて、またすぐに駆け出して遺跡の入り口から中に入っていった。


「あ、ちょっと待ってよ」


 これは競争になるのだろうか? 正直なところ、俺はステラ以外に興味がないのでこの遺跡のお宝なんてどうでもいいのだけど、トレジャーハンターとしての名声を得るためには別の簡単な遺跡を攻略している暇はない。


 話し合えばいい解決法も見つかるのではないかと思うのだけど、ルナはわき目もふらずに遺跡の中を走っていき……あっ。


「にょわあああああ!」


 突然床に開いた穴から下に落ちていった。


「うーん、なんか頑丈そうだし心配はいらないだろうけど、下に行く道は他にないのかな」


 さすがに下へ行く方法が落とし穴だけだと戻ってこれないし、きっとどこかに下り階段か何かがあるに違いない。


「床に穴が開くような仕掛けがあるということは、この遺跡が妙に古ぼけた石造りの構造物に見えるのはフェイクで、実際には何か高度な技術か魔法で作られたダンジョンなんだろうな」


 誰もいない空間で一人ブツブツと呟きながら壁や床を調べていく。案の定、柱の陰にレバー式のスイッチを見つけた。


「これを上に向ければいいのかな」


 下向きになっていたレバーを押し上げる。むむむ、子供の力ではレバーを切り替えるのも一苦労だ。


 ガコン、と音がしてレバーが上に向くと、目の前の床が開いて下に行く階段が現れた。


「考えてみたら、ルナはずっと早く下に行ってるんだよな。早く追いかけないと」


 苦労して最深部に到達したら既にボスも倒され宝も持ち出されていました、なんてことになったら目も当てられない。ルナがどこまで進んでいるか知らないけど、悠長にダンジョンを楽しんでいる暇はないだろう。


「ピピピピッ!」


 駆け足気味に地下へ降りると、大量のつのまるが襲い掛かってきた。お前らこんなところにも住んでるのかよ。どういう生態をしているんだ?


「邪魔だ、どけっ」


 俺は王家のマギを突き出すと、手のひらから火炎放射器のように炎を噴射してつのまるの群れを一気に焼き払った。思いつきでやったけど、想像以上に上手くいったぞ。確かにルナの言う通り、慣れたら呪文を唱えない方がずっとやりやすい。


「よし、このまま一気に突き進むぞ」


 仕掛けも見つけたしモンスターも蹴散らした。俺にはこの遺跡を攻略できるだけの実力があるんだ。あとはボスを倒せるかどうか。とにかく急いでルナを追いかけよう。


 ガコン。


 勢いよく走り出した俺の耳に、不吉な音が聞こえてきた。何か変なスイッチでも押したのかと足元や周囲を見回したが、特に仕掛けがあるようには見えない。となると……?


「ふんぎゃあっ!」


 どういう経緯を辿ったのか、横の壁に穴が開き、そこからルナが転がり落ちてきた。色々と罠にかかったんだろうけど、相変わらず怪我一つしていないように見える。ちょっと頑丈すぎない? ギャグ時空ってやつ?


「はっ、ケレス! もうこんなところまで追いついてきたのね、やるじゃない」


 いや、ここ地下に降りてすぐの場所なんだけど。


「あのさ、二人で協力しない?」


 どうやらルナは遺跡の罠やら仕掛けやらを慎重に解いていくタイプではないみたいだし、一人では奥に進むのもひと苦労だろう。俺としてはここの宝に興味ないし、力押しで先に攻略されるよりは一緒にクリアしてボスの欠片でも持ち帰れば目的達成だ。


「仕方ないわね……そこまで言うのなら一緒にいってあげようじゃないの」


 ルナがパンパンと服についた土埃を払いながら立ち上がった。よかった、正直ボスと一人で戦うのはまだ不安があるし、変に邪魔される心配がなくなるのもありがたい。可愛い女の子と一緒に行動するのもオトコとして気持ちがアガる。ちょっと変な子だけど、まあまだ子供だしな。


「と見せかけてキーック!」


 一緒に歩き出そうとした瞬間、ルナが身を屈め俺の足を払ってきた。あまりにも予想外の行動に反応できず、あっけなく転ばされてしまう。だが俺はとっさに前世の記憶にあった柔道の受け身をとって顔面強打を免れた。ありがとう義務教育。


「ちょっ、何をするんだ!」


「へっへーん、お宝は私のものよ!」


 俺が立ち上がる前にルナはダッシュで先に行ってしまうのだった。

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