閑話 輝光晶とマレビト
数百年に一人世界の何処かに現れる『マレビト』と彼らが作り出す万能の結晶体『輝光晶』
彼らはその利用価値と希少性のため昔は物の様に扱われ、時に争いの種となり本人の望む望まないに関わらず周囲に不幸を撒き散らして来た。
21世紀に現れた『マレビト』=尚登はどう生きる?
東陵マテリアル材料研究部
今日作る物は…まずオンオフのスイッチ…
「同じ物をもう一個作るイメージで…」
それを並列に複製
「………」
正方形になるよう並列に複製…二を四に四を八に……」
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クリーンルームの中で防護服を着た尚登が机に向かっている。
机の上にある正方形の台座に尚登が両手をかざし意識を集中させるとその中心にはうっすらと光を放つ薄い板状の物が現れた。
それは時間とともにその面積を少しずつ増やして行く。
部屋には大きな窓があってその向こうには白衣を着た男女が三人。
その内二人は先程の青柳研究員と横堀研究員…。
「これでちゃんと出来てるって言うのがのがすごいですよね。」
「今作らせてる物はpメートルプロセスの集積回路に相当する冗談みたいな代物だしな…。」
そして最後はこの東陵マテリアル本社ビルにある五反田研究所を総括する大滝所長だ。
「でもこれが本当に『電子』集積回路かどうかも怪しいんだ。電気信号入力を受け付けて電気信号で出力されるからそうなんだろうって私達が勝手に思ってるだけで…。」
所長の言葉に二人は微妙な表情で相槌をうつ…
作らせている物が何だか分からないが、とりあえず頼んだ物は出来て来る。
そしてそんな物をあてにしている自分達は科学者としてどうなのだろうか?と彼らは常に己に問いかけ続けねばならない…
『輝光晶』
それ自体が放つ美しい輝きからその名が付いた。
古来より特別な力を持った人間の手により生成され、時に急速な技術革新の引き金になったその物体を尚登は作り出す事が出来る。
尚登と同じ様な能力を持った人間は『マレビト』と呼ばれる。
百〜三百年に一人ほど人界に現れ、さまざまな武具や工芸品を作りその一部は今日に至るまで世界に残っている。
それらの多くは武家や貴族が家宝として所有していたり、美術館や博物館に収蔵されていて研究のための貸し出しが可能な物もある。
世間では珍しい事は珍しいのだがそういう人も居たには居たんだろうし、もしかしたらまた現れる事もあるだろうくらいに思われている。
その利用価値と希少性のため昔は物の様に扱われ、時に争いの種となり本人の望む望まないに関わらず周囲に不幸を撒き散らして来た『マレビト』の伝承は世界各地に残っている。
有名なところで
皇女に恋焦がれ、最終的に国を二つ滅ぼした。昔話『お姫様とマレビト』の主人公
『忠義のメキスヴェル』
自分を異端審問官に引き渡した領主に復讐するため領民数千人を赤子まで一人残らず歩くキノコに変えた
『狂人フラッシュ』
ネイティブアメリカンの口伝に登場する北アメリカ先史文明を根絶しにした
『星を落とすブラィエ』
歌声で人心を操り死を恐れぬ軍団を率いてヨーロッパの戦場を支配した
『戦姫ミュー』
日本の平安末期に英雄として活躍したが朝廷を追われ最後は怪人として始末された
『白鉄轟鬼』
皆悲惨な結末を迎えたのだが、この二十一世紀の社会で少々切れ味の良い剣や頑丈な防具、宝飾品等を作った所で誰も驚きはしないし、中世の様な扱いを受ける事も無いだろう…と木崎裕一郎を始めとした木崎家上層部はたかを括っていた。
尚登はその能力が確認された時点で一度その身柄を東陵総合研究所預かりとされ、様々な検査や実験に協力する。しかし生成の過程から出来上がった物体までをどの様に検査してもその成り立ちを解明する事は出来無かった。
今世紀における輝光晶の研究も一時中断が決定され尚登はそれを聞いてやや落ち込み気味だったが、裕一郎と木崎家上層部は…
「輝光晶の武具や調度品には億を超える値が付く物も多い、騎士として大成出来ずとも刀匠か職工でもやらせておけば尚登も剣聖の子として格好が付くし将来職にあぶれる事も無いだろう。」
と、養子の尚登の行く末にひとまず安堵するのだが、その時にある研究者が尚登に作らせた物が状況を一変させてしまう。
「ねえ、電気を流せる物って作れるかい?」
