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二対二

 そこから二体がかわるがわる俺のことを爪で引っ掻いたり蹴りを入れたりしてきた。俺はとにかく身を屈めて敵の攻撃に耐えつつ、この状況を突破する方法を考えているがどうにもこうにも反撃の糸口がつかめない。


 ここで終わるのか……いや、諦めてたまるか!


「なんて頑丈なガキだ。いったい何を食って育ったらこんなに硬くなるんだ? もしかして人間じゃないのか?」


 そのとき、アニキが驚愕する声が耳に届いた。


 その言葉はいつか自分が彼女(・・)に抱いた感想とよく似ていて、絶体絶命のピンチだっていうのになんだか可笑しくなって笑いがこみ上げてきてしまった。


「あっははは、そうだよな。傷つかない人間を見たら誰だってそう思うよな」


「グルルル……」


 急に笑いだした俺を警戒したのか、狼人間たちが攻撃の手を止めて俺を威嚇している。こいつらも同じことを思っているのかもしれない。そりゃ普通の人間ならとっくに死んでるもんな。困惑もするさ。


 ゼツの町で出会った自由奔放な少女の姿を思い出す。本当にとらえどころがなくて、でも可愛らしくて、やっぱり風の妖精か何かだったのではないだろうか。ヒラヒラとした服を着て、軽やかに駆け回る姿が目に焼き付いている。


「どすこい!」


 そこに、ヒラヒラとした白い服と長い二本の髪束が俺の視界に飛び込んで揺れる。


 幻覚かと思った。


 まさに今、脳裏に思い浮かべていた人物が、以前助けてもらった時と同じ掛け声とともに唸り声を上げていた狼人間の一体を蹴り飛ばしたのだ。


「ギャウン!」


 蹴られた一体が悲鳴を上げて倒れるのを見た俺は、何かを考える前にもう一体の方へ駆け出していた。


「うおおおお!」


 こいつらの攻撃はガードしていたから、身体のダメージはほとんどない。自分の意思通りに高速移動した俺は残っていた青い服の狼人間に体当たりをしてもう一体と反対側へ追いやった。


「おっ、お前はこの前の乱暴女!」


 アニキが上げた声を聞いて、全てを理解した。前にフローラを助けてジュノー博士に紹介されたトレジャーハンターはルナだったんだ。そして俺と同じように大魔法使いマーズに遺跡の入り方を聞きに来ていたというわけだ。


「あんたは消えなさい」


「ウギャアアア!」


「アッ、アニキィー!」


 ルナが発射した光弾に撃たれ、悲鳴と共にどこかへ飛んでいくアニキをウヒョが追いかけ去っていった。残るは助っ人モンスター二体のみだ。


「そっちは任せたわ!」


 俺が何か言うより早く、ルナはそれぞれが一体ずつ受け持つことを宣言した。異論はない。これで一対一だ。手強いが十分に勝機がある。


「グガアッ!」


 依頼主が消えても戦闘は継続するらしい。そんなところで真面目にならなくていいんだよ?


 襲い掛かってくる狼人間の爪を紙一重でかわし、相手の全身を包み込むように炎を出した。狼人間の丸焼きだ!


「ギャンッ!」


 悲鳴を上げるが、これだけで倒せるほど甘くはなかったようだ。狼人間は炎を振り払うと、急に姿勢を変えて俺に向き合う。これまでは猫背ぎみで両手を開いて爪を向けてきていたのが、背筋を伸ばして両手を握り胸の前へ。ちょうど剣道で竹刀を構えるような体勢だ。


 俺もこれには警戒してじりじりと足を動かし距離を取る。何か新しい技を使う様子だけど、ちょっと予測がつかない。


「グルルル……」


 唸り声を上げながら、狼人間はこっちにじりじりと近づいてくる。間合いを詰めるってことは、接近して攻撃する技だな。こっちから魔法で仕掛けるか?


 と思っているところに狼人間の手から魔力の光が伸び、剣のような形になった。ゼツのゴーレムも似たようなことしてたな、光の剣ってカッコいいな、なんて思ったのも束の間。敵が剣を振り上げた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。


 やばい。本能が告げている。これを食らえばシールドごと真っ二つにされる。間違いない。


「うおおおおっ!」


 なりふり構わず、地面に転がる形で光の斬撃をかわした。さっきまで俺の背中近くにあった木が斜めに斬られ、倒れていく。なおこの木は幹が俺のウエストの二倍ぐらい太い。こいつ、こんな力を持っていたのに今まで隠していたのかよ、舐めプか?


「グルルル……」


 狼人間は光の剣を構えたまま、また俺に身体を向けてゆっくりと間合いを詰めてくる。ガムシャラに振り回すのではなく、完全に剣術の動きだ。モンスターのくせに……だけど。


「なんてやつだ、こりゃヤバいな……とでも言うと思ったか?」


「グル?」


 確かにあの技の威力はとんでもない。だけど対応は簡単だ。俺はニヤリと笑って両手を握り身体の前に突き出すと、その握った部分から魔力の光を伸ばして剣にした。光の剣なら重さを気にする必要もないし、こっちは二刀流だ。


「その程度の単純な魔法はな、一度見たら簡単に真似できるんだよ!」


 ついでに言えば俺は剣術も学んでいる。当然、国内最強の剣士が指南役だ。モンスターのくせにまともな剣の振り方をすると言っても、王家の剣術と比べればおままごとのようなものだ。


「ガウッ!」


 狼人間が全力で打ち込んできたが、魔法で強化した俺の目にはその剣筋がはっきりと見えた。左手の剣で受け流す。思った通り魔力の刃だから腕力は関係ない。向こうが両手で振り下ろした剣も片手で難なく弾けた。そして右手の剣で隙の生まれた相手の首を横に薙ぐ。


「悪いな、人を襲うモンスターは生かしておくわけにいかないんでね」


 首から上を失った狼人間の身体はそのまま地面に倒れ伏し、その上に斬り飛ばされた頭が落ちる。さすがに直視するのはグロいけど、息の根を止めたと油断をしたところに予想外の反撃を食らう危険性があるから目を離すなと、剣の先生が口を酸っぱくして言っていた。戦いに心を残す、残心という心得らしい。


 前世でも漫画か何かで見たことがある言葉だ。この世界にも同じ言葉があるのは不思議だけど、命の奪い合いをする場面ではどこの世界でも重要なことなのだろう。


 モンスターは全て悪いというわけでもない。世の中にはモンスターと仲良くなって、一緒に冒険している人間の話も少なからず聞こえてくる。それでも、人を襲うモンスターは討伐しなくてはならないのがこの世界のルールなのだ。

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