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本編二 同級生 一

寮に戻った尚登を待っていたのは三人の同級生

食堂のTVの前、彼らは台風前の様なテンションで航空自衛隊のゲート攻撃を待つ。

「じゃあ、検品はしておくから。」


「ありがとうございます。」


青柳さんの車で倫道館中等部の寮まで送ってもらい、また裏門の前に立つ。

守衛さんに挨拶し学生証を提示、

「木崎尚登、ただいま戻りました。」

家の用事で帰寮時刻が遅くなると事前に申告してあったので二つ三つ言葉を交わして門をくぐり、

中等部の寮は食堂売店、自習室等の共用棟を挟んで東西に二階建ての男子棟、女子棟がある。

寮母さんには「帰りは夜11時を回る」と伝えてあるので多分 入れて貰える…はず…

夜間の帰寮は共用棟裏口からと決まっている。

「木崎尚登、ただいま帰りました…」

ドアホンを押し、挨拶をしたタイミングでドアが開き、中からツーブロックの男子生徒が顔を覗かせた。


「お帰り尚登、『家の用事』お疲れさん。」


「ただいま、新藤君…起きてたの?」


彼の名は新藤剣司。見た目は少々厳ついが、剣技も身体能力も学業も優秀で実技剣技の序列は学年男子一位、総合二位。


倫道館で学年一位は全国の中学三年生騎士のトップを意味する。


生活態度にも問題は無い優等生で、また学園内の誰もが認めるハードワーカー。武士の時代が終わってからも剣技のみで社会に貢献して来た都内三大武家の一つ進藤家の一人息子としてこれ以上無く相応しい人物だ。


精神的な余裕から面倒見も良く、その人柄から同級生や下級生からの人望も厚い。また上級生からも一目置かれている。


「おう、東京ゲート爆撃だろ?もしかしたら三級動員があるかもと思ってな。」


彼の他にもまだ何人かいるみたいで、就寝時間が過ぎているはずの食堂はまだ明るくテレビの音が漏れている。


「風呂入って来いよ、まだあったかいぞ。」


「ありがとう。」



お風呂セットを取りに男子棟にある部屋に戻る。

男子寮は基本同級生同士の二人部屋


ただいま…


ルームメイトを起こしては悪いと心の中で帰還を囁きながらドアを開けたがルームメイトの気配が無い…多分食堂に居るんだろう。


シャンプー・ボディーソープ・洗面器にバスタオルを持って風呂場に向かい、脱衣所で全部脱いで無人の浴室に入る。


湯船に浸かる前に体を洗い、鏡越しに自分の背中を覗き見る。


そこには肩口から尻に届く背中半分を覆う大きな傷があった。


騎士の子供の背中の傷は見るのも見せるのも気まずい物………


初見なら見て見ぬ振りをし、知っているなら背中を見ないよう心がけ、また自分もそれを見せぬ様気を配る。


なので僕が入る時は大体無人と言うか人の少ない時間、入学した時の寮長が気を使ってなるべく入浴時間終了20分前に入浴を終えるよう皆に勧め、僕の他にも背中に傷の有る者はその時間に入る様になった。


洗い場に座って頭からお湯を被りシャンプーを終えたら次はボディーソープを泡立て全身を洗って行く…。


『背中に古傷を持っているね?まだ痛むんだろう?』


ふと思いついていつもより強目に背中を洗って見る…出来て三年になる古傷なので痛む事は無い…………はず………。


もう大丈夫だよな…と、試しに右に左に背中を捻って見るが…。


成長期に背中の筋肉半分がダメになる程の大怪我は騎士の体でも後遺症が残っているみたいで右向きと左向きで回せる角度が違っている。


「…………!」


ムキになって背中を捻っていたら突っ張った様な感覚と一緒に鈍い痛みが走った。


「ツッ!…………………………」


やっぱり…彰裕従兄さんが言う通り傷は隠せていない。


無意識にこの痛みを避ける動作が僕の性能を下げている…間違い無く…。


はぁ…恨むよ…義母さん…。



『ゲート攻撃予定時刻まであと15分となりました。』


食堂には男子生徒が二人、先の進藤君と同室の二宮君がテレビに齧り付き、ゲート攻撃開始を台風前の子供みたいなテンションで待っていたので僕も二人の後ろに座りテレビを眺める。


「ああ、お帰り尚登。家の用事は大丈夫か?」


振り返りこちらに手を振るのはルームメイトの二宮君。



二宮隆・十五歳、剣技実技の序列は男子二位、総合四位。


少し細身だが進藤君に並ぶほどの実力者だ。




僕のお義祖父様と彼のお爺様は木崎家が抱える『東陵騎士団』や僕が籍を置く『東陵マテリアル』を含む企業体『東陵グループ』で現役時代を送り、今は二人とも相談役として在籍している。




