本編二 同級生 二
空自のゲート攻撃は無事終了。
尚登が自室に戻った後、三人の同級生は思い出話で夜を明かす。
上空を旋回していた百里基地所属F-2支援戦闘機07-8680が通常爆弾の投下コースに侵入しゲートの根本にある地上構造物を照準にとらえる。
『投下!』
無誘導の通常爆弾を機体から切り離す。
夜間攻撃の観測を容易にするため反射塗料で塗装された爆弾は地上からのライトを浴びて強く輝く?…あれ?
どうした事だ?予定されたサーチライトの通り道に爆弾がいない?
不味い!失敗か?
と思われた次の瞬間………
「‼」「‼」「‼」「‼」
ゲートの地上構造物の中心から轟音と共に爆炎が上がる。
天に伸びる紫の光は次第に薄くなり…やがて消えて行った。
攻撃は成功…頭上を旋回しつつ効果を確認するF-2”07-8680”から地上に通信が入った。
『こちら“新撰組』
F-2乗員は通信機とTVを通してでも分かるくらいの大声でまくし立てる。
『”観測班は何をやっていやがる!南北方向の風速データが甘いぞ!』
つまり彼らは投下ポイントの風速風向が地上で観測したデータとは異なる事を肌で感じ取り、直前に独断で爆撃コースを変えしかも命中させたと言うのだ。
流石に名人芸と言われるだけの事はある…。
爆撃に驚いたヨウキが東京湾へ飛び込み本土へ上陸する事があるのでこの後は沿岸の警備が厳しくなる。
もし僕達の出番があるとすればここからなのだがこうも早く寝ろと言われては仕方ない…
「じゃあ、おやすみなさい。動員かかったら起こしてね。」
三人を残して僕は自室へと退散した。
さて、後に残ったのは序列上位四人の中の三人になるが、こんな時は直前に抜けた一人が話題になる事が多い。
剣司は二宮隆の方に向き直った。
「やっぱ気になるか?兄弟弟子の試験結果は。」
武家の子は資格持ちの指導者に授業を受けた証明となるスタンプカードの様な物を持っている。今の尚登の指導者は二宮隆の祖父、藤原誠一郎だ。
道場に通う、あるいは免状持ちの騎士の授業一コマに付きハンコ一つ、そのハンコの数は昇級試験受験資格の条件にもなっているので、大抵の武家の子は皆何処かの道場に所属している。
剣司も和美も実家は道場を兼ねていて、それぞれの父親が騎士団の任務が非番の日に道場で後進の指導をする。
そして尚登は一ノ瀬流・一条流・そして新藤流、都内三大武家の道場の門を順番に叩き、そしてそのことごとくから脱落してしまった。
…その後尚登の義祖父の友人であった隆の祖父が新藤流の免状を持っていたため、乞われて尚登の家庭教師をやる事になったのだ。
隆は剣司の問いに屈託なく笑いながら答える。
「そりゃあね…爺ちゃん尚登の家庭教師やるようになって人が変わったみたいに明るくなって…だから尚登には感謝してるんだ。」
「そういやお前の爺ちゃんウチの免状持ってたよな?確か爺ちゃんと一緒にひい爺ちゃんから直接。」
「そう、新藤君の爺ちゃんと同期。」
「てェ事は尚登は今も新藤流剣士って事か…また道場に顔を出せって言っとかねェとな。」
「それと…爺ちゃんは尚登の家庭教師だけど俺達兄弟弟子って訳じゃ無いんだ…。」
言いながら隆は少し寂しそうに笑った。
「爺ちゃん…俺には爺ちゃんの剣を教えてくれなかったからな…お前は新藤流本部道場に通ってるんだから私から剣を学ぶ必要は無い…って。」
少し寂しそうな隆を見て剣司は何となくだがこれ以上この話題に触れまいと思った。
「そっか…それにしてもトラブルを起こした訳でも無いのに三度道場を変わる奴も珍しいよな。」
中高生剣士にとって剣技が身に付くかどうか、指導者と肌が合うかどうかは死活問題、道場の転出・転入は珍しい事では無い。
しかし尚登の様に三大武家の道場全部に入門し全部から脱落した者にはなかなかお目にかからない。
「いや、最初の一ノ瀬流は小学校の頃に破門されてたはずだよ。」
「尚登は破門にはなってないよ。私に接近禁止ってだけで。」
隆の言葉を聞いて何処か恥ずかしそうに和美は苦笑いする。
「三年生の冬だよ…尚登のお婆様が私を嫁に欲しいって押しかけて来て、お婆様が勝ったら私は尚登の嫁になる、お父様が勝ったら尚登は二度と私に近付かない。って条件で恨みっこ無しの一本勝負。」
「ええ?年寄相手にか?」
決闘と聞いて剣司が食いついて来る。
「それが尚登のお婆様も元特級騎士だから結構良い勝負になったんだよ。最初はお父様が防戦一方でもお婆様の方がスタミナ切れを起こしてそれで何とかお父様の勝ち。」
道場主を兼業する騎士団幹部と特級騎士の決闘など滅多に見れる物では無い。剣司は驚き目を見張った。
「へぇ…そりゃ見てみたかったなァ…一ノ瀬大隊長のガチの決闘とか見物料が取れるぞ。」
「お父様は『仮にも道場主が老人相手に持久戦をやったとかみっともなくて世間に顔向け出来ん。』って悔しがってたけど、あと十秒お婆様の体力が持ってたら私今頃尚登のお嫁さんだよ。」
「ハハッ、お似合いじゃねェか?お前ダメ男が好みなんだろ?」
「バカ!」
今度は剣司が懐かしそうに口を開いた。
「その後一条流に五年生の夏まで居て、中一の冬まで俺ん家に来てた。向き不向きはともかくこれで都内三大武家の剣術の基本は全て身に付けた事に…いや、実際に身に付けてた。親父も技術的な課題の飲み込みは早いから教育者を目指せば何とかなるって言ってたな。」