当時尚登は小学校四年生、電気と導体の性質を理解させるのに少し手間取ったが研究員の思惑通りの物を尚登は生成した…いや、してしまった。
尚登の管理を担当する研究員があえて電気抵抗の概念を教えなかったがために出来上がってしまったのが『室温常圧下超伝導物質』化学・物理学分野への冒涜とも言えるこの物体は後に『物体X』と名付けられた。
二十一世紀になって分かった輝光晶の性質…
『製造者を上手く言い包めるだけで一部の自然科学の法則を無視出来る事』
が判明し、結局尚登はその能力を公表する事も出来無くなった。
ちなみに先程の『pメートルプロセスに相当する集積回路』を作れるのも小型化のハードルとなるトンネル効果等の現象・法則を主任が尚登に教えなかったため、ビットの小型化に限界が無くなったせいだ。
素性を隠し要らぬトラブルを避けるため尚登は仕方なく表向きは出来損ないの騎士、木崎家のハズレ養子として生きる道を選ぶ。
記録に残る過去のマレビトがその能力のために破滅した事も知っていれば、そうで無い者は記録にも残せない様な結末を迎えたのだろうな…と、理解したからだ。
しかし遊ばせておくには余りに惜しいこの能力、東陵マテリアル研究員も木崎家上層部も何とかこっそり利用出来はしないかと考え、それについては尚登も同じだった。
その頃の尚登の剣技の成績は既に剣聖の子を名乗るにはかなり問題があり、中等部への進学に黄色信号、高等部進学は既に絶望視されていた。
この境遇を改善するには他に抜きん出た力が必要だ。
尚登は命じられるがままに色々な物を作り出す、例えば先程の『物体X』も尚登に頼めばどんな形でも大きさでも作って貰えるので室温常圧超伝導が実用化したと仮定して試作された超伝導型量子コンピューターの他にも未だ世に出す事の出来ない人類の夢が東陵マテリアルに多数秘蔵されている。
人に見せられない物ばかりが積み重なって尚登の立場はますます微妙な物になって行った。
やがて
『通商破壊に使えば半年で世界恐慌を起こし三年後には世界人口の半分を餓死させ、人類絶滅の日時を秒単位の誤差で予測できるスーパーコンピューター』
とか
『品川で爆発させると町田くらいまでが東京湾になってしまうほど強力な新型爆弾』
とかを秘蔵している…と言う噂が立ち、面白がっていた研究員達も次第に自重する様になった。
今は人に見せられない物ばかり作っても実益が伴わないと普段はスーパーコンピューター用の古典集積回路の製造が尚登の仕事になっている。
「出来た物を倍に…さらに倍に…さらに倍に…。」
「完成した物は検品の後に今まで作った物と合わせてビッグデータの解析に使われる。上役には『本社ビルの全フロア廊下までを埋め尽くすサイズのスーパーコンピューターに匹敵する物がこのビルの一部屋に収まってる』と説明してるが、ソフトウェア開発部門からの報告だと一ヶ月単位の気象予報と一週間単位の株・為替相場の的中率は余程のイレギュラーが無い限り予知のレベルに達してるとも聞くし本社も我々の仕事を評価してくれているよ。」
特に東陵銀行の金融部門と東陵証券から出向して来た合同チームが上げる収益は凄まじい物で、その純利益の一割がコンピューターのレンタル料として東陵マテリアルの運転資金になり、さらに数パーセントが尚登に報酬として支払われている。
尚登にとってはこれが日々の糧を得る手段であり、また自分を育ててくれる叔父とその家族に対する恩返しだ。
「それにしても…こんな事が出来るんなら俺なら騎士なんかやめてこっちで食って行くけどな……」
青柳がぽつりと呟く、その意見は尚登の正体を知る者皆が思う所である。
しかし尚登にはそうしたくない理由がある。
「まあ仕方ないよ…お義父さんが眩し過ぎて目が眩んで……追い付きたくて作ってしまったのがあの『試作装備群』なんだから…。」
男の子なら仕方ない…そう思ったからこそ所長も剣と戦闘服の試作を黙認したのだ…
(まあ直前に作ろうとしていたレーザーなんたらや純粋どうたらを見て感覚がマヒしていたのもあるが…)
「でも…本当に大丈夫なんですか?もし木崎総帥にバレたら…」
尚登を戦場に近付けたくない木崎総帥に内緒で武器を作らせてよかったのか?と横堀は問う。
しかし所長は笑いながらこう答えた。
「ああ大丈夫、彼のお義祖父様は知ってるから。」




