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本編三 面談

最後の面談

尚登は叔父の前で最終審査の不合格を告げられた。

一週間後…



「その、木崎先生…大変申し訳有りませんが…。」


倫道館中等部から高等部への内部進学を決める最後の三者面談…


僕は裕二郎叔父さんの前で進路指導の先生から高等部への進学が不可能である事を告げられた。


「いえ、謝って頂く様な事では有りませんよ。」


叔父さんは穏やかに答えるが先生は完全に恐縮してしまっている。


裕二郎叔父さんは羽田家が抱えていた武家集団に端を発し、関東で二番目の勢力を誇る東陵騎士団の総帥を勤める優秀な騎士だが、それ以上に教育者としての手腕も確かな物だ。


叔父さんの授業からは現役の教官騎士でさえ学ぶ所が多く教師からも学生からも人気が高い。


もし機嫌を損ね来年から授業を受け持たないなどと言われたら自分の責任問題になりかねないのだろう。


先生は叔父さんの顔色を伺い言葉を選びながら僕の試験結果と三年間の成績を説明する。


「座学や授業態度は優秀ですし、技術的な課題も問題ありません…ですが…。」


先生が言うより先に叔父さんから口を開いた。


「…肉体的な強度と持久力…現代の騎士に重要視される項目二点が大きく劣っていると…。」




長い年月に渡るヨウキとの戦の中で戦略・戦術は時事刻々と変わって行き、十九世紀の後半からは集団戦が基本になって来た。作戦を立て易いように共通の戦法を教育して味方同士互いをカバーしながらの戦闘に求められるのは突出した個人の戦闘能力よりも持久戦向きのスタミナと耐久力だ。




「はい…合計点はともかく身体能力評価に二項目も不合格点があってはどうにも…。」


「それについては私も授業を見てますので承知しております。尚登は良く頑張りました。」


叔父さんも僕の実技の成績はよく知っている。


体力が持つ五戦の間はどうにか戦えるがその後が続かず、五十分の授業が終わる頃には立っているのもやっとの有様、しかもそれが日曜以外週六日三講ある。


僕はどうにか小学部から中等部には内部進学出来たが三年間ずっと下位を彷徨い、三年次には下から二番目が定位置になっていた。




「それで…尚登君は…その…木崎家の男子は…倫道に通う慣わしになって居るそうなのですが…。」


「慣わし?…ああ、心配せんで下さい。」


叔父さんは笑顔で続ける。


「木崎一族の男子が倫道館に通う決まりになっていたのは正面から裏口入学が出来た時代の話です。ご存知の通りウチの次男も高等部に落ちておりますので、養子の尚登にだけ厳しくしては私が世間から何を言われるか…。」


そうは言っても彰裕従兄さんは中学時代の素行にこそ大きな問題はあったがそこから更生し、また騎士としての能力にも全く問題が無く、二十五歳で合格すれば優秀と言われる一級騎士昇級試験に二十四歳、兄の貴裕様より一年早く合格している。


今の立場を『親の七光りの様で恥ずかしい』と恐縮しながらも彼の挙げる赫赫たる戦果がその実力が本物である事を示している。


とても彰祐従兄さんの様にはなれないだろうな…


そんな僕の方をちらと一瞬覗き見て裕二郎叔父さんは宣言する。


「とにかく天に誓って尚登を放り出す様な真似はしません。これは亡き兄との約束でもありますから…。」


叔父さんの言葉に先生は少し安心した様な表情を浮かべて僕の方を向いた。


「それで尚登君、君はどうするつもりかな?」


ここからは進路指導、僕が望む道と進める道…この二つをすり合わせより良い方向へ進める様にと…。


僕は真っ直ぐ先生の方を向き、膝の上で手を握りそして……。


「一般入試を受けさせて下さい。」


絞り出す様な声だったのは間違い無い…。


この言葉を口から出す直前まで自分が呼吸をしていなかったのが分かる。


ゼエゼエと荒い呼吸を繰り返す僕を見て先生は困惑の表情を隠せない。


「………気持ちは分かるが…君では身体能力検査の最低基準点をクリアするのが難しいと思うんだよ。」


……でしょうね……。


これ以上言葉が出ない…何を言えば良いのか分からない。


でも義父さんの百舌鳥木崎家を守るためには倫道館高等部に進学し僕が木崎の男子を名乗るに相応しいと少しでも認めて貰う以外の進路はあり得ない…。


「他に…」


他に考えて無いのか?と先生が聞こうとしたその時叔父さんが告げる。


「いえ、この前の家族会議で尚登のしたいようにさせようという話になっております。」


裕二郎叔父さんは僕の方を見て穏やかに微笑んだ。


「納得行くまでやってみなさい。」




面談を終え、正面玄関へと叔父さんと二人歩いて行く。


「ちょっと先生方と話をする事があるからその辺で待っていなさい。終わったら久しぶりに二人でオオクラにコーヒーでも飲みに行こう。」


「木崎先生…今日は済みませんでした…。」




僕が表で叔父さんを木崎先生と呼ぶ理由は色々ある…


まず、木崎先生は臨時講師として月に三度ほど中等部の武術実技の授業を受け持っている事、そしてもう一つは血の繋がらない僕が先生を叔父さんと呼ぶと他の親戚が良い顔をしない…中には目くじらを立てて噛み付いて来る人もいる事だ。




僕の謝罪の言葉に木崎先生は立ち止まり振り返った。


「何を謝る?」


「その…叔父さんに恥をかかせてしまって…。」


「恥?」


「僕が不出来なせいで教育者でもある叔父さんをこんな最終面談の場に来させてしまって……」


あの場に居たのは全員が落ち零れ、騎士団の総帥であり教育者である叔父さんをそんな場所に、それも血の繋がりの無い自分のために来させてしまったのだ…どうお詫びをすればいいのか考え付かない…。


しかし木崎先生は穏やかな表情で告げた。


「全力は尽くしたのだろう?」


「……………はい……」


「胸を張れ!」


「はい!」


「なら私からは何も言う事は無い、三年間よく頑張った…いや…」


言いながら先生は僕の肩に手を置いた。


「お前はよく頑張っているよ…。」


どうしよう…情けなくて涙が滲んで来る。


叔父さんは無言で僕の肩をぽんぽんと叩き、そのまま職員室の方へ向かって行った。




最終の保護者面談の会場となった進路指導室から重く苦しい空気が流れて来る…。


倫道館高等部に進めないと言う事は騎士としての出世競争の先頭集団から脱落すると言う意味だ。


今も廊下で叱責され口喧嘩になっている親子が二組ほど…


まったくもう…そんなの家でやれよ…


まだ終わった訳じゃない…まだ一般入試がある…


気持ちを切り替えようとしても頭の中にはただただやり切れない感情だけが湧き上がって来る。


もう無理…考える事をやめてしまいそう…



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