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浜辺にて

作者: 沼野中

鼻をくすぐる潮の香りと心地よい波の音で目が覚めた。

サラサラとした砂が肌を包んでいる。

家で寝ていたはず、そう思い体を起こすと視界には黒々とした空と月光に照らされて濃紺を現す海が広がっていた。

写真にでも収めたいとでも思うような幻想的な景色を訳も分からず眺めているとここが夢であると合点がいった。

そう思うと一気にこの夢を楽しもうという気持ちが湧き上がってきた。

海の無い場所で育った私にとって海は羨望のものだからだ。

辺りを見回しても海岸が広がっているだけで建物らしいものは何も無い。

とりあえずこの夢を楽しむために浜辺を歩くことにした。


体感にして十分ほど経った頃、夢の中とはいえ疲れたので休むために砂浜に腰を下ろした。

砂に沈み込む感覚を楽しみながら波打つ海を眺めていると違和感を覚えた。

海の少し遠くの方、そこの海面が少し盛り上がっている。

波の波紋だろうと最初は気にしていなかったが、どれだけ時間が経っても無くならないので不思議に思った。

夢だからこういうこともあるだろう。

そう納得させて視線を空に逸らすと海の方で波の音とは違う、明らかに異質な音が鳴った。

ぼとん

ぼとん

間隔をあけながら何度も鳴っている。

ハッとして海の、あの盛り上がった場所を見た。

明らかに近づいている、もう目と鼻の先に何かが居る。

直感的に恐怖を覚え、砂を蹴って逃げようとする。

しかし、砂をただ海に向かって蹴るだけでその場から動くことは叶わなかった。

そうしている間にもそれは物が水に落ちるような音を立てながら私の方に向かってくる。

ついに、それはとうとう浅瀬まで来てしまった。

月の逆光で姿は見えないが、それは人型だった。

だが、それは藻を身体中に纏わせ、どの動物とも言えない奇妙で神経を逆撫でする鳴き声を小刻みに震えながら発していた。

それが陸へ上がり私の方へ向かってきているのを見た時点で私は半ば狂乱で無理やりにでも這いつくばって逃げ出した。

奇声がすぐ後ろまで迫ってくる。

その声は這って逃げるしか出来ない私を嘲笑するかのようで、真後ろで聞こえた頃には遅かった。

髪を捕まれ無理やり後ろを向かされる!

目の前に引っ張った張本人の顔が来る!

それの顔は醜く、深海魚のように崩れ、水気を吸った肌が鼻を突く異臭を発していた!

叫び声を上げようとした瞬間、私は現実へと引き戻された。


目を見開いて飛び起きる。

すぐに見回すと自分のベッドの上であった。

息が上がり額に粒の汗をかいているのに気がついてやっとさっきまでのが夢であったと認識することが出来た。

よかった、夢だった。

そう繰り返し思っていると潮の香りが微かにしてあの音が聞こえた。


ぼとん

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