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本編一 木崎尚登 二

野鳥公園沿いに316号線の脇の歩道を歩いて行くと大田市場北のバス停が見えて来た、それと同時に後方からクラクションが響く。


顔を隠しながら振り向くとそこに見慣れた彰裕従兄さんのZ40ソアラが走って来た。


「早く乗れ。」


運転席から身を乗り出して手を振るのは間違い無く彰裕従兄さんだ。


僕をピックアップするために減速した車の扉を開け転がる様に飛び込み、僕がドアを閉めたのを確認し彰祐従兄さんはスピードを上げる。


「シートベルトしろ♪飛ばすぞ♪」




彰裕従兄さんは養子の僕とも親しく接してくれる気さくな人で、叔父さんに隠れて作っていたこの剣の制作も含め色々な事の相談にも乗って貰って、また高校生時代訳あって僕の家に住んでいたので今も兄弟の様に接してくれる…。


おまけに二十五歳で合格すれば優秀と言われる一級騎士昇級試験に二十四歳で合格するほど才能にも恵まれている。


身長は日本の男性騎士なりに190cmを軽く超え2mに手が届きそう、


体重90kg…その体に恵まれた打撃力と肉体的な耐久力、持久力………


僕がどう頑張っても手に入れる事の出来ない物を全て備えている。


おまけに爽やかな顔、人懐こい笑顔……実際女性にもモテる上に10年間熱愛中の美人の婚約者まで…


こんな人間に生まれていればさぞ人生が楽しい事だろうな…。




いや…そんな事を考えて何になる。とにかくお礼を言わなければ…


助手席で彰裕従兄さんに頭を下げながら呼吸を整えた。


「ありがとうございます。」


「気にするな。それより剣の仕上がりはどうだ?」


そう問われて僕はさっきの『ミュー』さんの言葉を思い出してしまう…。




『♪辻斬りなんか止めなさい♪その小鬼には君が捨て身の剣で斬る程の価値は無いよ。』




彼女の気配を思い出しまた体が震え始めた。一体何なんだ…本当に…?


「どうした?顔色が悪いぞ。」


二度三度深呼吸をし、どうにか落ち着いた…とにかく、声が出るなら返事をしないと…。


「いえ…………暫くの間実戦テストは中止します。」


「何かトラブルでも?」


従兄さんが心配そうに聞いて来る。


他人に見られてしまった事…伝えておいた方が良いだろうか?


「トラブルって訳じゃ無いけど…とにかく試し切りは終了。小鬼型はもう十分斬りましたし…。」


それでもやはりミューさんについては伏せておいた方が良い。


「小鬼は十分…って…東海六丁目より海側に入るのは見逃せないぞ。」


小鬼以上のヨウキが現れるとすれば最低でも城南島、さらに確実にと言うなら中央防波堤内側になる。両方とも緩衝地帯になるので二級以上の騎士でなければ戦闘装備での侵入は禁止されている。法的にも規則的にもアウトだ。


「わかってますよ、そんな事しませんって。」


今回は大丈夫だったけど会ったのが正規の騎士であったら今頃逮捕されていたはず…それに…『ミュー』さんがそう言ったのなら言う通りにしなければならない………気がする……とにかく辻斬りはもうお終い。


そうだ…『ミュー』さんと言えば…


「ところで従兄さん…僕の背中の傷…………外から見て分かりますか?」


「はぁ⁉︎」


突然の質問に戸惑う彰裕従兄さん。


いや、このリアクションが普通なのだ。


武家の背中の傷は油断や逃走など不名誉な理由で負った物である事が多いし、子供であればさらに家の外に漏らせない理由が隠れていたりする。


つまりおいそれと触れるのも話題として振るのも適当では無い。


それ故に当然僕も傷を見せぬよう悟られぬよう普段から心がけて居る訳なので、だからこそ初対面のミューさんにパッと見で悟られてしまった事は少し引っかかる。


従兄さんは僕の背中に傷がある事を知っているので誰か自分を知る人に意見を聞きたいと思い、少し食い下がって見た。


「ちょっと…知りたいんです。」


僕が真面目な表情を作るので、それならば仕方ないと従兄さんも応じてくれた。


「そうだなぁ…………俺は傷があるのを知ってるからそう言う目で見ていれば時々そんな風な動きになってるのは分かる…」


「そんな風?」


「ああ、時々だが不自然って言うか違和感って言うか…傷のせいだろうな…って。」


先入観を持って見れば分かるレベルって事か…。


つまり一太刀の動きから初見で僕の左背中に傷があると見抜いた『ミュー』さんは従兄さん以上の観察力を持っていると言う事になるのかな?


