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序文一『M』と『ハイランダー』  第二節 『ハイランダー』

墜落したヘリコプターから乗員を引きずり出さんと『M』がその爪を振り上げた刹那、再び頭上に轟音が響く。

上空にまた別のヘリコプターが到着したのだ。

メインローターを二機縦列配置したC H−47型が上空から目眩しとばかりに強烈なサーチライトを浴びせ、さらに後部ハッチに三人の屈強な…屈強?

屈強で済ませて良い物だろうか?いや、済むはずが無い!

三人とも全員男性、目算で身長2mをゆうに超え、全身に湛えられた筋肉がその戦闘服を内側から持ち上げている。

胸のプロテクターが今にもはち切れそうだ。

おそらく体重も100kgを超えるだろう。

後部デッキからパラシュート無しで飛び立ち、高度十数メートルから地面まで数秒…五点接地どころか地面が爆発したかの様な音を立てて両脚のみで着地の衝撃を完全に吸収、墜落したヘリの上で周囲を威嚇する『M』を取り囲みそれぞれが得物を構えた。

その手に握る得物…一人は戦斧、一人は片手斧二刀流、そしてもう一人は巨大な鶴嘴だ…。


突如鶴嘴の男が『M』に向かい大声を上げた。

「おい!その辺にしておけ!遺体だけでも家族に返してやりたいんだ‼」

言いながら鶴嘴を戦闘体制に構える。

「それと…お前の首もなァッ‼︎」

瞬時に時速70マイルに達する全速力で飛びかかる鶴嘴の男、そして彼を迎え撃とうと『M』も雄叫びを上げる。

後ろ足で立ち上がり、巨大な爪を生やした両腕を振り上げ突進する『M』の懐に鶴嘴の男は一瞬で踏み込み、鶴嘴を大きく振りかぶってその先端を敵の胸板に突き立てた。その一撃たるやまさに電光石火!

鶴嘴は針金の様な体毛を潜り抜けその研ぎ澄まされた鋭利な先端で硬い皮を突き破り、分厚い胸筋を切り裂いて肋骨の隙間を通りその先端で敵の心臓を突き破った。

いかな怪物でもこれは致命傷、放置しても数分で失血死。

しかし『M』もただで死んでなる物かとその爪を鶴嘴の男に振り下ろすべく両腕を高く大きく振り上げる。

その刹那、もう一人のハイランダーが飛び出し、その巨大な戦斧を持って左腕を斬り落とす!

そして方手斧二刀流のハイランダーが左手の斧を敵の右肘関節に叩き付け腱を断ち、そしてもう片方の斧を敵の頭の上に振り下ろし頭蓋骨を叩き割る。

心臓穿孔・左腕断裂・右肘靱帯断裂・頭蓋骨折、複数個所からの激痛にもんどりうつ敵の頭目掛けて鶴嘴のハイランダーが横なぎの一撃!…その先端は敵の右耳の穴を正確に捉え、脳幹を貫いた。

『M』は力を失い仰向けに倒れそのままダラダラと血を流し続ける…

戦斧の男が鶴嘴の男に駆け寄り戦闘服の襟首を掴みながら大声を挙げた。

「おい!攻撃タイミングを乱すんじゃねえ!肝が冷えたぞ…。」


本来このサイズの『M』は三人同時にかかる戦法が基本、

お前の命が危なかったのだぞと戦斧の男は捲くし立てる…その抗議はもっともな物だ。

鶴嘴の男は戦斧の男に素直に謝意を示す。

「すまん…せめて顔を喰われる前に遺体だけでも家族に返してやりたいと思ってな。」

その沈鬱な面持ちに戦斧の男も何も言えず下を向く…

言葉の無い鶴嘴の男の背中を戦斧の男は叩いてやる事しか出来なかった…

その時…

「おーい!何してるんだ!こっちを手伝え!」

いつの間にかヘリの中に潜り込んでいた片手斧の男が搭乗員を背負ってヘリから這い出して来た。

「三人とも生きてるぞ!救護班の手配を!」

命令違反の低空飛行のお陰で墜落の衝撃が緩和されたのだろう。

無事とは言わないが乗員三人とも生存を確認。

そう、CH-47が上空からの斉射を避けたのはUH-1搭乗員の生存の可能性に賭けたからだ。

CH-47の後部ハッチで機銃を構えていた二人の銃手は生存者に、そして三人のハイランダーに拍手を送る…。


損害はヘリ一機…死者は無し、負傷者三名…


これが上首尾なのかどうかの判断は読者諸兄に投げ渡すとして怪物との戦闘に対し一般人と超人の分業が成立している事を分かって頂ければと思う。

これが砂漠の真ん中や氷原、人里離れた場所になると対応には兵器のウェイトが重くなる。

機銃斉射による弾幕の壁や爆発物…場合によっては核が使われたケースもあった。

しかし人間の居住地に近付けば近付くほどそういった対応は困難になる。

市街地でこれらの怪物を一般人が相手にすれば、例えば背丈1mの小鬼型であってもまず棒で殴った程度では怯む事は無いし、拳銃で狙っている間に必殺の間合いに踏み込まれてそこでおしまいだ。

一説にはハイランダーが出動する場合と比較して人的損害はざっと百倍、銃弾等にかかる経費と周辺被害への補償となれば最早計算するのも馬鹿らしい程の差が出てしまう。

なのでこの21世紀の世になっても彼らは職を失う事なく社会に参加、制限はあるが市民として認知され生活しているのだ。


アメリカ合衆国では彼らを『ハイランダー』と呼称する。


ナイト,ソルダ,カルバリ,シュバリ,チシ,リタ,エクウス…国によって呼び方は違うが、有史以前より『the monster』の侵略に晒されるこの世界の人類の中から戦闘用に進化した人種と考えられている。現生人類との混血も可能で“騎士たる人類”かつては『ホモ・エクウス』今は『ホモ・サピエンス・エクウス』と呼ばれる存在だ。

日本では生物種としては『武人』そして身分・職業としては江戸時代においては『武士・侍』と呼ばれていたが、明治時代の議会性共和主義に移行したタイミングで市民革命が先行する欧州での騎士の処遇に関する法律に倣い『騎士法』を制定、同時に国家に所属する武人を日本でもナイト=『騎士』と呼称する様になった。


さて…ヘリコプターと筋肉と鶴嘴のお話はここまでにしてラブコメカテゴリにある以上そろそろ女の子を出さないと不味いだろう。


いかにこれだけの怪物が出現する世界でも人類の最前線たる『ナイル』ならともかくそこから遠く離れた先進国で軍のヘリコプターが撃墜される程の事件は滅多に起こらない。

ニュースは世界中を駆け巡り、スマートフォンの画面を通して東京にいる一人の少女騎士の目に留まった。


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