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カリダの町

 長い船旅を終え、カリダの町にやってきた。隣の大陸だけど、船でぐるっと迂回したからちょっと時間がかかってしまったな。陸路で大陸を横断してから船に乗ればよかったかもしれない。


「さて、噂の遺跡はどこにあるかな」


 大きめの客船から港に降り、まずは遺跡の場所を確認しようと思ったところで、女の人が大きな声で船から降りる客達に向かって説明を始めた。


「あちらをご覧ください! あれがカリダの町名物『浮遊遺跡』となります!」


 浮遊遺跡? 遺跡ってことは俺の目当てのものだと思うけど、と指し示された方向を見ると、空の上の方に明らかに人工物と分かる四角い物体が浮かんでいた。あれが探索できていない古代遺跡か。


「浮遊遺跡の下には湖が広がっておりまして、遊覧船で真下から見ることもできます。物が落ちてくる危険がありますので、同意書の記入が必須となっているんですよ!」


 それ、楽しそうに言うことじゃなくない? なんにせよ、これまで誰も探索できていない理由はひと目でわかった。当たり前だが一筋縄ではいかないな。だからこそステラの期待も高まるわけだけども。


「やみくもに調べて回っても無駄骨になりそうだな。まずは誰か情報を持っている人を探すのが先か」


 ずっと昔から有名な遺跡で、数えきれないほどの人達があそこに行く方法を探してきたという。ならこれまでに調査した結果をまとめている文献なりがありそうなものだ。先人達の努力を無駄にしないためにも有効活用させてもらおう。


 そんなことを考えつつ港町を歩く。ゼツ以上に多くのトレジャーハンターが集まる町なだけあって、どこも活気にあふれている。埠頭には各国から運ばれてきた多くの交易品が積み上げられていて、商人達がその場で荷を広げ旅人相手に商売を始めていた。


 賑やかなのはいいことばかりでもない。俺は人混みが苦手なのだ。別に陰キャってわけじゃないけど、視界に人の顔ばかりあるとなんだか胸が苦しくなる。


 少しでも人の少ない場所を求めて裏通りへと入っていくと、すぐに助けを求める女の子の声が聞こえてきた。


「やめてくださいっ!」


「そんなにビビんなよ、俺達はあんたの親父さんに用があるだけなんだからよ」


「ウヒョヒョヒョヒョ、大人しくしろぃ」


 見ると俺と歳が変わらないぐらいの女の子が大人の男二人に絡まれていた。服装から察するにこいつらもトレジャーハンターだな? 遺跡も探索せずに女の子いじめとは、なんと見苦しい連中だ。


「おい、何をやってるんだ!」


 相手が大人の男だろうと、いまの俺はまったく負ける気がしない。あの巨大なムカデに比べればこんな連中、雑魚もいいところだ。船旅の間、俺はルナを見習ってずっとシールドを張り続け、あの遺跡で見た戦闘術を真似して肉体強化魔法の練習を繰り返してきた。


「なんだぁ? ガキが正義の味方でも気取ってんのかい」


「ウヒョヒョヒョヒョ、ケガしたくなかったらお家に帰んなぁ」


 こちらは十歳の子供だ。奴等も俺のことを侮っている。まあ当然だろうな。


「ふっ」


 俺は口角を上げて(自分の脳内映像では)ニヒルに笑うと、女の子の手を掴んでいる方の男に目にも止まらぬ速さで駆け寄る。何日も鍛えた魔力で強化された身体は、子供のものとは思えないほどのスピードとパワーを発揮した。正直、俺自身も驚いた。この小さい身体で突然高速移動をしたから、男は俺のことを見失い、何も反応できないまま女の子の手を掴んでいた手を俺にひねり上げられてしまう。


「いってえええ!」


 悲鳴を上げる男の尻を蹴飛ばし、女の子から引きはがしてやった。


「大丈夫?」


 そして(自分の脳内映像では)爽やかに微笑みかけつつ、女の子の姿を観察した。丸みを帯びた童顔は小動物のような印象を与える。あまり長くない赤髪を後ろで束ね、オーバーオールの服を着ている。農家の娘だろうか?


「あ、ありがとうございます!」


 女の子を助けるのに成功したが、ごろつき達はまだ諦めていないようだ。


「ナメてんじゃねえぞクソガキィ!」


「ウヒョヒョヒョヒョ、本気を出したアニキは強いぞー怖いぞー」


 ウヒョウヒョ言ってる男は戦わないのかな? アニキの方が先の曲がったナイフを取り出して俺に向けてきた。ククリナイフってやつだな。なんか強いらしいな、知らんけど。


「ほい」


 俺はまた高速移動してアニキの懐に入ると、胸の真ん中あたりを手のひらで突き押してやる。勢いよく飛ばされた男は路地の闇に消えていった。


「ウヒョ?」


「まだやるかい?」


 俺がウヒョの方に顔を向け、右拳を上げて見せると、男は一目散に逃げていった。


「ウヒョーーーー!」


 やれやれ、ガラの悪い連中だ。小さな女の子に大人二人がかりで絡むとはロリコンの風上にも置けないな。


「あの……」


 女の子がおずおずと声をかけてきた。おっと、怖がらせてしまったかな。俺は出来るだけ優しい笑顔を作って彼女を安心させようとした。


「あ、私フローラっていいます!」


 あ、そうか。自己紹介をしないといけないよな。俺の名前を聞きたかったんだ。気付かなくてごめんな。


「ああ、僕はケレス。こう見えてトレジャーハンターだよ。あの遺跡を探索しに来たんだ」


 ここからでも見える浮遊遺跡を親指で指しながらカッコつけて言う。暴漢に襲われる女の子を助けるなんてシチュエーション、一生に一度あるかないかだからな。ちょっと、いやかなり楽しくなってきた。


「ふわぁ~、ケレスさんっていうんですね。優しいトレジャーハンターさんが沢山いますぅ」


 なんかふわふわした喋り方をする女の子だな。沢山いるって、他にもフローラを助けたハンターがいるのか? そんなにいつもピンチになっているのだろうか。


「この前もさっきの人達に絡まれまして~、素敵なトレジャーハンターさんに助けてもらったんですよ~」


 あいつら前にもフローラをいじめていたのか。なんて迷惑な奴らだ。


「ケレスさんもうちに来てください~、お父さんに紹介しますよ~」


 いきなり父親に紹介!? ちょっと待って、心の準備が……って、そういえばさっきあいつら「親父さんに用がある」とか言ってなかったっけ。奴らもトレジャーハンターだし、もしかして……?


「私のお父さんは遺跡のことに詳しいんですよ~」


 それだ!


 なるほど、だからあのアニキとウヒョはフローラにしつこくつきまとっていたんだ。思いがけず最初の目的を果たせたみたいだな。これは運が良かった。

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