「ただいま…大変なのは来週だよ。」


椅子に腰を下ろしながらため息を吐く。


「最悪でも高校卒業までは猶予が貰えるとは思うんだけど…。」


内部進学出来なければ百舌鳥木崎家の取り潰しと僕の除籍が議題に上がる。


そしてそれはもう秒読み段階だ。


今日の三学期期末テストを兼ねた第三次選考で二次選考以上の結果を残せたとは到底思えない。




60分の乱取りも30分で体が動かなくなり負け越し。


持久力測定のための60kgの土嚢を背負った制限時間30分のランニングは20㎞で記録無し。


僕の小さな体では戦闘状態を維持するだけのスタミナ・エネルギーを蓄えられないのですぐにガス欠状態になってしまう。


その上肉体の強度測定はランクE、


これは簡単に言うとクマサイズのヨウキから一撃喰らえば即死と言う意味だ。


持久力も肉体強度も継戦能力に関わる重要項目、作戦に付いて来れない者や一撃で死ぬ様な者に背中は任せられないと言う事なので記録無し+ランクEは致命的だ。




ちなみにそこにいる二宮君も進藤君も60分の乱取りはほぼ全勝、ランニングは30分で80㎞を走り切った…




「みんなお待たせー…あ、尚登もいたの?」


食堂にいい匂いが漂うと同時に髪を真っ赤に染めた女の子がお盆にコーヒーを乗せて入って来る。




背中半分に届く強いウエーブのかかった真っ赤な長髪と猛禽の様な鋭い瞳は序列女子二位,総合三位、都内三大武家の一つ一ノ瀬家の一人娘、一ノ瀬和美さん。


人目を惹きつけるそのヘアスタイル…真っ赤に染めた上にパーマをかけているのに光沢を損なわず、むしろ清潔感さえ滲ませるそれは彼女の不断の努力の賜物である。美容にそれだけの時間を割いても女子序列二位の立場を譲らない彼女の強さは全校の女生徒の憧れと尊敬の対象だ。




今夜はトップ四人の中の三人がこの食堂に揃っている。




「ほい、剣司は砂糖だけで良かったっけ?」


「おう、サンキュ」


「二宮君は砂糖とミルクだよね。」


「ありがとう。」


「尚登はちょっと待っててね。」


二人にコーヒーを手渡して僕の方に一目振り返ると、また配膳室に向かう。


ある事情から一ノ瀬さんには僕の方から声をかける事が出来ないが、ただ彼女はその理由を知っていてその上でこの様に接してくれる。


「あ、僕は気にしなくていいよ。」


「いいからいいから♪」


そんなに気を使ってくれなくても…と思ったが女の子が飲み物を用意してくれるのだからこれを断るのもどうかと思い待つ事にした。




彼女が去って行った方から冷蔵庫が開け閉めされる音


次に何かがコップに注がれる音


その後に何かをゴソゴソと探す様な音がして最後に


『チン』


?…………コーヒーを淹れてる音じゃ無いな…




僕の前に差し出されたマグカップに注がれていたのは腹を下さぬ様にと程良く温められた牛乳だった…。


「……?」


「アンタはそれ飲んでさっさと寝な。」


一ノ瀬さんはさらにこれも食って血糖値上げて寝ろと大きめのクッキーを手渡してくれた。


「何処のシャンプー使ってるんだよ?実家が金持ちなんだからもっと良いの使いなよ。」


そう言いながら一ノ瀬さんは僕の頭に手を載せてグシャグシャと乾きかけの髪の毛をかき回す。


「至誠堂だよ…汗の臭い落とすにはこれが一番なんだから。」


て、言うか男子はみんな至誠堂、実際売店のシャンプー棚の半分は至誠堂で埋まっている。


「それに僕みたいな出来損ないのハズレ養子がチャラチャラしたいい匂いのシャンプー使ってたら親戚にイヤミ言われるし……。」


そう呟いた瞬間頭を撫でていた一ノ瀬さんの平手が拳骨に変わりグシャグシャがちょっとキツめのグリグリに変わった。


「こら、自分の事をハズレとか言うもんじゃないよ。」


「ご、ごめんなさい…。」




「今日は疲れてるんだろ?明日も授業なんだしさっさと寝な!」


一ノ瀬さんの言葉に他の二人もうんうんと無言で頷いている。


「いや…でも…動員がかかるかも知れないし…。」


僕は一口だけ牛乳を飲み込んで呟いた。


作戦がこのまま無事終了すれば良いがそうでない場合、例えば何かの間違いで敵が中防大橋を突破し有明に迫ったり、臨港トンネルを潜り抜け城南島に侵入する様な事があれば自分達中学生にも動員の可能性がある。

一般人を安全な区域まで誘導、最悪の場合は盾になって守らねばならないのだ。

実際年に二度くらい全校生徒でに老人ホームや幼稚園に赴いて対象を非難誘導するための訓練も行われている。


しかし一ノ瀬さんは


「三級の動員なんて八十年近くかかってないんだ。アンタは弱っちぃんだから自分の心配だけしてりゃ良いんだよ。」


言いながらまた頭をグシャグシャと撫で回して来る。


「和美の言う通りだ。寝不足で授業に臨んだとか木崎先生の耳に入ったら大目玉だぞ。」


「心配しなくても動員がかかったら俺が起こしてやるから…。」


進藤君も二宮君も彼女に同意、仕方ない…牛乳飲んでクッキー食べて寝るか……。




牛乳を啜りながらクッキーを齧っているとゲート地上構造物への作戦が始まった。



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