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閑話 形見分け

「あれ?誰か帰ってないの?」

剣司は寮長もやっているので帰寮が門限を過ぎる生徒を待って玄関脇に机を置いて勉強している事がたまにある。

内部進学審査も問題無く通過出来ているので今日は息抜きの読書をしている様だ。

「おう、実家の方で用事があるとかで尚登の帰りが遅くなるんだそうだ。」

尚登を待っていると聞いて和美は表情を固くした。

「ねえ…」

自分が一緒だったとは言え響子と同席した事について弁明してやらなければ。

「一条とオオクラに行ったんだろ?別に気にしてねぇよ。尚登が一条と何かある訳がねぇし。」

その言葉を聞いて和美は胸を撫で下ろした。気にしないと言ったら気にしない、剣司はそう言う男なのだ。

「そんな事より尚登の奴…試験はどうだったんだ?」

剣司は尚登が自分の想い人と食事をした事よりも試験の結果の方が気に掛かるようだ。

「残念ながら奇跡は起こらなかったよ。」

「そうか…追い出しパーティーくらい楽しくしてやらねぇとな。」

「そうだね。」

剣司が男子寮の廊下を見ると見覚えのある顔が通りかかった。

「おーい、二宮ぁ。」

「新藤君…どうしたの?」

「尚登の私物だけど…片見分けは大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だよ。尚登は私物がほとんど無いから。」

ここで言う片見分けとは退寮する生徒が三年間で貯めた私物を処分し切れない時に在校生がそれを一部受け取る年度末の恒例行事である。その内容は主に書籍や漫画や衣服に文房具、C D等音楽メディアや場合によっては家電等も含まれる。

「三年になってから増えた私物はウチの一般入試向けの問題集と参考書だけだよ…。」

「ハァ…そんな縁起の悪いモン欲しがる奴ぁいねぇよな…。」

二宮の言葉に剣司はため息を吐いた。

付き合いの悪い奴だとは思っていたが本当にこの一年それしかやって来なかったのか…余計な世話かも知れないがせめて送別会くらい楽しくしてやらないと…。

「それに今ちょっとピリピリしてるから片見分けの話はしにくいよ。一般入試を受けるって言ってるけど…。」

件の同級生はこの上さらに負け戦に向かう…剣司は少し頭が痛くなる気がした。

「同室だと神経使うよな…もう少しだけ我慢してやってくれ…。」

「分かったよ。」

言いながら二宮は自室へと帰って行き、後には少し重い表情の剣司と和美が残った。

「それにしても尚登の奴、不合格って事は真面目に試験を受けてたんだよね。私てっきり寄付金を積む物だとばっかり思ってたよ…遠山のお姫様みたいに。」

「おい!」

「え?…あ…。」

剣司が青ざめ冷や汗をかき、和美も気が緩んでいたと口元を押さえる。

「言うな…あのお姫様も気にしてるんだ…あんな成績で一次審査通過とか逆に居辛いだろ?遠山家は木崎家以上にシャレになってないからな…………。」

二人が失言だったとお互いに顔を見合わせたその時………

「流石は都内三大武家の一つ新藤家が誇る跡取り息子…私の立場もちゃんと分かってくれるんだね。」

死角から声がかかった。

「「‼︎⁉︎」」


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