彰裕従兄さんは木崎家親戚一同の中でも最強格の一人だって言うのに…。


一体僕は何と出会したって言うんだ?


「本当にどうしたんだ?尚登…?」


「い、いえ、なんでもありません。」


「今日試験で疲れてるんだろ?着いたら起こしてやるから少し寝ろ。」


だったら…お言葉に甘えさせて頂こうかな?




あれ…


「親父殿、『孫』の顔を見せに来ました。」


おとうさん?


「おお、尚登ちゃん。元気にしておったか?」


はねだのおじいちゃん…?


「おお♪おお♪大きくなって、今年で幾つになる…?」


ああ、おへんじしなきゃ……


「よんさいです…」


うん、ぼくはよんさい…おとうさんがおしえてくれた……。


「そうかそうか、もう二年になるか……早い物だ……」


「尚登ちゃん…」


おばあちゃん…ちゃんとあいさつしなきゃ…


「おばあちゃんおはようございます」


「おはよう…ちゃんと挨拶出来てえらいわねぇ…。」


おばあちゃんもおじいちゃんもぼくをよくほめてくれる…


「尚登ちゃん…お爺ちゃんとお父さんは大事なお話があるの、あっちでお婆ちゃんとテレビ見てましょうね。」


「はい」




「そうか…要が連れ去られてもう二年になるのか…。」


「申し訳ありません…父親として不甲斐無い限りです…。」


「いや、こちらも雪子さんの実家の情報収集能力を甘く見ていた…仕方あるまい。」




「今日来て貰った理由は他でもない。実はいずれあの子に羽田の家督を…。」


「いやいや、見た所この子は武人として大成出来る体を持ってはおりません。そんな事をしては親戚連中が納得せんでしょう?」


「娘の…桜の願いを叶えてくれた君へのせめてもの礼だ。尚登ちゃんの行く末は私達夫婦に責任を持たせて欲しい…。」


「尚登が生きていくに足る分は私がどうとでもしますから羽田は木崎本家から彰裕を養子に取って下さい…。」


「あの悪童をか?」


「ああ見えて奴は同輩や下の者への気配りを欠かさず、上の者からも一目置かれています。自分を高める事にしか興味の無い兄貴裕よりずっと頭に向いている。今の総帥である我が弟裕二郎とは少々馬が合いませんが…それも時が解決してくれるでしょう。」




おとうさんとおじいさんはなにをおはなししてるんだろう?


あきひろおにいちゃんとたかひろおにいちゃんのはなし?


ぼくはあきひろにいちゃんのほうがすきだな。


たかひろにいちゃんこわいんだもん、いつもぼくをにらんでくるし…。


おまえはここにいるべきじゃない…って




「どうしたの尚登ちゃん?それが欲しいの?」


てれびのこまーしゃる?なんかろぼっとのおもちゃかな?


「………いりません。」


おねだりはだめ、おぎょうぎがわるいもん…


「遠慮する事無いのよ。お婆ちゃんが買ってあげるわ。」


それにあれくらいだったら


「……じぶんでつくれます。」


うん、ほしければじぶんでつくる。


「あら、工作が得意なの?凄いわねぇ、今度お婆ちゃんに見せてちょうだい。」


「みたい?」


「ええ、みせてちょうだい。」


「じゃあ、すぐにつくるね。」


ぼくはりょうてのあいだにひかりをあつめる…かたちはこんなものかな


「なおとちゃん……」


どう?ぼくのほうがじょうずにできてるでしょ?

ほんとうはつのがもっととがってるんだけど、おとうさんがあぶないからまるくしろって…?


「裕一郎さん!この子は。」


どうしたの?おばあちゃん?


「ええ、この子の処遇は私の手に余る。どうかお力を貸して頂きたい…。」


「貴方…。」


「わしの最後の大仕事になりそうじゃな。相談役会を招集する。」







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