本編六 尚登、美少女二人と喫茶店に行く
ヴーヴー…ヴーヴー
その時、僕のスマートフォンにコールがかかった。
相手は裕二郎叔父さん…
マナーモードのまま震えるそれをポケットから取り出し通話に応じる。
「…もしもし尚登です。…はい…分かりました。」
「どうしたの?」
和美は尚登の表情からそこまで深刻な話では無かろうと思いつつも、通話の内容が気になる様だ。
「木崎先生から、他の先生方との話が長くなりそうだから喫茶オオクラで待っててくれって…それじゃあ。」
「あ、ラッキー♪私もついてっていい?」
軽く挨拶をして別れようとしたところを一ノ瀬さんには呼び止められる。
「どうせ断ってもついて来るよね……。」
「木崎君とですか?」
一条さんも意外そうな面持ちで会話に参加する。
「お二人が校外で食事を共にする様な仲だとは知りませんでした…。」
うん、それどころかお父様から接近禁止を言い渡されてます。
「尚登が一緒だとオオクラで木崎先生におごって貰えるんだ。」
「まあ♪それは素敵ですね、私も是非ご一緒させて下さい。実はお昼ご飯も食べ損ねてしまって…。」
丁度お腹が空いていたとばかりに一条さんも同席を申し出る。
「ええっ?」
小学生時代に『狂犬』と呼ばれ陰で恐れられていると言っても、今の一条さんは表向き見目麗しい品行方正な次世代の剣聖。
そんな彼女から同席を申し込まれるのは幸運や名誉と言う言葉で片付けられる物ではないし、断るなどあり得ない。
しかしそれは上位ランクの男子生徒の話であって、僕はたった今内部進学の目を絶たれた落ちこぼれこと木崎家の『ハズレ養子』、立場の差を考えればここは辞退するべきだ。
でもそれ以上に『狂犬』に逆らうのも恐ろしい。
「えーと…その…一条さんは大丈夫なの?僕なんかと一緒で…。」
やんわりと言葉を選びながらご遠慮頂けない物でしょうか?…と訴えて見た。しかしである…
「御心配無く、父は教育者でもありますので木崎君が気にしている様な事を言ったりはしませんよ。さ、行きましょう♪」
一条さんは私そんな事気にしませんと笑いながら答える。
(お願い…空気読んで…って昔からそんな事が出来る娘じゃ無かったよね。)
そんな一条さんを見て今度は一ノ瀬さんが少し真面目な顔で口を開いた。
「アンタ………何か変な事考えて無いだろうね?」
「変な事とは?」
横目で見ながら応じる響子に和美は薄笑いを浮かべながら答えた。
「たとえば…人目に付くように他の男と、それも『尚登』とデートして見せたら剣司が泣いて悔しがるだろう…とか?」
(‼︎)
そう…いくら新藤君でも僕が彼女と一緒に食事をしたとかどんなリアクションをするか知れた物では無い。
「まあ、そんな非道な事を思い付くだなんて…高等部までその名を轟かせた鬼の総番長は考える事が違いますね。」
心外だと口にしつつも響子のその目は明らかに笑っている。
一ノ瀬さんが中等部なのに総番長なんて立場にいる理由は幾つかある。
一つは高一で二級が確実に取れると思われる本人の腕力、二つ目はその面倒見の良さ、三つ目は家柄、そして最後は一条さんの存在だ。
派手な風貌から年長者に睨まれトラブルに巻き込まれがちだった一ノ瀬さんを一条さんはその並ぶ者の無い暴力のみを持って徹底的に援護…
つまり一ノ瀬さんの敵を左右の拳骨だけで制圧し粉砕し無力化したのだ。
親友()である一ノ瀬さんを守るためと言いつつ半分、いや七割五分はストレス解消のため積極的に喧嘩の助っ人をしている内に二人の名前は近隣の女子中高生騎士の間に恐怖とともに広まり、いつの間にか二人に逆らう者はいなくなった。
一条さんが一ノ瀬さんの後ろに居て何時でもその無双の剛力を振るう準備がある事は公然の秘密なのだが一条さんは『それを話題にされる事』を『食事の邪魔をされる事』と『小学生時代の話をされる事』の次に嫌っていて、たとえうっかりでも彼女の裏の顔について口に出してしまった者は次の日には学校に来なくなり、三日の内に転校してしまう。
「……………」
僕は二人に会った事を心の底から後悔したがもう遅い、逆らえばもっと恐ろしい仕打ちが待っていのは間違い無いし、一条さんと同席した事が新藤君の耳に届いたらどんな事が起こるか想像も付かない。
「あきらめな…ちゃんと剣司にはアタシからフォローしておいてやるから…。」
一ノ瀬さんがポンポンと僕の肩を叩いてくれる…その掌の温もりだけで少し救われた気がした…。
「一条さんなら今帰ったとこだよ。一ノ瀬さんと木崎が一緒だったけど。」
和美と響子を伴って尚登が校門を出た十分ほど後、進路指導室の前に件の新藤剣司が現れた。
「あの二人が一緒ならオオクラか…あそこで揉め事はマズいな…。」
尚登とは幼稚園、響子とも小学校時代からの同級生で、さらに和美とは家も近く幼稚園以前からの幼馴染だ。彼女らの行動もある程度把握出来ている。
オオクラに行ったのだろうと察した剣司は響子を追う事をあっさりと諦めた。
「いいのか?木崎なんかと一緒にさせといて?」
響子は剣司の思い人だろう?と問う同級生に剣司は笑いながら答えた。
「尚登だろ?どうせ和美のお戯れだ。アイツ昔から男の趣味が悪過ぎるんだ。」




