ルナの提案
「終わった?」
ルナが声をかけてきた。どうやらもう一体の方は先に倒していたみたいだな。さすがだ。
「うん、一対一なら楽勝だったよ。ありがとう」
ルナが来なかったら危なかった。宝を持ち逃げされたりもしたけど、命を助けられてばかりだ。
「ずいぶん強くなったのねー、立派立派」
ルナは何だか大袈裟にうんうんと頷いて俺のことを褒めてきた。褒められて悪い気はしないけど、なんだか態度が怪しいな……?
「ルナを見習って僕もずっとシールド張るようにしていたからね。船旅の間に何度も魔力切れでベッドから動けなくなったけど」
ずっとシールドを張り続けるのは本当に大変だった。慣れてきた今でも常にマラソンしているような状態で魔力を消耗し続けている。でもそのおかげでゼツの遺跡を探索していた時とは比べ物にならないほど強くなれたんだ。
「がんばってるわねー、そんなケレスに提案があるんだけど」
ルナが改まって何かを提案してくるようだ。はっきり言ってかなり怪しい。なにやら身体をくねくねさせてぎこちなくウインクまでしてきた。見た目が可愛いからそんなのでも微笑ましさを感じてしまう。
露骨に怪しすぎて逆に大した用事じゃない気がしてきた。
「どんな提案?」
「あのさ……協力して遺跡を攻略しない? 遺跡の鍵を一人で手に入れるのは面倒くさいみたいなのよ」
なんだって!?
ううむ、ルナはなんだかんだ言って良い子だし、何度も助けてくれた。戦力としても頼りになるのは間違いないだろう。だけど……
「ごめん、ちょっと信用できないかな」
「ふにゃっ!? 私の何が信用できないって言うのよ!」
断ると、なぜか派手にのけぞって驚いた様子を見せる。断られると思っていなかったのか? 自分の胸に手を当てて考えてみなよ、まったく。
「ゼツでお宝を持ち逃げしたじゃないか」
「うぐっ!」
俺を出し抜いて宝を盗んでいった前科がある以上、ルナを信じるわけにはいかない。あんな宝はどうでもいいけど、今回はステラを目指しているんだ、持ち逃げされたらたまらない。
「あ、あれはその……出来心っていうか」
今度は両手の人差し指を胸の前で合わせてうつむきがちに言い訳を始めた。表情がコロコロと変わるのは見ていて飽きないけど、悪行は誤魔化しきれないぞ。
「そんなわけだからさ、他を当たってよ」
「他のトレハンなんて当てになるわけないじゃない、さっきのあいつらみたいなしょうもないクズばかりよ!」
むむっ、確かにここに来てから俺が見たトレジャーハンターはあのゴロツキ達とルナぐらいだ。この中から選べと言われたら迷うことなくルナを選ぶ。
「それはそうかもしれないけど……なんで急に協力する気になったの? ずっと一人でやっていくつもりなのかと」
そもそも協力しようと最初に言いだしたのは俺だったのに、ルナはそれを裏切ったわけで。誰ともつるむ気がないからああいうことをしたんだろう?
「……ケレスはまだマーズさんのところには行ってないのよね?」
「え? うん、そうだけど」
「まずはマーズさんの話を聞いてきて。ジュノーさんの家で待ってるから」
なんだ? 大魔法使いから遺跡の話を聞くと協力したくなるのか? 一人では絶対に攻略できない仕掛けがあったりするのか。
ところでやっぱりルナもジュノー博士と仲良くなっているんだな。確認はしてないけどフローラを助けたのはルナで間違いないようだ。
「そうだね……二人で協力しないと開かない扉みたいなのがあったりするのかな」
「えっ、そんなのがあるのっ!?」
なんで驚いてるんだよ。俺の予想は外れていたらしい。じゃあどうして協力しようと思ったんだ。まさか本当に面倒くさいってだけの理由なのか?
「わりと定番の仕掛けだと思うけどね」
「世界はぼっちに厳しい……滅ぼさなきゃ」
ルナは地面に手をついてうなだれながら、何やら物騒なことを呟いている。
「なに言ってんの」
正直なところ、「孤独な人間に厳しい」という世界の在り方は俺も色々な場面で感じていて、どうにかした方がいいんじゃないかとは思っている。将来、俺がヘルクロス王国の王になったら対応をしたい。具体的にどうしたらいいのかはまったく思いつかないけど。
「とにかく、私はジュノーさんの家で待ってるから!」
うなだれていたと思ったら急に元気よく立ち上がると、一方的にそう言い残してルナはカリダの町へ向かって道を歩いて行ってしまった。
嵐のような子だけど、見ていて飽きないし話すのも楽しいんだよな……妹とステラのことがなければ、こんなに警戒する必要もないんだけど。
まあ。テティスのことがなかったら俺がステラを探す旅に出ることもなかったしルナと出会うこともなかったわけだが。ていうか忘れてたけど俺には婚約者がいたんだよな。あれ、知らないうちに婚約してて知らないうちに婚約破棄になったらしいけど、その次っているんだっけ?
それからまたしばらく歩いていくと、ついに家を見つけた。屋根がピンクで壁が紫の独特な色合いをした、全体的に丸みを帯びたデザインの一軒家だ。家を囲む仕切りのようなものは十歳児な俺の背丈よりも低い。
仕切りの切れた入り口には小さな赤いポストがある。郵便受けって言うんだっけ? まあどっちでもいいか。
「いらっしゃい、可愛い坊や」
「うわっ、びっくりした。ポストが喋った!?」
家に近づいたら、なんとそのポストが話しかけてきた。まったく予想していないところから声が出たので驚いて転びそうになってしまった。そういえばここは魔法使いの家だった。




